おっさんと恋愛相談
「……どうされたのですか?」
私のやつれ具合を見て、ロッテ様が半ば茫然と問いかけてくる。
傍にいたマリアンヌさんもポカンとしている。
私はお茶を濁すように笑った。
ルミさん達が来た翌日、ロッテ様率いる王国軍も到着した。
予定より1日早い到着だった。本当に急いでくれたのだろう。ありがたいことだ。
それからアシェリーさんを交え、城内の応接室で事の顛末を話した。
あらかた話し終わったところで、ロッテ様はお茶を含み、一息ついた。
「勇者殿は本当にすごいですね。改めて感服しました。ね?マリアンヌ?」
「はい、陛下」
「これなら妾達は必要なかったかもしれませんね」
「そんなことは。来て下さって嬉しいです」
個人的にもね。やっぱりロッテ様は可愛いのう。
「申し訳ございません。本来であれば皇帝陛下よりお礼を申し上げるべきなのですが」
「いえ、かの『閃光』殿にお相手して頂ければ言うことはありませんよ」
「ありがとうございます」
「しかし、やはり今後のお話は勝手に決める訳には行きません……ね」
「それなんですがロッテ様、こうなったのは私の責任ですので、任せて貰えませんか」
「ゆ、勇者様、それは」
「妾は構いませんよ。勇者殿に任せておけば安心ですので。……それよりも、勇者殿ご自身のことが心配ですわ」
「……そうですね。ちゃんとします」
そうなのだ。
ルミさん達とは結局ろくに話もできないまま今に至る。
私はと言うと夜も眠れず、胸も胃も痛い。
アシェリーさんは責任を感じているようで傍に居てくれるのだが、返ってそれが反感を買っている節がある。
昼間にちょこちょこルミさん達を見かけたが、完全に無視されてしまった。
「では良い結果をお待ちしていますわ」
ロッテ様達と別れ、今後の事を考える。
と、邪魔をする様に辺りをふらつく妖精族が現れた。
「いや~やっちゃいましたねヨシオさん!ぷーくすくすっ」
「他人事だと思って。大体あの時どこにいたんですか。エーリンさんってふらっとどこか行っちゃいますよね」
「それは女神の秘密ですよ」
「まあお腹が空いてつまみ食いでもしていたんでしょうけど」
「失礼ですね!そんなに食いしん坊じゃないですよ!」
どの口が言うのだか。
しかし困った。なんとか機嫌を直して貰わないと、こちらの身が持たない。
まずは皇帝陛下にアシェリーさんの事についてどうするつもりなのか聞いておかないと。
場合によってはアシェリーさんがパーティに加わることになる訳だし。
うーん、ちゃんと話をすれば仲良くなれると思うんだけどな。
「これからどうするんですか?」
「皇帝陛下の所に行きますよ。話はそれからです」
「そうですか、じゃあ私はルミさん達を慰めにでも行きますね」
「……余計なこと言わないで下さいよ?」
「ほんと失礼ですね!せっかく誤解を解いてあげようと思ったのに!」
ぷんぷんと頬を膨らませながら去っていくエーリンさん。
悪い人じゃないんだけど、おバカさんだからな。
「陛下にお会いしたいのだが」
フェルマーさんが扉の前にいた侍女さんに声を掛ける。
皇帝陛下に会いに行くにあたって、私1人では不安だったのでフェルマーさんに付き添いをお願いしたのだ。
今は皇帝陛下の私室まで来ている。
扉の前にいた侍女さんが、扉の中の侍女さんに伺いを立てた。
しばらくして返答が返ってくる。
「申し訳ありませんが、陛下はどなたともお会いしたくないそうです」
本当に申し訳なさそうな態度。
やっぱりまだ無理か。と思った矢先、フェルマーさんが声を張った。
「待て、勇者殿が来られているのだぞ。また無下に扱うおつもりか。我が国の窮地を救って頂いた英雄に対し、あまりに無礼ではないか」
ちょ、声がでかい。
それにそんな大層な者ではない。
ほら、侍女さんも驚いている。
「フェ、フェルマーさん、また日を改めますから」
「勇者殿は黙っていて下さい」
「いや、しかしですね」
「勇者殿には復興にもお力添えを頂いていると言うのに、まだお礼も申し上げていません。国の長として誠意ある対応を取って頂かなければ、先代の皇帝陛下に顔向けできません」
「で、ですが皇帝陛下にも色々とお考えがあるでしょうし」
「ならばそのお考えをお聞かせ願たいものです」
「それはそうかもしれませんが……」
すると少し扉が開き、中の侍女さんが外の侍女さんに何か告げてきた。
少しして、侍女さんがこちらに向き直る。
「陛下が勇者様にお会いするそうです」
フェルマーさんを見ると、仏頂面が少しだけ勝ち誇った様な顔をしている。
この人、わざと室内に聞こえるように言ったな。
多少強引ではあるが、会ってくれると言うのなら行かなければならない。
いまので気を悪くしていなければいいが。
侍女さんに促されるまま入室すると、煌びやかな調度品が整然と並んでいた。
が、皇帝陛下の姿はなかった。
奥にもう1つ扉があり、どうやらその先にいらっしゃるようだ。
リーマン時代の私では一生手の届かない様な品の数々に目を奪われつつ、中にいた侍女さんに連れられる。
「勇者様がいらっしゃいました。お通ししてよろしいですか?」
「入れ」
いよいよご対面か。よし、しまっていこう。
「失礼しみゃす」
もう、バカか私は。
自己嫌悪に陥りつつ部屋に入ると、皇帝陛下が見当らない。異臭はする。
まだどこかに部屋があるのか室内を見渡すが、特に見当たらない。
すると声が聞こえた。
「勇者殿、この通りだ」
?????
