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パンデギューとおっさん


今日も今日とて芋作り。

もう帝国が1年は持つぐらいの量を生産したのではないだろうか。

今は午前中の芋作りが終わり、休憩に入るところだ。

日が出ているとなかなか気温が高いし、町の人達もぶっ続けで芋堀りはできない。

適度に休まないとね。


あ、ちなみに膝の上で寝てしまったルミさんはちゃんと部屋まで送りましたよ。

住み始めた初日なのに、ルミさんの部屋はなんだかいい匂いがしたのがすごい。


思い出しただけでニヤついてしまう。キモいおっさんだ。

さてと、とりえあず昼食を取るとするか。

子供達に囲まれるルミさん達に声を掛けようと、腰を上げる。


「勇者様」


と、背後から声がする。振り返れば、大きな鳥の様な生物。に跨るアシェリーさんがいた。

アシェリーさんはその生物から降りると、綺麗な礼をしてくれる。


「先日は大変ご迷惑をお掛けしました」

「いえいえ、その後どうですか?」

「重い荷が下りた心持ちです。まだ昔の様にとは行きませんが、陛下との関係は良好だと思います。つくづく自分が色眼鏡で見ていたのだと実感しました。私はまだまだ未熟ですね」


どうやらいい方向には向かっている様で安心した。


「勇者様はご昼食はお済みでしたか?」

「いえ、これから頂こうかと」

「ご一緒させて頂いてもよろしいですか? 今後の方針がある程度固まりましたので、少しお話しができればと」

「あ、アシェリーさんじゃん。ハロハロー☆」


こちらに気付いたルミさんが近づいてくる。

腰の周りに子供たちをワラワラ引き連れたまま。

そこの男子、ルミさんの鼠蹊部に触るのは子供でも許さないぞ。


「こんにちはルミエール様」

「なになに、なにかあったん?」

「勇者様に先日のお礼と、今後のことについてお話をと」

「そーなん。じゃああたし達はお邪魔かな?」

「その様なことは」

「いいのいいの☆この子達とご飯食べようって言ってたところだし。こっちはこっちで済ませるよ」

「お気遣い痛み入ります」

「そんな畏まられるとやりにくいなー。まああたしがもっとしっかりしなきゃいけないんだろうけど!ウケるー! じゃ、おっさんをよろしくお願いしまーす! また後でね☆」


軽く手を振り、またワラワラと移動するルミさん。


「ふふ、愉快な方ですね」

「私もそう思います」

「では参りましょうか。懇意にしている店を特別に開けてもらったので、そちらでよろしいですか? 今は物入りなのであまりお持て成しできませんが」

「大丈夫ですよ」

「ありがとうございます。ご案内させて頂きます」


アシェリーさんに連れられ、町の中へと移動した。


「そういえば、この鳥さんはなんて言う魔獣なのですか?」

「イグファールと言う魔獣です。馬より小回りが利いて、素早いのが特徴です。しかしあまり力はないので、軽装でないと発揮できませんが」

「へー。可愛らしいですね」

「そうですね。巷ではテバサキと呼ばれています」

「テバサキ?」

「なんでも6代目勇者様がそう呼んでいたのが定着したそうです」

「そ、そうなんですか」


そんなことを話していて、しばらくして着いたのはこじゃれたカフェの様なお店だった。

店の外にもいくつかのテーブルが並べられている。

元の世界で言えばスター○ックスとかそのあたりだろうか?

