アルマゼルとおっさん(後編)
※今回おっさん視点ではありません。
「エーリン……さん?」
返事はない。
辺りが晴れると、おっさんのいた場所だけが無傷のまま残っており、周りの地面は抉れてしまっていた。
「なんだいまの妖精族は、お前の仲間か?」
「どうやら防ぎきれずに跡形もなくなった様だけど。いや、お前を守ったのだから防ぎきったと言えるのかな?」
「まあ結局結果は変わらないから、無駄死にだけどね」
「可哀想になあ。こんな勇者を守って死ぬだなんて、ぼくは絶対ごめんだね」
「……ちょっとは反応しろよ。泣いたり悔んだりさあ」
「もういいや。今度こそ死になよ」
再びアルマゼルの手に黒い光が灯る。
それは容赦もなく、ただ無慈悲に、佇んでいたおっさんを飲み込んだ。
「さて、帰ろっかな。はあーあんまりおもしろくなかったなー。でもやっちゃったなー。魔王になんて言おう。……やばい怒られる気がしてきた。というか確実に怒られる。どうしよう」
アルマゼルは自分の過ちに気付き、頭を掻き毟る。
「まあいっか、なんとかな――」
その楽観的な言葉は、言い終わる前に遮られた。
殺意に満ちた拳によって。
「ルゴヴァア!!」
顔面を殴られ、小さな体躯は数十メートル吹き飛ばされる。
途中制動し、元いた場所に目を向けるアルマゼル。
「お前、生きて――」
絶命させた筈の勇者がそこにいた。
次の瞬間、目前に現れた勇者の前蹴りで地面を転がることになった。
転がった先、ボールでも受け止めるかの様に足で止められる。
そして仰向けになっていた腹部を、何回も。
何回も何回も何回も。
何回も潰された。
最後に足蹴にされて、またも大きく吹き飛ぶ。
「ガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
受け身も取れず、地に落ちたアルマゼル。
(な、なにが起こっているんだ)
なんとか態勢を立て直し、勇者と対峙する。
(プレッシャーが尋常じゃない!さっきまでとは別人じゃないか!)
「ふざけやがってえ!!」
勇者に突進するアルマゼル。
しかし、その攻撃が当たるよりも早く、顔面を潰される。
「グゲ!!」
冗談の様にまたも吹き飛ぶ。
起き上がるが、ダメージを隠せずふらつく。
そして堰を切ったように吐き出した。
「怒らせたな、ぼくを怒らせたな!許さないぞお前ええええええ!!」
「見せてやるよ、ぼくの力を!!!」
アルマゼルの能力。
それはアルマゼルを魔王たらしめたジョブ。
《恐怖公》
その能力は他者の恐怖という感情を己の魔力に変換するというもの。
そしてその恐怖を効率よく手に入れる為に2つのアクティブスキルがある。
1つは受けた者の恐怖を呼び起こす強力な幻覚を見せる【深淵への誘い】
そしてもう1つ他者の恐怖を具現化する――
「【悪夢の礼法】」
アルマゼルの前に黒い靄が立ち込める。
それはまるで意志を持っているかの様に動き、形作る。
勇者が恐怖した形に。
やがて靄が晴れる。そこには――
ハゲたおっさんが立っていた。
「だれだよ!?」
思わず地面を叩くアルマゼル。
どう見ても人族のおっさんにしか見えない。
しかし、もしかしたら勇者が恐怖する程の実力の持ち主なのではないかと考えを巡らせた。
【悪夢の礼法】は具現化した者の操作が可能である。
加えて対象の恐怖の大きさに伴い、実物以上の力を発揮できた。
が、その考えは勇者の理不尽な顔面パンチによって文字通り一瞬で掻き消される。
殴られたハゲおっさんは跡形もなく四散した。
そしてハゲおっさんを殴ったついでと言わんばかりの、しかし魔王さえも殺せそうな蹴りを見舞われて地表すれすれを飛んだあと転がった。
もうアルマゼルに勇者の動きは見えていなかった。
「ぼくは……不敗のアルマゼル……」
「『不敗』なんだ……」
「お前みたいなおっさんに、負ける訳がないんだああ!!!」
激昂。
辺りに衝撃が襲う。
アルマゼルはその名の通り『不敗』。
その矜持が、勇者と言えどみすぼらしいおっさんに負けることを許さなかった。
アルマゼルを中心に陣が展開される。
辺り一帯から魔力を吸収する様に、赤い光の粒が陣に落ちていく。
やがて陣を通じ、アルマゼルに魔力が供給された。
自身の莫大な魔力に加え、両手翳す。
「消えてなくなれええええええええ!!!」
「【世界を屠る赤き咆哮】!!!」
それはありとあらゆるものを無に還す赤き咆哮。
《魔王》のみが使える、アルマゼルにとって最大火力の技であった。
「【世界を別つ青き閃光】」
勇者の2本指の先から放出された閃光が咆哮に相対する。
しばしせめぎ合う光。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
「……」
咆哮が閃光を飲み干さんとするものの、閃光は一向に衰えない。
むしろ勢いは静かに増していった。
「な!?」
やがて、咆哮を飲み込み始めた。
「そ、そんなバカな」
「なんだよ……」
「なんなんだよお前はぁ!?」
誰が応えることもなく、閃光はアルマゼルに達した。
「ウヴァアアアアアアアアア!!」
咆哮は掻き消され、閃光が貫いた。
勇者は2本指を天に向けると、閃光は呼応するように天に向かって、消えた。
その光を見届け、勇者は力無く地に伏した。
勇者なのか。おっさんなのか。




