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ゴングとおっさん

いったいどれだけの肉を焼いただろうか。

手元の時計を見やると時間は21時を回っていたいた。

食堂に残っているのは満身創痍の5人と転がっていた豚さんが1人。


「みなさん。お疲れ様でした」

「お……お疲れ様です」

「おつかれー……」

「おう……」

「……」

「みなさんおつかれですねーうぇっぷ」


テーブルに突っ伏したり椅子にうなだれたり、みんな相当に疲れたようだ。

結局何百人かの客をさばく事になったのだから無理もない。

ボアバーキの肉も肩ロースだけでは到底賄えなず、他の部位もほとんど食べつくされてしまった。

厨房にあった肉も使ってなんとか間に合ったというくらいだ。

途中配膳をしていたルミさんのお尻を撫でたという不届き者がいたが、無事ルミさんに半殺しにされてからはセクハラする者はいなくなった。

尚その不届き者はガガ焼きを食べて回復に向かっているそうだ。

めでたしめでたし。


みなさんは動けなさそうなので厨房で後片付けをする。

といってもサクヤさんが大分手伝ってくれたので後少しだ。

そこで厨房に入ってくるマッチョマン。


「おいおい。あんたも疲れてるだろう。そのもやしみたいな体のどこにそんな体力があるんだ?」

「疲れてはいますけど、楽しかったので。案外平気ですよ」

「後片付けなんて俺がやる。あんたには無理を言って悪かったな」

「いえいえ、では一緒にやりましょう。2人でやればすぐですよ」

「悪いな」


マッチョマンともやしのタッグで厨房を片付けていく。

マッチョマンが1人増えただけで狭いな。


「そーいやまだ俺の名前を言ってなかったな」

「そういえば存じ上げていませんでした」

「俺の名前はゴングだ。あんたには世話になったからな、いずれ借りは返すぞ」


ゴング。めっちゃ強そうだ。

プロレスラーか。


「借りなんて。私もいい経験をさせてもらいましたから」

「そういう訳にもいかん。それにあんたの料理のおかげで他の料理や酒もよく売れた。今日は過去最高の売り上げだぜ」

「売り上げ……そういえばガガ焼きの売り上げは半分づつでいいですか?」

「……なにを言ってる。あの料理の売り上げはあんたが全部持って行っていい」

「そういう訳には。厨房を貸して頂きましたし、カイルくんにも手伝ってもらったでしょう」

「厨房の件は俺に料理を振舞ってくれたのだからチャラだ。それに俺が無理にやらせたことだろう」

「ですが私1人では到底さばけない数でした。ゴングさんとカイルくんがいたからできたことですよ」

「それにしても半分はもらい過ぎだ。いくらになると思ってる。食材もほとんどあんたの物だろう」

「あの肉は私が狩った物ですから材料費はほとんどかかってないんですよ」

「……あんたが狩ったのか?ボアバーキを?」


やば、黙ってた方がよかったか。

ついすべらしてしまった。納得してもらうしかないか。


「こう見えて、冒険者なんですよ」

「……あんた冒険者だったのか」


なぜか少し雰囲気が悪くなる。

なにか悪いことでも言ってしまっただろうか。


「とても冒険者には見えねえがな」

「よく言われます」

「あんた程の料理の腕があれば飯屋で食っていけるだろ?なんで冒険者なんかしてる」

「見聞を広めようと思いまして」

「変わったやつだな」

「よく言われます」

「……悪いことは言わねえ。冒険者なんてやめな」


いきなりのやめろ発言。

そりゃ向いてないとは思いますけど。

そういうのとはちょっと違う感じだ。

少し悲しそうだから。


「なぜですか?」

「……俺も昔は冒険者をやっていたんだ」

「とてもお似合いですね」

「まあ馬鹿力しか取り柄もなかったしな。……実のところ、俺はカイルの父親じゃねえんだ」


え、どういうこと。

なにか昼ドラみたいな展開になるのか?


