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魔大陸。魔族が住まう土地。

7代目魔王 ユウリシア・ヘルモルト・ヴァン・フリューゲル・ダオ・アストレアの居城から、少し離れた場所にある大きな建造物。

これは7代目魔王がその威光、もといその歌声を響かせるために使用していた会場であった。

現在は新しい会場を建造した為、使用されなくなった場所。

そこが勇者との決戦の地。

そしてその戦いは、勇者の勝利で終わるかに見えた。が。


「なにしてくれとんじゃあああああ!!!」


そう叫んだのは魔王軍八雷神(はちらいしんが1人、『鮮血せんけつ』のディアノック。

言葉を向けられたのは、勇者と魔王の一騎打ちに乱入した同じ八雷神。


魔弾まだん』のヘルムート。

鈍牢どんろう』のダリー。

氷界ひょうかい』のバサラガ。

戦慄せんりつ』のバトルノート。


の4人である。


観客席から会場に飛び降りるディアノック。

既に臨戦態勢。空間から得物を取り出し、主人の下へ走る。


魔王の首を突き刺した銀髪の少女――バトルノートは、得物となる刀を引き抜き、ディアノックに対し歩んだ。

血が噴き、魔王は倒れる。

切り裂かれた喉元から、ヒューヒューと微かな息遣いが聞こえる。

それを目にしたディアノックは、ありもしない唇を噛みしめた。

激昂するディアノックの突進。バトルノートは足を止め、静かに構えた。


「! どけえ!!」

「……」

「くっ!」


ディアノックは得物握り直し、振る。

凡そ細身の少女が、細身の刀が受けられる程生易しいものではない。

が、バトルノートはなんなく受けた。

そんな彼女の得物は、巨大な斬馬剣。いや斬魔剣へと変貌していた。

ディアノックは渾身の力で押すが、倒れない。

まるで根を張ったかのように、バトルノートは動かなかった。

時間の無駄と悟ったディアノックは、口惜しくも下がる。


「……なぜだ。なぜ姫様を」

「……」


少女から返答はない。

その為、楽しそうに宙を漂うピエロに視線――に似た魔力――を飛ばした。

ピエロはそれに気付くと、おもしろおかしくおどけた。


「あ~ら? ディアノックさん、も~しかして怒ってらっ~しゃいま~す?」

「答えろ。返答次第では、許さん」

「オホ~ホ。許してもらおうなんてこれ~ぽっちも思ってい~ませんけ~どね~」

「殺す」

「ちょちょ~ちょ! わかりました~よ! ま~ったくせっかちさんで~すね~」


「オホン。ワタ~クシ共のシナリオではで~すね。7代目勇者と魔王様の戦いはか~らくも魔王様が勝~利。し~かし! そこに現れた初~代勇者に止めを刺~されてしまう~可哀想な魔王様~。というようなこ~とになってい~るんですよ~」


身振り手振り、どころか瞬時に変装して説明するヘルムート。


「わからぬ! なぜそこで初代勇者が出てくる! なぜ姫様が死なねばならぬ!」

「魔王様を慕う者は多~いですか~らね~。……あなたのように。ですからそ~れを利用させてもらいま~すよ」

「わからぬわからぬ! 貴様の言う事はわからぬぞ!!」

「それでい~んですよ。あなたもここで死ぬのですから」


ヘルムートの周りに【魔弾】が展開する。

ディアノックはほんの一瞬だが、それに気を取られた。

これは油断ではない。脅威を警戒するのは当たり前のことだ。

だが、そんな一瞬を逃さない、そんな領域の強者が集うこの場において、許される行為ではなかった。

ディアノックはバトルノートの一撃に宙を舞い、観客席に叩きつけられた。


「がはっ」


すぐに起き上がろうとするが、叶わない。

既に見えない重圧に抑えられ、その場を動けなくなる。


(おっも!? あのクソじじい!)


