ガガ焼きとおっさん
派手で露出の激しい可愛いギャルは4代目勇者の子孫だった。
彼女はとある占い師に私がこの町に現れると言う情報を聞いて、「おもしろそうだから」と言う理由でやってきたそうだ。
結局私がこれからの予定を話したらついて来ると言い出した。
既にサクヤさんを連れている手前断ることもできず半ば強引にパーティに加わる形となった。
パーティを組んだのだから、一緒の宿の方がいいよねと宿屋までついてきた。
「おじさんってさ。実はすごい人なの?弟子とか募集してる?」
宿屋の少年から言われた一言。
わかるよ。こんなおっさんが美少女を2人も連れていたらなにかと思うよね。
でも弟子にはしないよ。
ルミさんの分も部屋を借りて、しばらくは自由時間だ。
私は夕食の準備をしておこうと食堂へ向かう。
今の時間ならまだ厨房は使っていないだろうから場所を貸してもらいたいのだ。
階段を下りるとカウンターにカイルくんの姿はない。
と思ったら食堂にいる。
モップを持っているので掃除の途中なのだろうが、ギャルと巫女さんと楽しそうに談笑している。
少年、顔が緩みまくっていますよ。納豆にはネギを入れるタイプだな。
「楽しそうですね」
「ヨシオ様!」
「やっほ☆」
「あ!スズキ様!」
スズキ様?さっきまでおじさんと呼んでいただろう君。
「いま彼女達からスズキ様の話を聞きまして。いやー初めて見た時から只者ではないと思っていたんですよ!ますます尊敬しちゃうなー」
完全に色香に惑わされているね。
将来が不安だ。
「ところでカイルくん、ちょっとご主人に相談したいことがあってね。取り次いでもらえるかい?」
「親父にですか?なにか粗相でもしたでしょうか?」
「いや、夕食を作るのに厨房をお借りしたくてね」
「厨房を?スズキ様は厨士なんですか?」
「一応ね」
「わかりました。親父に話してきます。待っててもらえますか」
「ありがとう」
「では」と2人に会釈をして去っていくカイルくん。
しばらくしてご主人を連れて戻ってきた。
スキンヘッドのマッチョマン。
この世界のマッチョ率異常じゃないですかね。
「厨房を借りたいってのはあんたかい?」
「はい、ここに泊めさせて頂いているスズキです」
「知ってるよ。今の時間なら厨房は使ってねえから貸すのは構わねえが、なにをするんだ?」
「私の故郷の料理を作ろうかと思いまして」
「ほう、ここらじゃ見ない顔だが、どこから来た」
「日本という小さな国ですよ」
「ニホンか、聞いたことないな。まあ俺は地理なんかにゃ詳しくねえけど、一応料理人の端くれだからその料理には興味がある。俺にもその料理をふるまってくれるなら厨房を貸そう。どうだ?」
「それで結構です。ではさっそく厨房を拝見しても?」
「いいぞ、カイル、案内してやんな」
「わかったよ親父」
もしかしたら断られるのではないかと思っていたけど杞憂だったらしい。
カイルくんに案内されて厨房に入る。
ラーメン屋の厨房のような感じだ。
そんなに大きくはないけど、完全な飲食店というわけでもないしこれくらいで丁度いいのだろう。
「スズキ様、17時から食堂を開けるから、それまでに済ませてね」
「ありがとうカイルくん」
「ちなみにどんな料理を作るの?」
「肉料理だよ。男の子なら多分気に入ってくれると思うな」
「それは楽しみだ!じゃあまたあとでね!」
君はちゃんと仕事しなさいよ。
さて、厨房も無事借りられたことだし、準備を進めるか。
