別れと肉と出会いとおっさん
エーリンさんを起こして、ルメールさん宅に向かう。
「おはようございます。ルメールさん」
「やっほールメール」
「あ、勇者様、エーリンちゃん」
「もう出発するので、挨拶に参りました」
「もう行かれるのですね。すみません、私全然お礼できなくて」
「いえいえ、ルメールさんにはウルちゃん達を見て頂きますから」
「「あー!おっさん勇者だー!!」」
少しばかり耳が痛くなるような高い声が家の中から聞こえた。
「こら!アルル!メルル!勇者様に失礼でしょ!」
「だってー」
現れたのは昨日ルメールさんの傍にいた男の子と女の子。
弟のアルルくんと妹のメルルちゃんだ。
「ほら、勇者様はもう村を出て行かれるんだから、ちゃんと挨拶して」
「「勇者様!いってらっしゃい!!」」
「はい、いってきます。2人共ウルちゃん達と仲良くして下さいね」
「「わかった!!」」
元気な子供達だ。昨日ウルちゃん達をモフっている姿を見かけたし、大丈夫だろう。
「ではまた、ルメールさん」
「ばいばい、ルメール」
「はい、勇者様、エーリンちゃん」
ルメールさんは深々と頭を下げた。
最初に会った人が彼女でよかった。つくづくそう思う。
「お待たせしました、マモンさん」
「いえいえ、時間通りですよ勇者様」
馬車に乗り込む私とエーリンさん。
マモンさんは前で馬を見てくれいる。
これから向かう町、『キスカ』は馬車で3日とのことだった。
3日……結構かかるな。
馬車の速度を考えればそんなものか。
しかし3日も馬車にこもっているのは考え物だ。
マモンさんには御者をやらせてくれないか頼んだが、勇者様に手伝って頂くわけには行かないとつっぱねられてしまった。
ちょっと興味があったのだが……。
でもまあ、私には話し相手がいない訳ではない。
「エーリンさん。キスカの町とはどんな所なのですか?」
スーツの胸ポケットにいるエーリンさんに尋ねる。
「これといって、普通の町ですよ。冒険者がいて商人がいて」
「冒険者?」
「冒険者っていうのは、町や個人から依頼される仕事をこなして生活する人のことですよ。冒険者ギルドというものがあって、そこに登録すると冒険者になれます。主な仕事はアイテムの採集、魔獣退治、護衛とかですね。キスカは程よく田舎なので魔獣がいる所も多いですし、ある程度実力のある冒険者は稼ぎ易い町でしょうね」
冒険者か、なにか荒くれ者の集まりを想像してしまう。
あまり関わらないようにしよう。
「ヨシオさんも、キスカの町についたら冒険者の登録を済ませておきましょうか」
なんですと。聞いてない。
「なぜ冒険者に?」
「冒険者になると、冒険者ギルドの依頼を受けられるようになります。情報も集まり易いですしね。それに冒険者ギルドの運営元は国ではありませんから、例え国王に勇者と認められても、冒険者ギルドには認めてもらえない可能性があります」
「認めてもらわないとどうなるのです?」
「例えば勝手に魔獣をたくさん退治したら怒られます。冒険者の仕事を奪ってしまいますから。ヨシオさんがポポリ村で行ったことを続ければ、間違いなく冒険者ギルドに目をつけられますよ」
「それは……嫌ですね」
もしガチムチなお兄さん達に目をつけられたらたまったもんじゃない。オヤジ狩りだ。
「勇者様も冒険者になって、きちんと依頼をこなせば認めてもらえますから大丈夫ですよ」
「わかりました。町についたら登録しましょう」
エーリンさんにはそれ以外にも他の町のことや国のことを聞いた。
途中昼食に硬いパンを齧る。
その後も他にすることもないのでずっと話していたら顎が疲れてしまった気がする。
仕事以外でこんなに人と話したのは久しぶりだ。
日が暮れてくると、マモンさんが野営の準備に取り掛かった。
食事もマモンさんが用意してくれる。
いたれりつくせりという奴だ。
夕食は干し肉と硬いパン、干した芋だった。
豚牙族と被ってるじゃないか。旅の食事っていうのはどこも変わらないのかもしれない。
しかし味はやはりと言った感じで、お世辞にもおいしいとは言えなかった。言ったけど。
これが後1日、到着が遅ければ2日あるのだから、少し気が滅入る。どうしよう。
2日目。太陽が真上に差し掛かった頃、事件は起きた。
「ヨシオさん。魔獣の気配がします」
「え、ほんとですか」
「はい、馬車を停めてもらったほうがいいと思います」
「わかりました」
馬車の中から御者をしているマモンさんに声を掛ける。
「マモンさん、この近くに魔獣がいます。一旦馬車を停めてもらえますか?」
「え!本当ですか!」
手綱を締め、馬を停める。
「基本的に、街道付近に魔獣はこないはずなんですが」
