王都の異変
「止まれ! 何者だ!?」
甲高い声で、一人の兵士が場所止める。
「……俺だが……」
馬車に並走していた馬の上からクイエト王子が声をかける。
「クイエト王子……本人ですか?」
疑念の瞳でクイエト王子を見る
「当たり前だろ? 何を言っているんだ? とりあえず通るぞ。 リューフェス兄貴やオヤジに話がある」
「ハ、ハイ……! わかりました……?」
なぜか疑問形のまま、その兵士は敬礼し、王都の門が開かれる……
パシャパシャ!!
ハヤトがスマホを使い何かをしている。
ハヤトの手の中のスマホには、いろいろな紋章や絵が現れては消えていく……
その中には先ほどの兵士の姿も……
「かわいこちゃんゲット!」
異世界の感覚はよくわからない……時々、あのスマホの中に出てくる絵には、俺……というか、ニナやアーニャなどの姿もある……
「何だったんだ? ――第一、あいつは……誰だ? あんな女の兵士、門番にいたか?」
タタタタタ……
「――?」
フト、疑問を感じ、そばでゴーレムに命令して門の開閉を指揮している兵士を見る――王都兵士の一般的な鎧を身につけているが、成長期前の体に合っていないらしく、苦労しているようだ――
「……この世界じゃ、あんな少年でも兵士として働いているんだね」
ハヤトが感心してそう言う。
「……あれくらいの年代なら学院で勉強していなければおかしいはずだぞ……」
何かおかしい……
ホリアと共に、ジェシカ姫救出のため聖女の神殿に行く前はこんな違和感を感じることがなかった。
こけおどし用のゴーレムがいるとはいえ、王都の門番というものはそれなりの重要ポジションである。
実際、以前王都に入る際に出会った門番は、兵士の中でも屈強な男性ばかりだったはず。
――こんな女性兵や少年兵に門番を任せるはずがない――
「……あとで相手の名前と所属を調べておいてくれ……」
クイエト王子もそう思ってるらしく、部下の騎士に小声でそう命令していた――
「「「……!?」」」
王都の様子が、おかしかった……
どこがどう、とかはわからない。
「――今日は何かの祭日? 開いてるお店が少ないけど……」
アーニャがきょろきょろとあたりを見てそう言う。
「店……武器と防具の店と、魔法屋は定番だよね! あ、魔法屋には道具をいくら入れてもかさばらないマジックバックとか言うもの置いてない?」
「収納魔法で物を小さくしていれることのできる、マジックボックスのことか? あれは戦士や騎士などの間では評判がものすごく悪いぞ」
俺は昔の仲間が使っていたマジックボックスを思い出してそう言う。あれは一抱えほどの大きさの箱に小型の馬車一台分ぐらいのアイテムを小さくして持ち運べると言うものだった。
確かに遠出する時などは便利ではあるのだが、街中にある店舗等にはほとんど持って入れない。
「店舗の商品を小さくしてマジックボックスの中に放り込み盗むという被害が多発したらしくてな。ほとんどの店舗で入り口にマジックボックス等の収納魔法を打ち消すマジックキャンセラーを設置してあるんだ。だから、マジックボックスを持ったまま店舗に入ろうとすると、中身はが元の大きさに戻って散らばることになる」
「それを防ぐために、マジックボックスは仲間の一人に預けて、買い物するというのが普通なのね――大抵は、新米の戦士の仕事になるし、それ専門の戦士もうちのお母さんの戦士派遣協会に登録されていたわ」
「大抵、一番嫌われる仕事だな。マジックボックス当番というやつは」
ハヤトは俺とアーニャの説明を聞いて呆然としていた――
「何か、ネット小説とかじゃマジックバックって便利アイテムとして必ず持ってるようなものだったのに――」
「あのなぁ、便利なものだと言っても犯罪に使われるような危険性のあるものを何の対処もしないまま放置しておくなんて、普通しないだろう? あるとわかっているものに対策をしないのは、愚かを通り越して自殺行為だぞ」
