第2話 異端者の襲来
玲は家に帰るため、行きと同じくモノレールに乗って窓から外を眺めていた。
夕日が綺麗だった。
夕日は高層ビルを通過するたびに見え隠れして、それに合わせて車内は明るかったり暗かったりを繰り返した。
玲は夕日に照らされながら先ほど学園長から言われたイレギュラーという言葉が脳裏に焼きついて離れず、朝よりも酷い顔つきだった。
「もー、どうしたんですか?険しい顔をしてますよ?」
不意に声が聞こえた。
「ふぇ?」
不意の出来事だった為か玲は状況を理解する前に間の抜けた返事をしてしまった。
「くすっ。榊くんらしくないですよ!さ、もっと元気だしてください!」
「あ…ああ、」
「本当に大丈夫ですか?もしかして体調悪かったりします?」
心配そうに玲の顔を覗き込む聖。
「大丈夫だよ。それに小鳥遊には関係のないことだからさ」
聖はムッとした顔で見据えてきて、こう言った。
「関係なくないですよ。榊くんとこうして知り合っておしゃべりしてるんです。もうれっきとした友達同士ですよ!ふふっ」言いきった後に聖は微笑んだ。
「それもそうか。ありがとな小鳥遊、でも、、ごめんな。やっぱ俺、友達にはなれない」玲は何かワケありな感じで言った。
「どうしてですか!?わたし、何か榊くんに嫌なこと言っちゃいましたか!?もしそうならごめんなさい」
聖は必死で謝る。
「違うんだ、小鳥遊。お前は別に何も悪いことは言ってない。ただ…」
「ただ…?」聖は繰り返す。
「昔、ちょっとな……」玲の顔は辛さと悲しみでいっぱいの顔だった。
聖もこれ以上は詮索してはいけない気がしたのか、これ以上は聞かないことにした。
そんなとき、駅に着いた。
「じゃあ、俺ここだから」
「わたし、この駅ですので」
息がぴったりだった。
「「え?」」
少し間をおいて2人同時に驚いた。
「小鳥遊ってこの駅だったのか」
「そう言う榊くんもこの駅だったんですね」
ちなみに言っておくとエクリプスの駅は9割が高層ビルの一部の階を改装して造られており、他の階は一般の住居だったり店があったりする。玲の家もこの駅のビルの一階上にある。
改札を出て上に行く為のエレベーターがある。そこへ行くには住人登録をした者しか通れないゲートがあるのだが聖もここを通った。
「えっと…その、もしかしてさ…」玲は半信半疑で聖に問いかける。
聖も察したようで、すぐに答えが返ってきた。
「はい、そのもしかしてですよ!」
「あのさ、俺が何を聞こうとしてたかわかったの?」
「同じ階の二部屋となりじゃないよね?って聞こうとしてたんじゃないですか?」
聞こうとしていた事を一言一句間違えずに言い当てたので、玲は思わずツッコミを入れた。
「エスパーか!お前は!!」
「えへへっ、それほどでも」
「褒めてねーよ!…しかしまぁ小鳥遊がこんな近くに住んでるとはなあ、驚いたよ」
「これでいつでも遊びに行ったり来てもらったりできますね!」聖はにっこりとして言った。
「改めてじゃあな、小鳥遊。また明日」手短にあいさつした。
「はい、榊くん!また明日!」聖は元気いっぱいにあいさつを返した。
部屋に入って玲は買いだめしておいたカップ麺を食べるため、湯を沸かす準備を始めた。玲は幼い時に両親を亡くし、今では一人暮らしなのだ。
3分と経たないうちに湯が沸いた。早速カップ麺に湯を注ぎ、3分待つ。3分待つ間、玲は色々と思い悩んでいた。
具現者の歴史が始まって以来、初の神属性持ちで武器として使用できる漆黒のEデバイスを発現したが、それと同時に従来の常識が通用しないのではないかという不安もこみ上げてくる。
それに明日から使用者に合わせて調整されたEデバイスを譲渡され、正式に所持・使用が許可される。それに戦闘力別にクラス分けをする為の模擬戦が控える大切な日でもあった。
