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見てくれ『だけ』を魔女に惚れられて  作者: すしひといちなし
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少女たちのダッグバトル-2-アーニャ視点

 戦いというものは、人と何かが傷つけ合うものだ。


 その何かとは、例えば別の人だったり魔物だったり、怪物だったりする。


 そして戦いが終わった時に人は傷を負う――


「私は、お母さんの仕事場でそういう人たちを何人も見てきた」


 私、アーニャのお母さんは戦士派遣協会のレグリーム伯爵領支部で受付をやっているから、私も時々そこに行く――


 そこで、戦いというものに出会ってしまった人たちの末路を何回も見てきた――


 戦いに勝ったと言う人も、負けてしまったと言う人も――

 みんな必ずと言っていいほど傷を負っていた――


「エルト!! ニナの体を傷つけないって、言ってたじゃない!! どうしてこんなことになるの!? 考えなし!」


「そう言うな……」


 そう言うニナは、ニナじゃない。


 ニナの顔、ニナの声、ニナの姿をしているけれど、ニナじゃない。


 エルト、なんだ――


 エルトは戦士で、戦うのが仕事だ。何かあったら率先して戦う。

 でも、ニナは戦士じゃないんだよ!!


「戦うなんてやめてよ!! ニナの体を傷付けないで!」


「傷つけるなんてまねはしないよ!! お前たちは大事な商品だからな。傷でもついたら、奴隷商に高く売れなくなる!!」


 豪華なドレスを身にまとった、少女――あれがホリアさんの言っていたジェシカ姫らしい――が、私たちを睨んでそういう――


 魔女ハピレアが彼女を洗脳して盗賊にしてしまったというのは本当なんだ――


「私は、早くステージに戻って裸踊りをしたいんだけどね。だからさっさと終わらせるよ――『聖なる槍よ――セイントランス』!!」


 シャラララン!!


 聖女様がこちらに光の矢を放ってくる!!


「『氷の矢よ、アイスアロー』!!」


 シャリン……シャリシャリシャリ!!


 エルトの放った氷の魔法が、聖女が放った光の魔法を相殺させる――!!


「うむ、どちらも魔法が得意なようだな――こういった勝負は審判者としても見ていて嬉しくなる。さあ、少女たちよ! さらなる戦いを見せるがいい!!」


 ジャッジメントが無責任に煽ってくる――


「ジェシカ姫……」


 私たちが乗ってきた馬車のそばで、ホリアさんが泣きそうな顔をしている。


「ジェシカ様……」

「姫様……」

「姫君、どうか元の姫君に戻ってください!!」


「首領、傷つけずにお願いしますぜ」

「とらえた後、味見してもよろしいっすか?」


 ホリアさんの同国人らしい兵士たちが二つのグループに別れてジェシカ姫に声援を送る――


「見たら分かるだろ? あそこに封じ込められているルーンレイスを解放しないと、ジェシカ姫を始めとした魔女ハピレアに洗脳された人たちは元に戻らない! 彼らを救うためにも、ここで勝ってルーンレイスを解放する必要があるんだ!!」


 エルトはニナの体を操って戦いを続けようとする!


「ミレーニア!! リビングメイルの準備を頼む!!」


「わかったわ」


 ピシッ、ピシッ、クルクル、ガチャガチャ、ズシン!


 ミレーニアが宿っているリビングメイルが戦場へと乱入する!


「ほう、精霊を宿らせて使うゴーレムタイプのアイテムか。なるほど、人間の助力ならいざ知らず、一応アイテムと言う扱いだからな。吾輩も承認しよう――!」


 上空では翼をはためかせたジャッジメントがのんきにそう言っている。


「ミレーニア様、ジェシカ姫を傷つけることだけは絶対にやめてください!!」


 それと違って悲痛な叫び声をあげていたのは、ホリアさんだった。できれば、私やニナの体も心配してほしい……


「どうするつもりや? 今からうちと替わるか? 制限時間は5分やで」


「いや、俺が合図をしてからでいい――アーニャ!」

「何?」


「お前……闇の魔法、ダークボムは使えるか?」


「へ……?」


 私にはエルトが何を言いたいのかわからなかった。


「そんなのわからない」

「だろうな……」


 ニナの顔に真剣な表情を浮かべながらエルトはぼやく……


「なんだあれ? 鎧が勝手に動いているぜ!」

「あれは、精霊を宿らせているゴーレムの一種ですね~~たくさんあればバックダンサーに使えそう」

「へえ、それはまた金になりそうな話だな」


 ジェシカ姫が、その顔に邪悪な笑みを浮かべる――


「なら、他の商品と一緒に無傷で手に入れないといけないな! 『鎖よ彼の者を捕縛せよ! チェーンプリズン』!!」


 ジャラジャラジャラジャラ!!


