これからとおっさん
「お主の様に分身が送れるなら、本体が来れても不思議ではない」
タケルヒコ様の言い分はごもっとも。
エーリンさんがここにいるのだから、なんとかなりそうなものだ。
「た、確かに可能です。けど、それには転生が必要で、転生したらもう神には戻れないんです! それに神の転生は神界で禁止されています」
「だが、できるのじゃろ」
「あ、う」
転生。神様ではなくなるけど、できるのか
確かにそれなら、先代の女神がこの世界に来ていたとしてもおかしくはない。
しかし。
「タケルヒコ様、先代の女神がこの世界に転生しているとして、なぜそれが7代目の仕業、なのですか?」
「……儂の知っとるエリンはな、極寒の凍土に人を裸で放り出しておいて、自分は暖炉のある部屋でぬくぬくと高見の見物をするような奴じゃ」
「嫌な人ですね」
「そんな奴が安全な神界を捨てて、彼奴を心底憎んでいる儂がいるこの世界にわざわざ転生してくるか?」
「……ない、でしょうね」
私ならこの人を敵に回そうとは思わない。
同じ世界であれば、どこにいようと見つけられそうだ。
「そこで7代目じゃ。あれはこれまでの勇者とは違い、唯一元の世界に還る手段を探しておった。女神言うことも聞かずにの。儂も動向を探っておったが、7代目は女神から隠れて行動しておって、必然的に儂も詳しい情報は得られなんだ」
すごいな。タケルヒコ様からも逃げていたのか。
しかし元の世界に還るって、ありなのか。
だって元の世界で死んだからここに来たわけで、ここに来るから生き返ったわけで。
元の世界に戻ったら、死んだ筈の人間が生き返る。ということになるのではないか。
だが話しの流れからすると。
「それはつまり、7代目が元の世界に還ろうとしたことで、女神エリンはこの世界に転生することになった。と言うことですか」
「儂はそう考えておる。恐らく7代目は元の世界、少なくともエリンの下まで辿り着いた。そしてエリンは、この世界に転生せざるを得ない状況に陥ったのじゃろう」
タケルヒコ様は、少し歯痒そうに顔をしかめた。
それもそうか。
長年研究してきた神界への転移が、新米勇者に先を越されたのだ。
「7代目が消息を絶った頃、エリンの使徒達の動きが活発になった。それは奴がこの世界に顕現した現れじゃろう。使徒にとっては……いや、儂にとっても喜ばしいことじゃ。奴の方から同じ土俵に上がってきたのじゃから」
ふむ。崇めていた神様が姿を見せれば、舞い上がってしまうということか。
まるでアイドルだな。
「使徒と言うのは、エリンの部下と言うことでいいんですよね」
「うむ。2代目や、あの八雷神の奴らもそれに当たる」
「それって、いま何人ぐらいいるのでしょうか」
「50万はおるじゃろうな」
「ごじゅっ」
ウケるんですけど。
ディアノックさんが率いていた軍隊が5万程だったらしいが、それの10倍だ。
いくらなんでも多すぎるぞ。
引きつる面々に対し、タケルヒコ様が気休めを言う。
「まあ、奴の活動も千年に及ぶのじゃから、それぐらいの数は集められるじゃろ。問題は数より質じゃ。50万おろうが、儂と対等に戦えるのは1人しかおらんしの。その1人が問題なのじゃが」
「それって……」
「2代目じゃの」
うわー、やっぱりまだ生きてるのか。
確かに50万の軍隊よりタケルヒコ様と同等の人の方が恐い。
「実質使徒を仕切っているのは奴じゃからな。そして奴は、エリンの傍にいるはずじゃ」
「じゃあ2代目さえなんとかすれば」
「エリンに辿り着ける筈じゃ」
ん、ここはわかりやすい。
様は女神を守る勇者をやっつけて、女神の下へ行けばいいのだ。
って、単純だけどそんな簡単じゃないぞ。
「ある程度、話はわかってもらえたかの」
話はわかった。けど、正直あまり付いていけてはいない。
他の皆も同じ様な感じだ。
そりゃ元女神が黒幕で、勇者を含む50万の大軍が敵になるって言われてもどうすればいいのか。
ここにいるのはたったの6人。エーリンさんを含めても7人だけだ。
