表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/108

肉ジャモとおっさん。


細切れ肉と調味料を『ヒヒイロカネのフライパン』に入れ、軽く炒める。

この肉は『バッファモー』と言われる、牛に似た魔獣の肉だそうだ。王国で調達した。

オスの気性は荒いがメスは穏やかなものが多く、家畜に向いている魔獣だそうだ。

王国で取り扱っている肉の中では最も牛肉に近い肉だった。


おっさん印のジャーモは、皮を剥き、一口サイズに切って水にさらしておいた。

同じ要領で人参っぽい野菜と玉ねぎっぽい野菜も切ってある。

あとはこれらを煮るだけだ。

そう、今日の献立は肉じゃがならぬ肉ジャモだ。

『ヒヒイロカネの鍋』に具材を入れ火を通す、火が通ったら調味料を加え、さらに煮立たせる。

ヒヒイロカネの調理器具シリーズすごいな。火の通りはいいのにこげつかないし、軽くて使いやすい。

そのうえ手入れも楽と来たものだ。主婦の味方だね。


しかしこれだけではなんだかさびしんぼ。

なのでもう一品作っちゃう。

じゃじゃーん!『ヒヒイロカネの卵焼き器』!

卵焼きが作り易い様に、長方形の形をしたフライパン。

ほんとこれ作った人尊敬します。

ささっと卵焼きを作り、あとはサラダを盛り盛り。

完成だ。


「いい匂ーい」


脱衣所の扉が開き、ほんのり紅潮したルミさんが、次いでサクヤさんがやってくる。

そしてエーリンさんは真っ先に匂いの元である鍋にまでやってきた。


「これはヨシオさんの世界の料理ですか!?」

「はい。肉じゃがと言って、私の好きな料理の1つです。丁度準備できましたから、いつでも食べられますよ」

「へー。それは期待しちゃうね☆」

「ヨシオ様の料理はおいしい物ばかりですから」

「ではさっそくいただきましょうそうしましょう!」

「ちょっと待った。髪だけ乾かしちゃわないと。傷んじゃうよ☆」

「そんなのどうでもいいですよ!早くしないとせっかくの料理が冷めてしまいます!」

「エーリンちゃん、せっかく綺麗な髪なのに可哀想ですよ」

「そうだよエーリン。あたしがやってあげるからおいで」

「料理は保温できますから、ゆっくりして下さい」

「ぐぬぬ、わ、わかりましたよ!ちゃっちゃと乾かしちゃいましょう!」


悔しそうな表情のエーリンさん。

料理は逃げないんだから、もう少し落ち着くべきだ。


「おっさんはお風呂はいいの?」

「私はあまり汚れていませんから、後でいただきますよ」

「そっか、ごめんね?あたし達の後で」

「いえいえ、大丈夫ですよ」

「むしろご褒美ですよね?」

「むしりますよ。羽根」

「や、やめてください!」

「まったく……。あ、お嫌でしたら、湯を入れ替えますが」

「全然嫌じゃないけど。ねえサクヤ?」

「はい、何か問題がありますか?」

「そうですか、ならいいのですが」

「あ!ちょ、ちょっと待ってね!」


浴室に駆け込んでいくルミさん。

しばらくして戻ってくるが、さっきよりも顔が赤い。


「どうかしましたか?」

「え?いや!なんでもないよ?あはは!ウケるー!さ、髪乾かさないとね!」


明らかに焦っている様子のルミさん。

私はサクヤさんを見るが、サクヤさんにもわからない様だ。

首を傾げている。可愛い。


しばらくして、皆の準備が整う。

それなり時間は経過していたが、まったくそれを感じさせなかった。

仲睦まじい姉妹の様にじゃれる2人を見れた、まさに至福の時間。

私の幸せメーターは果てを知らない程伸びていた。

私の人生について誰かのせいにしたい訳ではないが、もしもこんな娘がいたら、人生違っただろう。間違いなく。


「お待たせおっさん☆」

「お待たせしましたヨシオ様」

「それじゃあ、いただきまし――」

「もう限界です!ヒャハー!」


フォークを両手に肉ジャモ目掛けて突っ込むエーリン。

手頃なジャーモにフォークを突き立て、頬張る。


「ふぉ」


「ふぉっくほくれふー!あふぉっ、あふぉい!れもふまい!」


「あ、エーリンずるーい。あたしもいただいちゃおっかな☆」

「わ、私も失礼します!」


1口ジャーモを頬張る2人。

私は少し緊張していた。

今まで彼女達には何度か料理を振る舞ったが、それらは全て洋風というか、この世界でも馴染みのある料理の延長線上だった。

しかし今回の料理は、恐らく彼女達に馴染みのない味だろう。

彼女達の咀嚼が終わる。緊張の瞬間だ。


「おいしーい!なにこれ!?これがジャーモなの!?」

「ジャーモからこんな味がするなんて、驚きです~」

「だよねだよね!あたしが知ってるジャーモじゃないよ」

「それになんだか優しい味」


胸を撫で下ろす。

どうやら気に入ってもらえたようだ。


「なんでこんなに味がするの?」

「これは食材を煮る料理なのですが、煮た後に一旦冷ますと味が染みやすくなるんですよ」

「へー、スープなんかに入ってるのは食べたことあるけど、全然違うね」

「この味はどうやって作っているんですか?」

「魚醤をベースに組み立てた味付けなんですよ。でも魚醤は高かったですし、あまり流通していない様なので馴染みがないかもしれません」

「なるほど~」

「ふもっ!ふもっふ!ふもふも!」

「エーリンさん。もう少し落ち着いて下さい」

「でもほんとにおいしいよ☆」

「はい、私感激です~」


よかった。

自分が好きな物を気に入ってもらえると言うのは嬉しい。

それがこの2人なら尚更だ。


「たくさん食べて下さいね」

「もっちろん。おっさんの分まで食べちゃうよ?あは☆」

「この卵もおいしいです~」

「ふっ、ふもー!!」







































