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見てくれ『だけ』を魔女に惚れられて  作者: すしひといちなし
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レグリーム伯爵家の朝

『魔女ハピレア!! 覚悟!!』


 俺と仲間たちは魔女の館に突入する――


『どこにいる!! 魔女ハピレア!!』

 俺はキョロキョロと魔女の館を見渡す――

『魔女は、どこだ……?』


『どこにもいませんわね』

 武道家、ムヴエが俺の隣にた……

『ムヴエ、お前なんか……』

『どうしたの? エルト……私、なんか変?』


『変というか……』


『どこもおかしなところはないぞ』


 ヒーラーのトウカが横に立つ、だけど……


『なんか、違和感が……』


『どこもおかしいところなんて、ないよ?』


 カシムがいう。


『お前――も……』


『魔女が来るぞ!!』

 トウカの声が響く。見ると、館の奥に二人の人影が見える――


 魔女ハピレアと、もう一人……あれは……?


『お、俺!?』


 魔女ハピレアのそばにいたのは、俺――エルトだった――!!


『なんで俺があそこに!?』

『……何言っているのニナちゃん? あそこにいるのは魔女ハピレアとその恋人のエルトでしょ!?』

 ムヴエが、いう……いや、待て……今、ムヴエは……何かおかしな事を言わなかったか?


『どうした? ニナちゃん?』

『魔女と戦うんだろ? ニナちゃん』


 トウカも、カシムも、ムヴエも何を言っているんだ?


『ふざけるなよ! 俺はエルトだ!!』


『何を言っているんだ? エルトは俺だ』

 魔女の隣にいた男がそう言う。


『はぁ!? 何を言っている!?』


『わからないの~~? エルトは私の恋人で、あなたは可愛いニナちゃんだって事を~~』


 魔女がそう言ってくる――!!


『な……』


 慌てて、俺は自分の体を見る――

 長い髪、ほっそりとした腕、少し膨らんだ胸、何もない股間、それは、俺の体じゃない――少女、ニナの体だった――!!


『―――――――っぅわぁ!!』



「あああああっ!!」


 ガバッ!!


 俺は、布団を弾き飛ばし飛び起きる――!!


