第1話 少年と漆黒のEデバイス
ここは世界有数の大都市、エクリプス。
辺り一面に広がっているのは高層ビル群だ。どこを見渡しても一軒家など存在しない。
この都市は終焉以降に構築されたものだ。他の大陸の都市と唯一違うのは宙に浮いている事。とはいっても空高く浮いている訳ではなく、せいぜい地面すれすれ程度のものだが、ここエクリプスは地面の上ではなく海の上に存在する。
海の上に存在する理由は地震を回避するという目的が第一だが、ほかにも常に最良の気候条件を保持するというものがある。エクリプスは海上を移動できるのだ。
そんな大都市エクリプスの中枢には巨大な塔がたっている。展望台が付いているような観光用のものではなく、この都市を浮かばせ移動させる為の装置だ。
この世界には終焉以降、未知のエネルギーであり、具現化を使用するための力の根源、顕現力という物質が溢れ出るようになった。
ちなみに具現端末はそのエナを消費して使う。
エクリプスにはビルとビルの間を縫うように走るモノレールがある。
走っているモノレールの中には養成学校前駅行きがあるのだが、今ちょうどこれに乗っている少年は名を榊 玲という。これから養成学校の入試に向かうところだった。
「試験、不安だ…受かる気がしねぇ」
車窓からぼーっと外を眺めながらぼそりとネガティブ発言をこぼす玲。だがその発言に返事が来た。
「わたしも不安です…お互い頑張りましょう!
あ!す、すみません!勝手に話しかけてしまって…」
と少女は言った。
玲は声の主に目をやるとあっという間に赤面した。
なぜなら声の主が相当な美少女だったからだ。さらりとなびく金髪に見つめると吸い込まれそうになる綺麗な蒼眼。肌も柔らかそうな印象を受けた。
対して玲は長くもないがかといって短髪でもない普通の髪型で銀髪、瞳の色は赤い。とても黒髪黒眼の両親から生まれたとは考えにくい容姿だった。
「あ…いや…いいんだ」今にも泳ぎだしそうな目を必死にこらえていた為、返事がぎこちなくなったが少女の謝罪を受け入れる。
「よかったぁ〜!許してもらえなかったらどうしようと思ったから…でも許してくれてありがと!」
そんなやりとりをしていると車内にアナウンスが流れた。
「まもなくー、養成学校前〜、養成学校前〜、降り口は左側です。開くドアと足元にご注意下さい」
「もう着いたみたいだね。さ、行こう」と玲は誘う。
「うん」と少女は答えた。
駅を降りて改札を出てすぐに学園の敷地内だった。
「じゃ、わたしこっちの会場なんで!…あ!!自己紹介忘れてました!わたし、小鳥遊 聖って言います!」と言ったので玲も自己紹介する。
「俺は榊 玲。よろしくな、小鳥遊」
「うん!!」とびっきり大きな返事を返された。
早速試験会場の検査室に向かう。検査室はデータ分析用のモニタなんかがごちゃごちゃ置かれていた。玲はそこでEデバイスの適性検査を行列の後ろの方で待っていた。前にいる受験生達は次々と適合し属性も付与されていった。5、6分待つといよいよ玲の番になった。玲は最後尾というわけではなかったが、いつの間にか真ん中あたりに並んでいたから順番が来るのを早く感じた。
早速試験だ。装飾品型のEデバイスは触れようとした瞬間に電気が見えたので急いで銃型のEデバイスに変更してもらい適性検査に臨んだ。適合率は98%と非常に高く、良しと思ったのも束の間の事だった。ここで1つの問題が生じた。
“Eデバイス使用者への属性が付与”がなされていないのだ。本来、Eデバイスと適合した場合は属性が何かしら付与されるのだ。ちなみに属性とは炎、水、雷、風、氷、土、木、金、光、闇、からなる10の属性が存在する。
だが玲の場合は適合率は非常に高いのに属性がまだ付与されていなかった。検査員は不思議に思い、試しがてらもう1つ銃型のEデバイスを玲に渡した。すると属性が発現した。属性がモニタに表示されるなり検査員は目を見張った。
