表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/108

アルマゼルとおっさん(前編)

体調不良によりペースが遅くなり申し訳ありません。

気長に待って頂ければ幸いです。

ひゃっほい。

「お前さあ、こんな簡単なこともできないならさ、なんで会社にいるの?」


「新人だってもうちょっとマシな仕事するよ」


「いい加減お前の尻拭いするのは嫌なんだよ」


「部長にくどくど言われる俺の身にもなれよ」


「聞いてんのか!?」




「はい。申し訳ありません」





課長のデスクの前に立って頭を下げる。


45歳。


家族も既になく、守るモノも、愛するモノもない。


漫然と、惰性で、怠惰に、日々を過ごしてきた。


空っぽの人生。


どうしてこうなったのか。


誰も答えてはくれない。


しかし問いかけられる。


課長に、同僚に、新人に、他人に、米の一粒にさえ。



「なんで生きてんの?」








































「ヨシオ様!」


「……サクヤ……さん」


景色が変わると、そこは阿鼻叫喚。

周りにいた人達――いや、街全体からこみ上げる悲鳴。


「ヨシオ様はもう大丈夫みたいですね」

「これは、いったい」

「どうやらみんな幻覚を見せられているみたいです」

「幻覚……ですか」


さっきのアレのことだろうか。

……なんで課長?