そんなことを考えていたが、ふと時計を見るともう4分も経っていた。さすがに麺がのびることはないが、食いどきを逃した気分になった。
ズーズーと麺をすすり、ものの1分で完食してしまった。
「さて、寝るか」
部屋は決して狭くないが、家具を詰めて置いたせいでけっこう窮屈にみえる。そのため、よく使う家具は寄せ集めてあるのだ。食卓テーブルもどちらかといえばちゃぶ台に近いタイプのものだった。ベッドは食卓テーブルからぴょんと跳ぶだけでダイブできる距離だった。
ベッドに入って玲はすぐに眠りに就いた。
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気がつくと玲は、周りが火に焼かれている建物や崩れ落ちた状態のエクリプスにいた。
目の前に何かが見えてきた。人が2人。そしてその奥には黒い巨大な影。
だんだんとはっきり目に映ってきた。
よく見ると、今は亡き両親の姿と奥には巨大な竜が2足で立ち、ずっしりと構えていた。
竜の見た目は全体的に鋭い黒の鱗で覆われており、2足2腕、そして巨体を覆うほどに大きな4枚の翼、太い尾は先端で三又に別れ、腕の外側面には肘あたりまでのびた斬れ味の鋭いブレード状の発達した鱗、膝には角のように鋭い棘があり、頭部には1本の角が鼻と両目の間に生え、鋭い牙が並ぶ口、首から尾にかけてはいくつもの棘が生え揃っていた。
その竜は片腕を振り上げて、振り下ろして玲の父から引裂き、次に母を腕のブレードで斬り裂いた。
玲は恐怖と悲しみで絶叫した。
「うあああああぁぁっ!!ああぁあぁぁぁぁっ!!」
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「はっ!」玲は冷や汗をかいて目を覚ました。
「嫌な夢を見たな…」
夢のせいで食欲も失せていたところ、ピンポンとチャイムが鳴った。だれだよと思いつつも、出てみるとそこには聖が立っていた。
「もう遅刻しちゃいますよー。急いでくださーい!」
そう言われて振り返って時計を見るともう8時10分になろうとしていた。学園の校門が閉まるのが8時半。
幸いなことに今から急げば間に合いそうだった。
玲は急いで着替えを済ませ、鞄を持って部屋を飛び出して施錠して聖とホームまで走って、モノレールに飛び乗った。
「はあっはあっ…」
寝起き早々に走った玲は肩で息をしていた。
「なんとか間に合いましたね、はあっはあっ」
「あ、ああ」相槌をうち、同時に頷いた玲。
呼吸が整ったので聖と会話をしていた。
「今日はいよいよクラス分けと模擬戦ですね!それと一緒のクラスになれたらいいですね!」
「ああ。確かにその方が楽でいいな」
それを聞いて聖はぼそぼそと愚痴をこぼす。
「もぅ、そういう意味で言ったんじゃないのにぃ…」
「ん?今なんか言った?」よく聞こえなかったので聞いてみた。
「なんでもないです…」
「??」鈍い玲だった。
学園前駅に到着して改札を出て、学園に入ると生徒会っぽい人から声をかけられて、聖だけ受験番号を聞かれて、そのまま聖はその人の案内に従ってどこかに行ってしまった。
受験番号を聞かれたのは聖だけかと思い、周囲を見回すと、みんな番号を聞かれていた。
自分だけ聞かれないということは何かあると思って、別の人に聞いてみた。
すると、「ああ、君が例のデバイスのね。君は学園長室に行って自分のEデバイスを貰うといいよ」
そう言って学園長室への道を教えてもらった。
ぶっちゃけ言って学園長室の場所は昨日行った時に覚えていたから教えてもらわなくても行くことができた。
「失礼します!榊です!」とノックしてから学園長室に入る。
「やあやあ。久しぶり〜、玲くん」相変わらず軽かった。
「玲くんってなに?ていうか昨日会ったのに久しぶりってなんですか」