「何かしら犯罪に使われるような危険性なる魔法は、必ず反魔法が作られるの――確か、魔法学院にはそういうものを専門に開発する部門があったはずよ」
その通りだ――
「……そう言われれば、魔女ハピレアの洗脳も、反魔法が作られているはずなんだよなぁ……」
「でも、反魔法は一般的に広く知られてる魔法を重点的に作られている――ハピレアの洗脳は使える人間は少ないし、さらには他者にかけて試してみるわけにもいかないだろう。だから反魔法の開発が遅れていたんだ」
馬車の横から、クイエト王子が説明してくれる。
「あの部門の責任者は一応、シュレアとなっている――といってもあいつは自分の魔法ばかり開発してる奴だから、すでにある魔法の反魔法を開発なんてしていないと思うぞ」
現王の三男シュレア王子――魔法にかけては国内最高と言われているエルライヤ師匠に次ぐ魔法使いだと言う。ただ、以前に会ったときもそうだが、かなり自分勝手な人間という感じがする人だった。
「……あいつとは、母親が違うからな俺は――かといって、それで理解できない、などと言うことはないはずだが……」
「確か、シュレア王子には父親違いの家族がいたという噂がありますけど、そこら辺の事は――?」
「アーニャ!! そんな王宮ゴシップネタ、どこで仕入れてきたんだ!?」
今回の旅で、アーニャとクイエト王子の差は、大分縮まっていたらしい。だが、聞いていいことと悪いことがあるだろう。
「シュレアの母親は自由奔放な魔女だった――あいつ自身はどう思ってるか知らないが、俺はそんなことであいつを差別するつもりはない――」
現王の王子たちははっきり言って仲いい……俺自身は兄と――エルトの兄だ、とは決して良い間柄とは言えないから、少し羨ましくもある。
「お、ついたぞ。レグリーム伯爵の別邸だ。とりあえずニナ嬢の家族に元気な姿を見せておけ」
「ああ、ついでに、ハヤトの力でレグリーム伯爵夫人とムヴエ、トウカの洗脳が解ければいいんだけど――」
バタン!!
そうこうしているうちに馬車の到着を誰かが知らせたのだろう、別邸の扉が勢い良く開かれる!
「おおっ!! 可愛いメイドさんだ!!」
ハヤトが歓喜の声を上げる――ホリアに対してもそうだったがハヤトはメイドが好きなようだ――
――しかし――
「なんで、あんたがここでメイドなんか、しているんだ!?」
俺は大声で叫んでいた――それは、アーニャやクイエト王子も同じだ――
そこにいたのは、俺と――いや、ニナと同じくらいのメイド服を着た少女――
しかし、本来であれば彼女は伯爵家のメイドなんかやっているはずがない!!
「おかえりをお待ちしておりました――」
彼女の後ろから燕尾服を着た青年が現れる――
「おい!! 何の冗談だ!?」
「執事さんかな? 結構若いな」
その青年を見たクイエト王子が驚愕の声を上げる――戦場において豪胆な戦い方をする王子も驚く時はすごく驚くようだ――
「ニナお嬢ちゃん、いったいどうしたのですか?」
「ニナお嬢ちゃん、一体何を驚いているの」
執事姿の青年とメイド姿の少女がにっこりと笑ってこちら会釈をする――
「お、お前らは――いったいどうなっている!?」
「「は?」」
二人は、訳が分からないという風に微笑む――
「何を言ってですか? 私はレグリーム家に仕える執事のトウカです」
「私はメイドのムヴエだよ!」
「な!?」
「はい!?」
「冗談だろ!?」
「へぇ、こんな可愛いメイドさんや執事がいるって、ニナちゃんってかなりいい家のお嬢様だったんだね」
ハヤトの言葉は入ってこない――
なぜなら、ムヴエと名乗っているメイド服の少女はどう見てもそんな身分では無いはずの少女――正しく言うならば、公爵令嬢、そうニナにライバル宣言をしていたウルマ・シェル・ロックフォード公爵令嬢だったからだ――
そして、トウカと名乗っている執事の青年は、やはりそんな身分にあるはずがない人間、クイエト王子の弟であり、この国の第四王子であるドレッグ王子だったからだ――
「いったい、何があったんだ!?」




