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世間知らずと巫女とおっさん

階段を下りるとカイルくんから声がかかった。


「夕食かい?それともお出かけ?」

「お出かけです。少し散歩をしようかと」

「そっか、ここを出て左に行けばそのうち飲み屋街があるよ。そこをさらに突っ切っていけば大通り。あ、ここは22時には閉めるからそれまでに帰ってきてね」

「わかりました。行ってきます」


宿を出て、カイルくんに言われた通り左に行ってみる。

キスカの町。ポポリ村の家は木材しか使っていないのに対し、道は石畳、家は木材、石材を合わせて作ってある。

こんな町並、写真で見たことがある気がする。

私がいることで景観が損なわれたりしませんよね。

しばらくすると、飲み屋街と思われる道にでる。

外とは違い町の中には街灯がある、そこまで明るい訳ではないが日が落ちても十分活動できる明るさだ。

それに加え酒場がいくつもあり、そこから漏れる光も町を照らしている。

活気に満ちた笑い声が響いてくる。

お酒は飲めない私でも、ちょっと覗いてみたい欲求に駆られてしまう。

でも酒場ってなんか独特な雰囲気あるよね。

お酒を飲めない人には近寄りがたい。

どうしよう。私でも入れそうな店はないか。気さくな感じの。


大通りを歩いて探してみる。


「あれ、もうここで終わりか」


歩き続けると、途中で町の雰囲気がかわる。

恐らく飲み屋街はここで終わりだ。そこから先は薄暗い道が続いていた。

結局私が入れそうな店はなかったな。

仕方なしに踵を返す。



「えええええええええええええええええええ!!!」



元の道を引き返そうとした私を引き止める様に声が聞こえた。

女性の声だった、それも若い感じの。

何事かと声の聞こえた方に行ってみる。

そこは少し路地裏に入った、酒場と思われる店だった。

店に近づくにつれ、中から話し声が聞こえる。


「嬢ちゃん。あんまり大きな声を出すもんじゃないよ。近所迷惑だろ」

「はわ!ごめんなさい……あまりの金額に驚いてしまって……」

「人聞きが悪いねー。ま、確かに他に比べりゃちょっとばかし値は張るけどな」

「1食20金貨って……全然ちょっとじゃないです……」

「うちの料理は高級品なんだよ、嬢ちゃんはそれを食べたんだから払ってもらわなきゃな」

「そんなお金持ってないです……」

「それじゃあ仕方ない、あんたには奴隷になってもらうしかないな。へへっ」

「そ、そんな~」


……どうも穏やかじゃない。

宿屋の食事が2食で5銅貨だ。安くしてもらっているが、元々の値段を考えても1食4銅貨といったところだろう。

それがこのお店では1食20金貨、銅貨で言えば200枚だ。

悪いけど、とてもそんな高級品を扱っている様な店には見えない。

十中八九ボッタクリだ。おっさんも引っかかったことあるからわかるよ。

その時は有り金全部で許してもらったっけ。今となっては懐かしい。

ともあれ、このまま見過ごす訳にはいかないよね。

おっさんならともかく、女の子には厳しすぎる。


「そんな~!?奴隷なんて困ります~!?」

「なあに、嬢ちゃんの器量ならすぐに金なんて稼げるさ。とりあえず、俺が味見させてもらおうかね」

「あの、そのくらいで勘弁してもらえませんか」


ああー、我慢できなかった。昔、こんなことして半殺しにあったっけ。

大丈夫かな私。

中に入ると、見た目は普通の店主と思わしき男が1人。

そしてもう1人は巫女……の様な服――脇出し、へそ出し、ミニスカート――を着た女の子。

日本人になじみのある顔だ。

えぐえぐと泣いてはいるが、その容姿が優れていることは一目でわかる。

少し太い眉がチャーミングだ。

こんな可愛い子を手篭めにしようとしてたのか。許せん!


