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ギャル再びとおっさん

声を掛けるとこちらを向くルミさん。

やっぱり間違っていなかった。

と安堵していたらルミさんが駆けてくる。


「おっそいよーダーリン☆」

「「ダ、ダーリン!?」」


2人の男がすっとんきょうな声を上げる。

ルミさんはそのまま私の下に来ると、腕に絡み付いてきた。


「ルミさん!?」


当たってます!めっちゃ当たってます!

やばいです!精神的にも肉体的にもやばくて意識が飛びそうです!


「おいおい冗談だろ。まさかそんなおっさんを待ってたのかよ」

「ありえねー」

「言っとくけど、あんたらよりダーリンの方が百倍イケてるよ。じゃ、そゆことでー☆」


私を引っ張ろうとするルミさん。

あ、今動かないで。飛ぶ、飛んじゃう。

柔らかな果実に殺される。


「おっと、ここは通さねえよ」

「おいおっさん。あんたみたいな奴にその女はもったいねーよ。俺達によこしな」


何か言っているみたいだが、よく聞こえない。

それどころではないから。

いまここ、瀬戸際なんです。

このままじゃネロとパトラッシュよろしく召されてしまう。

勇者ヨシオ。キスカの町でおっぱいに殺される。完

いやいや、ある意味本望だけど。本望だけれども。

エーリンさんとサクヤさんを待たせておいて自分はおっぱいに殺されましたって流石に恥ずかしすぎる。

なんとかしなければ。


「おっさん……」


なんとか声を振り絞る。


「すすすすすみませんルミさん!はははは離れて下さい!」


少しの間。


「うん……ごめんねおじさん」


私を殺しにかかっていた凶器が離れる。

ルミさんは物悲しい表情を見せたが、まだそれどころではない。

震えが止まらないのだから。タスケテ。


「あのさ、このおじさんは関係ないから、帰してあげてくれない?」

「姉ちゃんが大人しくついてくるなら構わねえぜ」

「わかったよ」


あ、待って、まだ動けない。

勝手に進めないで審判止めろよ。

駄目だ、頭を切り替えなければ。



――あれは母のおっぱいあれは母のおっぱいあれは母のおっぱいあれは母のおっぱいあれは母のおっぱいあれは母のおっぱいあれは母のおっぱいあれは母のおっぱいあれは母のおっぱいあれは母のおっぱいあれは母のおっぱいあれは母のおっぱいあれは母のおっぱいあれは母のおっぱい!!!