正直言って、勝てるとは思えない。
でも、タケルヒコ様はそれと1人で戦おうとしていたのだから、何かしら勝算があるのだろう。
「……本当に先代がこの世界に転生していたとして、タケルヒコさんはどうするつもりなのですか」
エーリンさんが重く問いかけた。
神様の事情は知らないが、先代はエーリンさんの元同僚な訳だ。
何か思うところはあるだろう。
だが、タケルヒコ様の答えは容易に想像できた。
「無論殺す」
ですよね。
エーリンさんもわかっていた様だ。わかってはいたけど、と言う表情だ。
「奴を野放しにしておけば、この世界は奴の思うがままじゃ。奴のものさしひとつで事が決まる世界になる。そんなことは許せない。……というのは建前じゃ」
「結局儂がしたいのは復讐じゃ、私怨じゃ」
「じゃからお主らが協力せんでも、咎めはせん。たた沙汰が終わるまでは、奴らに利用されぬよう安全な場所で待っていてくれれば良い」
そう言い終えて、区切りがついた。
私としては、2人の安全が保障されるなら協力するのはやぶさかではない。
ただ、2人は納得しないだろうな。
どうしたものか。
「少し考える時間を頂きたいですわ」
そう言ったのはユウリシアさんだ。
やはりすぐに答えを出すのは難しいようだ。
「構わぬ。もうじき夜が明ける、今日はここで休んでいくと良い。何かあればイブキに言ってくれ」
おや、もうそんな時間か。
確かに体が疲れを感じている。大分魔力も使ったしね。
「皆様にはお部屋をご用意させて頂きました。よろしければご案内致します」
疲れを察してくれたのか、イブキさんが声を掛けてくれる。
ありがたい……のだが、2人はどうするのだろうか。
いや、ここは大人として私がリードしなければ。
「あ、あー。ルミさん、サクヤさん。まずは体を休めましょう。それから落ち着いて考えては?」
「……そうだね。サクヤ、行こうか」
「……はい」
く、暗い。
仕方ないのだろうけど、辛い。
あー。私ってほんと役立たず。
自己嫌悪に陥りながら、イブキさんに付いて行く2人を見送った。
少ししてイブキさんが戻ってくると。
「じゃあ、私も失礼させて頂きますわ」
ユウリシアさんが席を立った。
「お二方は別室でよろしいでしょうか?」
「そうでゴ「一緒でいいですわ」ゴザ!?」
肯定しようとしたディアノックさんを止めるユウリシアさん。
「ひ、姫様、拙者と一緒でよろしいのでゴザルか!?」
「ここは弁えるべきですわ。それに、話したいこともありますし」
「つ、つまりそれは合意の上と言うことでゴザルな!? め、めくるめくピンク色の展開にwww。ああ臣下の身でありがなら姫様にそんなこと! いやしかし姫様がどうしてもと言うのなら」
「ディアノック」
「はい、サーセン」
「と言う訳で、同室でお願いしますわ」
「畏まりました。ご案内致します」
2人も部屋を後にする。
本当に仲がいい2人だ。
さて。
「イブキさんが戻ってきたら私達も行きましょうか、エーリンさん」
「……そうですね」
「ヨシオ」
唐突に呼ばれる。
その声の主がタケルヒコ様だった為、一瞬誰に呼ばれのかわからなかった。
いつも「うぬ」とか、「お主」とか、「8代目」と呼ばれていたからな。
なので、少し遅れて返事をした。
「はい、なんでしょう」
「儂は私室におる。準備ができたら、いつでもきていい」
準備? はて? なんのことだ。
何か用があったらということだろうか。
とりあえず「わかりました」と返事をしておく。
戻ってきたイブキさんに付いて、私達も部屋へ案内してもらった。
さて、エーリンさんと同室な訳だが。
エーリンさんは、これからどうするのだろうか。
エーリンさんの目的は魔王を倒すこと。しかし、それはもう果たされることはないだろう。
私にその気がないし。
……もしかしたら、神界に帰るのだろうか。
それはまあ……うん。
ルミさん達が寂しがる……かな。
旅の目的と終わり。