「カイルの父親とは冒険者仲間でな。一緒にパーティを組んでた。だからあいつのことは小さい頃から知っている。それで父親は冒険者だったんだが、母親はこの店で宿屋を開いていたわけだ。母親は器量がよくて頭も回る。宿屋はそこそこ繁盛してた。冒険者の稼ぎもあって順風満帆ってな」


そういえば、カイルくんのお母さんは一度も見ていない。

これは訳ありの匂いがぷんぷんする。


「俺もよくここに泊まったよ。そんでカイルとはよく遊んでやった。そうやってあいつは幸せに生きていくはずだったんだ」

「なにかあったんですね」

「……ある護衛任務の途中だった。魔獣の群れに囲まれてな。それでもなんとかさばける数だったんだ。でもおっかなくなった依頼主が俺達をおとりに逃げ出そうとしやがった」


ゴングさんの厳つい顔が一層厳つくなる。


「そのせいで陣形が崩れた。そのまま立て直せずパーティは総崩れ。俺はこの体のおかげでなんとか生き残れた。いや、生き残ってしまった。なんであいつじゃなくて俺なんだ。俺には守るべきものなんて何もなかったのにな」


今度はまた悲しそうな顔をする。

掛ける言葉がない。


「それでもあいつは気丈に振舞ってた。自分がカイルを食わせなきゃなって。冒険者の嫁になるってことはどういうことか覚悟はしてたんだろ。強い女だ。でもそんな覚悟を踏みにじるようにあいつは病を患っちまった」


あーこれは予想できた。その奥さんの代わりにゴングさんが宿屋を切り盛りしているという訳か。

自分は冒険者を辞めて。


「いまそのお母様はどこに?」

「いまはカイルの家にいる。あまり動くことはできなくてな」

「失礼ですが、どんな病を?」

「それがわからんのだ。医者に診せてもお手上げと言われた。今は回復魔術を定期的に掛けてもらっている状態だが、それでも年々悪化している」


この世界は回復魔術のおかげで医学はあまり進歩していないようだし。

日本でも結核なんかは結構最近まで不治の病と言われていたしな。

この世界では仕方ないことなのか。


「治す方法はないのですか?」

「最上級……いや、特級回復魔術なら或いは。だがそんな魔術士を呼ぶのは莫大な金がかかる。なんとか金をかき集めているところだが、とても足りない。それまであいつが持つか怪しいところだ」