深夜。就寝していた私は、目が覚める。

この世界に来てから、私の睡眠時間は極端に減った。

だからと言って寝不足と言う訳でもなく、気怠さも感じない。

多分、この体は効率がいいのだろう。

睡眠時間を割かなくてもしっかり機能する。便利な体だ。

だから私はこの時間に色々な事をする。

体の動かし方や、魔術の練習をしたり、家を作ったり。

あとは、この世界のことについて勉強したり。

今はかつての『勇者』について調べているところだ。

みんなこの世界を救っていることから、英雄譚にはことかかない。

私はその様な本を見つけてはとりあえず購入した。

インベントリに入れておけばいつでも読めるし。

今読んでるのは簡単な年表の様な物だ。


「勇者タケルヒコ……女神エリンに導かれし最初の勇者。始まりの魔王を屠り、魔王の因子で作られた終焉の魔獣『ヤマタノオロチ』を討伐する。世界に平和をもたらした……」


んー。

聞いたことのある様な名詞が出てくるが、いかんせん知識が足りない。

なんとなくすごいんだと言うことはわかるのだが。


「……その後、王国の西方にある島に『ヤマト』を建国する」


国……か。

すごいなー。よくそんなこと考えるものだ。

私には到底真似できない。私が王様の国なんて誰もついてきてくれないだろう。

畑でも耕している方が性に合っている。耕したことないけど。


「えーと次は……混沌から2代目魔王が誕生する。それに伴い、女神エリンは勇者を召喚した。勇者の名はテンム。初代勇者の娘など、選ばれし聖戦士と共に魔王討伐に向かう。そしてこれを達成した」


初代勇者の娘ってことは、タケルヒコ様の娘ってことか。

娘さんまで魔王討伐に行くとは、やはりそういう血が流れているということなのだろうか。

すごいなー。

……ん?まだ続きがある。


「えー……が、共に戦った聖戦士達は魔王の因子に飲み込まれる。勇者テンムは全ての聖戦士を天に返した後、消息を絶った」


はて魔王の因子とは。

まあそれは置いといて、天に返すって、これはそういうことだろうか。

とすると、タケルヒコ様の娘さんも……そういうことなのだろうか。


「ふう」


息を吐いて。月を見上げる。


この世界で生きてきた、生きている人達は、きっとみんな同じ様な苦しみを抱えているのだろう。

私には耐え難い苦痛。

まさに生きてきた世界が違うのだ。


「……私は、何をすればいいんだろう」


と、部屋の向こうに気配を感じる。

……ルミさんだな。

間も無くして、扉が静かに開く。

顔を覗かせたルミさんは、窓際に座る私を見て少し驚いた。


「あれ? あはは。ずっと起きてたの?」

「いえ、少し寝ましたよ。ルミさんは?」

「あたしは……ちょっと寝付けなくてさ。おっさんは寝てるかなーって」

「そうですか。よかったら、少しお話ししませんか」

「いいの?」

「もちろん」

「……うん。する」


少し遠慮がちに入ってくるルミさん。

髪を下ろしたルミさんの可愛さたるや。たまらん。

と、ルミさんが腰掛けた場所はまさかの。


「ル、ルミさん!?」

「えへへ、なんだか恥ずかしいね☆」


私に膝の上。

おうふ。

もこっとしら素材のパジャマから胸元が見えている。

なんなんだこの生き物は。私を殺す気か。

緊張から声が出ない。


たくさん話したいことがあった筈なのに。

この子を見ていると、頭が思うように働かないから困る。

いや元々大して働いてないんだけど。


「あ、あのさ」


結局、その静寂を破ったのはルミさんだった。


「な、なんでしょう」

「……前から聞いてみたかったんだけどさ。おっさんのいた世界ってどんなとこなのかなーって」

「私のいた世界ですか」

「うん。教えて?」

「そうですね……」


私のいた世界。

この世界の人々に比べれば、恵まれた環境であっただろう。

食べ物もあるし、仕事にもありつけた。

多少閉鎖的であったかもしれないが、それは私にも原因があったと思うから。


「優しい世界……だったと思います」

「……そっか。でもさ、世界が優しくても、おっさんが幸せだったかは別だよね」

「……そうですね」


確かにその通りだ。

少なくとも、私は今この瞬間に勝る幸せを知らない。


「おおおっさんてさ、もももしかして、けけ結婚とかしてたりする?」

「え」


後ろからなので顔は見えないが、耳が真っ赤になっている。

ルミさんて以外にうぶなんだよな。


「結婚はしてませんよ。というか童貞なの知ってますよね」

「き、聞いてみただけだよ!……でも好きな人ぐらいいたんじゃないの」

「そんな人がいたら、私の人生も違っていたかも知れませんね」

「ふ、ふーん。つまんないの」

「ルミさんは、好きな方がいるんですか?」

「はあ!?いいるわけないし!?いっとくけどあたし処女だから!」


なにかムキになっている、聞いてないことまで。ありがたや。


「「……」」


また沈黙、

恥ずかしいなら言わなきゃいいのに。可愛い人だ。




「おっさんは、傍にいてくれるよね」





私の手を握り、ふと呟かれた言葉。

その言葉には例えようのない、哀愁が漂っていた。


私は、ルミさんが好意を寄せてくれていることを知っている。

でもそれは、子供が親に甘えるような、そんな好意だ。

彼女はまだ子供だ。

手足は伸びていても、子供だ。

だから私は。





「何があっても、あなたの傍にいます」





君が安心して眠れる日まで。

それが私の。



傍にいること。簡単じゃない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