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修羅場とおっさん


魔王軍を退けた後、私はルミさん達を待ちながら復興のお手伝いをしていた。

帝国中の人々が帝都に避難していたようだが、さすがに帝都に留まり続けられる訳もなく、早急に町を復興させなければならない状態だった。

今いるのは帝都から1番近い所にある『クロース』という町だ。

早めに町を放棄したこともあり、家屋の破損はあまり見られなかった。

多少荒されてはいたものの、すぐに人が住める状態なったのは幸いだった。

と言ってもまったく被害がない訳でもないので、私は家屋の修繕や畑を見て回っていた。


「よいしょ」


種芋を撒いた畑に手を添え《精霊術士》の能力を使う。

見る見るうちに畑が緑に覆われる。

それを引き抜けばあら不思議、ジャガイモっぽい野菜『ジャーモ』がゴロっと出てくる。


「「おおー!」」


人々から歓声が上がる。

これで食糧はなんとかなりそうだ。

ちなみにこの方法は成長に必要な栄養を魔力で与えている為、土も痩せない。

農家の人達にやり方を教えてくれとせがまれたが、そもそも覚え方も知らないのでお断りした。

収穫は町の人達に任せ、次々と野菜を実らせていく。

が、帝国中の人達の分となるとかなりの量だ。

1日が終わる頃にはけっこうな魔力を消耗し、それに伴う疲労感を味わった。

今は帝国に着いて3日目、王国を出てから5日目の夜だ。

今日は帝都の方で作業をしていたので、お城に用意された部屋で休ませてもらっているところだ。


ロッテ様は帝都に着くまで7日と言っていたから、後2日か。

……まだ2日あるのか。

ほんの数日、ほんの数日ではあるが、彼女達に会えないだけでくるものがある。

まったく、どんだけさびしんぼなんだ私は。

ベッドに寝転んでうなだれる。


コンコンッ。


ノックの音が聞こえた。


「勇者様、アシェリーです」


アシェリーさん? なにかあったのかな。

あの件の後、アシェリーさんはしっかり現場に復帰した。

何事もなかったかの様に――という訳にはいかなかった様に見えたが、それでも国民の為にやるべきことをやっていた。

私に謝罪もしにきた。本当に迷惑を掛けたと。

私が悪いと言っても聞かず、何回も謝罪しにくるので困っていた。

その為、また謝罪に来たのかと考える。


「今開けます」


ベッドから起きて扉を開ける、と、そこには白色のネグリジェに身を包んだアシェリーさんがいた。

いやらしい、でも下品じゃない。

いや、もう天使とかそういう類かもしれない。

童貞なら殺されるかも。やばい、殺される。


「お、遅くに申し訳ありません勇者様。その、お話があるのですが、少しよろしいでしょうか」


顔を赤らめ、恥ずかしそうに話すアシェリーさん。目線が泳いでいる。

いま!?その格好で!?

とツッコミを入れそうになるのを抑えた。


「ど、どうぞ」

「し、失礼します」


招き入れ、私はぎこちない動きでソファーに座った。

何も言わず、アシェリーさんも座る――私の隣に。


!?


テーブルを挟んだ向かいにもソファーはある。

当然アシェリーさんはそちらに座ると思っていた。

思い掛けない出来事に混乱してしまう。

そして話を切り出さない。いったいなんなんだ。

静寂に耐え切れないので、こちらから話しかけてみる。


「た、体調はどうですか?」

「は、はい。随分良くなりました。勇者様のおかげです」

「そうですかー……」


き、気まずい!

月明かりが差し込む部屋で2人きり。

なんでこういう時に限ってあの女神様はいないんだ。

大丈夫か? 私じゃなきゃ勘違いしちゃうぞ?

いやいや、きっとそういう気にさせといて実は真面目な相談だったりするのがお約束と言うやつだろう。

おっさんは騙されませんよ。


「勇者様……」

「はひい!?」


うわー。変な声出た。恥ずかしい。


「だ、大丈夫ですか?」

「だい、大丈夫です。なんでしたでしょうか?」

「あ……その、今日は勇者様にお願いがあって参りました」

「お願い?」

「勇者様は、王国の方々がこちらにいらしたら、また旅に出られるのですよね?」

「そうですね、すぐにと言う訳にはいかないでしょうけど」


まだまだこの国は支援が必要だろうし、ロッテ様が来たら皇帝陛下との難しい話もあるだろう。

旅に出ればしばらくは戻ってこれないだろうし、ある程度今後のことがわかるまでは離れられない。

しかしなぜそんなことを聞くのか。

赤らめた顔を俯かせたアシェリーさんが答える。


「わ、私も一緒に連れていって欲しいのです!!」

「……ええ!?」

「お願いです勇者様!私をここから連れ出して下さい!」


こちらに体を向けるアシェリーさん。

胸の谷間が!太腿が!じりじりと近づいてくる!こ、殺される!