……勝った。



「待ってください」


体が自由になったのですぐに呼び止める。

そんな物騒な人達と遊びに行くのはおっさん感心しないな。


「なんだおっさん。まだいたのか」

「ルミさんを放してもらえますか」


特にそこのマッチョさん。

女の子はね。簡単に触っちゃいけないんですよ。


「……おじさん、カッコつけないでいいよ」

「そうだぜおっさん。折角五体満足で帰れるんだ。おとなしく行けよ」


……どうやら気を遣われているらしい。

こんな状況なのにね。


「あなたは優しいですね」

「……痛い目みないとわからねえみたいだな」

「ちょっ、待って!」


マッチョさんを先頭にトリプルなんとかアタックって感じで仕掛けてくる。

カッコつけないでと言われても。

おっさんちょっと感動しちゃったからね。仕方ないね。




「でもねルミさん」



マッチョさんの脇を抜ける。



「男はね」



マッチョさんの巨体に隠れていた私が、後ろに控えていた2人に奇襲を掛ける形になる。



「いくつになっても」



掌打発勁しょうだはっけい 両当りょうあて】 掌打した物体に加え、その奥にある物体にまで勁を通す。

吹き飛ばすとルミさんに当たってしまうので、手加減した。



「女の子の前では」



振り返るマッチョさんの呼吸に合わせ回し蹴り。

顎の下を刈った。



「カッコつけたいんですよ」



男達はその場に崩れ落ちる。


「大丈夫ですかルミさん」

「え?あれ?どゆこと?」

「ルミさん?」

「なんでおっさんが立ってるの」


なんで生きてるの?に通じるものがある。

ちょっと傷ついた。ちょっとだけ。


「そんなことより、移動しませんか?また誰か来ると面倒ですし」

「あ、うん」


大通りに戻る。

特に今の騒ぎに気付いた人はいないみたいだ。よかったよかった。


「それで?おっさんはなんな――っと、まずはお礼が先だよね。助けてくれてありがと☆」


ぺこりと頭を下げるルミさん。

ギャルって以外に礼儀正しいね。

頭の上げ下げでいい匂いが漂ってきた。

ああ、なぜすぐそっちに気がいってしまうのか。この身が憎い。


「たまたま見かけたものですから」

「だからって、1度会っただけの人を身を張って助けないよ。普通は」

「そんなものでしょうか」

「そんなものだよ」

「ところで、ルミさんはここで何を?」

「あー、ちょっと人を待っててね☆おっさんは?」

「私はそこの冒険者ギルドに用事が」

「おっさんって冒険者だったんだ。ならさっきの強さも納得なのかな?」

「冒険者というか、これからなる予定です」

「え、ギルドに登録してないの?おっさんて旅人なんだよね」

「そのようなものです」

「なら冒険者になっておかないと不便っしょ?今までなにしてたの」


今までは異世界に居ました。とは言えない。

適当に作った設定を説明するしかない。


「山の奥に1人で住んでいまして、町に下りたのは初めてなんですよ」

「にしては変な恰好だけど身なりもいいし、手も綺麗。とても山で過ごしていた様には見えないけど」


なんでギャルって変なとこ鋭いのかな。

じっとりした眼で私を見てくる。

やめて。掘り下げないで。そんな眼で見ないで。


「なーんか怪しいよね。おっさん」

「……そんなことは。ただのおっさんです」

「ただのおっさんは冒険者を3人ものしたりしないよ。……そういえば昨日変なこと言ってたよね。勇者だとかなんとか」


なにこの子。なんでそんなに突っ込んでくるの。

私にそういう趣味はないです。

しばらくギャルの熱い眼差しを受けたところで疑いは晴れた。


「ま、そんな訳ないか☆おっさんだもんねー」


よかった。どうやらセーフらしい。

しかしこのまま彼女といるのは危険かもしれない。

ここはさっさと逃げよう。名残惜しいが。


「では私はこれで」

「あ、ちょっと待ってよ。冒険者ギルドでしょ?あたしも行くよ☆」

「え」

「さっきのお礼にご飯しようよ。あたし奢るからさ☆用事終わるまで待っててあげる☆」

「ええ!?」

「いーじゃんいーじゃん☆ほら行こ!」


手を繋いでくる。なんてことだ。

手を繋ぐなんて高すぎるハードルを平然と飛び越えてきた。

私の事なんて気にしてないんでしょうが、軽々しくスキンシップされるとおっさんやばいです。

ああ、なんか私だけドギマギしてるのって恥ずかしい。

カイルくんのことを言えないよね。

そんなことを考えている内に目的地に着いてしまった。

意気揚々と扉を開けるルミさん。

バン!という音と共に、中にいた冒険者達の視線が集まる。

興味がないように視線を外す者もいれば、ルミさんに好色な視線を送る者もいる。


「ヨシオ様~!」


少し奥のテーブル席にサクヤさんとエーリンさんが見える。

席まで近づくとサクヤさんは頬を膨らませた。


「勝手にどこかに行っちゃうなんてひどいですヨシオ様!」

「すみませんサクヤさん」

「私は別に心配してませんけど。ヨシオさんは強いですから」

「随分カワイイ彼女がいるんだねおっさん☆」


会話の途中でルミさんが割って入る。

サクヤさんもルミさんが気になっている様だ。


「ヨシオ様、この方は?」

「えーと、昨日馬車で一緒だった、ルミエールさんです」

「あー!昨日の派手な女の子!」

「やっほ☆エーリン」

「そうなんですか。初めまして、ハナサクヤと申します」

「あたしはルミエール。ルミでいいよ」

「では私のこともサクヤと呼んでください」

「おっけーサクヤ☆」

「ルミさんは半耳族ハーフエルフなんですね」

「そうそう。サクヤもこの辺じゃ見ない顔立ちだね」

「この国の出身ではないので」

「そっかそっか☆」

「ところでルミさん」

「なになに?」

「なんでヨシオ様と手を繋いでいるのでしょうか」









ああ!?

もしかしてずっと繋いでいたの!?


いけない、ドギマギしている内にここまで来てしまったから混乱してしまったようだ。

しかしサクヤさんなんか怒ってます?

