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見てくれ『だけ』を魔女に惚れられて  作者: すしひといちなし
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盗賊にされた姫

 私はホリア、イタンモンメ公国の姫君、ジェシカ様にお仕えするメイドです。


 さて、私のお仕えするジェシカ様というお方がどのような方か、もちろんご存知かと思いますが……


 ご存知ありませんか?


 説明させていただきますと、イタンモンメ公国の第二公姫にあたられるお方で、もともとはジュッテング王国の王子、クラマ様の婚約者でした……


 しかし、ジュッテングは一年前の戦争で滅亡し、ジェシカ様の婚約者であられたクラマ様も行方知れずに……


 そのため、ジェシカ様はこの王国の第一王子リューフェス様の妾としてこの国に来ることになりました……しかし……その途上で……




「王都まではあとどれくらいかしら?」

「この馬車のペースでは、遅くてもあと五日程度、といったところですね」


 王族の使用する豪華な馬車の中で、私はジェシカ様のお世話をしていました。といっても、ジェシカ様は自分のことは自分でやるようなできた姫君なので、私がやることといったらジェシカ様の話し相手になるくらいのことでした。


 私は、生まれついて魔力を持っていない人間でした。ですから、あまり高い地位に付いていた人間ではありません。ジェシカ様のお世話役と言う役目を仰せつかっただけでも十分な出世といえたでしょう。まあ、そこら辺のことはあまり関係ないので省いておきます。


 イタンモンメから、この国に来る間にある街道にも最近盗賊団が出没していると聞きますし、戦争で滅びてしまったジュッテングの敗残兵たちがやむにやまれず賊に身を落としているとも聞きます。故に警護の戦士たちは厳選した強者ぞろいだったはずでした――が……




「ヒャッハ~~!! 我々は泣く子も黙る恐怖の盗賊団だ!!」

「きゃははははは!! 金をよこせ!!」

「いい馬車に乗ってんじゃねえかよ!!」


 急にあたりが騒がしくなりました――盗賊が現れた……!! 最初、私もそう思い警護の戦士たちが追い払ってくれるのを待つことにしました――


 しかし――


「おらおら!! でてきやがれ!!」


 そう言って馬車のドアをこじ開けたのは警護の戦士たちだったのです――!!


「何をやっているのです!! あなた方は誇り高きイタンモンメの戦士では無いのですか!?」


 ジェシカ様は気高く襲ってきた戦士たちにそう告げられました。その時、戦士たちの後ろから、一人の派手な姿をした女性が現れたのです――


「はぁ~~い! こんにちわ~~! おっ姫様ぁン!! 私はかの有名な魔女ハピレアで~~す!!」


 その女性は、人を馬鹿にしたような喋り方でそう名乗りました。


「魔女ハピレア!?」


 私も、ハピレアなるその魔女の名前は聞いたことがありました――

 なんでも、人の心を変化させてしまう魔法を使う、恐ろしい魔女だと……


「皆さんに何をしたのです!?」

「なにか~~、武装して強そうだったんで盗賊をやったら儲かるかなぁと思ってさ! 皆さんは盗賊にしちゃいました~~!!」


「「「おう!! 俺たちゃ泣く子も黙る最強の盗賊団!!」」」


 イタンモンメが誇る戦士たちが、口を揃えてそう叫びます。それは下品な盗賊そのものの態度でした――


「立派な馬車に乗ったお姫様よ!! そのあまりに余った財産を全部よこしもらおうか!!」


 そう叫んで下品に笑う戦士たち――


「なんということ……みなさんを元に戻しなさい!!」

 ジェシカ様は気丈にそう言われます……が、そばにいた私はわかりました……恐怖で震えていらっしゃると……


「けっ!! お高くとまってやがるぜ! この女!!」

「自分の立場がわかっていってんのかな?」

「俺たちは盗賊、奪うもの! お前らは、奪われるもの、だろうが!!」

「つべこべ言っているなら、命さえも奪っちまうぜ!!」

「きゃははは!! ヤミで奴隷市場にでも売った方が儲けになるぜ!!」


 これが姫君をお守りする戦士たちなのか……そう絶望するほどに、状況は最悪でした……


「とりあえず、金目の物を全部よこせや!!」


 一人の戦士がそう叫びます――絶体絶命!! そう思った時でした――


「違うでしょ~~ その人は、あなたたち盗賊団の親分じゃない! 親分から奪おうとしてどうするの~~?」


 魔女ハピレアがそう言ったのです――


「お、親分?」

「そうよ~~! あなたは『盗賊の親分』なのよ~~!!」


 ビカッ!


 魔女の目が怪しく光りました――そして……


「わたしは……とうぞくの……おやぶん……」


 ジェシカ様の様子が、変わってしまいました――

「そうだよな、俺たち盗賊団の親分はこの俺だ!!」


「ジェシカ様……?」


「おう! どうした? 子分のホリア!」

 ガラの悪い男のような口調でジェシカ様が言います――

 その顔には、今まで見たことがないような邪悪な笑みが張り付いていました――


「「「親分! 親分!!」」」


 戦士たちがジェシカ様を囲んで熱唱します。

 見た目は、全く変わらない姫とそれを守る戦士たちだと言うのに、中身は全く変わってしまいました――


「きゃははははは!! 頑張ってね~~!!」


 そう言って、魔女ハピレアはどこかへ消えていきました――


「いくぜ野郎ども!! 俺たち盗賊団がこの世お宝すべてを奪ってやるんだ!!」


「「「「オオオオオオオオ!!!!」」」」


 ジェシカ姫がそう宣言し、戦士たちがそれに呼応しています――


 もう、私の言葉など聞いてくれるものはいませんでした。




 幸いにも、姫も戦士たちも、私の事は仲間だと思っていてくれているみたいでした――


 私も、ジェシカ姫率いる盗賊団の一人だと認識されている――だからこそ、隙をついて逃げ出すことができたのです。


 悲しかったです。


 魔法使えない私が、姫様のお世話係になれたのは、すべてジェシカ様のおかげでした――

 そのジェシカ様を、守れなかったのです。


 このままではイタンモンメに戻ることもできません――

 盗賊団となってしまった姫や戦士たちの隙をついて彼らの元を逃げ出した私は、この国の王都にたどり着き、どうにかして姫様を助け出そうと思案に暮れていました。が、本当に何も手立てはなかったのです――


 やがて、強力な武装し、魔法を使う盗賊団の噂が王都にも届くようになっていました――公王族を守る戦士たちなら魔法のひとつやふたつ使えるのは当たり前ですから、間違いないでしょう――姫様が率いる盗賊団です。


 でも私は何もできませんでした。盗賊団の親分となってしまった姫様を助ける方法をどうあっても見つける事ができなかったのです。

 姫様が楽しみにしておられたファッションショー、それを見学して涙に暮れていたときでした――あなたたちの会話が聞こえてきたのは――

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