過去とおっさん(前編)
なんとなく見たことのある部屋。
2度目の転移を終えた私は、そんな感想を抱く暗い部屋の中へと到着した。
不快感には大分慣れた。
しかしこの部屋、どこで見たんだろう。
そんな疑問をよそに、転移を終えたタケルヒコ様が言う。
「儂はこれから自分の体に戻る、少し待っておれ。それと8代目、サクヤの体を――」
「はい」
「――いや、4代目の、サクヤの体を支えておいてくれぬか?」
「あたし?」
「うむ。この子はまだ寝とるでの、儂が出て行ったら起きるじゃろうが、倒れるといかんのでな」
「うん。わかったよ☆」
「それじゃあの」
サクヤさんをルミさんが支えると、雰囲気が変わる。タケルヒコ様が出て行ったのだろう。
それを感じながら、私が支えたかったと言う無念に襲われる。
そんな時、ルミさんの胸からほのかに発光した妖精族が寄ってきて、小声で話しかけてきた。
(ここ、勇者の家に似てますね。ヨシオさん)
あ、あー。
そうだ。言われてみればだ。
ここは私がこの世界に召喚された時に着いた、勇者の家の地下室とそっくりなんだ。
なんだろう。わざと似せているのか、いや、地下室なんてどこもこんな感じなのかもしれない。
まあ、それはさておいて。
(それよりあなた、なんでずっと隠れていたんですか)
(そ、それは、別になんでもありませんよ? ていうか隠れていませんし!)
(いや隠れてましたよね。もしかしてタケルヒコ様が恐いんですか?)
(そ、そんなことありませんよ!? ただちょっと苦手なだけで……)
まあ気持ちはわからないでもないのだが、そんなに避けなくてもいい気もする。
「んん、ふぇ? ここはろこれすか? あれ? ルミふぁん?」
サクヤさんが目覚めた。
体を支えてくれているルミさんに問いかける。
「おはようサクヤ。いろいろあってなんだけど、今あなたのおじい様の所に来てるよ」
「おじい様? どういうことですか? それに……その方は」
サクヤさんがユウリシアさん達を見つける。と、傍に控えているディアノックさんを気にかける。
大きいし、首がないし、魔力も魔族のそれだ。気にしない訳がないか。
「えっとね。どこから説明しようかな」
ルミさんが困ったように私に視線を送る。
ただ残念ながら、私はそういう能力が低いのだ。期待されても困る。
そんなやり取り中、扉が開き、光が差し込んだ。と同時にエーリンさんが私の胸ポケットに隠れた。
扉から現れたのは黒髪を腰ほどまで垂らした長髪の青年。かなりのイケメンだ。
袴……男性が着るにしては派手な、そう、女の子が成人式で着る様な晴れ着というか。
まあイケメンは何を着ても似合うと言うやつだ。タケルヒコ様の使いの人だろうか。
「待たせたの」
「おじい様!?」
「ええ!?」
いかん。思わず声が出てしまった。
「なんじゃ、8代目」
「い、いえ。タケルヒコ様のお姿がちょっと想像と違ったものですから」
「ほう。どんなものと思っておった」
「え、えーと、もっとご年配なのかと。口調もアレでしたし。服も」
「千年生きておるのじゃぞ。体をいじらにゃ干からびてしまうわ。儂は元から長寿の種族ではないからの。それになにか? ジジイじゃからもっとおとなしい服を着ろと言いたいのか」
「そんなことは……よくお似合いです」
「おじい様、これはどういうことですか?」
「おおサクヤ。訳はこれから話す故。こっちじゃ」
踵を返すタケルヒコ様。
ルミさんと一緒に、困惑しているサクヤさんを連れて部屋を出る。
やはり地下室だったようで、階段を上がる。
と、なんとも洋風な作りの建物だ。
木で作られた、王国や帝国にある普通の家と変わらない。
ここがアジト? と過ぎる。
もっとなんと言うか、秘密基地っぽい所を想像していた。
そんなことを考えながらいると、先導していたタケルヒコ様がとある部屋に入る。
当然それに続くだが、そこにはタケルヒコ様以外の人物がいた。
黒髪つり眼のメイドさん。背が高く、非常にスレンダーだ。口元には艶ほくろがある。
そんな観察をしていると、つい目が合った。
彼女はそれに微笑みで返してくれた。美人だ。
うっ、ルミさんに睨まれる。
「あ、あの、そちらの方は」
私は逃げるように話を切り出した。
「ん。イブキ」
イブキ。そう言われた女性は、スカートの裾を持って優美な礼をする。
「お初にお目にかかります。私は当館の管理を任されております、イブキと申します。何かご要望がございましたら、何なりとお申し付けくださいませ」
なんとも素晴らしい礼だ。別に美人だからといってひいき目で見ている訳ではない。多分。
各々が軽く挨拶を済ませると、席に着くようにと促された。
会議テーブルの様な長机。所謂議長が座る位置にタケルヒコ様は着席する。
必然的に私とルミさん、サクヤさんが並んで座り、その対面にユウリシアさんとディアノックさんが座った。
全員が着席したことで、タケルヒコ様が切り出す。
「さて、どこから話したものか……8代目、お主は儂のことをどれだけ知っておる?」
「え、あー、初代勇者で、魔王と、えー、なんとかオロチを倒した」
「ヤマタノオロチな」
「……そして勇者の役目を終えてヤマトの国を作った。と、そのくらいでしょうか」
「ふむ。間違っておらん。他の者も同じぐらいかの」
皆が無言で頷く。やはりサクヤさんも詳しいことは知らないようだ。
ちなみにディアノックさんは上体を軽く傾けていた。
「そうじゃの。では儂が役目を終えた後、その話をするか」
タケルヒコ様が、静かに語り出す。
「役目を終えた儂は、旅の途中で辿り着いた島に愛する者らと移り住むことにした。世話になった者達にその話をすると、儂を慕って次々と移住してきた。大所帯になり、皆の後押しもあってその島を新たな国とし、儂は国王となった。それがヤマトじゃ」
「ヤマトは儂のいた世界の知識を取り入れ、独自の文化を築き、発展していった。やがて子を授かり、まさに順風満帆といったところじゃった。それから20年程経った日のことじゃ、2代目の魔王が現れたのは」
「齢30を超えておったが、儂はまだまだ戦えたし、魔王を倒す自信はあった。じゃから魔王の討伐に向かうことにした。そんな時、神託があった」
「神託……ですか?」
「神託、それは儂をこの世界に召喚した女神、エリンからのお告げじゃ。この世界に来てから、女神とはそれで話しをしておった」
エリン。言わずもがなこの世界の女神だ。今は私の胸ポケットに収まっている。
そんな人がタケルヒコ様に何を告げたのか、つい問いかけた。
「……エリン様はなんと?」
タケルヒコ様は少し鼻を鳴らすと。
「戦うな。そう言いよった」
そう、不機嫌そうに答えた。
「女神の言い分はこうじゃ。新たな危機は、新たな者達が解決すべきじゃと。2代目の勇者を召喚し、次代の者達がこれを成す。儂には先代としてそれを見守っていて欲しい……とな」
「儂は女神を信じておったし、一理あると思った。じゃから儂は先代として助言する程度に留まり、2代目の活躍を見守ることにした」
「じゃがそれは間違いじゃった」
女神。勇者。魔王。後悔。




