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王国の宴とおっさん


玉座に続く絨毯を歩く。

向けられるのは尊敬と畏怖の視線。

初めてに来た時とはまったく違う雰囲気だ。

あ、シェリルさんもいる。

にこやかに手を振ってきたので軽く会釈を返しておいた。


「陛下、勇者様をお連れ致しました」

「うむ。ご苦労」


小さな女王陛下。

1日警察署長みたいなギャグにしか見えないけど本物だ。


「勇者殿。此度の働き、臣下より伝え聞いてはおるが差異があるやもしれぬ。是非勇者殿の言葉で語って頂きたい。ここにいる皆もそれを望んでおる」


静かに視線が集まる。

やばい、緊張してきた。

落ち着いて、落ち着いて話そう。

ただ起こった事を述べればいいんだ。


「えー……先程王都に襲来した魔族は魔王軍八雷神という幹部の1人、不敗のアルマゼルさんと言う人でした。お話しをしましたが帰っては頂けなかったので、戦うことになり平野にて打ち倒しました」


周りが少しづつガヤつく。


「……以上か?」

「あ、はい。すみません。あまり喋るのは得意じゃないので、何か聞きたいことを質問して頂ければ」

「そうか。皆の者、発言を許す」

「では失礼して」


真っ先に発言したのはあのハゲた髭モジャ小太りのアブラーム大公さんだ。

何を言われるんだ。嫌だ。

大公さんは咳払いを1つして口を開く。


「勇者殿にお尋ねします。今回襲来したあの魔族は、何故この王都にやって来たのでしょうかな」

「アルマゼルさんは勇者の存在を聞きつけて王都にやって来たと言っていました」

「なんと!?では勇者殿があの魔族を呼んだと言うことではないか!」

「え!?あ、はい。そうなるかもしれません」

「なんと嘆かわしい!あの魔族のせいでどれだけの国民が苦しんだことか!」


「そうだ!」「勇者が魔族を呼んだんだ!」「勇者を国から追い出せ!」「美少女を2人も連れやがって」「羨ましいぞこの野郎」「死ねばいいのに」「出て行け!」


二の舞か。

大公さんにとって私は邪魔なんだろうけど、こうも露骨に追い出そうとするとは。苦笑。

でもそろそろやめた方がいいと思います。

マリアンヌさんから魔力が漏れ出しているので。


「アブラーム大公、その辺でやめられては?さもなくば温厚な勇者様に代わって私がお相手致しますよ」

「おやおやマリアンヌ殿。いったいいつから勇者殿の肩を持つように?」

「この国の窮地を救って下さった勇者様を敬ってなにが悪いのでしょうか」

「いやいや、その窮地を招いた人物こそが勇者殿なのですよ」

「勇者様がいなくても魔王の手はいずれここまで伸びていたでしょう。むしろ勇者様が王国に来てくださったことを感謝すべきです」

「ほっほっほ!騎士団の無能を棚に上げてそのようなことを」

「確かに私達の力は遠く及びませんでした。ですが騎士団の力が他の国と比べて特別弱い訳ではありません」

「……なにが言いたいのですかな?」


「事は我が国だけの問題ではないと言うことだな」


女王様がマリアンヌさんを見据える。


「はい陛下。現在魔王軍は大陸各所の国に侵攻しつつあります。そして恐らく、そのほとんどの国が魔王軍の力を侮っているかと。私達騎士団と同じように……」

「帝国も、共和国もか」

「アルマゼルは単独で国を滅ぼせるだけの力を持っていました。魔王軍八雷神……アルマゼルと同格の魔族が少なくともあと7人いるとすれば、それに抗うことのできる国はないでしょう。大陸外ではありますが和の国や竜皇国なら或いは」


マリアンヌさんの話を聞き、貴族の人達は静まり返っている。

大公さんも状況を理解したのかおとなしくしている様だ。

女王様は少し考える様に目をつむり、開けた。


「皆の者、よく聞いてほしい」


「マリアンヌが申したように、事は我が国だけの問題ではない。このまま放っておけば遠くない未来、大陸全土は魔王に支配されるであろう。父も、母も、子も、愛する者全てが混沌の闇に飲まれることになる。それに抗うには、大陸に生きるもの全てが手を取り合うべきだとわらわは思う」


「わらわは、魔王討伐連合軍を結成することをここに宣言する!」


「国も!種族も関係なく!勇者殿の御旗のもとに集い!この世界に光を!」


歓声が沸き起こる。

この場にいる人達全てが女王様の言葉に呑まれた。

これがカリスマと言うやつだろうか。

なんだか勝手に神輿にされているけども、有無も言わさない迫力がある。


確かに、アルマゼルさんがあと7人もいたら到底私1人では勝てる気がしない。

となると、一緒に戦ってくれる仲間を探さないといけないのか。

……ルミさん達大丈夫かな。


「勇者殿、此度の働き、感謝してもしきれませぬ。この国を救って頂いたことを、わらわは生涯忘れることはありませぬ。勇者殿に助けが必要な時は、必ずわらわが力になりましょう」


うん。子供なんだけど、とても心強く感じる。


「この後予定通り宴を執り行うので、宜しくお願いする」


え?やるの?

