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見てくれ『だけ』を魔女に惚れられて  作者: すしひといちなし
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聖女の神殿へ

「聖女の神殿、か……」

 俺は観光用に描かれた資料を見る。

 そんなに遠い場所じゃない。馬車を使っていけば一両日中にはつくことができるだろうし、重い荷物を持たずに身ひとつだけで馬に乗っていけば半日もあれば到達するだろう――


 山あいの、街道より少し離れた場所にある神殿で、その神殿を守るように小さな村がある――管轄は、確か……

「ハフスブルム騎士爵家の管轄領だ。あそこは観光に力を入れている」

「観光地だよね。一回、行ってみたかったところだよ」

「私も、ジェシカ様と共に行くのを楽しみにしておりました」

「一応、宗教施設なはずなんだけどな」


 成り上がりの騎士爵家にとって、利用できる物は何でも利用してくる。

 かつては細々と信者たちが集まる小さな宗教施設だったのが、ハフスブルム騎士爵の現当主の頑張りで一大観光名所と化していた。


 さらに、本来経験を積んだ高齢の女性が勤めるはずだった聖女を、若い女性に変更したのも騎士爵だと言う。


 ――それらの涙ぐましい努力が見事成功し、聖女の神殿はいまや一大観光地と化していた――


 それにしても、異世界の魔王なんてものがうろちょろしているこの世界で神などというものがどれだけ信じられるのか?

 といっても、人の心は救いを求めるもの――


 女神様に人々の心の安らぎを守るよう命じられた聖女を抱く神殿を心の拠り所にしている人は多い――


 たとえそこが完全に観光地化していようとも……


「ハフスブルム騎士爵が男爵に爵位をあげて欲しいと言う要望がよく来るな。まあ、あれだけ観光地化で成功しているんだ。それくらいの事はしてあげてもいいくらいだな」

「それを決めるのは親父だ。俺たちじゃない」


「うわ、王族のご意見!」


 庶民であるアーニャには、こういう風な話が日常で行われているということがわからないらしい。


「……聖女の神殿といえば、オイマー子爵が巡礼に行ってまだ帰って来ていないよな……どうしているんだろうか?」

 クイエト王子がそう言う。


「本来は庶民のものだった信仰が貴族のものになっている――利用する騎士爵もそうだし、利用される子爵もそう……」

 そういうことが貴族には必要だと言われている――


「俺は、騎士爵にはならないな。なんだかすごくめんどくさそうだ」

「うん? ニナちゃんは大きくなったらお婿さんをもらって、次期レグリーム伯爵の夫人になるんだろう?」

「それまでには、絶対にニナ本人に体を返しています!! っていうかシュレア王子は何でそこまで事情に詳しいんですか!?」


「魔法に関することはほぼ俺のところに入ってくる――エルライア殿とも個人的な付き合いもあるしな」


「……」


 第一王子のリューフェス王子の事はよく知らないが、この第三王子シュレア王子が一番の対立候補だと言われている理由がよくわかる……

 正直、武人としてならともかく、王としての姿を想像することは難しいクイエト王子よりも、王位継承権が先にあるのも頷ける。


 ドレッグ王子? あれは問題外。




「財務省の補佐役でもあるオイマー子爵がこんなにも長々と王都を留守にするのは問題がある。兄上、ちょっと迎えに行ってもらえないか? もちろん王族が行くのに世話役の女中がいるのは当然だな」

 そう言って俺たちをみるシュレア王子――

「ちょっとそういった格好をしてみようか? ニナ・メゥ・レグリーム伯爵令嬢」


 パチン!


 シュレア王子が指を鳴らすと、どこからともなく王宮の女中たちが現れる――


「えええ? ちょ、ちょっと待ってください王子……」


 突然現れた女中たちに恐怖を感じる俺……


「ここって、騎士の詰め所で王宮の中でも隅の隅、だったよな……」

 そんなことを言っても、現れてしまった女中たちが消えるわけじゃない――


「さ、王子の世話役にふさわしい姿にしてあげろ」


「「「は!」」」


 瞬間、俺は……俺とアーニャは女中たちに囲まれて服を剥ぎ取られる――

 そしてすぐさま、別の服を身につけさせられる――


 なんだろう? 最近こんなのばっかりだ。ファッションショーといいなんでこんな服を着せられなきゃいけないんだ?


「お嬢ちゃん、ブラをつけるのを初めて?」


「え……?」


 女中の言葉を理解するよりも早く、俺の胸に何かが巻かれる――


「――!?」


 俺の胸にある塊が持ち上げられる――


「や、やめてくれ!!」


 俺は叫ぶ――もうやだ、誰か助けてくれ~~!!


「わぁ……すごいよこれ!」


 俺の悶絶とは正反対に、アーニャは自分の胸を引き立たせてくれる『それ』に歓喜の声を上げていた。




「まあ……素敵……かわいいわよ、ニナちゃん……」


 まぁ、そうなるわな……聖女の神殿に行く準備のために戻ってきた俺の姿を見たヴェルの第一声はそれだった――


「今度その姿でファッションショーに出てもらおうかしら?」


「もう二度とあんな恥ずかしい事はしたくない!!」

 涙まじりの声でそう叫ぶ俺――


 ファッションショーの記憶はもう心の奥底に沈めてある――


 多分いないと思うが一応教えておく……女の体に閉じ込められた男がファッションショーなんかに出たらとてつもないショックを受ける。


 だって、あんなに美しく着飾っていたとしても下には何も身につけていないんだ――!!


 特に一人の人間がいくつもの衣装を着るような舞台の場合、裸の上から衣服を着せられるため、下着の類と言うものは何も身につけられないんだ――

 はっきりと言って知りたくなかったよそんな世界があるなんて――


 それでも、今身に付けている衣服よりはまだいいだろう――


 こんなにもぴったり体に合わせて作られた胸の下着なんて、今まで身につけたことはなかったんだ!!


「うう……」


 俺は泣きながら、なぜか装飾が増えた馬車の中に入り、クイエト王子の率いる騎士たちと一緒に聖女の神殿に向かう――


「聖女様に会ったら悩みを聞いてもらおうかな? 宗教家なんだから良いアドバイスがもらえるかもしれない……」


 俺はそう言ってまだ会ったことない聖女の事を思った――




 だけど、神殿についたとき、あんなとんでもないことが起こっていたとは――

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