一の太刀とおっさん
【一の太刀】
4代目勇者ヨシテルの奥義。
女神より賜った9本の神刀を1つに束ねる技。
これにより生み出される刀は唯一無二のまさに神刀。
1本、また1本とルミエールの下に集う刀たちがそれの完成を物語っていた。
「なぜ私を殺すのですか?」
「そんなの、勇者だからに決まってんじゃん☆」
「なぜ勇者を殺すのですか」
「勇者は殺さないといけないんだよ?そうしないとみんな殺されちゃう」
「私はあなたを傷付けたくありません」
「そっか、でも死んで☆」
うん。話にならない。
私に恨みがあると言うより、なにか暗示と言うか、勇者は殺すものだと思っているふしがある。
どうしてこうなった。
勇者をそんなふうに捉えるってことは、やっぱり魔族の仕業ということだろうか。
アルマゼルさんの能力か、それとも他の魔族の能力なのか。
問題はどうすればルミさんが元に戻るのかと言うことだ。
これがルミさんの本心でないのなら「はいそうですか」と殺されてあげる訳にはいかない。
なんとかルミさんを助けないと。
しかし困った。
なんかさっきの人達が持っていた刀がルミさんの周りに集まってくる。
なにか起こりそうだけど、魔力もほとんど残っていないし、朦朧としてきた。
正直もう限界だ。
なんて考えている内に、どうやら刀が全部揃ってしまったようだ。
「でも流石勇者だよね。あたしの剣鬼をみんな倒しちゃうんだもん」
「やっぱり危険かな。危険だよ」
「ここで殺さないと、ね?」
刀の1本1本が発光し、ルミさんの持つ刀に同化していく。
と同時に、ルミさんから禍々しい魔力が溢れ出す。
魔力にも性質があるのだろう。
普段のルミさんの魔力ではない、アルマゼルさんと似たような魔力だ。
それはつまり、魔族の魔力。
刀の発光が終わると、ルミさんにも変化が生じていた。
それは――
「おまたせ★」
なんか黒くなってるー!?
一瞬で日焼けしたように肌が褐色化したルミさん。
これが黒ギャルというやつか。
いつもの白いルミさんもいいけど、こっちも悪くないな、エロさが増した気がする――じゃなくて。
これはどういう訳でしょうか。
ルミさんは実は魔族だった?
確かにアルマゼルさんと戦って疲弊した私を狙うのは理に適っている。
私としてはいくらでも隙はあったと思うけれど、万全を期したということならわからなくもない。
そうだとすると今のルミさんは異常でもなんでもなく、魔族として正常な訳で。
勇者を、私を殺す為の刺客な訳で。
今まで私が見てきたルミさんは全部作りモノな訳で。
……エーリンさんには悪いけど、私はここで退場させてもらうとしよう。
ルミさんみたいな美少女に看取られるなら悪くない。
あの世があるのなら、むしろ自慢できるかもしれないな。
ただ最期に、作りモノでもいいから、もう一度笑顔が見たかったな。
「バイバイ★」
「え?」
袈裟懸けに振り下ろされた刀は、私には届かなかった。
ただ、目の前には私がなる筈だった。
そうなる筈だった。
私の代わりに、サクヤさんが横たわっていた。
「サクヤさん!!」
線を引いたように肩口から血が流れる。
こんな筈じゃ。
「サ……クヤ?……あれ、あたし、なんで」
ルミさんが答える。
「違う、あたしはただ勇者を、おっさんを……」
「あれ……あたしなんでおっさんを……」
「いや、うそだよ、あたし……」
ルミさんはその場から消え、気配が遠ざかっていく。
そうか、そういうことか。
とにかく今はサクヤさんを助けないと。
「あ……う…」
まだ息はある。
ヴェノムヒールなら問題なく治せると思う。
が、肝心の魔力が残っていない。
マリアンヌさんのところまで連れて行けばなんとかなるだろうか。
考えている暇はない。
サクヤさんを抱き上げ王宮に向かった。
マリアンヌさんに助けを求めた私は、サクヤさんを預け、王宮魔術士の人達に診てもらっていた。
高位の回復魔術を使える数名は、サクヤさんを囲み魔術を施してくれた。
しかし――
「申し訳ありません。私共では治せません」
王宮魔術士の1人が口を開く。
それに付き添ってくれていたマリアンヌさんが問いかけた。
「どういうことだ?」
「手は尽くしました。しかし、この方の傷は普通の傷ではないんです。傷口に特殊な魔力が内在しています。それが回復魔術を阻害しているので、完治させられません。こんな傷を見るのは初めてですよ」
「……つまりどういうことだ」
「その邪魔な魔力を取り除かなければならないのですが、どう取り除くのかまったく見当がつかないのです」
あの刀の効果なのか、それぐらいあっても不思議ではない。
つまり単純な回復魔術では治癒できない傷と言うことか。
「な、なんとかしろ!勇者様の大切なお連れ様だぞ!?」
「し、しかし、最上級魔術でも治癒できないのでは私共にはどうにも……」
「それでも王国を代表する魔術士か!?」
「そう言われましても……」
私に魔力が残っていても、無駄ってことか。
恐らくそれを取り除けるのは、ルミさんだけだろう。
「一応、回復魔術を掛けている間はなんとか延命できますが……」
「延命ではなく治せ!」
「無茶言わないで下さいよ……」
もう手段は1つしかない。
「その延命は、どれくらい持ちますか」
「あ、えっと、常に術を掛け続けなければならないので、交代で掛け続けて、私共の魔力が切れるまで、持って半日というところでしょうか」
「では朝までと考えてよろしいですか」
「……そうですね、それまでならなんとか」
「わかりました。彼女を宜しくお願いします」
「え!?あ、勇者様!?」
サクヤさんのいる部屋を後にする。
と、マリアンヌさんが後を追ってきた。
「どちらに行かれるおつもりですか!?」
「彼女を助けます、その準備を」
「いったい何があったのですか。とにかく治療を優先しましたが、まだ何もお話を伺っていません……あの切り傷、相当な手練れのものと見えますが」
「……そうですね」
「わ、私に何かお力になれることはないのでしょうか?」
「もう十分なっていますよ。彼女を頼みます」
「勇者様……」
マリアンヌさんには悪いが喋っている時間はない。
朝まで持つ、と言ってもかなりアバウトだ。
私自身、あまり整理できていないというのもあるが。
時間がない。
ただわかったことがある。
ルミさんは……、私の知っているルミさんで間違いない。
あの時ルミさんの目に、少しだけどいつものルミさんの面影があった。
そして感じた違和感、ルミさんの中からルミさん以外の魔力を感じた。
それが原因と見て間違いないだろう。
ルミさんは何かに操られている。
そうだよ、やっぱりルミさんは天使だったんだ。
そんな彼女をあんなふうに、ましてサクヤさんを傷つけさせることになってしまうなんて。
私はなんて役立たずだろうか。
必ず、必ず助けなければ。
ルミさんを助けて、サクヤさんを助ける。
私にはその責任がある。
その為に、今できることをしよう。
次、決着。