ガハハと笑うゴングさん。

先程までの空気を吹き飛ばすかのような笑いだ。ちょっとびびってしまった。


「俺はなんだってこんな話をしてるんだか。なんだかあんたにはついつい口走ってしまうな」


すみません。それ多分『カリスマ』の効果です。

しかし、聞いてみるとなんとかできそうな流れだ。

魔術で治せるなら、ね。


「ゴングさん。カイルくんのお母様に会わせて頂くことはできませんか?」

「ん?なぜだ。見舞いでもしてくれるのか?」

「期待しないで頂きたいのですが、私には魔術の心得がありますので」

「……そういえば料理中も魔術を使っていたな。回復魔術も使えるのか?」

「ある程度は」

「いつもは中級の回復魔術士に見てもらってるんだが、あんたは?」


なんと答えるべきか。

習得している魔術は全て最高位の特級までなっている。もちろん回復魔術も。

しかしそれをここで答えても信じてはもらえないだろうし、信じてもらえたらもらえたで色々と面倒だ。

ここは1つ上の上級をマスターしているということにでもしておこう。


「上級です」

「上級か……一応過去に上級の魔術士には見てもらったことはあるんだが、駄目だった」

「そうなんですか。まあお金は頂きませんし、駄目元でどうですか」

「それは助かるな。中級魔術士を呼ぶのもそれなりの金がかかるからな。それにしても厨士で魔術士でもあるとは随分多芸なんだな、見かけによらず」

「ええ、まあ」


適当にお茶を濁す。

すみません。ほんとのこと言えなくて。


「じゃあ明日の午前中にでもいいですか?後ガガ焼きの売り上げは半分づつと言うことで」

「ほんとにいいのか?こっちとしちゃありがたい話しだが」

「構いませんよ」

「そうか。なら甘えさせてもらう。明日までに売上金は計算しておくからな」


片づけも終わり、食堂に戻る。


「おっさんおつかれー☆こっちも終わったところだよ」


どうやらルミさん達は食堂の掃除をしていたらしい。

よく働くいい娘や。

健康的な汗が滴って……すごくえっちぃです。


「あっつー。これはお風呂行かないと眠れないよ。まだ湯屋開いてるっしょ、サクヤ一緒に行こうよ☆」

「いいですね。私もちょうど汗を流したいと思っていたんです~」

「あー!私も行きたいですー!」

「ユヤ?もしかしてお風呂屋さんのことですか」

「お風呂屋さんって(笑)そうだよ☆国が運営してるところだから安心だよ」


お風呂があるのか。

それは嬉しいな。水浴びしないで済む。

やっぱり日本人ならお風呂はかかせないよ。


「おっさんも行く?」

「是非」

「じゃあみんなで行こっか☆」

「カイルくんも行くかい?」

「行きます!!……と言いたいところですけど、俺はまだ親父の手伝いをするんで、大丈夫っす」

「いいのかい?」

「は…い…。みなさんで行ってきてください」


少年、唇噛み過ぎて血が出てるぞ。

そんなにか、そんなになのか。


「ほらほら急がないと閉まっちゃうよ☆」

「なにか必要な物はありますか?」

「着替えとタオルがあればいいよ☆」

「わかりました」


念の為インベントリを開き、商店街で買った寝間着を確認する。

スーツのまま寝るのもなんだしね。


移動中、湯屋について聞いてみた。

どうやらこの世界でお風呂は中々に贅沢な物らしく、自分の家にお風呂があるのは貴族や羽振りのいい商人くらいなものだそうだ。

水を出したりお湯を沸かしたりするのに高価な魔道具使っているかららしい。

なので庶民はお風呂に入りたければ湯屋に行くしかない。

しかし毎日行くにはお金がかかりすぎる為、3日に1回程度で済ませているそうだ。

なんにせよ、お風呂があって助かった。

ていうかそんなものがあるなら早く言ってほしいものだ。

エーリンさんも人が悪い。


「ここだよおっさん☆」

「ここですか」


何かの施設の様な門構えだ。

洋風なのも相まってとても銭湯には見えない。

あとは変な亀っぽいマークの看板が付いている。

多分湯屋のマークなのだろう。


「それじゃあねー☆」

「失礼しますヨシオ様」

「湯屋って初めて―!」


カウンターでお金を払った後、ルミさん達と別れて中に入る。

木で作られた棚が並んでおり、そこに他の人の衣服が入っている。

扉はないがロッカーの様だ。

時間が遅い為か人はまばら、ちょっと嬉しい。

しかし初めての場所はちょっと緊張するな。

服を脱いで薄手の黒い布を腰に巻く。

この布はカウンターで販売されていた。

なんでもこの布を腰に巻いて入るのがルールなんだとか。

まあ特別人のを見たい訳でもないので問題ない。

ちなみにカウンターでお風呂に持っていく籠や石鹸も売っていたので一式買っておいた。

石鹸なんかは結構高かったが仕方ない。

眼鏡を忘れずに棚にしまって、早速、中に突入してみる。


おお、思ったより綺麗じゃないか。そして広い。

大きい風呂が3つ。あとは体を洗う場所とサウナと思われる部屋が1つ。

シンプルだが、だがそれでいい。

別に電気風呂やジェットバスがなくたっていい。

こういうのでいいんだよこういうので。

2、3日お風呂に入れなかっただけなのに、感慨深いものだ。

綺麗に体を流してゆっくり浸かろうじゃないか。

洗い場に腰掛け、桶に湯を溜めて肩口から流す。


きくぅ~~~~~~~。


気持ちいいです。やっぱこれだね。


さて、どこから1番に洗うかだが、私はやっぱり頭からだ。

そこから段々と下にいって最後は足の指先を洗う。

慣れ親しんだ洗い方だ。

というわけで頭から洗うとしよう。

しかしこの石鹸、泡立ちが悪い。

高かった割にはあまり使えないな。

まあ日本の製品と比べるのは酷と言うものか。






「お隣失礼しますね」

「あ、どうぞ」

「こっちも隣使うねー☆」

「はい、どうぞどうぞ」











ん?




まさか。卒業!?

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