しかし泣き叫んでいる人達を見る限り、穏やかな幻覚でないのは確かだ。


「サクヤさんは大丈夫だったんですか?」

「防衛術には自信がありますから、でもルミさんが……」


視線を流した先。

近くでうずくまって頭を抱えている見慣れたピンクのポンポン頭。


「ルミさん!」


駆け寄り顔を見ると、眼の焦点があっておらず青ざめていた。


「ママ……パパ……恐いよ……おいて行かないでよぉ……」


いつものルミさんからは想像もつかない程弱りきった声。


「まだ幻覚が解けていないんです」

「……なんとかならないのでしょうか」

「巫術で幻覚を解けないか試しているんですけど、難しくて。掛かり方にも個人差があるようで、ルミさんはかなり重いみたいです」

「そうですか……」


試しに『リライフ』を掛けてみたけど効果はないみたいだ。

まったく、私の天使になんてことするんだ。

いや私のじゃないけど。

これは許容できないよ。

なぜか課長には怒られるし。


「サクヤさん。ルミさんをお願いしてもいいですか。ちょっと行ってきます」

「ど、どこへ行くんですか?」

「多分あそこにいる人のせいでしょうから、やめてもらってきます」

「で、でもすごい魔力ですよ!さっきからどんどん強くなってる気がしますし」

「そうみたいですね。でもまあ、このままって訳にもいきませんから。案外お話しすれば帰ってくれるかもしれません」

「それはないと思います!」

「大丈夫ですよ、ちょっとだけです。あくまで平和的に、平和的に……ね」

「……わかりました。でも絶対戻ってきて下さいね」

「ええ。もちろん」


ルミさんにはサクヤさんがついていてくれれば大丈夫だろう。

建物の屋根に上り確認すると、あの怪物も大きな建物の屋根に乗ってくつろいでいた。

この状況を楽しんでいらっしゃるようで、もうあなたが犯人です。


「そうですよね?」

「はあ?なんだお前」


青髪の少年。

どうやら彼が犯人の様だ。

もっと恐い人かと思ったけど、ずいぶん小さいし本当に子供だ。

でも近くで見ると、すごいです。

魔力ダダ漏れじゃないですか。

怪物がかわいく見えてくるよ。


「おい、おっさん。ぼくになにか用なの」

「用って言うか。心当たりありますよね」

「え、なにその遠まわし」

「ありますよね」

「この状況のこと言ってるんでしょ?そりゃあるよ、ぼくがやったんだもん」

「やめてもらえませんか」

「やだよ。ていうかおっさん誰だよ」

「勇者です。一応」

「……ぼくの幻覚でおかしくなっちゃったかな。なんだかごめんね」

「おっさんですけど、真剣です」

「いやいや、まだそっちの女の方が信憑性あるよ」


振り返るとそこにいたのはマリアンヌさんだった。

なんと言うか、やる気まんまんって感じのオーラが出ている。


「来ていたのですね勇者様。ですが、ここは控えて頂きますよ」

「それは、マリアンヌさんが?」

「ええ。貴方がいなくてもこの国は守れますから」


本当に嫌われたものだ。

そんなに邪険にしなくてもいいと思うけどな。

仮にも戦争してるんだから。

まるで私が魔族のようじゃないか。

私をこき使おうとする人よりかはましなのかもしれないが。


「話はまとまったかい?退屈してきたしさ、やるならやろうよ。どっちがやる?まとめてでもいいよ」

「私だ」


マリアンヌさんが胸を張り、盛大に揺れる。

くそう。そんな場合じゃないのに。

これが童貞の悲しい性ってやつか。


「ふーん。誰?」

「ラクロア王国四方聖、北方のマリアンヌ」

「あー!なんか聞いたことある!そっかそっか。お前がそれかー。ハハハハ!」


情緒不安定なのだろうか。

急にハイトーンになったり表情が変わる。

少し不気味だ。


「なにが可笑しい」

「いやー。だってさー、お前たちこの国の要なんでしょ?それがこんなよわっちそうなやつとは思わなくてさ。おかしいでしょ?」

「……魔族と言うのは頭が足りないらしいな」

「あん?」

「確かに、お前は私より強いのだろう」

「そりゃそうでしょ」

「あくまで単独ではな」

「はあ?」

「ここをどこだと思ってる」





「ここは王都」





「この国の中心」





「魔族が上がりこんで」





「生きて帰れると思うな」





突如、上空に魔法陣が出現する。

街を覆う程の大きな陣を中心に、複数の魔法陣が展開された。

と同時に少年の傍に立っていた怪物が膝をついた。

マリアンヌさんが不敵に笑う。


「……なんだよこれ」

「私達がなんの対策もしていないと思ったか」

「……」

八式対魔族多重結界はちしきたいまぞくたじゅうけっかい。魔族様の魔力にのみ反応する結界だ。ランクSの魔獣ですら身動き一つ取れなくなる」


「つまりお前は終わりだ」


んー、ものすごい蚊帳の外感。

これほんとに勇者いらないのかもしれないね。



















「バルログ」


少年が声を発するのと同時に、片膝をついていた怪物が突進した。


「!?」


標的にされたマリアンヌさんは乳を揺らしながら後方に回避する。

怪物は大きな拳を振り下ろし、屋根に大穴を開けた。

少年は大げさに首を傾げて言った。


「ランクSが、なんだって?」

「……」

「お前たち人族の小さな物差しでさー、ぼくらを測ろうなんてどうかしてるよね」


「ぼくは手を出さないからさ、バルログを倒せたら相手をしてあげるよ」


「せいぜい頑張ってね」


対峙する怪物――バルログと呼ばれた魔獣から禍々しい魔力が溢れる。

マリアンヌさんの額に汗が滲んだ。


























「はあっはあっ、っはあっ」


肩で息をするマリアンヌさん。

服もセクシーさがマシマシになってしまった。

まったくけしからん。


「強いですね。バルログさんでしたっけ」

「そうだよ。魔大陸のとある山奥に住んでる魔獣さ。個体によって差はあるけど最低でもランクAの魔獣だよ」

「それはすごいですね。ちなみにあのバルログさんは?」

「SSは固いだろうね。制限を受けてなきゃあの女が闘える相手じゃないよ」


依然上空には魔法陣がある。

あの魔獣はその効果を受けている……筈。

にも拘わらず、マリアンヌさんはじわじわと圧されていった。


「そうですかー」

「にしてこれうめえな!ほんとにボアバーキの肉なのか?」

「お気に召しましたか?」

「ああ!いつだったか食った王竜王おうりゅうおうの肉には負けるけど、うめえよ!」

「まだありますけど、どうですか?」

「くれ!」


奮闘するマリアンヌさんを横目に、少年に肉を差し出す。

なかなか話しやすい少年じゃないか。

いまだに響いている悲鳴の中で平然と食事をしていなければお友達になれそうなんだけどな。


「アルマゼルさん……でいいんですよね」

「ああ」

「魔王軍の偉い人なんですか?」

「魔王の次に偉いかな」

「すごいですね」

「ぼくのほかに7人いるけどね」

「それで今日は何をしに来たんですか?」

「勇者が現れたって聞いたから、どんな奴か見に来たんだよ」

「ご感想は」

「最初は嘘だと思ったけど、マジなんだねおっさん」


少年から溢れ出す魔力を浴びるとなんだか気分が悪くなってしまうので、仕方なく私も魔力を出して流れを遮っていた。

見える人が見れば、私と少年のオーラがせめぎあっている様に見えるだろう。


「見終わりましたらお引取り頂けるのでしょうか」

「そのつもりだったんだけどねー……」

「あ、滞在されても結構なんですが、とりあえずあの幻覚みたいなのをやめて貰えませんか」

「えーやだよー。恐怖はぼくの大事な収入源だし。それに――」


「こんなおもしろいことやめられないだろ?」


んーやっぱりお友達にはなれそうにないな。


「あ゛!?」


鈍い音が聞こえたと思ったらマリアンヌさんの片腕があらぬ方向に曲がっている。

残った腕でなんとか剣を向けているが。

満身創痍。いよいよ限界みたいだ。

そんな彼女に容赦のない暴力が襲う。

当たればおよそ絶命するであろう拳。



「まあ、止めますけどね」



なかなか強烈な一撃だ。

受け止めた左手がちょっと痺れる。

しかし攻撃を止められたからか、後退するバルログさん。


「……なんのつもりだ。誰も助けて欲しいとは言ってない」


興奮してるのか言葉遣いが荒くなってる。

しかし相当辛いだろうに気丈な人だ。


「私が勝手にやったことですから気にしないで下さい」

「ふざけるな、余計な世話だ」

「でも、貴女が死ねば女王様は悲しむと思いますよ」

「っ……」

「ご不満かもしれませんが、ここは女王様のことを考えて私に任せてもらえませんか?」

「……お前なら勝てると言うのか」

「この魔獣には」


正直、アルマゼルさんには勝てるかわからない。

多分いままでで一番強い。

少なくとも魔力は。


「……くっ」


私に任せるのが不満なのか葛藤している。

プライドがあるのだろうけど、命よりは安いと思う。

この世界の人はそうではないのかもしれないな。

そういう世界で生きてこなかった私には理解できない。


「……たの……みます」


歯がゆそうだが、とりあえず了承はもらえた。


「ありがとうございます。では後は私がっとその前に『ヴェノムヒール』」

「な!?」


傷も骨折も回復する。

何か言いたげな顔をしたけど、それは後にしてもらおう。

マリアンヌさんを立てて黙ってはいたけど、正直女性が痛めつけられるシーンを見せられて気持ちが悪い。

バルログさんには一刻も早くお仕置きしないと私の精神衛生上よくないから。


「もの凄く痛いですけど我慢してくださいね」




アルマゼル。

RPGなら序盤に出てきていい人ではない。

なお結界名は某カードゲームの愛用していたのカードより。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