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見てくれ『だけ』を魔女に惚れられて  作者: すしひといちなし
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令嬢ニナ-3

「やめなさい!!」


 魔女と俺の体に殴りかかろうとした俺を、肉の壁が止める――!!


「巨人!? いや、ムヴエ!!」


 武闘家であるムヴエは、俺よりも背が高かったが、ここまではなかったはずだ――見上げると、首が痛くなる――


「私の恋人に手を上げることは許しません!」


 どおん!!


「あうっ!!」


 ムヴエは俺を突き倒す!!

 痛い――!! 痛い痛い痛い!!

 目から、涙が溢れてくる、なんでこんなに痛いんだよ!?


「やめなさ~~い! その子が死んだら、私の恋人まで死んじゃうのよ」


 俺の体に抱かれながら、魔女が俺を見下す。

「でなければ、そんな反抗的な魂、すぐにでも消してあげるのに」

 その目は、俺を完全に軽蔑している――俺に抱かれながら、俺を見下す魔女――


「なんだよこの状況……」

「その生意気な魂の入れ物の事を知っているのはだ~~れ?」


「私達の娘です、ハピレア様」

 身なりの良い中年の男女が周りの人間たちの中から進み出る――


 ――!? この二人、まさか!?


「レグリーム伯爵夫妻……」


 イマト・ユゥ・レグリーム伯爵……この街の領主であり魔女討伐を依頼した本人でもある。

 サラ・メル・レグリーム伯爵夫人……レグリーム伯爵の妻……


「それじゃあ、それじゃあ、今の俺は……」


「ニナ、駄目でしょう、ハピレア様を困らせちゃ」

 レグリーム伯爵夫人が、俺を……俺を抱きしめる。


「嘘……だろ…………?」


 ニナ・メゥ・レグリーム伯爵令嬢――レグリーム家の愛娘で、今十二才の可愛らしい少女――


 それが……その令嬢ニナが……今の俺? 俺は今、ニナと言う名の少女の体に魂を閉じ込められている――?


「私達が敬愛するハピレア様を困らせるおてんばな娘には、お仕置きよ――ニナ」

 レグリーム伯爵夫人は俺の頬を摘む。

「――ぃふっ!」


「たてたてよこよこまるかいて、チョン!」


 レグリーム伯爵夫人は俺の頬を上や下、横にひっぱり、円を描くようにこねると、やっと指を離し、俺の額を人差し指でピシッっと叩いた――まるで、幼い子どもにお仕置きでもするかのように――


「うう……」


 頬と額から、痛みが伝わってくる――目からの涙は止まらない……


「さあ、ニナ。ハピレア様にごめんなさいをしなさい――」

 眉を釣り上げて俺にそう言うレグリーム伯爵夫人――まるで娘を叱る母親だ――


「ホラ、ニナ!! 早くハピレア様に謝るんだ!!」

 レグリーム伯爵も、俺の頭を押さえつけてそう言う。

「私は、お前をごめんなさいもできない礼儀知らずな娘に育てた覚えは無いぞ、ニナ!」

 二人は、まるで俺を自分の娘のように扱う――!!



 ………………―――――――!!



「違う!! 違うぞ!! 俺はニナじゃない!! 俺はエルトだぁ!!」



 俺はレグリーム伯爵夫妻を振り解き、魔女に殴りかかる!!


「あ~ら? エルトは私の恋人! あなたは、『ニナお嬢ちゃん』よ!」


 ビカッ!


「それは俺には通じない!!」


 魔女の暗示が効かないのは俺の魂のほうに原因があるらしい!!


「おいおい、女の子が暴力を振ったらいけないじゃないか。ニナお嬢ちゃん」

 俺を止めたのは、またしても俺の仲間――トウカだった!!

「離せっ! トウカ!! 魔女を倒しさえすればお前達も元に戻れるんだぞ!!」


 こうなったら――


「『雷よ――我が剣となり敵を切り裂け――サンダーソード』!!」


 ズバババババ!!


