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朝チュンとおっさん

日差しが眩しい。

木で作られている窓の隙間からの暖かい光。

鳥たちの鳴き声がさわやかさをかもし出す。


「んんっ」


ん?

左耳が幸せだぞ?なんだ?

いい匂いもするし。

眼鏡を掛けて見つめる。

隣には小さな寝息を立てて縮こまっているサクヤさんが居た。

なんだ天使か。

















「とろわっ!!」


窓から向かいの建物を三角蹴りして屋根まで上った。

勇者の力の無駄使い。

だが助かった。

なんで私があんなことに。ホワイ。

朝からいい汗かいてしまったではないか。


「なにしてんだそんな所で?」


下から声がする。

そこにはスキンヘッドが眩しいゴングさんがいた。

なにやらお仕事中だったようだ。


「は、ははは。いい朝ですね」

「いたって普通の朝だよ」

「そうですよね。はは。じゃあ私はこれで」

「おーい。カイルの家にはいつ行くんだ?」

「あ、すぐ準備しますから。下で待っててもらえますか」

「わかった。別に急いでないからな」

「ありがとうございます」


店の中に入って行くゴングさん。

完全におかしな奴だと思われただろう。

……戻ろう。


窓から部屋に戻る。

よかった。窓は壊れていないみたいだ。

さて、じゃあこの天使ちゃんを起こすとしよう。


「サクヤさん、サクヤさん」


軽く肩を揺すってやる。


「んんっ……あ、おはようございまふゆうしゃはまぁ」

「おはようござ――いっ!?」


寝巻きと思われる白い肌襦袢。

だいぶ薄い、肌色が見えている。

そして肌蹴ている。

そこから覗く乳房。

の先が見え――そうになる前に自ら両眼を潰した。


「ああああああああああああああああああ!!!」

「ヨシオ様!?」


膝を着いて絶叫する私に駆け寄ってくれたようで、目は見えないが肩に温もりを感じる。


「ヨシオ様!?大丈夫ですか!?」

「だ、大丈夫です。心配なさらず」

「目からすごい血が出てますよ!?」

「これはあれです。目にゴミが入っただけです。それよりサクヤさんはなぜここに?」

「昨日ヨシオ様が眠られた後、なにかあってはいけないと思ってしばらく様子を見ていたんですけど……私も眠くなってしまって……つい、えへへ」

「そうですか、とりあえず部屋に戻って着替えてきてもらえませんか?」

「え、でも……」

「私なら大丈夫ですので、どうぞ」

「でもでも……」

「どうぞ!!」

「ひゃい!」


半ば強引に出て行ってもらう。

出て行ってもらわなければ目が治せない。

治してもすぐ潰す羽目になるからね。あの格好じゃ。


特級回復魔術『ヴェノムヒール』


おお、目が見えるようになった。

すごいな。部位の欠損も治せるのか。

そりゃ医学が進歩しない訳だ。

でもこれでカイルくんのお母様の件もだいぶ希望が生まれた。

さて私も着替えるとしよう。

……いつの間にか寝巻きに着替えているけど。

まさかあの2人が着せてくれたのか?全部?