「やだなぁ〜、ただのアメリカンジョークじゃないか!」
「どこらへんがアメリカンなんですか?」
「ぐぬぬ…」
言葉に詰まる時雨。
「ま、いいさ。んじゃ早速、Eデバイスを渡すからちょっと待っててね」
一旦部屋を出ていき5秒くらいで、なにやら箱を持って戻ってきた。
「お待たせ〜、これが玲くんのEデバイスだよ〜」
箱を開けるとこの前発現した時と全く同じ剣のついた漆黒の2丁拳銃とそれを収納しておくための革ケース付き腰ベルトが入っていた。
「これは…」
「さ、つけてみてよ」と学園長。
言われるがままベルト穴にベルトを通し、剣付き拳銃2丁を左右のケースに収めた。
「様になってるじゃないか、玲くん」
「そうですか?…ていうかその玲くんってのはどうにかならないんですかね?」
「うん、ムリ!」見事なまでのスマイルで返されてぐうの音も出なかった。
「早速模擬戦に行っておいでって言いたいところだけどもう1つ言っておくことがあるんだ」そう言うと昨日の如く、険しくも真面目な顔つきになった。
「君のEデバイスの名前は“デュアル・ゼロ”だよ。そして具現化するものは翼と尾みたいだよ。昨日、君が帰ってからそのデバイスに記録された君の具現するものを解析した結果、そうなった」
更に続ける学園長。
「君の神属性は光と闇の融合された属性だ。だからそれぞれの相反する性質を最大限に発揮できる。闇属性は光以外の属性を吸収し、その攻撃を記憶、ストックができて、自分の技とする。逆に光属性は闇以外の属性を反射したり、打ち消したりする。そして、光属性の攻撃の多くは特殊攻撃だ。光の鎖で相手を束縛したり、強烈な閃光を放ち目眩しをしたりね。
まあそれぞれ単体でも充分すぎる効果を持ってるんだけどね。闇は炎、水、木、風に強く、光は土、雷、金、氷に強い。事実上、全属性に耐性があるようなものだよ」
「話が長くてイマイチ理解できないんですが…」と玲は言った。
すると学園長はこう言った。
「わかりやすく言うとね、君は事実上、最強の具現者なんだよ」と。
「さ、わかったら模擬戦に行った行った!ちょうど君の対戦相手が待ってる頃だよ。あっそうだ、最後に1つ。Eデバイスを起動するときはこう言うんだ“具現化”ってね」
と背中を押されて闘技場まで走る。
けっこう焦って走ったからか闘技場までの風景は覚えていなかった。
ーー闘技場についた。
「遅れてすみません!」到着早々に謝罪する玲。
「いいよ、別に。俺は加藤だ、模擬戦だが全力でいかせてもらうぜ!…えっと..」
名前を知らなかったらしいので玲は名乗る。
「榊 玲です」
「そんじゃ改めて!模擬戦だが全力でいかせてもらうぜ!榊!!」
加藤がそう言った刹那、突然空が曇り、そこから禍々しい姿をした怪物、異端者が現れた。
「キ、キメラだぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!!!」観客席の誰かが叫んだ。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!!!」
「うわあぁぁぁぁぁーーーっ!!!」
それに共鳴するように次々と悲鳴が聞こえる。
闘技場の観客席の生徒は混乱して急いで闘技場から出ようとしていた。そして対戦相手である加藤の顔は青ざめ、腰を抜かして冷や汗をかいて、口がカタカタ震えていた。
玲は今朝の悪夢を見たせいもあってか、人を傷つけられたり殺されるのは嫌だという気持ちが、いつにも増して強かった。そして両手をクロスさせて左右のEデバイスデュアル・ゼロを抜いた。
そして右足を立てて、ひざまづいて左腕のデュアル・ゼロを右斜めに地面へ突き刺し、右腕のデュアル・ゼロを天へ左斜め後ろにかざし、Eデバイスを起動する。
「ーー具現化!!!」