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見てくれ『だけ』を魔女に惚れられて  作者: すしひといちなし
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審判者の楽しみ-ジャッジメント視点

 ガラガラガラガラッ!!


 パカパカパカパカ…………


 馬車を引く馬はそう速く走れない。

 それは、重甲冑を身につけた騎士をのせた軍馬も同じだ。

 どんな強靭な馬だとしても、生物である以上限界があるのは当然だ。


「もっと速く走れないの?」


 少女が、馬車を操る御者台に座る女性にそう聞く――


「ごめんなさいアーニャ、この子たちではこれ以上のスピードは出せないわ。理解して、この子たちも頑張ってるのよ」


「エルト……ニナの体を危険な目に合わせたら、承知しないんだから……」


 どうやらこの少女が、あの戦いの主役の友人らしいな――


「ちょっと、どこに連れて行くつもりなの? 私まだ、ステージのヌードショーが残ってるんだけど?」


 馬車の奥から、不満そうな雰囲気の女が顔を出してくる。


「聖女様、お願いですから服を脱ごうとしないでください!!」


 かの魔女によってヌーディストダンサーにされた神殿の聖女なのだろう。


「私はステージで踊らなきゃいけないのよ!」


 自分にはそれがすべてだという感じで聖女が言う。


「クックック……」


 あの魔女の力は素晴らしいな――


 吾輩は、翼を広げ馬車を併翔する――


「な、何!?」

 御者台の女性が吾輩に気づき、警戒の声を上げる。

「いや、そのままで良い。早く戦場に駆けつけたのだろう? 吾輩も手伝わせてもらおうと思っておる」

 吾輩は翼をホバリングさせて、馬車と同じスピードまで速度を下げる。そしてそのまま馬車の中にいる少女と聖女を抱き上げる。


「お、お前は!? もしかして、ジャッジメントか?」

 先頭を走っていた軍馬に乗った重騎士が吾輩を見、そう言ってくる――

 フム、吾輩も有名になったものだ。

「さよう、吾輩こそ勝負事を行うときに厳格なるルールをもたらす審判、ジャッジメント」


「……ジャッジメント? お父さんの所に来るお客さんから聞いたことがあるけど?」

「知っているの? アーニャちゃん!」


 御者台の女性が少女にそう聞く。

「おやおや、吾輩のことをご存知か?」


「確か、勝負事があるときにいきなり現れて、場をしきってしまう謎の人物が百年以上も前からいるって言ってたよ――酔っぱらってた人だから本当かどうか分からなかったけど……」


「吾輩は酒のつまみの話か」


 吾輩は少女を軽く睨み付ける。

「まぁ良い。吾輩は可憐な少女の勝負事があると言う予感を受けやってきた――」


「……あんた、魔族やね?」

「うん?」


 どうやら馬車の中にはもう一人……いや、人間ではないか、がいたらしい――


「魔族!?」


 少女、アーニャが驚いた声を上げる。やれやれ、吾輩には驚かせるつもりなど全くないのだがな。


「精霊か……ゴーレムなどに宿っているわけではないのに人とともに行動するとは珍しいな」


 精霊も魔族も、もともとは魔王様に従ってこの世界にやってきたというのにうまく適合している……吾輩でなくとも、魔族たちは精霊を多少は嫉妬しているだろう。


「とりあえず、吾輩は趣味と実益を兼ねて戦いを見守るものだ。そして、この地に戦いの気配を感じやってきた――」


「ジャッジメントは、気まぐれな性質で戦争などの国家を揺るがすような争い事には手を出してこないのに、どうでもいいような戦いに首を突っ込む性質がある。近所の主婦と野良猫の魚の奪い合いに口を挟んだことすらあると言う――」


 軍馬に乗った重騎士が吾輩のことを紹介してくれる。まあ、彼も吾輩のことは噂程度でしか知らぬようだ。


「まあ、あの戦いは見守るべきものだと思ったからそうしたまで。そしてここにも吾輩がジャッジメントとして干渉すべき戦いがあると思ってやってきた――!!」


 吾輩はニヒルにポーズを決める。うむ、馬車の中にいる少女や聖女、御者台にいる女性が吾輩に惚れてしまうかもしれないな。


「ねぇ、ホリア……猫って魚食べるの?」

「え? ああ、猫は雑食性ですから。魚の豊富なところでは魚が好物だって言われてます。イタンモンメは穀物を練って作ったパンが豊富なので、イタンモンメの猫はパンが好物だって言われてます」


 少女、アーニャと御者台の女性、ホリアの会話――


 うーむ、吾輩に惚れるという可能性はなさそうだ。残念……


「ところで、魔族のあんたがどうしてこんなところに来たんや?」

『エルライア様か、ヴェルバーン様に紹介して欲しいっていうのなら、紹介してやってもいいで?』


 後半は、人間には聞くことのできない魔法の言葉で精霊が聞いてくる。

 うむ、エルライア様、ヴェルバーン様というのはおそらく彼女が使えている魔王様の名前なのだろう。


『それはなかなかいい案件だが、吾輩は今は亡きかつての主に忠誠を誓った身。おいそれと、主君を変えることができぬのだ。まあ、とにかく今は――』

「吾輩を呼んでいる対決の場へ共に来てもらいたいと思っておる」

 そこで吾輩は魔力を集中させる――


「『浮き上がれ…リフトアップ』」


 ふわっ……


「な?」

「きゃ!?」

「ふーん」


 女性二人は驚きをもって、精霊はあきれ顔でこの現象見ていた。

 吾輩は馬車とともに舞い上がる。


「ヒヒヒン!?」


 馬は自分たちが感じていた地面がなかったことに驚いて慌てる――馬車馬というものは、前しか見られないように前以外を目隠しを隠されているから吾輩のことに関しても気がついていなかったかもしれない――


「では共に来てもらおうか対決の場にな」


 吾輩はそう言って、少女らの乗った場所とともに移動を始める。


「お、おい待ちたまえ!」

 重騎士が慌てたように叫び声を上げる――

「ああ、すまぬ。吾輩の予感では、そなたらの出番は無いのだよ」


「クイエト王子様!!」


 アーニャが悲痛な叫び声を上げる。


「なんや? 何か特別な儀式でもあんのか?」

 すっとんきょうなことを聞く精霊だな。勝負事だと言っておるではないか。

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