なんにせよ、おっさんには少し敷居が高そうなお店だ。似合わないもの。


「ここにはよく?」

「ええ、この町に来た時にはいつも寄っています」

「いい店なんですね」

「子供の頃、陛下と来たこともあるんですよ。むしろそれがきっかけで通うようになったのですが。近頃の私は、そんなことも忘れていました」


少しばかり口惜しそうな表情を浮かべるアシェリーさん。そういうこともあるよ。


店の扉を開けると、小気味良いリズムのベルが鳴った。


「これはこれはアシェリー様、お待ちしておりました」

「無理を言ってごめんなさいマスター」

「アシェリー様の頼みとあれば、例え魔王が来ても店を開きますよ」

「そんなこと言って」

「信じていませんね? では機会があったらお申し付け下さい」


出迎えてくれた人は、恐らく私と同じくらいの中年の男性だった。

しかし私がおっさんと揶揄されるのとは違い、この人はおじ様と言った感じの気品がある。

この佇まい、一朝一夕で身に着く物ではないだろう。


「アシェリー様、そちらの方が?」

「ええ、こちらにいらっしゃいますのがこの国の英雄、勇者ヨシオ様です」

「え」

「おお!お会いできて光栄です!」


私の手を両手で持ちぶんぶんと振る。


「あ、あの」

「ああっと、これは失礼しました!つい興奮してしまって。私はこの店の店長を務めておりますテレスと申します。どうか宜しくお願い致します」

「こちらこそ、宜しくお願いします」

「ささ、どうぞこちらへ」


席へ案内されると、椅子を引いてくれる。座れと言うことだろうか。

アシェリーさんよりも先なのは申し訳ないと、アシェリーさんに目配せするが、笑顔で返される。

仕方なく先に座った。

その後、アシェリーさんも席に着く。


「お食事はこちらでご用意して構いませんか」

「ええ、お願いします」

「お飲み物は何になさいますか?」

「私はいつものを」

「では私もそれを」

「よろしいのですか?」

「ええ、アシェリーさんが飲んでいる物に興味がありますので」

「ではいつものを2つ」

「畏まりました」


頭を下げ、静かにカウンターへと下がるテレスさん。

なんかこういうのいいな。私も「いつもの」とか言える店が欲しい。


「では早速ですが、アスタロッテ女王陛下との協議がある程度まとまりました」


気を引き締めたアシェリーさんがすらすらと述べる。


「協議の結果、帝国は王国主導の魔王討伐連合軍への参加を条件に、王国より復興支援を受けられる形になりました。加えて連合軍への参加は、ある程度復興が終わってからで良いと温情を賜りました」

「そうですか、よかったです」

「これも全て勇者様のおかげです」

「? 私は何もしていませんよ」

「何をおっしゃいますか。本来であれば、我が国は王国か共和国の属国になってもおかしくない状況でした」

「それはアスタロッテ様がお優しいからでは?」

「もちろんそれもありますが――」






「支援はします。しかし王国に貴国を属国とする意志はありません」

「……それはどういうことでしょうか? こちらとしては、この状況下なら当然そうなるものと考えておりましたが」

「そうですね。本来であれば国力が乏しくなったあなた方に選択権はないでしょう」

「ではなぜ」

「……つい先日、王都にも魔王軍幹部の者が襲来しました。恥ずかしながら、わらわ達では太刀打ちできない相手でした。それを救って頂いたのが勇者殿です。勇者殿に救われたわらわ達が、どうして貴国を侵略できましょうか」