てっきり中止にするものと思っていたが。

やると言うなら仕方ない。


「わかりました」

「では別室でお待ちになってくだされ。以上だ」


帰り際、少し悔しそうな大公さんの顔が見えた。

大変だなー国っていうのは。















「それでは準備が整いましたらお迎えに上がります」


マリアンヌさんにルミさん達がいる部屋まで案内してもらった。


「ありがとうございます、マリアンヌさん」

「いえ、勇者様のお世話ができて光栄です。では失礼致します」


マリアンヌさんは一礼して去ろうとする、間際。


「その……なにかあればいつでもお申しつけ下さいね」


照れくさそうに去っていく。

思わずドキッとしてしまった。

いやいや、ルミさん達のいる部屋の前でなにやってるんだか。

早く顔を見よう。


ノックをする。

誰もいない廊下に音が響くと中から声がした。


「どうぞ」

「失礼します」


中は豪華な調度品を詰め込んだ様な部屋だった。

恐らくかなり上等な客室なのであろう。

キングサイズのベッドには髪を梳かしたルミさん。

そしてベッドの隣に腰掛けていたサクヤさんが声を上げる。


「ヨシオ様!ご無事をだったんですね!」


私の胸に飛び込んで、柔らかい感触が私を包む。


「大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」

「はい、大丈夫ですよ」

「よかった、ほんとによかったでず~」


泣き出してしまう少女はとても愛らしく、ついつい頭を撫でてしまう。

「ふわあ」と変な声を出すサクヤさん。

可愛すぎる。

は、いかんいかん。

このまま抜け出せないスパイラルに陥るところだった。


「サクヤさんは大丈夫そうですね。ルミさんは?」

「ふえ、あ、ルミさんは幻覚が治まった後から気を失ってしまったようで、それからまだ目覚めていないんです」

「そう……ですか」


ベッドに、ルミさんの傍まで寄る。

まるでどこかのお姫様の様に綺麗だ。

ちゃんと寝息を立てていることに一安心する。

しかし、あの時の恐がり方は尋常ではなかった。

いったい何がそこまで恐ろしかったのだろう。

脳裏にあの時の光景が思い浮かぶと、またアルマゼルさんへの憎悪が沸き上がってきた。

この子をこんな目に遭わせてくれちゃって、アルマゼルさんをボコにした記憶がないのが惜しい。


「ヨシオ様はこれから宴会に参加されるのですよね」

「はい、顔を出さない訳にはいかない様で」

「それはそうですよ!ヨシオ様は英雄なのですから。ルミさんは私が見ているので安心して下さい」

「すみません、お願いしますね」

「はい!そういえばエーリンちゃんは?」

「あれ?謁見の前までは一緒だったんですが」


相変わらずふらっといなくなる。

人様に迷惑を掛けていなければいいが。

まあ多分宴が始まれば匂いに誘われてやってくるだろう。

それからサクヤさんと談笑して過ごした。

サクヤさんと話すのはとても落ち着く。

まるで春の日差しを浴びながら穏やかな公園を散歩するような。

心も体もポカポカする様な感じだ。

一家に1人サクヤさんがいればこの世から戦争はなくなると思うね私は。


ノックの音が聞こえる。

返事をするとマリアンヌさんが来てくれた。


「勇者様、もうじき準備が整いますのでお召し物をお取り替え致します」

「……わかりました。あ、マリアンヌさんも着替えたんですね」


軍服の様ではあるものの、装飾が増している。

化粧もいい感じに濃くなっていた。


「陛下の臣下として、恥ずかしい格好はできませんから」

「そうですか、とてもお似合いですよ。ね?サクヤさん」

「本当にお綺麗ですね」

「ふあ!あ、ありがとうございます!」

「それじゃあ行ってきます」

「はい、行ってらっしゃいませ」


頬を染めたマリアンヌさんに別室に促されると、何人かのメイドさんに囲まれる。


「こちらで勇者様に相応しい物をご用意致しました、気に入って頂けると良いのですが」

「あ、あの、自分で着替えるというのは」

「滅相もない。私は外におりますので、侍女達にお任せ下さい。では宜しく頼むぞ」

「「「畏まりました!」」」

「あちょ、待ってー……」


それからは成すがままと言った状態だった。

ルミさん達には及ばないものの、城に仕えているだけあって美人さん揃いだ。

特になにがある訳でもないがドキマギしてしまった。

神経を擦り減らしたところで着替え終わるとマリアンヌさんが入ってきた。


「これは、よくお似合いでいらっしゃいます」


どこかの王子様が着る様な白をベースにした軍服の様な。

きらびやかな装飾が施してあり、かなり派手だ。

正直似合っているとは思えないが、私はそういうセンスは皆無と言っていい。

マリアンヌさんがいいと言うなら任せる他ない。


「それでは参りましょう。皆勇者様をお待ちです」


うう、胃が痛い。

大体人混みとか、大勢の人がいる場所っていうのは苦手なんだ。

はあ……行きたくない。

会場と思わしき扉まで来る間、ずっとそのようなことを考えていた。


「勇者様のご入場です!」


扉の向こうから声がする。

もう逃げられない。

おっさんは何事もなく終われとただ祈るのだった。


宴。様々な思惑が交錯する。

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