初代変態とおっさん
「おじい様!!」
直前、首の皮で指先は止まった。
手刀を突きつけて来た彼女の肩口から、もう1人の彼女が現れる。
いや、正確には彼女を模った靄と言うか。
まるで幽霊みたいな体だった。
「おじい様!勇者様になんてことするんですか!?」
「……此奴は不届き者じゃ、よって誅を下す」
「勇者様は不届き者なんかじゃありません。優しくて強いお方です」
「戯けたことを。こんな奴のどこがいいのじゃ、儂の方がよっぽどかっこええじゃろ」
「こんなことするおじい様なんて嫌いです!大っ嫌いです!!私はおじい様とお話しがしたかっただけなのに」
「この男が去ねばお主も目を覚まそう」
「そんなことしたら絶対に許しませんよ!」
「なんと言われようと、此奴には消えてもらう」
「バカバカバカ!おじい様のバカ!勇者様をこれ以上傷付けたらもう頭撫でさせてあげない!抱っこもさせてあげないし手も繋がない!」
「そうかそうか」
「あーんって食べさせてあげないし、膝枕で寝てあげない!」
「ほうほう……」
「一緒にお風呂も入らない!!歯磨きもさせてあげない!!!これから一生、ぜっっっったい一緒に寝てあげないから!!!!!」
「なにぃ!?」
おい。聞き捨てならん言葉が聞こえましたよ。
いくらなんでもいかんしょ。特にお風呂。
「ま、待つのじゃ!そんなことになったら儂の楽しみがなくなるではないか!?」
「なら勇者様をもう傷付けないって約束して」
「ううむ……あいわかった。約束しよう」
「あやまって」
「ぬ?」
「はやくあやまって」
「いやしかし」
「もう口きかない」
「ぐぬぬ……儂が悪かった、許してたもれ」
サクヤさん(実体)はばつが悪そうだ。
そんなことよりさっきのことを詳しく。
「ヨシオさん!大丈夫ですか!?」
「エーリンさん」
涙目のエーリンさんが頬に飛び付いてくる。
心配掛けてしまったようだ。
「ごめんなさい。私、何もできなくて」
「気にしないで下さい。私も勇者なのに不甲斐なくてすみません」
「おい、いつまで頭を下げさせる気じゃ」
「おじい様!」
「おじい様ではなく、おじいちゃん、もしくはおじいちゃまと呼べと言うとるじゃろう」
「それは2人っきりの時だけって約束でしょ!?」
「冷たいのう。減るもんじゃないしそれぐらいよかろうもん」
さっきまで私を殺そうとしていたのに、この人絶対に反省していない。
しかし気が変わられても困る。
ここは穏便に済ませたい。
「サクヤさん、私なら大丈夫ですよ」
「勇者様……」
「そうじゃそうじゃ、大丈夫じゃ」
……体がサクヤさんでなければ殴っていたかもしれない。
「おじい様……と言うことは、あなたが初代勇者――ヤマト・タケルヒコ様ですね」
「いかにも。儂がヤマト・タケルヒコである」
「この状況は、先程の術でタケルヒコ様を呼び出した、と言うことで間違いないですか」
「はい、私の術で勇者おろしをしました。それでおじい様と話しをして、旅をする許可をもらおうと思って……本当にごめんなさい」
「サクヤさんのお気持ちはわかりました」
「許可などださぬぞ」
ですよね。わかってましたよ。話を聞いてれば。
「この愛らしいサクヤの体をうぬの様な奴に預ける訳がなかろう」
そう言って、初代勇者――もとい変態はサクヤさんの体を弄りまわす。
この変態なんちゅうことを。代わって下さい。金貨あげるから。
「おじい様!そんなに触らないで下さい!」
「うわー……これが初代勇者ってなんか幻滅ですねヨシオさん」
あなたが連れてきたんでしょうが。責任持ってなんとかして欲しい。
「とにかく、サクヤははよう帰ってくるのじゃ。儂は寂しくて死んでしまうぞ」
「嫌です。私は勇者様と一緒に行きます~」
「お主もわからん奴じゃな」
押し問答が続く。
終わらないやつだこれ。
仕方ないので口を挟むことにする。