「なぜですか?」
「聖砂と言って、魔獣を弾く特別な砂が街道には蒔かれているのです。それのおかげで街道には魔獣がよりつかないのですが。私もこれまで町には何度も行き来していますが、魔獣に遭遇したことは一度もありません」
「そうですか、でも念の為降りて調べてもいいですか?」
「それはもちろん。何かあってからでは困りますからな。お願いします」
馬車を降りて体を伸ばす。パキパキ骨が鳴るのが気持ちいい。
さて、
「エーリンさん、魔獣はどこに?」
「あっちの方から臭いがします」
指差した方を見るが、草が茂っておりよくわからない。
どうするかな。燃やしちゃうか。
いや、マモンさんもいるし危険なことはしたくない。
第一相手の正体もわからないのにそれはまずい。
「エーリンさん。何かいい方法はありますか?」
「ヨシオさんなら、意識を集中して魔力を探れると思いますよ」
「そうなのですか、どうすればいいですか」
「目を閉じて、魔力を感じて下さい」
アドバイスが短すぎると思いつつ、試しに目を閉じてみる。
……確かになにかいる。
距離にすると30メートルくらい先の草の陰に隠れている。
そして気づいた。こちらに殺意を持っている。
「ライトニング」
目を閉じたまま、左手の人差し指と中指を突き出して唱えた。
指を出したのは正確に狙う為だ。
ライトニングは雷魔術の弱いやつ。初めて使うが成功した。
指の先から電撃が走ると、目標に向かって一瞬、
「ギャピ!」
鳴き声が聞こえたと思ったら、殺意は消えており、徐々に相手の魔力が薄れていく。
どうやら倒したようだ。
草むらをかきわけ、正体を確認する。
そこには1匹の猪が横たわっていた。
「ボアバーキですね」
こいつがボアバーキか。ウザフカさんがおいしいと言っていたっけ。
これはごちそうになりそうだ。
とりあえずマモンさんに状況を報告しなくては。
ボアバーキの後ろ足を掴むとひょいと持ち上がる。
完全に100キロはあると思うが、まったく重さを感じない。勇者ってすごい。
「マモンさん、魔獣をしとめました」
「ボアバーキじゃないですか。お一人でしとめるとは、さすが勇者様ですね」
「ちょっとこいつの処理をするのに時間をもらいたいのですが、いいですか?」
「それは構いませんが。勇者様は解体もできるので?」
「ええ、なんとか」
実のところ、この猪に触れた時に脳裏に浮かんだのだ。
血抜きの処理、毛皮の剥ぎ方から解体まで。
恐らくこれは《特級厨士》のジョブにあったオートスキル、『解体知識』のおかげだ。
それに加えて『料理知識』『調理知識』というスキルもあり、ボアバーキからどんな料理が作れるのかも紐解ける。
インベントリから解体に使えそうな武器を探す。
『虚偽と絶望』 種別:小剣 ランクA
その見た目とは裏腹に、あらゆる物を切断するナイフ。
ナイフと名が付いていたので出してディティクトしてみると、またすごいものが出てきた。
確かに見た目は錆びついていると言うか風化しているというか、とても切れ味がいいようには見えない。
試しに落ちていた手頃な石に押し当てる。
と、豆腐でも切る様に真っ二つになった。わお。
こんなすごいものを解体に使っていいか少し悩んだが、使い勝手はよさそうなので使わせてもらうことにした。
水魔術を使用しつつ、解体を進めていく。
知識とナイフの切れ味が合わさり、初めてとは思えない程の見事な解体だった。
マモンさんも感嘆の息を漏らしていた。
解体して見ると、肉だ。それもうまそうな肉だ。肉って肉だ。
インベントリにしまえば腐敗を気にすることもないのだが、新鮮な内に食べたいと言う欲求にかられる。
もう我慢できないよおっさん。
「ヨシオさん。私お腹が空いたなって思います」
ペロっと舌を出す。
エーリンさんも我慢できないようだ。くいしんぼさんめ。
「マモンさん。ここで昼食にしませんか、このボアバーキの肉で私が調理しますので」
「よろしいのですか、ボアバーキの肉は人気がありますから、町で売ることもできますよ」
「解体していたらお腹が空いてしまって、これは自分用にして食べてしまおうかと」
「そうですか、それならお言葉に甘えます」
「じゃあさっそく準備しますね」
ボアバーキの肉、部位は背中辺りを3人分切り出す。それと脂も少々。
残りの肉や毛皮はインベントリにしまう。
そしてインベントリから、
『ヒヒイロカネのフライパン』 種別:槌 ランクA
ヒヒイロカネの合金で作られたフライパン。軽い、頑丈、錆びない。
を取り出す。……武器のカテゴリなんだね。
確かに殴られたら痛そうではあるが。