逃げるように距離を離すが、すぐにソファーの端にぶつかってしまう。


「勇者様……」

「ちょ、ちょっと、アシェリーさん?」

「お願いします、私、勇者様になら何でもしますから……」


艶のある声に含まれる切実さ。

本当に何でもしてくれる感じだ。た、多分えっちなことでも。

思わず音が鳴る程の唾を飲みこむ。

これはやばい、胸が痛くなってきた。


「ま、まずは落ち着いて、訳を聞かせて下さい」

「訳なんて、勇者様ならおわかりになるでしょう?」

「……皇帝陛下のことですか」

「……陛下が自室に籠っているので沙汰を待っている間は保留……と言う状態ですが、本来であれば、私は極刑に処されてもおかしくありません。ただ、家族や、私を慕ってくれている臣下が黙ってはいないでしょう。そうなれば内乱が起きてしまいます。せっかく魔王軍を退けたと言うのに」


「そんな争いが起こるなんて、耐えられません……」


少し冷静になったのか、紅潮が薄れる。

んー。まあ確かに結構な惨事だったけど、そんなにひどい事にはならないと思っていたんですよね。

なぜなのか、それは。


「私は、あの人はそんなに悪い人ではないと思うんですよ」


「確かに見た目はアレですし、臭いですし、空回りしている感じは否めないのですが、貴方を想う気持ちは本物だと思います」


「貴方に振られたからといって、逆恨みする人ではない……と思いますよ」


私は考えを述べた。

話し終わった時には、アシェリーさんは完全に冷静さを取り戻していた様だった。


「……本当にそうでしょうか」

「貴方を害する様な事があれば私が守ります。その時は一緒に行きましょう」


間を置いて、アシェリーさんは私に迫っていた上体を起こして少し笑った。


「勇者様には叶いませんね。わかりました。勇者様を信じます」


どうやら納得してくれた様だ。よかったよかった。

危うく死ぬところだった。


「でも……例えお許しが出て、この国に残れたとしても」


「勇者様なら、連れ出して頂いても一向に構いませんからね」


……おっふ。

クソ、もう話は終わったと油断していた。

上目遣いと悪戯な笑み。ストライク。

いやいや落ち着け、ここは大人の対応を見せるべきだ。

やれる、私ならやれる。行けおっさん。


「そそそそういうことはっおとなをかかからかうんじゃありゃせんよ!」


……今回もダメだったよ。


「ふふっ、なんですかそれ」

「つっ、つまりでしゅね、なんと言いますか、おとこはオオカミおとこかもしれないこともなきにしもあらずでしてっ」

「オオカミおとこ?」

「そ、そうです!オオカミです!あ、ウルフ?ウルフおとこ?と、とにかくこう、ばぁー!っと――」

「きゃっ」


勢いだ。

身振り手振りをしていた勢いでアシェリーさんを押し倒してしまった。


「――くるかもしれません」

「……はい、どうぞ」


どうぞ!?

ちょ、なんで目を瞑るってるんですか!?

いや、待て、まだ大丈夫だ、他意はない。これは事故だ。

冗談だ。と、このまま何食わぬ顔で元に戻れば――


「おっまたせ―☆おっさん元気して――」


扉が勢いよく開く音に加えて、ずっと待ち望んでいた声が響いた。

嬉しい。とても嬉しい。筈なのに。

突き刺さるような敵意を向けられ、まったく喜べない。


「――ふうん。心配して少しでも早く来てみたら。ずいっっっぶんゲンキそうじゃない。どう思うサクヤ」


やばい。


「ヨシオ様……わ、私、悲しいでひゅ」


やべえ。


「ほんっっとサイテイ。……最低」


あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!

胸が!胸が痛い!

いやああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!


「ち、違うんです!これには訳が!な、泣かないで下さい!」

「薄着の美人を押し倒す訳ってなに!?てゆーか泣いてないし!おっさんがちょっと見ない間に見知らぬ美人とその、し、し、してたからってあたしには関係ないから!」

「か、関係ありましゅ!私ルミさんならいいですけど……他の人は嫌でしゅ!」

「それはあたしもサクヤなら仕方ないかな……ってそいういう話じゃなくて!」

「な、なら3人でどうでひゅか!?」

「混乱しすぎ!?ちょっと黙っててサクヤ!」

「ひゃい!すみません……えぐっ、ひっぐっ」

「あ、あーもう泣かないで、もう!おっさんのせいだからね!!」

「ごめんなさい!ごめんなさい!全て私が悪いんです!」


ソファーから離れ、土下座をして、何度も頭を下げた。

すると。


「ゆ、勇者様は悪くありません!」


アシェリーさんが叫ぶ。


「うっさい!てゆーか誰なのよあんた!?」


ルミさんも叫ぶ。


「アシェリー様に何と言う口の利き方!不肖このゲルト!許してはおけませぬ!」

「あわわ、ゲルトさん!出て行っちゃダメですよー!?」


入り口からゲルトさんとキューエルさんが……なんだこれ。


「ゲルト!?キューエル!?い、いつから覗いていたのですか!?」

「不肖このゲルト!コンコンッ『勇者様、アシェリーです(裏声)』のところからです!」

「最初からじゃありませんか!?」

「ひぐっ、えぐっ、ふぇ」

「あーもう!うるさーい!!」

「ごめんなさい!ごめんなさい!生まれて来てごめんなさい!」



















このあと滅茶苦茶怒られた。



おっさん。人生初修羅。

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