 魔法の鎖が一斉に私たちに向かう――他の商品って、私たち!?


「『光の障壁よ、レインボーカーテン』!!」


 キーン!!


 エルトの魔法がジェシカ姫の魔法を防ぐ!!


「……ミレーニア、君は虹の精霊だったよな? だったらこの虹の障壁を継続させられるか?」


 エルトは防御の魔法を使いながら、ミレーニアにそう問い掛ける。


「うん? そのためにはこのリビングメイルから一旦出なあかんで」

 戦いの最中だと言うのにのんきなミレーニアの答え……お母さんの仕事場にくる戦士さんから聞いたことだけど精霊というものはそういうものらしい。


「頼む、アーニャを守ってやってくれ!」



 ………………………!!



 私は、何のためにここにのだろう?


「ニナを、守るため……」


 ニナは私の友達だ。


 今、ニナの魂は魔女ハピレアの手によりエルトの体と一緒に、魔女の手中にある――

 そして、体は……体を奪われたエルトの魂と共に魔女に奪われたものを取り戻すべく戦っている――


 ルーンレイスを手に入れたいのも、ルーンレイスの力があれば魔女ハピレアに洗脳された人間を元に戻すことができるからだ。


 それは、他ならない私が体験している事――


 魔女ハピレアの洗脳にとらわれた私は、私では無い私に勝手に体を使われていた――


『あら~~、あなたもお胸、残念ね~~』


 魔女ハピレアの何気ない一言にもう一人の私は、胸にこだわりを持つ人格になっていた――

 それ以外は、魔女ハピレアの奴隷――そんな感じの人格……


 彼女の言った、ニナを大切にするという言葉を遵守するだけの人格――


 私はそんなもう一人の私の行動を見ているだけだった。




 ――そのもう一人の私は、なぜか魔法が得意だった――




 習ったことも無い、見たこともない魔法をあっさりと使いこなしていた――

 ウイスや、他の子供たちも――魔法学院に行ったわけでもないのに、魔法の授業を受けたわけでもないのに、魔女ハピレアに洗脳された人間はなぜか魔法が使えた――


 今、私が……私本人があのときの魔法を使えれば、ちゃんとニナを……ニナの体を守ることができるかもしれないのに……




 今ニナは、障壁の魔法をミレーニアに託して行動を起こそうとしている――


「俺が、あの二人の注意を惹きつける――その間にもし可能ならば闇の魔法でルーンレイスの閉じ込められてる虹の魔法障壁を使った檻を破壊してくれ――ルーンレイスが解放されたらうまく誘導してあの二人に当てる――!」


 無理だよ――私はできない――

 私は首をフルフル振り、目に涙を浮かべる……


『……なっさけな~~い!』


 ――!!


「誰?」


「アーニャ?」

「どないしたんや?」


 ニナ……エルトとミレーニアが私に疑問符を投げかける――


「……誰なの? 今の声――」


「アーニャ? 声って?」

 エルトが、ちらちらとジェシカ姫と聖女の方を気にしながら聞いてくる。

 どうやら、さっきの声を私にしか聞こえていないらしい……


『何? やっぱりお胸の小さな女の子は理解はが遅いのね』


「あなたは――もしかして、もう一人の……」


『クスクス……私には、ニナお嬢ちゃんを守れっていうハピレア様からの命令があるからね。ニナお嬢ちゃんを守るためなら力を貸してあげるよ』


 私の中で、もう一人の私がにっこりと……邪悪な笑みを浮かべた……ような気がした……


『だいじょぶだいじょぶ、今のあなたは人魔逆転体じゃない。一度魔力を奪われたことによって、人魔同列体になってるの』


「人魔同列体――?」


 人魔逆転体――魔女ハピレアに洗脳された人間はそれになると、魔法学院の教師、エルライアさん、そしてもう一人の魔女ヴェルは言っていた――

 それは、人間の体をその体内にあるはずの”魔”が支配した状態だと言う――


「じゃあ、人魔同列体っていうのは……」


『そう、人と魔が同じくらいの対等さで体を支配してる状態――まあ、人と魔が完全に一緒になっている人魔統一体には劣るけど、かなりの魔法を使えるわよ。魔女ハピレア様の命令である、ニナお嬢ちゃんの体を守るという事で魔法を使うと言うのならば、私が力を貸してあげてもいいわよ』


『どうする? 人としての私、アーニャ?』

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