ディノアックを縛りつけた本人は、素知らぬ顔で髭を弄る。


「ぐ、が、ぎ、があ!」


力を振り絞り、僅かづつだが体を起こすディアノック。


「ふぉっふぉっふぉ。がんばるのう。だがこれまでじゃ」


いくつもの【魔弾】がディアノックのいる観客席目掛けて駆け、爆ぜる。

しばらく続いた轟音が鳴り止む。

と、そこにはひしゃげた鎧が転がっており、所々黒い靄が漏れていた。


(くそっ、バカの一つ覚えみたいにボカボカ打ちやがって。しかしまずいでゴザル。このままでは姫様がガチで殺されるでゴザル。それだけは許されないでゴザル。時間はない。拙者の命に代えても……)


ひしゃげていた鎧がメキメキと膨張、巨大化する。


「姫様を守るでゴザル」


一回り、いや、二回りは大きくなった体を奮起させ、立ち上がる。


業断ごうだん


離れた観客席目掛けて斧を振るう。

衝撃と共に観客席が穿たれ、亀の老人――ダリーの所まで一瞬の内に亀裂が走る。


「おおっと、あぶないあぶない」


亀裂が届く直前、ダリーは軽やかに身を翻し回避した。

一見無駄に終わったかと思われた攻撃だったが、ディアノックは自身に掛かっていた重圧が消失したことに嬉々としていた。

鬱憤を晴らすかのように、最高速で再び会場に戻るディアノック。

降り注ぐ【魔弾】を回避しつつ、主人の下まで走る。

足が止まり、重圧に飲まれればもはや主人を救うことは叶わない。

決死の覚悟。これが最後のチャンス。


そんなディアノックに詰めるバトルノートの大剣。

を武器ではなく、肩で受けた。

重い金属音と共に、ディアノックの肩が割れる。

もう一撃入れようとバトルノートは大剣を引く、が引けない。

割れた肩から漏れ出した黒い靄が、絡まる様に大剣を離さない。

ディアノックの踏み足が力を増し、速度が上がる。

体当たり。

ただの体当たりではあるが、ディアノックの巨体とその速度から繰り出される衝撃は、敵を遠ざけるに十分な威力だった。

バトルノートは勢いを殺せず、会場の端の氷塊に叩きつけられた。

ディアノックは止まらない。


氷遁ひょうとん 絶甲氷盾ぜっこうひょうじゅん


【業断】


竜人の前に巨大な氷の盾が出現する。

が、【業断】により瞬時に真っ二つにされ、破片が散らばった。


「ぬう!?」


驚きの声を上げるバサラガ。

ディアノックはその足で、振り下ろした斧から繰り出す突き技【衝兀しょうこつ】を見舞う。

豪快ながら繊細な一撃が、バサラガの腹部を貫通した。


かに見えた。


(この手応えは!?)


「オホ~ホ! かかりましたね~」


ディアノックが違和感に気付いた時、バサラガの顔がぐにゃりと変化する。

そこから現れたのは、いやらしい笑みを浮かべるピエロだった。


「我輩はここだ」


(さっきの盾は目くらまし!? あの間に入れ替わったのか!?)


そう。ディアノックが盾に視界を奪われた一瞬。

バサラガは盾の一部へ、ヘルムートはバサラガへと擬態していた。

盾が砕かれ、バサラガはその破片に混じってディアノックの後方へ回り込んでいたのだ。


背後からの一撃。ディアノックの胸部に大穴を開ける。


「がは!?」


膝を着き、四つん這いになるディアノック。


(くそったれ! 【魔弾】が途切れたことに注意していれば気付けたはずだ! 拙者はなにをやっているでゴザルか!?)


あと少し、あと1歩で主人に辿り着ける。

その希望と焦りが、ディアノックの判断力を鈍らせた。


「さ~すがディアノックさん。魔王軍の古参なだけはありますね~」

「うむ! 見事な戦い振りであった!」


上体を起こそうとするが、力が入らない。


「ふぉっふぉっふぉ。もうわしの技は必要なさそうじゃの」

「……」


ディアノックの意思に関係なく、鎧を修復するのに魔力が消費されていく。


「諦められい。我輩達の勝ちである」


バサラガはヘルムートに一瞥すると、ヘルムートは仰々しく腕を開いて、ユウリシアへの道を空ける。


「最期に顔を拝ませてやる」


ディアノックに背を向けていたユウリシアを足蹴にして、ディアノックの方を向かせる。

既にユウリシアの顔に生気はなかったが、まだ微かな息はあった。

その眼には、癇癪の時の物か、大粒の涙が溜まっていた。

今にも途絶えそうな主人の命。


「……めろ、やめてくれ。拙者はどうなっても良い。姫様だけは、姫様には慈悲を」


「お前達の目的は知らん、知らんが、知っている筈だ、姫様優しさも、強さも、愛らしさも。姫様はこの世界を照らすお方だ。頼む、どうか慈悲を」


(そ~れが問題なんですけどね~)


