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ルミエール・ヴェルト・スペアンツァの悶絶


あれ?

あたし、何言ってんだろ。


あたし……。


今、何て言ったのか。思い出す――




「あたしはこれからもおっさんの傍にいる」



「おっさんと一緒に戦う。おっさんと一緒に傷付く」



「おっさんと一緒に、辛いことも、悲しいことも、乗り越えたい」




――え? え? ええ!?


急激に顔が熱くなるのを感じる。

フットーしそうとはこういうことかな。

おっさんの顔が眼前に迫っている。

違う。

迫っていたのはあたしなんだ。

おっさんを、組み敷くみたいに、こ、こんな。


「ルミさん?」


おっさんの、いつもと変わらない、その声で、戻った。


「は、は、はは☆ ははは☆」

「どうしました? 顔が真っ赤ですよ」

「ふわ」

「ふわ?」

「ふわあああああああああああああん!!!」

「ルミさん!?」


おっさんから離れ、階段を駆け上がる。

振り返らない、振り返れない。

泣き腫らした、酷い顔だ。

さっきまでそんな顔をおっさんの眼前に押し付けていたなんて。


あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!


もうバカ! あたしのバカ! 何やってんの!?

あれじゃ完全にプ、プ、プ、プロポーズみたいなもんじゃん!?

なにが「あたしを守って」よ!?

調子に乗るなっつーの!!


扉を勢いよく開ける。

部屋。中央は空間があり、左右に別れる様にベッドがある。

その片方で布団に包まるサクヤを見つける。

我に返り、サクヤを起こさない様に静かに扉を閉め、ベッドに倒れ込んだ。

誰の匂いもしないシーツ。気持ちが良いような、少し寂しいような。そんな心持ち。


ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!


声にならない声を押し殺して、ふかふかの枕を蹂躙する。

しばらく、やり場のない感情をぶつけた。


恥ずい! チョー恥ずい!

べ、べつに嘘じゃないけど、本心だけれども!

なんであたしから告ったみたいになっちゃったの!?

あたしは言われたい側なんだけど……って違う!!

そういうことじゃなくて、ああもうぐちゃぐちゃ!



はあ。



「……あたし、何やってんだろ」

「ルミさん?」


誰の声かはわかるけど、寝てると思ってたからちょっと驚いた。

上体を起こしサクヤのベッドを見ると、サクヤは寝ながらこっちを見ていた。


「ごめん、起こしちゃった?」

「いえ、眠れなくて、目を閉じてただけなんです」

「……そっか」


サクヤもショックを受けている。そんなことわかってる。

ただ、何て言えばいいのかわかんない。

正直、あたしは覚悟していた。

ママとパパには、もう会えないんだって。

生きているかもって希望を持ってなかった訳じゃないけど、そんなに子供じゃない。

だから死んだと聞かされた時も、「ああ、やっぱりな」と思った。

でもサクヤは寝耳に水だ。

あたしより、ずっと整理がつかないはずだ。

サクヤがそんな時に、あたしったら何バカなことしてるんだろ。

落ち着かなきゃ。


「ルミさん、そっち、行ってもいいですか?」

「え? あ、ああ! いいよ。きてきて」


布団を捲り、サクヤを受け入れる。


「えへへ、お邪魔します」


2人で横になって、見つめ合う。

はにかむサクヤ。くそう、カワイイなぁ。

このちょっと幸薄そうな、守ってあげたくなる感じ。

あたしが男なら完全に襲ってるよ。ちょっとずるい☆


「ルミさん」

「ん、なあに」

「ヨシオ様の匂いがします」

「え!? まじ!?」


おっさんの匂い、ついてたんだ。

けっこうくっついてたもんね、ついてもおかしくないか。


「ごめん、嫌だった?」

「まさか、嫌な訳ありませんよ。私はヨシオ様の匂い、好きですよ。でもこんなになるまで何をしていたんですか?」

「え、あー、それは……」

「……ふふっ」


ちょっと狼狽えていると笑われてしまった。

何だか、今日のサクヤはいつもより余裕がある。なんで?


「ごめんなさい、ちょっといじわるでしたね」


カワイく笑うサクヤ。


「ルミさんが部屋を出てから、ちょっとだけ様子を見に行ったんです。そうしたら、ヨシオ様と一緒のところを見て、だから知ってるんです」


え。

ええええええ!?

み、見られてたの!?

どっから!? どこまで!? 恥ずいんですけど!?


「そんなに赤くならなくても、ほんのちょっとしか見てませんよ? 声も聞こえませんでしたし」


あ、そうか。おっさんの魔術で音は聞こえないようにしてたんだっけ。

いやでもやっぱ恥ずい。


「でもよかったです。ルミさんが元気になってくれて。流石ヨシオ様ですね」


そう言って、笑う。にこやかなサクヤ。

そうだ。

本当は自分が泣きたかった筈なのに。

誰かが泣いていると、自分が泣くのを忘れてしまうようなお人好しなんだ。この子は。

本当は、サクヤもおっさんに慰めてもらいたかった……よね。

あー、あたしってほんとバカ。


「ごめんサクヤ。あたし抜け駆けしちゃった」


そう言うと、サクヤはきょとんとした顔をした。

そして、また笑い出す。


「ふふっ、ルミさん、そんな正直に言われても」

「ご、ごめん。でもあたし、サクヤのことも考えず」

「私、ルミさんのこと、好きですよ」

「え?」

「真っ直ぐで、自分に嘘をつくのが嫌で、悔しくなるほど可愛くて、綺麗で」


「私、大好きです」


なんだろう。

誰かから、真剣に気持ちを伝えられるのって、こんなに嬉しんだ。

緩くなってた涙腺から、滴が漏れた。


「あたしも! あたしもサクヤのことが好き! この時代で目覚めて、サクヤに会えて、ほんとによかったと思ってる!」


あたしの、正直な気持ち。サクヤにぶつけた。

ぶつけた。

ら――






























チュッ。


























「!?!?!?!?!?」


優しい陽だまりの様な匂いが突き抜けた瞬間。

唇に、柔らかな感触があった。

サクヤの紅潮した顔が、すぐそばに。


「えへへ、しちゃいましたっ」





あたしの意識は、そのままどこかへ飛んで行った。



つい、やっちゃうんだ。

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