表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/108

おっさん、勇者になる


夜明け、王都を南下した所にある平原。

私とアルマゼルさんが戦った場所。

魔力の跡を追ったら、そこに辿り着いた。


膝を抱えて蹲る彼女。

今にも潰れてしまいそうな程、弱々しいのが見て取れた。

しかし肌が白くなっていることに少しだけ安堵できた。



「ルミさん」



声を掛けると、過敏に体を震わせた彼女。

そしてゆっくりと上げたその顔は、一晩泣き腫らした様に目元が真っ赤になっていた。

いや、実際にそうだったのだろう。

彼女がどんな思いでここに居たかと思うと、痛い。

私には、ただ黙って彼女を見つめることしかできなかった。



「おっさん」



彼女の荒れた唇が開く。痛い。



「どうしよう、あたし」



彼女の見開かれた目が潤う。痛い。



「あたし、友達をっ、サクヤを切っちゃったよおっ」



彼女の大粒の涙がポロポロと溢れる。痛い。



「どうしようっ、どうしようっ!」



……私は、勇者と言うものがなんなのかよくわからなかった。

魔王を倒す存在というのがそもそも納得行かなかったし、結局は戦争の英雄なんだと思うと、まったくやる気が出ない。

なぜ選ばれたからと言って勇者が戦わなければならないのか、なぜこれまでの勇者達が戦うことができたのか。

結局、私は他の勇者とは違い本当に選ばれた勇者ではない。

だから違うのだと、勇者の気持ちなんてわからないし、この世界の人達の期待に応えられる存在ではないと。

勝手に納得していた。

でも――


「おっさんっ」


歩き出す。

一歩を踏みしめる度に、彼女の色が変化していく。

黒く、黒く。

魔力が溢れ、彼女を苦しめる。

それにつれ、彼女が彼女でなくなっていくのがわかる。

混乱していた彼女は、制御されたかの様に落ち着きを取り戻す。

首下まで黒く染まった頃、彼女はこう言った。

























「助けて」



――勇者というものがなんなのか、少しだけわかった気がした。


低く構えられた居合い、彼女の間合いに入る。

すぐさま必殺の一撃が首下を薙ごうとするが、暖簾をくぐるようにかわせた。

くらえば容易く両断される一撃を浴びせられながら、私はひどく冷静だった。

しかしその胸中は溢れんばかりの感情で埋め尽くされていた。


彼女を助けたい。

彼女を守りたい。

彼女を許したい。

彼女に許されたい。

魔王を殺したい。


そうか。

これが。


彼女に手が触れる。

彼女のうなじ――あの場所を目掛けてこの感情をぶつける。


「あっ」


あの嫌な魔力が消えていくのがわかる。

そして彼女も。


「あっ……おっさん?」


彼女を抱きしめる。

いつのまにか左腕はなくなっていたので右腕だけで。

可能な限り、彼女を近くに感じるように。


「おっさん、痛いよお……」


「……違うよね、おっさんの方が痛いよね」


「ごめん、ごめんねっ、あたし、あたしのせいで」


違う。

違うんだ。

私がもっと早く気づいていれば。

彼女にこんな思いをさせずに済んだのに。


「どうしようっ、おっさんも、サクヤも傷つけちゃったよお」

「大丈夫、まだ間に合います」

「でも、でもっ」

「大丈夫です。だって、私もサクヤさんも、あなたの事が大好きですから」

「っ」

「だから大丈夫です。だから――」


私を許して欲しい。


「サクヤさんの所に行きましょう。あなたの力が必要なんです」
























「ん」


うつろう目に、やがてはっきりと光が差した。


「ル……ミさん?」

「サクヤっ」


ルミさんの顔がみるみる不安の影を帯びる。


「サクヤ、あたし、あたしねっ」

「ルミさん!」


ルミさんにしがみつくサクヤさん。


「元に戻ったんですね!?よかったあ!ほんとによかったでず~!」


そのまま泣き出してしまった。

そうだよ。

なにも心配することはなかった。


「サクヤ……。うぅ……ごめん゛、あたし、ほんとにごめんね゛え゛~」

「ルミざん゛~」

「サグヤ゛~」


泣きながら抱き合う2人……いいな。


「おっざん!」

「はい?」


ルミさんに手招きされ、2人の下へ行く。

すると近付いた所で腕を引き込まれ、ルミさんが私とサクヤさんを抱く形になった。


「2人共、ほんどにありがどう~」


……お礼を言いたいのは私の方だ。


「って勇者様!腕どうしたんですか!?」

「あ、これは大丈夫です。魔力が回復したら治しますから」


切られた腕はインベントリにしまってある。

『ヴェノムヒール』が使えるようになったらくっつけよう。


「私が寝ている間に全部解決してくれたんですね。流石勇者様です!」

「……まだ解決していませんけどね」

「え?何か言いましたか?」

「いえ、それよりもう大丈夫ですか?」

「はい、全然大丈夫です!」

「それは……よかったです、本当に……」

「え?」

「勇者様?」

「……」

「寝ちゃったみたいですね」

「びっくりした。驚かせないでよ」

「ルミさんも寝たらどうですか?ひどい顔ですよ」

「マジ!?ってそりゃそっか」

「ふふっ、一緒に寝ちゃいましょうか、3人で、ね?」

「……うん」


そして私たちは、丸1日泥の様に眠った。


しばらくはゆっくり、イチャイチャさせます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