「ぜ~~、ぜ~~」

 息が荒い。仕方ないあんな悪夢を見てしまったのだから。

 悪夢……? いや、違う……違うぞ……


「あ、ああ……」


 目を覚ました俺は、絶望に、言葉の漏らした……


 俺は自分の胸を押さえているはずだ。胸には、自分の手がそれを抑えていると言う感覚がある。だが、手からは、柔らかいものを抑えていると言う感覚が伝わってきているのだ。

 本来の俺の胸は厚い筋肉のついた胸板であって、柔らかい感触などないはずなのに――


「く……くそう、魔女ハピレアめ!!」


 自分のものとは思えない、高く柔らかい少女の声で、俺は悪態をついた――




 レグリーム伯爵領の街に住む住人のほぼ全員が、魔女ハピレアによって洗脳されたあの夜俺は、俺は……


「あなたの大切にするように、ハピレア様から言わいますので」

「そうだぞ、ハピレア様の命令があるからこそ、お前をちゃんと扱えるんだ。本来なら娘の体を奪ったお前を屋敷に連れ帰などできないのだから――」


 レグリーム伯爵夫妻は、そう言って魔女を追おうした俺を押さえつけた。


「さあ、ニナ。屋敷に帰ろうか。愛しき私達の娘として」

 レグリーム伯爵が俺を……ニナの小柄な体を抱き上げた。

「君たちも我が屋敷で我が娘ニナの世話をしてもらおうか。ご覧の通りとてもおてんばな娘なのでね」

 レグリーム伯爵は、トウカやカシム、ムヴエにそう、このかけていた。

「わかりました」

「よろしくお願いします」

「ボク、頑張るね」

 三人は、レグリーム伯爵にそう返すと、にっこりと俺に笑顔を向けた――


「さあ、ニナ。屋敷に帰るわよ」

「皆の者もご苦労であった! ハピレア様への感謝を胸に抱き、ゆっくりと休むがよい!!」

 レグリーム伯爵が街の住人たちにそういって、皆家路へとついてしまった。


「離せ!! 俺は、魔女達を殺さなきゃいけないんだ!!」

 喚く俺は結局何もできず、伯爵の屋敷に戻った後、伯爵夫人にベットに寝かされ、


「ねんねんころ~りよ~~おころりよ~~ニナはよいこ~だ~~ねんね~し~~な~~」


 ベットの上で伯爵夫人に子守唄を聞かされてしまい、やがて眠ってしまっていたようだ――――




「……くぅ、くそ!!」


 昨日の夜の事を思うと、また涙がでてくる――魔女の恋人として連れ去られた俺の肉体、俺の魂を閉じ込めたニナと言う少女の肉体――


「そしてここは、伯爵の屋敷の子供部屋ってことか……」


 あたりを見渡すと、豪華なベットがある豪華な作りの部屋だと言うことがよくわかる。そしてそのベットの周りには、可愛らしいぬいぐるみやおもちゃなどが置いてあった。

 また、何らかの勉強道具も見受けられる――


「そういえば、伯爵の娘の年齢は12、だったよな……そろそろ魔法学院へと入学する時期か……」


 この世界の人間は、全員がほぼ間違いなく魔力を持っている――持たない人間というのはごく稀にしかいない。

 それゆえ十二歳でどこかの魔法学院に入学し、適正を検査される――適性のないものは一年、または二年で学院を辞し、自分にあった職業にみつけていく――魔法と名の付く、またはそれが必要とされる職業に就くには最低5年は学院に身を投じなければならない――

 俺は6年、学院で学んできた――そして、魔法騎士となったんだ――トウカも、5年間、みっちりとヒーラーの勉強してきたと言っていた。


「それが、1からやり直し、かよ……」


 いや、そんな事はどうでもいいことだ。

 今の俺が考える事は、魔法学院再入学の事じゃない――


「どうやって魔女を倒し、元の体に戻り、仲間たちの洗脳を解く、だ……」


 それをやらなければ、俺はこのニナという少女を乗っ取ったまま生きるということになる――それは絶対に避けなければならない未来だ。




 コンコン……




「――?」

 ドアがノックされる――


「誰だ?」


 俺は不用意に声をかけてしまった。


 カチャ!


「お嬢様~~! お目覚めになりました~~?」


「――!!」


 ドアを開けて入って来たのは……


「ブッ――――!! なんだおまえは!!!」


 俺は小さな体の力の限り叫んだ――


「ハイ、本日付でお嬢様付きメイドとなりました、ムヴエです!」


 野太い声で、そう言ったのは、紺色のワンピースに純白のエプロンをつけ頭にホワイトスプリムをつけた、いわゆるメイド姿で入ってきたのは……筋肉ムキムキのごつい武闘家ムヴエだった――!!


「今日より、俺達二人がお嬢様付きメイドとなります……まあ俺は執事の方にしてくれと言ったんですが……」


 こちらも同じメイド姿となったトウカ……魔女によって変えられた男言葉はそのままだが、こっちはまぁ女性なので普通に見られる――


「……あ、髪を切ったのか?」


 よく見ると、トウカの自慢だった髪がバッサリと切られている――


「ああ、あんな長い髪うざったかったからな」

 どうでもいいことのようにいうトウカ――


「……本当に、変わってしまったんだな……魔女のために……」


 トウカは、いつも自分の長い髪を大切にしていた――トリートメントは必ずこなしていたし、枝毛一つで大騒ぎした事まであった――


「そんな大切なものを、あっさり捨てられるなんて――」

「ふ……いい男は過去なんて振り向かないのさ」

「トウカ……」

 ダメだ、また涙が出そうになる――


「あらあら、泣いちゃって。泣き虫だね、ニナお嬢ちゃんは! じゃあ特別に、お姉さんが元気の出るおまじないをしてあげるわ!!」


「ゲっ」


 にっこりと笑って俺におまじないとやらをかけようとする筋肉ムキムキの武道家ムヴエ――




「やっぱりお前の方が色々と失っているのは間違いない!!」


「ふん、ふふふ~~ん」

 俺の魂の叫びを、庭師として雇われたカシムが、鼻歌を歌いながら聞いていた……

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