「なんだあ、あんた」

「私は通りすがりのおっさんです。どうもおかしな話が聞こえましたので」

「おかしな話?言ってる意味がわからねえな」

「1食20金貨という話しですよ。あまりに高いと思いましてね。そんな料理が出せるなら私も食べてみたいなと」

「悪いが今日は店じまいだよおっさん」

「そうですか。それは残念です。それで、この子はそれを食べてしまったのですか」

「そうだが、あんたには関係ないだろ。さっさと出て行ってくれ」

「君、どんな料理だった?是非見た目と味だけでも聞かせてほしい」

「え、えっと、お肉とお野菜を炒めたものと、野菜のスープを1杯でした」

「おいしかったですか?」

「……お野菜はちょっと焦げてて苦かったです。スープもしょっぱかったです」

「と言っていますけど」

「うるせえ!田舎者の小娘にはわからない味なんだよ!おいおっさん、いい加減にしねえと痛い目を見るぞ」

「いえ、そこまで言うなら本当にそれだけ価値のある料理なのでしょう。君、貴重な感想をありがとう、これはお礼だよ」


内ポケットから麻袋を取り出して彼女に渡す。


「え、これ、金貨!?」

「なに!?」


彼女は袋から金貨を取り出して数え始める。


「2、4、6……20枚あります!」


店主の男は呆気に取られていたが、やがて下卑た笑みを浮かべるとこういった。


「ああ、そうそう、忘れてたよ。嬢ちゃんが飲んだ蜂蜜酒ミードの代金を入れ忘れてた。あの蜂蜜酒もかなりの代物でね。あれだけで50金貨はするんだ」

「うぇええ!?いくらなんでも高すぎます!法外です!!」

「あれはね、和の国で特別に作られた代物なんだ。知ってるだろうが和の国は鎖国しているからあの国の製品はまず手に入らない。とある伝手で特別に手に入れた貴重な酒なんだよ。それぐらいの価値はある」