「サクヤさん。タケルヒコ様は反対の様ですが、お父様やお母様はどうなんですか?」
「反対しているのはおじい様だけです。でもおじい様は特別だからみんな無視はできないんです」
「ではこういうのはどうでしょう。家出の様な状態でご家族のみなさんも心配されているでしょうし、まずは一旦帰るというのは。そのかわりと言ってはなんですが、タケルヒコ様も頭ごなしに否定するのではなく、話しを聞いてあげる」
「ふむ……しかし……」
「このまま帰らないよりいいと思いますが」
「みんな……心配してるのかな……」
「きちんと話して、きちんと送り出してもらった方が私はいいと思います」
「……勇者様の言う通りです。私がわがままでした……」
「よう言った!帰ってこいすぐ帰ってこい今帰ってこい」
「タケルヒコ様、そういう態度をとられますと気が削がれますよ」
「ぬ……」
なんだか子供みたいな人だ。
というかこの人、あのヤマト・タケルなのかな。
でもヤマト・タケルは実在の人物ではないはず。
まあ私も詳しく知っている訳ではないですけど。
「では一旦帰ると言うことでよろしいですか?」
「わかりました」
「異存ない」
なんとかまとまってくれた。
後はどうやって帰すかだが。
「エーリンさん、その和の国はどの辺りにあるのですか?」
「和の国はラクロア王国の西側ですね」
「サクヤさんはどうやってここまで?」
「私は式神に乗ってここまで来ました」
式神?
首を傾げるとサクヤさんが説明してくれた。
どうやら式神というのは魔獣の様なもので、空を飛べる式神に乗って海を渡って来たらしい。
それなら安全なのか。
「ただ……式神用の霊符はこっちに来るときにほとんど使ってしまって、ヤマトに帰るだけの霊符は残ってないんです」
と思ったけどそううまくは行かないようだ。
「霊筆があれば新しく作れますけど……家に忘れてきちゃいました」
「船で帰ればよかろう」
そう言ったのは初代変態――じゃなかった、初代勇者だった。
「儂がラクロア王に話を通してやる。うぬらは王都経由で港町『ウィンポート』まで行くのじゃ。そこから船で帰ればよい」
もしかして私も行くことになってる感じこれ?
王都には行きますけど、ヤマトまでついてこいと?
「ちょっと待ってください。船を出してもらえるとして、私も同行するのですか?」
「当たり前じゃろう。うぬが責任を持ってサクヤを送り届けよ」
「」
無理です。海を航るとか、船に乗ったら死ねます。
私は極度の船酔い体質なのです。
「ではサクヤをくれぐれも丁重に扱うようにの」
放心していた私の耳元で次に囁く。
「手を出したら今度こそ殺す」
ヤマトに着いた頃には死んでると思いますよ。ほんとに。
「ではの」
またサクヤさんが光ると、肩口から出ていたサクヤさん(霊)はいなくなっていた。
先ほどまで感じていた威圧感も消えている。
どうやら勇者おろしというのは終わったらしい。
言うだけ言って帰ってしまうとは。
言いたいことも言えないこんな世の中なんて嫌いだ。
サクヤさんを見やると、目付きが優しくなっている。
やっぱりこっちの方がいいね。
「ご迷惑お掛けしてごめんなさい勇者様!」
「気にしないで下さい。君は責任を持って送り届けますよ」
「ヨシオさんは優しいですからね。私は妖精族のエーリン!よろしくね!」
「よろしくお願いします。私は人族のヤマト・ハナサクヤです。サクヤと呼んでください」
「あ、サクヤさん、私のことも勇者様ではなくヨシオと呼んで頂ければ」
「ではヨシオ様と呼ばせて頂きますね!」
乗り掛かった船だ。最後までやるとしよう。
乗りたくなかったけど。
ちなみにサクヤさんはまだ宿を取っていなかったので、一緒に『北の風亭』に戻ることにした。
手は出しませんよ?まだ死にたくありませんので。
変態と勇者は紙一重。