もしかして私が2人を置いて女の子とちちくり合ってたとか思われているのではなかろうか。

そうだとしたら誤解を解かなければ。


「これはですね、えーと、そのー」

「おっさんをここまで引っ張ってきただけだよ」

「引っ張ってきた?」

「おっさんとはこの後ご飯一緒するからね。早く済ませてもらおうと思ってさ」

「それは今も手を繋いでいることと関係があるんでしょうか?」

「それはおっさんが離してくれないからだよ。あたしはいーけど☆」

「あー!がっちり恋人繋ぎです!」

「ヨシオ様?」

「違うんです。手が固まってしまってね。離れなくてね」

「ていうーかー、サクヤはなんでおっさんに様づけなわけ?」

「ヨシオ様はヨシオ様だからです」

「意味わかんないんですけど☆ウケるー!」

「いいからその手を離してもらえますか」

「だからおっさんが」

「あなたもがっちり掴んでるじゃないですか!?」

「おっさんが離したら離すよ☆」

「ヨシオ様!はやく離してください!」

「は、はい!しかし手が開かなくて」

「ヨシオさん!がっちりですよがっちり!」

「あはは☆ウケるー!!」


なんなんだこの状況。

ギャルは笑い。巫女は怒り。妖精は煽り。おっさんはうろたえる。

周囲の視線が集まる。余計に焦るから見ないで欲しい。


「あのー……」

「ひゃい!すみません!」


上半身だけ振り向くと、赤みがかった髪の女性がいた。

制服っぽい服を着ているし、どうやらこのギルドの職員のようだ。

私の上ずった声と謝罪に驚いた様子だ。すみません。


「……ギルド内ではもう少しお静かにお願いします。他の冒険者さんにもご迷惑ですので」

「申し訳ありません……」


って、あれ?手が離れてる!

どうやら驚いた拍子に離れた様だ。


「なんだ、あたしはずっと繋いでてもよかったのに☆」

「ヨシオ様をからかわないで下さい!」

「あ、冒険者登録するんでしょ?その人についでにしてもらえば?」

「そうですね。登録をお願いしたいのですが」

「え、あなたがですか?」


周りにいた冒険者達から失笑が漏れる。

わかってます。ルミさんも驚いてましたしね。


「なんか笑ってるけど……この中におっさんに勝てる人いるのかな?ぱっと見いなさそうだけど」

「ヨシオ様はお強いですから!」

「ここにいる人達と比べるのは酷じゃないですかー?」


周りの空気が変わる。

ちょっと3人共なにを言ってるんですか。

特にエーリンさんはなんで煽るようなことを。


「おいおい嬢ちゃん達、俺たちよりそのおっさんの方が強いってか?」

「笑えねえ冗談だぜ」

「冗談じゃないんだけどね☆」


やばい。一触即発な空気だ。

ここはさっさと登録を済ませて退散しよう。


「すみません。早く登録をお願いします」

「は、はい。ではこちらにどうぞ」


カウンターに通されると通行証と似たようなプレートを差し出される。


「こちらのプレートに魔力を込めてください」


魔力を込めるとプレートが光って名前が浮かんだ。


「次に登録するジョブを選んで下さい」

「ジョブを?」

「はい、冒険者になるにはなんらかのジョブが必要です。1つもジョブを持ってない人は冒険者になってもなんの役にも立ちません。ちなみにここで登録されたジョブはギルド内で公開されます」

「なぜですか?」

「パーティを組む時にジョブが分からないのでは困りますでしょう?ジョブが無駄に被っても効率が悪くなりますので。それとジョブを指定した依頼も結構ありますから。ジョブは複数登録することも可能ですよ」


ジョブを登録しなければいけないのか。

なんか体よく手の内を見られている気がする。

しかしどうしよう。なんのジョブを登録すれば良いのか。

とりあえず《勇者》は目立つからやめておいた方が無難だろうけど、急がないと後ろで乱闘が始まりそうだ。

あーもうこれでいいか。


「じゃあこれで登録してください」

「はい、承りまし…………なんですかこれ」

「え?」

「も、申し訳ありません。少々お待ちください」


カウンターの奥に引っ込んでいく女性。

するとしばらくしてあごひげを蓄えた男性が現れた。

歴戦の勇士と言った風貌だ。

あ、これやっちまいましたかね。


「スズキ・ヨシオ殿ですな。私はここのギルドマスターを務めるラファロと申す者です」

「はあ」

「少しお聞きしたいことがございましてな、別室に案内したいのですがよろしいですかな?」


ちょっと署まで来てもらえる?みたいなノリじゃないですか。

これ大丈夫なんですか。

このまま投獄されて帰ってこれないとかないですよね。

サクヤさん達に待っててもらうように声を掛け、仕方なしにラファロという男性に着いて行く。

カウンターの裏に入った階段を上がり2階へ。

部屋に入るとソファーの様な横長の椅子に腰掛けるよう勧められる。


「なにか飲みますかな?」

「いえ、お気遣いなく」

「左様ですか。ではさっそくですが」






「《武神ぶしん》とは、あなたとは何者なのですかな」






やっぱり選択を間違えたらしい。




ギャルと巫女。どちらも捨てがたい。

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