練習台とおっさん
『蟲王葬大槍』 種別:槍 ランクS
蟲王ザルバが愛用していた槍。突く度に呪いを撒き散らし、相手を狂わせる。
こいつを倒すのは恐らく素手でもいけるだろう。
しかし、これから素手では難しい相手が現れないとも限らない。
私は武器を扱うのに抵抗がある。
相手を必要以上に傷つける物は極力使いたくないのだ。
だがいざと言う時に使えないのであれば宝の持ち腐れだ。
なので、スパイダーなんとかさんには練習台になってもらう。
私のパーティメンバーをとろとろのぬちょぬちょのぬめぬめにした。
よくやった。
と誉めてやりたいところだが、彼女達に危害を加えた罪は重い。
「覚悟して下さいね」
相手の姿は見えないが、一度認識してしまえばなんとなくわかる。
向こうも完全にやる気みたいだし、遠慮はいらないよね。
勇者の経験を贅沢に使った一突き。
まるで私自身が槍になった様な感覚を覚える。
しかしその一撃は音を立てて中空で止まる。
なにか硬い物に阻まれた感触が伝わった。
と同時に目の前の草木が揺れ、それは数十メートル先まで波及した。
気配が随分遠ざかってしまった。
どうやら今の一撃で吹き飛ばしてしまったらしい。
ルミさん達を巻き込む訳にも行かないので好都合か。
「ちょっと行ってきますので、待ってて下さい」
「えー!?おいて行くんですか!?」
「まあまあエーリン。ここはおっさんに任せようよ☆」
「ヨシオ様、お気をつけて」
「結界だけ張っていきますね。『ウィンドウォール』」
風の結界をルミさん達の周りに張る。
これでしばらくは問題ないだろう。
気配のする方へ歩いていく。
いくらか歩くと、変な生き物がいた。
所々透明化が解除されており、実体が見えている。
「クロロロロ」
鳴き声を漏らす。苦しんでいるのだろうか。
やがて透明化は全てなくなり、実体を現した。
その姿は蜘蛛の足を生やしたカメレオンとでも言えばいいのか。
8本足の爬虫類。なんとも奇妙な姿だった。
全長は5メートルくらいあるのでは。
大きな目玉はギョロギョロと落ち着かない。
んーあんまり可愛くない。
やっぱりテイムの線はないな。
それにしても、透明化が解除されたのは槍の効果だろうか。
ダメージを与えたからなのかイマイチよくわからない。
なかなか検証も難しい。
観察している内に、再度準備が整った様だ。
大きく口をあけると先程見た紫の触手が飛び出る。
ああ、舌だったのね。
そこから粘液が飛んでくる。
その全てを槍で落とした。
槍に粘液が付かないのは槍の性能か。
粘液を打ち落とし続けると、スパイダーなんとかさんが動き出す。
木々に飛び移りながら、四方八方からの粘液弾。
その巨体には似つかわしくない速さで移動している。
蜘蛛って意外と足が速いし、こんなものだろうか。
槍を、体を振り回し、粘液弾を捌く。
しばらく捌き続けていると、無駄と悟ったのか次の行動に出る。
飛び掛ってきた巨体を躱す。
するとその巨体は尻尾を軸に2本足で立ち上がった。
縦になるとほんとにでかいな。
次の瞬間、余っている6本の足から繰り出される刺突。
足の先は鋭利な爪になっている様だ。
棘みたいなのも生えてるし当たったら痛そう。
なのでこれも捌く。
金属がぶつかり合うような音が絶え間なく続いた。
「クロロロロ」
何だろう。なにか焦っている様に見える。
この槍の呪いが効いているのだろうか。
足とは言え随分打ち合っているからな。
大分馴染んできたし、そろそろ終わらせてあげよう。
【雷神槍】
最初の一撃とは違いスキルを使った突きを放つ。
対するなんとかさんは危機を察知したのか、6本の足を爪を束ねて防御する。
硬い感触。
先程もこれで防御していたようだ。
だが先程とは違い、その防御は意味をなさなかった。
足を吹き飛ばし、巨体を貫く。
槍よりも大きな風穴を空けられ、悲鳴をあげた。
「グロッロロロロ!」
前のめりに倒れる。
魔力が薄れるのを確認して、死体をインベントリにしまった。
ちょっと物足りなかった気もするけど、なかなかいい経験ができた。
ありがとうなんとかさん。
さて、天使さん達のところに戻るとしよう。
「あ!ヨシオ様!」
「結構早かったね☆」
「お待たせしました。大丈夫でしたか」
「大丈夫だよ。いろいろきわどいけど」
「そ、そうですね。ちょっと恥ずかしいです」
サクヤさんが頬を赤らめてもじもじしている。
もがいたせいなのか、ルミさんはホットパンツが食い込み、サクヤさんはスカート裾が。
……助けよう。
しかしこれ、どうやって取ればいいんだろうか。
水で洗い流せばいいのかな。
とりあえず試してみるしかないか。
「アクア――」
「おっさん!後ろ!」
ギャルの声がビトーの森に響き渡った。
あっけな死。南無。とうびーこんてぃにゅー。