ああー、もうお婿に行けない。

というかあれだけ絶叫したのにまだ寝てるのかエーリンさんは。

この人の寝顔も可愛げはあるんですけど、枕元を涎でべちゃべちゃにするのは勘弁して欲しい。

――血涙を流して血溜まりを作った私が言うべきではない、か。

……着替えよう。
















「お待たせしました」


カウンターにゴングさんとカイルくんがいる。

どうやらちょうど一休みしていたところのようだ。


「おう。じゃあカイル、店番頼むぞ」

「あいよー」


ゴングさんと店を出て路地を歩く。


「すまんが、カイルには後で礼を言わせるからな」


会話もなく歩き続けていた中でゴングさんが呟いた。

どうやらカイルくんにはこのことを知らせてないようだ。

変に期待をさせない為だろうか。

しかしそれは、他ならぬゴングさん自身が淡い期待を寄せているということだ。

できれば応えてあげたいものだ。


しばらくしてアパートらしき建物の一室に着いた。

ゴングさんが合鍵で中に入れてくれる。


「カシア、邪魔するぞ」


カシア。お母様の名前だ。

ベッドには上半身だけ起こしている女性がいた。

どことなくカイルくんと似ている。

若いな。やつれているせいか多少老けて見えるが、20代なのは間違いないだろう。


「どうしたのゴング。その人は?」

「魔術士だ。今日だけだが特別に診てくれる」

「……そう。ゴング、前にも言ったけど、無理はしてないのよね」

「こいつはちょっと知り合いでな。金は払ってねえよ。な?」


目力がすごいですゴングさん。

魔術士に診てもらうのはそれなりにお金が掛かるらしいし、カシアさんはそれを心配しているようだ。


「ええ、ゴングさんにはお世話になっていまして、カシアさんのお話を伺ったのでお力になれたらと」

「それは、どうもありがとうございます」

「いえいえ、ではさっそく治療に当たらせてもらいますね」

「頼む」


ゴングさんに目をやると頷いた。

真剣な眼差しが突き刺さる。

やりますよ。

と言っても、魔術を使うだけなんだけどね。

回復魔術には体力を回復するものと状態異常を回復するものとあるようだ。

毒なんかは状態異常に当たるらしいので、病気なんかもそっち側かな。

今朝使った『ヴェノムヒール』は特級の体力回復魔術だ。

これから使うのは特級の状態回復魔術。


『リライフ』


カシアさんの体が青い光に包まれる。

おお、なんか神々しいな。

これは期待できそうだ。

やがて発光が収まる。

どうだろうか?


「なんだ今の光は!?大丈夫かカシア!?」


どうやら中級や上級の回復魔術では今の様にならないらしい。

ゴングさんがカシアさんに駆け寄り手を取る。


「ゴング」

「どうした?気分が悪いか!?」

「ううん。むしろ気持ちいいわ」

「なに!?」

「胸に中にあった詰め物が取れたみたい」

「ほ、ほんとうか!?いい方向か?いい方向なんだな?」

「いい方向よ、とっても」

「どうやらうまくいったみたいですね。念の為体力回復の魔術も掛けておきましょう」


効果があるかはわからないが『ヴェノムヒール』を掛ける。

掛け終わると随分顔色がよくなっていた。


「体が軽くなったわ!なにこれ信じられない!見てゴング!」

「おお!わかった!わかったから飛び跳ねるな!」


ベッドの上でジャンプするカシアさん。

余程の変化があったのだろう。

少女の様に落ち着きがないが、ずっとベッドに縛られていればそうなるのかな。


「大丈夫な様ですね」


はしゃぐカシアさんと慌てふためくゴングさん。

2人共いい大人なのが見ていて微笑ましいな。


カシアさんがベッドから飛び降りたと思ったら私の所にまで走って抱き着いてきた。


「ありがとう!あなたとっても素晴らしいわ!」

「おっっふ!?は、離れて下さい!早く!」

「ほんとにありがとう!もう治らないと思っていたの!」


聞こえていない様だ。

でもね、当たってるんですよ。奥さん。

死にますよ。私が。


「カシア!はしたないぞ、離れろ!」

「ゴング!あなたもありがとう!ほんとに嬉しいわ!」

「お、おう」


今度はゴングさん抱き着く。

助かった。

はしたないとか言っていたゴングさん。

満更でもない様子。

茹でたタコのようだ。

しかし先程まではおとなしいイメージだったけど随分はつらつとした人だ。

病気のせい落ち込んでいたのだろう。


「と、とにかくよくなったみたいで何よりだが、油断は禁物だぞ」

「そうね!ああ、早くカイルにも教えてあげたいわ!」

「カイルには俺から伝えておくから、お前はおとなしくしてろ」

「待ってるわ!」

「お、おい、行こう」

「あ、はい」


カシアさんを引っぺがすと私と共に外に出た。

外に出たところで大きな安堵の息を漏らしたゴングさん。

それから私に向き直って深く礼をした。


「ありがとう。あんたは命の恩人だ」


ゴングさん。声が震えている。


「もうだめかと思った。このまま助からないかもしれないと思っていた。あんなあいつを見たのはいつ以来かわからん。あんたのおかげだ。本当にありがとう」


眩しいスキンヘッドの下で滴が垂れた気がした。


「顔を上げてもらえませんか。私を動かしたのはゴングさんですよ」

「上がらねえ。上げられねえ。あんたは俺にはできなかったことをしてくれたんだ」

「言ったでしょう?治せるかはわからないと。今回は運がよかっただけですよ。実際ちゃんと治っているかもわかりません」

「それでも、それでもだ。俺はあんたに感謝してる。俺はこの恩にどう報いればいい?俺にできることならなんだってする」


ん?今なんでもって――いや馬鹿か。

そういう場面シーンじゃないだろ。


「それはカシアさんとカイルくんにしてあげて下さい。あなたのできることを」

「しかしそれじゃあ俺の気が」

「大事なのは2人を幸せにしてあげること、ですよ。私にはその言葉だけで十分です」

「……あんたは随分人がいい。いや、いい人なんだな」


ようやく顔を上げてくれた。

さっきのは見間違いではなかったようだ。


「わかった。でもなにかあったら必ずあんたの力になる。頼ってくれ」

「その時は宜しくお願いしますね」

「それとこれからはスズキ様と呼ばせてもらおう」

「それはやめて下さい」


この人にそんなふうに呼ばれたらなんだか居心地が悪い。


とはいえ、一件落着なのかな。

カイルくんも喜んでくれるといいな。




肌襦袢に水をぶっかけたい。今日この頃。

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