インベントリから包丁――にしている『虚偽と絶望』と商店街で購入した道具を取り出す。
厨房を借りたのは場所が欲しかっただけなので道具は全て自前だ。
続いて食材。
商店街にはかなり見覚えのある食材があった。
キャベツっぽいキベジン。ピーマンっぽいピマ。トマトっぽいトマ。
そして今日のメニューを作らざる得なくなった野菜。
生姜っぽいガガ。
八百屋で一目で生姜だと思った。
とりあえず1個買って齧ってみたらまぎれもない生姜だった。
手元にはボアバーキの肉がある。そして生姜。
これはもう作るしかない。
決まってる。生姜焼きだ。
加えて嬉しい誤算は魚醤があったことだ。名前はソーユと言うらしい。
港町があるのだからもしかしたらと思ったが、ありましたよ。ちょっと高かったけど。
これで完成度がぐっとますはず。
まずはキベジンを千切りに。
続いてガガも適当に切ってからすり下ろす。
ちなみにおろし金は売っていなかった。
そもそも金物屋でおろし金を探していると説明したら何言ってんだこいつって目で見られた。
少なくともこの国にはおろすという調理法自体ないらしい。
仕方がないのでインベントリから丁度いい物を探したところ『やいばの小手』という装備があった。
これは手を覆う装備で、その殆どが細かい棘で覆われていた。
これを左手に装備して、右手でガガを擦ればあら不思議、あっという間におろしガガの完成だ。
ちなみに足や胴体など他にも『やいば』シリーズの装備があって、どれもランクAだった。
なんでもうんたら竜の鱗で作った物だとか。すみません名前も忘れた竜さん。
あなたの鱗は大事に使わせて頂きます。
おろしガガを作ったところで、タレ作りだ。
ソーユとおろしガガ、そしてインベントリにあった『超神酒』。
これはかなり日本酒に近いお酒だった。
お酒の飲めない私でもするりと喉を通る程おいしかった。
これらに砂糖を少々混ぜてやればタレの完成だ。
後はボアバーキの肩ロースを適当な厚さに切り分けてタレに漬けこんでおく。
保存用も合わせて大量にだ。
しばらく味が染みるのを待って焼くだけ。
千切りにしたキベジンはひとまずインベントリにしまっておく。
『やいばの小手』や『虚偽と絶望』を丹念に洗っておく。
今後なにかの時に装備して、生姜臭いのはかっこわるいよね。
16時を過ぎた。
そろそろ焼き始めるとしようか。
『ヒヒイロカネのフライパン』に軽く脂を敷く。
『フレイムアンカー』
温まってきたところで肉を投入。
一気に厨房の中に肉と生姜の匂いが充満する。
ああー匂いだけでよだれが出てきた。
焦がさないように火力を調整する。
火が通ったところでタレを掛けて一炒め。
皿にキベジンとプチトマ、肉を盛りつければ完成。
簡単でしょ?
「できましたよーってうわ!?」
お盆に6人分の皿を乗せて食堂に戻る。
とそこにはナイフとフォークを両手に待ち構えている5人。
皆一様に目を輝かせながらよだれを垂らしている。
「きた!ヨシオさんきた!はやくそれを私に!」
「ああ……ヨシオ様の手料理……感激です~」
「めっちゃいい匂い!おっさんはやく食べさせて☆」
ご主人とカイルくんも黙ってはいるが早く渡さなければ襲われそうだ。
手早く配膳を済ませ私も席につく。
「「「いただきまーす!」」」
一斉に肉を放り込む。
うん。これはおいしい。肉がいいのもあるが、《特級厨士》のおかげだろうか。
肉の厚みや味加減が絶妙だ。
日本で食べた物より何倍もおいしく感じる。
他のみんなはどうだろうか?