マモンさんから塩を少々分けてもらう。胡椒も欲しかったが、胡椒は値段が高く旅に持ち歩く代物ではないらしい。
仕方ないので塩のみで調理する。といってもシンプルに焼くだけだ。
中級火魔術『フレイムアンカー』を使う。
この魔術はファイアボールと違い、魔力を注ぎ続けることによって火を持続させることができるらしい。
魔力の注ぎ具合によって火力調整も可能だ。それを使ってフライパン下に火を灯す。
フライパンに脂を敷き、頃合いで肉を投入。
香ばしい匂いと音をさせて3人の顔が緩む。
「ヨシオさん!ハヤクハヤク!」
エーリンさんが急かす。
マモンさんも声には出さないが、辛抱たまらんといった表情だ。
もうちょっと待ってなさい。気持ちはわかるけど。
間もなくして肉が焼きあがり、各自の皿に配膳する。
『ボアバーキのロースステーキ』の完成だ。
やばい、匂いだけでご飯がいくらでも食べれそうだ。
ナイフとフォークを使い、一口大に肉を切る。
柔らかい。そして肉汁が滴る。いつかの食レポを見ている気分だ。
生唾を飲み込み、一口。
――うまい。うますぎる。口から竜でも飛び出てきそうだ。
塩を振りかけただけのステーキがこんなにうまいとは。
こっちに来てからの料理がアレだったということを差し引いてもこのうまさはやばい。
それと同時に口惜しさも感じる。なんせお米がないのだ。
ああ、ここに白飯と漬物の1つでもあれば言うことはないのだが。
2人を見やると、マモンさんは恍惚な表情をさせてじっくり味わっている。
エーリンさんは小さく切ってあげた肉を人族用のフォークで「ふもっふっ!ふもっ!」とガツガツかきこんでいた。
見ていて微笑ましいが、品位もなにもあったものではない。
しかし2人にも気に入って貰えたみたいでなによりの昼食だった。
その日の夜もボアバーキの肉を焼いて食べた。
エーリンさんは食べ過ぎて空を飛べなくなる事態に陥ったが、些細な事だ。
旅は順調。予定通り行けば明日の日が暮れる前には到着できるとのこと。
町についたらお米を探そう。絶対に。
3日目。
昨日より随分調子がいい気がする。おいしい肉のおかげかな。
エーリンさんは朝には元の体形に戻っていた。よかった。
朝食を済ませて、何も起こらないで欲しいと祈りながら馬車に揺られる。
時計を見るともう昼前だ、順調過ぎてあくびちゃん。
――が、そうは問屋が卸さないと馬車が止まる。
「どうかしましたか?」
御者を務めるマモンさんに問いかける。
「勇者様、あれを」
マモンさんが道の先を指す――と、そこにはうつぶせに倒れている人がいた。
ピンク色の髪、遠目にも随分露出度の高い服を着ているとわかる。女性だ。
……なんというか、とてもセクシーです。はい。
魔力探知するとかすかに魔力が感じられる。生きてはいるようだ。
「行き倒れですかね?」
「わかりません。盗賊の罠かもしれませんな」
「どうしましょう」
「勇者様にお任せします」
丸投げですか。そうですか。
仕方ない、とりあえず声を掛けてみることにする。
盗賊の罠とやらであれば倒せばいいだろう。
行き倒れならほっとけないし。
「エーリンさん、ちょっと見てきますのでここで待っててもらえますか」
「何言ってるんですか、私も行きますよ」
「危険かもしれないですし」
「大丈夫ですよ!その時は飛んで逃げますから!」
1人だけ離脱宣言。私はどうなる。
「じゃあ行きますよ」
ゆっくりと道を歩く、再度魔力探知しても辺りには彼女の他に気配はない。
大丈夫っぽい?
考えている内に彼女の所まで来てしまった。
んー、後ろからみても過激な服だ。この世界にもこんな服があるのか。
ピンク色の髪も珍しい。2つにくくってポンポンの様になったツインテールが何とも言えない。
おっと、見惚れている場合じゃない。落ち着けおっさん。
「あの、大丈夫ですか」
反応はない。どうしよう。
触ってもいいものか。
しかし、肩も腰も腹も足も露出しており、触ったらセクハラだと訴えられる気がする。
いや、これは人命救助だ。必要なことだ。場合によっては救命処置も辞さない。
「大丈夫ですかー。おーい!」
エーリンさんに先を越されてしまった。無念。
というかエーリンさん、触り過ぎでは、え、そんなところまで、おっさんには刺激が強いよ。
やれ、もっとやれ。そこだ。
エーリンさんが彼女の横乳をぷにぷにする。じーざす。
「んっ……んんっ……」
声がする。色っぽいですね。ありがとうございます。
と、仰向けになった彼女、先程まで押さえつけられていた胸が解放される。
胸元も露出がすごい。そしてめちゃくちゃ可愛い。ていうかこの人、
「お腹……空いた……」
間違いない。ギャルです。
ギャル×おっさん=無限大。