「――あ――」


 魔法が、出た――


 このニナという少女の体になって俺らしいところは何もかも無くなってしまったと思っていたが――


 ――あったんだ――


 魔法は、魔力は、俺と共にあった――

 今まで覚えていた魔法はどれも問題なく使える――

 魔法騎士エルトとしての技術は、まだ俺にはあるんだ!!


「く~~ああ!! どけっ!! トウカ!!」


 バリバリ!!


「うわっ!」

「すまない、トウカ!」

 俺はトウカに詫びを入れると、雷の剣を持ったまま魔女に迫ろうとする!


「ダメだってば!」


 バサッ!!


 子供のような声がして、俺の顔に水色の布が被せられる――!


 バチバチ!!


 布に当たった雷の剣がそれを少し焼ききる――


「うわっ! かわいいうさちゃんパンツ!」

 この声は、カシムか!! いい年をした大人が何がうさちゃんパンツだ!?


 ――というか、この布は一体なんだ?


「――――!!」


 ズダン!!


 前が見えなかったのと、スカートが足をひっぱったせいで、俺は無様にも転倒してしまう!!


「いや~ん! うさちゃんパンツがま・る・み・えっ! かわいいわよ、ニナお嬢ちゃん!」


 魔女があざげりの声を上げる――だから何なんだうさちゃんパンツって!?


「くう!!」


 俺はどうにか俺の前にあった水色の布を切り裂く!!


「あらあら、ドレスのスカートが台無しじゃない! おてんばはダメよ、ニナ!」


 レグリーム伯爵夫人が俺を抑える――って!? スカート!?


「――っ!!」


 俺は慌てて自分の下半身を見る―――はいた覚えのないスカートは、ビリビリに切り裂かれ、俺の物とは思えない細い足が見えていた―――


「くぅ―――――――!!」


 足に涼しさを感じる――魔女の周りにいる人々の目が、むきだしの俺の足に……いや、ニナの足だ!! 俺が恥ずかしさを感じるはずがない!!


 そんなものを感じるはずがないんだ!! そうだよ、顔が真っ赤なのも、涙が止まらないのも、俺じゃなくてニナという少女のせいだ!!


「魔女ハピレアぁ!! 覚悟!!」

「ダメよ! ニナ!!」

 魔女を叩き切ろうとした俺をレグリーム伯爵夫人が抑える。

「は、離せ!!」

「ダメよ、あなたはお仕置きをされるの!! お尻ペンペンしちゃうんだから!」


 子持ちとは思えないほど美しい伯爵夫人は、手際よく俺をやわらかいふとももの上に乗せると、


 ズリ!!


 遠慮なく俺の――履いていた下着をずりおろす――!!


「えいっ!」


 ペチン!!


「いっ!!」


 伯爵夫人が――俺の、いや、ニナの、いや、痛みを感じているのは――


「い、いたい、いたい、やめてくれ!!」


 ペチン!! ペチン!! ペチン!! ペチン!!


 尻が、尻が!!


「フフフフフ……私に逆らった事、思い知ったか~~しら!?」


 魔女が俺を見下しながら言う――俺の体はまだ魔女に愛撫を続けている――


「あなたたち~~、ニナお嬢ちゃんを大切にしてね~~! この子が死んじゃったら、エルトが死んじゃうんだから~~絶対に殺しちゃダメよ!」


「「「「「ハイ、ハピレア様!!」」」」」


 その場にいた全員が一斉にそういう!!


 レグリーム伯爵も、伯爵夫人も、トウカも、カシムも、ムヴエも……


「じゃあ、エルト……私の家に帰って、二人で愛し合いましょう~~!!」

「わかった、俺の恋人ハピレア」


「『あるべき場所へ――オープンゲート』」


 シュワァァァァァン!


 そう言って、魔女と俺の体は転移魔法の光に包まれて消えていった――


「ま、待て!! 俺の体を返せ!!」


 伯爵夫人に抑えられ、尻を叩かれ続ける俺は、むなしくそう叫んだ……

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