「ふもっ!ふもっふ!ふも!ゴフッげほげほっ」
「おいじいでず~。勇者様の手料理だけでもありがたいのにごんなにおいじいなんて~エグッエグッ」
「ちょっとサクヤ鼻水垂れてるよ、落ち着きなって☆」
「これはうめえ!こんなうめえ料理は初めてだ!」
「流石スズキ様!初めて見た時から只者ではないと思っていたんですよ僕は!」
……好評のようでなによりだが、妖精族と巫女さんは落ち着きなさい。
「それにしてもこれほんとおいしーね☆なんて料理なの?」
「おろしたガガを使ったタレでボアバーキを焼いたんですよ。『ボアバーキのガガ焼き』と言ったところでしょうか」
「おろした?この粒々になってるのがガガなのか?」
「そうやって切るのではなく擦って細かくすることをおろすと言います」
「聞いたこともねえ調理法だな」
「この国ではそうみたいですね」
「ガガなんてのは刻んで湯と一緒に飲むとかしか知らねえな」
どうやらこの国では漢方薬的な使い方しかしていないようだ。
こんなにおいしいのに。
「それにしてもうめえ。ガガの効能なのかは知らんが体がみなぎってきやがる」
確かに。なんだろうこの力が湧き出す感じ。
……嫌な予感がする。
小声で「ディティクト」した。
ボアバーキのガガ焼き(超神酒使用) 種別:料理
一時オートスキル:体力回復小 自然回復力向上小 身体強化小
おっふ。なんか出た。ちょっとむせてしまったじゃないか。
絶対あのお酒のせいだ。意味深に超神酒使用って書いてあるし。
一時オートスキルってことは、時間制限があるのかな。
……まあ害があるわけではなさそうだし良しとしよう。
みんな粗方食べ終わり一息ついたところで仕込んでおいた残りも焼いてしまうことにする。
もうすぐ17時だからご主人も一緒に厨房にきた。
邪魔にならないようにぱっと焼いてぱっと出よう。
そう思いどんどん肉を焼いていった。
またもすごい匂いが厨房に立ちこめる。
「親父!大変だ!」
カイルくんが大慌てで怒鳴り込んできた。
「どうしたカイル」
「お客さんが大勢押しかけてきて!とにかく大変なんだよ!」
話しがよくわからない。
仕方ないのでご主人が食堂へ向かう。
気になるので私も向かうことにする。
すると先程までガラガラであったはずの食堂は、すべてのテーブルが埋まっており立っている人も大勢いた。
ご主人も私も何が起こったのかわからず首を傾げていると、立っていた男の1人が言った。
「おいおやじ!もう開店だろ?早くあの肉を出してくれよ」
「あの肉?」
男はエーリンさんがいまだに頬張っている肉を指す。
まさか、この人達ガガ焼きにつられてきたのか?みんな?
ご主人は困惑した顔つきで答えた。
「悪いがあれは売り物じゃねえんだ。うちの客人が好意で作ってくれた物なんだよ」
「おいおい冗談だろ。こんないい匂いさせておいてお預けってか?なんとか頼むよ」
「そう言われてもな……」
「銀貨1枚!いや2枚出してもいい!それで頼む!」
周りからも声が上がる。
「頼むよおやじ!」「準備万端だぜ」「銀貨2枚か……」「ばっか銀貨2枚でも我慢できねえよ」「はやくはやくはやく」「酒もくれ」「ああーよだれが止まらねえ」「ニクニクニクニク」「酒まだー?」
これは……放っておいたら暴動が起きそうな流れだ。
ご主人も助けを求める目で見てくる。仕方ないな。
「わかりました。やりましょう」
「いいのか?」
「ええ。幸い材料はありますし、何とかなるでしょう」
「ヨシオ様!私もお手伝いします!料理の心得なら多少はあります!」
「あたしも手伝うよ☆料理の心得はないけど」
「私も手伝いまーうぇっぷ」
「ありがとうございます。じゃあ私とサクヤさんでガガ焼きを作りますのでご主人はその他の料理を。カイルくんとルミさんで注文と配膳をお願いします」
「ヨシオさん、私は?うぇっぷ」
「あなたは邪魔にならないところで転がっていてください」
まん丸になったエーリンさん。
飛べない妖精族はただの豚だ。
「じゃあ始めましょうか」
「はい!」
「おっけー☆」
「おう!」
「あいよ!」
「うぇっぷ」
……大丈夫かな。
ネーミングセンスのなさに脱帽。