未だかつて存在しなかった第11番目の属性….“神属性”が発現したからだ。
そして完全に適合し、Eデバイスの形が変化した。
武器型Eデバイスは高い適合率で適合すると使用者に合わせた武器に変化するのだ。装飾品型は主に色や装飾が変わる。そしてEデバイスは使用者の属性とマッチしたカラーリングになる。だがしかし、玲のデバイスは漆黒の銃に金の模様が入っているものだった。
変化したEデバイスはリボルバー型拳銃となり、ヨークと呼ばれる回転弾倉と銃身を繋ぐ部分からは剣が伸びていた。剣は銃口より5センチくらい長かった。
じっくりと自分のデバイスに見入っている玲だったが、検査員に声をかけられて我に返った。
「君、後で学園長室に来てもらえるかな?案内するから心配はいらない」
「……学園長室の場所よりもどうして学園長室に行くことになったかってことのほうが心配なんですけど」
ぼそっと言った。
「ん?何か言ったかい?」
「何でもないです…」
聞き逃したようだったので諦めた。
カツカツと学園の廊下を検査員と一緒に歩く玲。
「あの、どうして俺はこんな事になったんですか?」
「お前は前例が無いイレギュラーな存在だからだ。
デバイスの色が黒なんて今までになかったことだ。
属性のついたデバイスは炎なら赤や橙系、水や氷なら寒色系、雷は黄色系、風や木なら緑系、土は茶色系、光は白系で、闇は紫系の色になるのに加えて、うっすらと発光するんだがお前のデバイスは漆黒で金の模様が入っているし、全く発光していないんだよ。不思議なもんだなぁ」と長々と話した検査員。
「おっ、着いたぞ。ここが学園長室だ」
そう言うと扉をノックする。
「連れてきました!」
「どうぞ〜」
学園長室の中はソファや大量の本棚に入った本があった。扉の直線上には教壇があり、そこに座っている人物。
「初めましてだね。私はこの学園の学園長兼生徒会長
を務めている一之瀬 時雨。よろしくね、榊 玲くん」
「こちらこそよろしくお願いします」
「そうかしこまらないで、もっとくだけた感じでいいんだよ?」
このとき玲が感じたのは言うまでもなく学園長の軽い口調と顔の幼さ。俗に言うロリ顔であるが、出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んでいた。
「今、なにかやましい事でも考えてたんじゃないよね?」
「い、いえ!そんな事はないです…」
「そっか。ならいいけど♪」
そう言った刹那、急に学園長の顔つきが険しくなり、口調もきつくなる。
「ーーさて、本題に入ろうか」
「君をここに来させたのはわかってると思うけどEデバイスの事だよ。そもそもEデバイスは例え武器型のものでも武器として使うのは不可能なはずだったんだけど、君が発現した2丁拳銃は短剣としても銃としても使う事が可能だとモニタに出たんだ」
「モニタ?でも学園長はあのとき検査室にいませんでしたよね?」
「なに、簡単なことだよ。すべてのコンピュータやモニタのデータはこの学園長室のパソコンに繋がってて閲覧できるんだよ」
「そうだったんですか」
コクっと頷くと学園長は続ける。
「驚いたのはそれだけじゃない。君の持つ新属性である神属性の事だよ。光属性と闇属性の複合属性なのは事実なんだけど、どうやら光属性と闇属性の複合属性ってだけじゃないみたいでね、まだデータしかとってないから確かじゃ無いけどデバイス展開と同時に戦闘服に切り替わる機能があるみたいなんだよね」
「まったく、とんでもないイレギュラーだよ、榊くんは。ま、とりあえず今日のところは帰ってゆっくり休んでよね」
「…わかりました。失礼します」
そう言って玲は家への帰路についた。