皇帝陛下の声がする。下の方からだ。
私は床に目を向ける、と、なにかの塊があった。
しばらくして、それが人であることに気付く。
「こ、皇帝陛下!?」
土下座をしている様な体勢だが、そのぶよぶよの体躯からおよそ人間のそれには見えなかった。
何かの丸い塊があるとしか。しかしその物体から発する臭いが間違いなく皇帝陛下のものだった。
「どうされたんですか!?」
「僕はどうしようもないくそ野郎だ!あなたにした数々の非礼を詫びたい!どうか許してくれ!この通りだ!」
「え、えー?」
ちょ、ちょっとこれまずいんじゃないの?
仮にも皇帝が土下座するって、いかんでしょこれは。
こんな所見られたらどうなるかわからない。
「とりあえず顔を上げてください!」
「いや!僕は這いつくばって生きるのがお似合いのうじ虫なんだ!このまま話をさせて欲しい!」
「そ、そんな。私が困るのでせめて座ってお話しませんか?」
「僕の様な肥溜に気付かいなど不要です!」
「いやそういうのではなく。ほんと勘弁して下さい」
「……なんとお優しい、アシェリーが惚れる訳だ」
ん?今なんて言った?
……ま、まあとりあえず座ってもらおう。
「で、ではこちらでお話をしても?」
近くにあった椅子を指すと「もちろんです」と返ってくる。
お互い席に座るが、何から話して良いのやら。
「あ、あー、少し痩せられましたか?」
「僕より勇者殿の方が痩せられたのでは?」
「あ、はい。そうですね」
「「……」」
うん。やりにくい。一旦落ち着こう。
私が年長者なんだ。
「……アシェリーは僕を恨んでいるのでしょうか」
リードしなければと思った矢先、口火を切ったのは皇帝陛下であった。
「恨んでいる、とは?」
「僕はアシェリーを愛しています。アシェリーの全てを知っているつもりでした。彼女もそれをわかっていると思っていた。でも違った」
「僕は……」
そこで押し黙ってしまう皇帝陛下。
私はどうしたものかと悩んだ。
だって45歳で童貞だもん。恋愛なんてまともにしたことがない。
ハートブレイクした人になんと言えばいいのか、わかる訳がない。
私にできることは、彼に自分の気持ちを見つめ直してもらうことだけだ。
「皇帝陛下は、いつからアシェリーさんのことを?」
「……僕とアシェリーが出会ったのは7歳の頃でした。忘れもしない僕の誕生日に行われた晩餐会。僕の前に現れたのは間違いなく天使だった。オリハルコンの様に輝く髪、アイオライトの様な瞳、彼女を構築する全てを愛おしく感じました。あ!これを見て!」
近くの棚から取り出した物を差し出される。
これは、写真? いや、似てるけど違うな、多分魔術で作ってある。
紙に写っていたのは幼いアシェリーさんと……これは皇帝陛下なのか?
ぽっちゃりとした可愛らしい男の子が映っていた。
「この男の子は?」
「僕です」
……だろうなと思ったけれど、なんというか、言葉にできない。
時の流れのせいなのか?
少なくとも子供の頃は見た目には問題ない。
「……続けて」
「はい。どうしても彼女に近づきたくて、まず彼女をこの城に住まわせました。グラン公爵領はそんなに遠くはないのですが、毎日は会えないので。それからは何をするにも一緒でした。一緒に勉強して、稽古して、寝食をともにしました。幸せな日々でした。アシェリーは僕よりなんでも上手にできました。比べられることも多かったけど、僕はそれがとても誇らしかった。2人で大人になって、2人で幸せな国を作ろうと誓いました」
急に饒舌になった。
自分の得意分野を熱く語る、これはオタクと言うやつなのだろうか。アシェオタ?
というか7歳の女の子を親元から引き離したのか。
この世界では別段大したことではないのかもしれないが、私は嫌だな。
「でも、幸せな日々は長く続きませんでした……」
目に見えてトーンダウンする。
これは長くなりそうだな……。
童貞の童貞による恋愛相談室。