「それは……」


綺麗事ではないか。口に出さぬものの、その言葉は表情に現れた。

それを見たアスタロッテは笑ってこう答える。


「そう難しく考えないでください。単純に、わらわは勇者殿に嫌われたくないのですよ」






「――ということがありました。勇者様が王国を救ったからこそ、帝国も救われたのです」

「……そうですか」


やっぱりロッテ様は素晴らしいな。感動だ。


「勇者様とアスタロッテ女王陛下には感謝してもしきれません。一刻も早くこの国を復興させ、お力になれる様に邁進致します」

「お話はわかりました。頑張って下さい」

「ありがとうございます!」


どうやら一件落着の様だ。めでたしめでたし。


「失礼致します。お食事をお持ちしました」


タイミングを見計らっていたかの様に、テレスさんがやってきた。

私とアシェリーさんの前にそれぞれ皿が置かれる。

そこにあったのは。


「こ、これは」


柔らかそうなパンに挟まれた黄色い物体。間違いなく卵。

つまりこれは、サンドイッチ。卵サンドだ。


「おや? 勇者様ご存知でしたか?」

「元いた世界にとても似た食べ物がありました」

「そうですかそうですか。どこの世界にも同じことを考える人がいるのですね」

「こちらではこの料理はなんと呼ぶのですか?」

「パンデギューです」

「え?」

「パンデギューです」

「……あ、パンでぎゅ~~っと挟む……から……的な」

「この料理を考案したのがパンデギュー伯爵という方だったからです」

「」

「……ぷふ!」


アシェリーさんが顔を逸らし、笑いを堪えている。


「す、すみませんっ、ぷっ、勇者様が可愛らしかったものでつい、くふっ」

「か、可愛いですか」

「パンでぎゅ~~って発想が、ふふっ、とても魔王軍を退けた方の言葉とは思えなくて、ぷふっ」


どうやらツボに入ってしまったらしい、笑っているが苦しそうだ。


「おや、アシェリー様がそのように笑われるのは私初めて見ましたよ」

「そうなんですか?」

「アシェリー様はいつも冷静で、思慮深い方ですから。微笑みかけたりはして頂けますが、このように笑われる姿は見たことがありません。しかしこれが歳相応なのかもしれませんね」

「へー」

「ちょ、ちょっとやめてくださいマスター!恥ずかしいではないですか!」

「珍しいものが見れたようで、笑われた甲斐がありました」

「ゆ、勇者様!からかわないで下さい!は、早くいただきましょう!」


そう言って、サンドイッチ、もといパンデギューを両手で持って頬張るアシェリーさん。

おもしろい人だ。

さて、私もいただくとしよう。

このパンデギューは、見た限り卵焼きをそのまま挟んだような物だな。どれどれ。

1口。


こ、これは!?


パンはしっとり柔らかいが、適度に歯応えがある上、パン特有の甘み。

そしてこのふわっふわの卵!

――ん? 中になにかある。

これは、チーズとトマトだ!

なるほど、これは卵焼きというよりオムレツだったのか。

チーズの濃厚な味わいに、トマトの酸味がマッチしてしつこくない。

焼き加減が絶妙だと感心するが、なんと言っても素材が良い。

素材の誤魔化すことなく、シンプルに仕上げた1品だ。


「いかがでしょうか勇者様」


テレスさんの言葉で我に返る。

いかんいかん、つい考えこんでしまった。


「とてもおいしいです!こんなにおいしいサンド、じゃなかった、パ、パンデギューは初めてです」

「そうですか、それはよかったです」

「マスターのパンデギューは帝国一だと思いますよ」

「いやはや、勇者様とアシェリー様にそう言って頂けると鼻が高いですなー」

「そんな、でもこれ本当においしいです。いくらでも食べられそうです」

「ありがとうございます。おっと、まだお飲み物をお出ししていませんでしたね」


テレスさんがテーブルを離れた。

つい飲み物にも期待が高まってしまう。

パンデギューを頬張りながら、大人気なくわくわくしていた。

少しして、テレスさんがティーセットをワゴンに乗せて持ってきた。

カップに注がれる液体。

これは紅茶かな?


「お待たせしました」

「ありがとう」


アシェリーさんが静かに口に運び、ゆっくりと飲む。

カップから口を離したアシェリーさんは、頬を赤らめ、とても心地よさそうだった。

私は唾を飲み込んだ。

こんなのおいしいに決まってる。

そう思った私は、迷わずそれを口に含んだ。


途端、爆発。


「か、辛ああああああああああああああい!!!」

「ゆ、勇者様!?」


思わず叫んでしまった。が、それは仕方ない。

予想だにしていなかった刺激に頭が混乱する。


「な、なんなんですかこれは!?」

「こ、これはアシェリー様特注のバハネーロティーでございます」

「ハバネロだ!!」


私の叫びに2人が混乱しているが、余裕がない。

絶対これハバネロ的なやつを使っている。

なぜアシェリーさんはこれを平然と飲んでいたのか。

なにかの罰ゲームではないかと疑ってしまう。


「み、水、じゃない! 牛乳! ミ、ミルクはありますか!?」

「ミ、ミルクですか? なんでしょうそれは?」

「乳です! おっぱいです! 母乳です!」

「あ、ああ! パイミーのことですね!? すぐにお持ちします!」

「ゆ、勇者様! お気を確かに!」

「あああああああああああああああああああああああ!!」


おしゃれなカフェにおっさんの断末魔が木霊した。

アシェリー。超辛党。

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