「……欲をかきすぎるとろくな目に遭いませんよ」


20金貨で穏便に済めばと思ったが。

この男、いくらなんでも欲張りすぎだ。

ここに彼女がいたらなんて言うだろう。マジひくわ。

しかし、この女の子もおかしなことを言う。


「え?ヤマトの蜂蜜酒はおじさんの所でしか作っていない筈ですけど、さっきの蜂蜜酒はおじさんの所の味じゃなかったですよ?」

「ん?それはどういう――」

「あーもうごちゃごちゃうるせえ!面倒だ、おい!」


店主が声を荒げると、入り口から屈強な男が2人入ってきた。

店の外に待機していたのか、気づかなかった。


「そのおっさんから有り金巻き上げろ。その女は商品にするから傷つけるなよ」


男の拳が即座に顔面に迫る。

半歩身をかわし、男の拳が空を切るのを見つめる。

そして、伸ばしきる前に男の腕と脇に手を当てる。

軽く流れを変えてやると、その巨体は宙を舞った。

男の尻が叩きつけられた床は、鈍い音を立て割れた。

と同時に男の後頭部に蹴りを入れて沈黙させる。

もう1人の男の理解が追いつかぬ内に、間合いを詰めた。

深く呼吸をし、水月に一撃。

掌打発勁しょうだはっけい

男は入り口を突き破り向かい建物まで吹き飛ぶ。

そしてそのまま動かなくなった。


「はあ?」


間の抜けた声の主は店主だ。

そりゃそうか。こんなおっさんに屈強な男がのされるとは思ってもみなかっただろう。

すみませんね。おっさん詐欺をしてしまいました。


「まだ、やりますか?」


いつも開いているかわからない目を少しだけ見開いた。

睨むとそうなっちゃうんですよね。

店主は首を横に振る。


「い、いや、やらん」

「じゃあこれで失礼します。この子も連れて行こうと思いますが、構いませんよね」

「ああ……」

「店主さんの了承も得ましたし、行きましょうか」

「ひゃ、ひゃい!」


私が店から出ると、ぎこちない動きで着いてくる。

右手と右足が同時に出てますよ。

恐がらせてしまったのだろうか。

仕方ないか。この子からすればいきなり現れた変なおっさんでしかない。

掛ける言葉も見つからず、黙々と飲み屋街を歩く。

……何か視線を感じるな。

傍から見たら、おっさんの後を変な動きをした少女が着いていく、さぞ滑稽な状況だろう。

視線に耐え切れず、そそくさと飲み屋街から少し外れた道に入る。


「とりあえず、ここまで来ればいいでしょう。君、大丈夫ですか?」

「ひゃい!だいじょぶれしゅ!」


うん、噛みっ噛みだね。大丈夫じゃないね。


「恐がらせてしまったのなら、申し訳ありません」

「いえそんな!助けて頂いて本当にありがとうございましゅ!」

「私は高級料理とやらに興味があっただけですよ。……ちょっと伺いたいのですが、どうしてあんな状況に?」

「えっと、私がこの町について、ウロウロしていた所を声を掛けられて、おいしい料理を格安でご馳走してくれるって」

「疑わなかったのですか?」

「優しそうに見えて……、故郷には誰かを騙そうとする人なんていませんでしたから。うう……やっぱり大陸は恐い所です。おじい様の言った通りでした」


エグッ、エグッと大粒の涙を流し始めてしまう。


「君は、この国の出身ではないんですね」

「エグッ……私、ヤマトの国から来ました……」

「さっきの店主が言っていた、和の国とは、そのヤマトの国なのですか?」

「はい……グスッ……私達はヤマトと呼んでいますが、大陸では和の国の方が一般的みたいです」

「ちなみに、そのヤマトの国は鎖国しているとのことでしたが、もしや君は密入国者と言う訳ですか?」

「え?……あ!しまった!私がヤマトの出身って言うのは秘密なんでした!?」


どうしようどうしようと頭をわしゃわしゃこねる。

随分とおまぬけさんみたいだ。


「このままじゃおじい様に余計叱られます~!?あわわわわ」

「あの、落ち着いて下さい、この事は誰にも言いませんから」

「ほんとですか!?」


目をキラキラさせて顔を寄せて来る。近い近い。いい匂いがする。クンカクンカ。


「よかった~。一時はどうなることかと~」

「しかし密入国までして、ここには何を?」

「それは、勇者様に会いに来たんです」

「え」

「私、ヤマトで巫女をやっていまして、占星術が使えるんです。それによると新しい勇者様がこの世界に召喚されたんです!私、どうしても勇者様に会いたくて……家には反対されたんですけど、飛び出して来ちゃいました……」

「家出して、密入国と」

「ひゃい!?で、でも、勇者様に……会いたくて……エグッ」


うわあ。

なんだか子犬をいじめている気分だ。


「そ、それで、勇者に会ってどうするのですか?」

「エグッ、勇者様に会えたら、グスッ、パーティに加えてもらうんです。エグッ、それで勇者様と一緒に魔王を倒すんでしゅ。エグッ」


絶対無理だろ。鏡を見ろ。

と辛辣な言葉を投げかけたい衝動に駆られる。

はっ。いかんいかん、どうもこの子には嗜虐心を刺激される。


「ヨシオさーん!」


少し葛藤していると聞き慣れた声がする。


「エーリンさん」

「なんで私おいてっちゃうんですか!ひどいです!」

「寝てたものですから、つい。もう暗いですけど、まだ動けるんですか?」

「ヨシオさんが怒ってるからなにごとかと思って起きちゃったんですよ」

「私が怒ってる?」

「《勇者》には女神の加護を与えているのを知っていますよね?加護を与えると、大まかな感情や魔力の流れが伝わってくるんです。びっくりしましたよ。寝てたらヨシオさんの怒りの感情が伝わってきましたから」


確かに《勇者》のオートスキルに女神の加護と言うものがあった。

どんな効果があるかは知りませんけど。


「……今、勇者って言いました?」

「「え」」


しまった。エーリンさんに先に口止めするべきだったか。

とりあえずアイコンタクトを図る。なんとか誤魔化して欲しい。

エーリンさんは少し考えてから任せろと言わんばかりに親指を立てた。


「言いましたよ!ここにいるお方をどなたと心得る!恐れ多くも7代目勇者!スズキヨシオ様であるぞ!頭がたか----い!!」


「ええええええええええええええええええええええ!!」


彼女が驚愕の声をあげた。

駄目だ。失敗だ。まだまだ私達は意思疎通ができていないようだ。

というかある程度感情が読み取れるなら察してください。


「やっぱり!本物の勇者様なんですね!やっと会えました、私感激です!!!」


私の手を取ってぶんぶん上下に振る。柔らかい手の感触。

落ち着け私、今時手を握るくらいなんだ。小学生でもしているはずだ。


「あの、信じるんですか?」

「え!嘘なんですか!?」

「……嘘ではありませんが、私おっさんですよ」

「年齢なんて些細なことですよ!私のおじい様も十分おっさんですし」

「……失礼ですが、まだお名前を伺っていなかったですね」

「そうですそうです。いったい誰なんですかあなたはー」

「あ、申し送れました」


手を離すと服を正す。

脇出し、へそ出し、ミニスカート。

まったく厳粛な感じではないのに、巫女っぽい雰囲気のある服。

綺麗な黒髪。うん、間違いなく美少女だ。

彼女は息を大きく吸った。


「私は初代勇者、ヤマト・タケルヒコ様の子孫、ヤマト・ハナサクヤと申します。お会い出来て光栄です勇者しゃま。……噛んだぁ~舌が痛いです~!!」


頬っぺたを押さえる涙目の彼女。

私はエーリンさんと顔を見合わせる。

どうやら今度は意思疎通できたようだ。



「「えええええええええええええええええええええええええ!!!」」



おーまいごっど。




脇巫女。へそ巫女。ミニスカ巫女。

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