ヘルムートは密かに呟いた。


「……安心するがよい。お主もすぐに主人の後を追わせてやる」


バサラガは、ユウリシアの頭蓋目掛けて拳を振りかぶる。

拳に魔力と凍気が集まっていく。


観客席と会場の端では。


「ふぉっふぉっふぉ。もうわしらの出番はなさそうじゃな。のうバトルノート?」

「……」

「相変わらずつまらんのう」


そんなやり取りのなか、バトルノートの後方にある氷塊が僅かに軋んだ。


「待て! 待ってほしいでゴザル! 拙者が姫様を説得してお前達の傘下に入る! それならどうでゴザルか!?」

「見苦しいぞ! あとその変な喋り方はやめろ!」

「ヘルムート! バサラガ! ダリー! バトルノート! お前達も多少なりとも恩義がある筈でゴザル! 頼む! 頼む!」

「……武人としての誇りはないのか。断じて失望したぞ」


バサラガが、その厳つい顔でもわかりやすい呆れた表情を見せる。


「拙者の、拙者のちっぽけな誇りなぞいくらでもくれてやる。だから頼む。他は何がどうなってもいい。お前達の邪魔はしないから。姫様は見逃してくれ」


「頼む」


無い頭を擦り付けるように地に伏せるディアノック。

少しの静寂。


「ならん」


静寂を切り開く冷徹。

失われつつあった魔力を再度拳に込めるバサラガ。


「! やめろ、やめてくれ!」


「さらばだ」


「やめろ゛おおおおおおおおおおおおお!!」

































氷塊が割れる。

ほぼ同時に、それを背にしていたバトルノートが吹き飛んだ。

後方の異変に気付いたバサラガは、地を砕かんとしていた拳を強引に背後に向け、振り抜いた。

凍気と衝撃が荒れる。

が、そこには誰もいなかった。

否、バサラガには見えていた。

自身の剛拳を擦り抜けた影を。


振り向き直せば、そこには、魔王を抱える勇者の姿があった。


魔王の喉元に手を宛がい、発光させる。


手を除けると、喉元の傷は癒えていた。


「ごほ! ごほごほ!」」


魔王が解放されたかのように息を噴く。


勇者は一息ついた。


「ディアノックさんが時間を稼いでくれたので、なんとか脱出できましたよ」


「お、おお、おおお! 勇者! 勇者殿! 勇者このやろう!!」


顔はないが、誰が聞いても明らかな、嬉々とした声を上げるディアノック。

立ち上がり、勇者の背中をバンバンと叩いた。


「いたっ、痛い、痛いですディアノックさん。というか元気ですね、穴開いてるのに」

「ギリギリ! ギリギリでゴザル! でもやった! やったでゴザルよ! いやーさすが勇者殿は格が違った! 感謝感激雨あられ!」

「聞いてないですね。安心するのはまだ早いですよ」


4人を見据える勇者。

ひしひしと伝わる殺気に、冷や汗を流す。


「さて、どうしましょうか……」


3対4。

人数差は縮まった。

だがその実、1人は生命維持の為に魔力切れ、1人は体に大穴が開き、1人は内在魔力が半分を切っていた。

つまり、実質戦えるのは1人だけ。

その1人が勇者と言えど、絶望的な状況に変わりはなかった。


4人に敗けはない戦い。躊躇する必要はない。

だが、まさに4人が仕掛けようとしたその時であった。

割って入るように空間が歪む。

それに気付いた4人は動きを止めた。

転移魔術による歪み。

本来、転移魔術は隙が大きい術である。

安全が保証される場所でなければ、転移と同時に殺されてもおかしくはない。

しかし4人には、攻撃できない理由があった。

なぜなら、転移魔術が使え、この場に現れる者に心当たりがあったからだ。

それは味方と敵の両方が上げられる

その為、どちらかを確認するまでは手出しできない。

4人は黙って空間から出てくる者を待った。



やがて現れた者は言った。



「おもしろいことになっとるのう」
























「わしもまぜろや」



それは巫女服の様な服を着た、黒髪の少女だった。




Here comes a new challenger!

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