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見てくれ『だけ』を魔女に惚れられて  作者: すしひといちなし
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令嬢ニナ-2

 トクン… トクン… トクン… トクン… トクン…


 心臓の音……これは……肉体に生命を送る音だ……

 理解できる。考えることのできる。

 これは、俺が今、考えることのできる頭脳を持っていると言うことだ……


 今まで見た事は何だったのか――


 魔女をたたえる街の人たち――その中には、トウカ、ムヴエ、カシムの三人――俺の仲間たちも含まれていた――


 体の感覚が少しづつ、少しづつ、はっきりとしていく――


 魂を失っていた肉体が、取り戻した魂と一緒になろうとしている。

 肉体を失っていた魂が、取り戻した肉体と一つになろうとしている。


 俺の魂は、無理やり体に押し込まれた――

 魔女の魔法によって無理やり肉体から放り出されていた俺の魂は、消滅の危機にあった。

 それが今、肉体に戻ることによって生命を取り戻していく――


 待て待て待て待て待て――


 だんだんと理解できることが増えていく――

 その中に、俺が魂だけの時に見た光景が――


 ――魔女と、俺の口付け――


 いや、魔女は俺の体に別の魂を注ぎ込んでいた――

 そして、俺の体に入った魂に暗示をかけ、自分の……魔女の……恋人にした……!!


 俺は見た――


 俺の意思ではないのに勝手に動き、魔女と愛をかわす俺を――


 ――エルトを――!!


 そして俺は、俺は――俺の魂は――


 魔女は面倒臭そうに俺の魂を――側にあった――側に倒れていた少女の肉体に――


 押し込んだ!!


 じゃあ今、俺は今どうなっている!?


 体の感覚が戻ってくる――いや、違う――!!


 足が触れ合う感覚がする……俺は普段ズボンを履いてるから足が触れ合うはずがない!!

 倒れているせいか、地面に押し付けられる胸にはっきりと……絶対に俺にはなかった柔らかい感触!!

 少しづつ、動き始める俺の手……違う、こんな小さな手が俺のものであるはずがない!!

 ああ、違う!! そんなはずがない!! こんなにも柔らかいものが俺の体にまとわりついてはずがないはずだ!!

 短く刈り込まれているはずの髪が少し頭を動かすだけでこんなにも存在を主張してくるはずがない!!


「あ……う……」


 違う、違う……!! 喉から出てくる俺の声が……こんなにも高い訳がない……!!


 俺、エルトは――エルト・ユティ・アルムト――アルムト家次男――生まれついて強大な魔力を持っていたため、王立魔法学院に特待生として入学――そこで、師を得、主席で卒業、それとともに国王陛下より魔法騎士の叙勲を受けた――そんな俺は、戦士派遣協会から三顧の礼を受けて迎えいられ現在に至る――

 今回の魔女討伐も、俺ならやれるという期待を受けての出陣だった――!!

 そう、俺は男!! 素晴らしい魔力を持つ選ばれし魔法騎士!! 誰よりも優れ、女性からはモテモテで、学院時代からラブレターは山のようにもらっていた!! 俺の容姿は魔女さえも虜にする――


 その俺の名は―――――


「エルトだぁ!!」


 飛び起きた俺は叫んだ!! だがそれは、俺の本来の声では無い甲高い少女の声だ!!


「あ、ああああ……」

 怒りに体が震える……それによって俺の体のありえない部分がプルプルと震える――


「―――!!?」


 俺は慌てて体中を触る――その触る手もあまりにも小さい――


 ふにっ……ふにっ……


 サラサラサラ……


 プニプニ、スベスベ!


 プルン、プルンッ!


 胸、髪の毛、唇、太もも、尻――他にも腕、腰、顔――すべてが、そのすべてが、俺のものじゃない――俺の体じゃない!!

 柔らかいものを触っている――手からの感覚は、俺にそう伝える――そして胸は触れていると……俺にそう伝える!!

 頭を動かすと髪の毛が揺れる――しっかりとした重みが、頭皮に伝わり、それが俺のものだと教えてくる!!

 舌で歯や唇を舐める、つま先を、指先を、体中あちこち動かし、触ってみてそのすべてが、今までの俺の体と全く違うものだと――俺が覚えている自分の体の感覚と全く違うものだということを確信する――それでも、何か一つでも以前と同じところがないか懸命に探していく――そして――


「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 俺は両手で『そこ』を触ってしまった時、大きな悲鳴をあげてしまった――!!

 冷たかった顔がどんどんと赤くなる――瞳からは、その熱を逃がそうと、冷たい液体が流れ出す――


 足の付け根……股の間……そこには、あるはずのものが……おとこには必ずあるものが…………………………


 ない。


 ないないないないないないっ――――――!!!!!


 俺は今、水色の薄いドレスを着ている……国王陛下より与えられた魔法騎士の象徴たる純白の鎧は……今……どこにもない――だから、鎧に邪魔されてさわれなかった、なんてオチはない!

 というか、こんな薄いドレス、一体いつ着たんだ!? こんなドレスを着た覚えも、というか、こんなドレスを持ってた覚えもないし、だいたい、見たことすらないぞ!!


 俺は今、どうなっているんだ……!?




「ああ~~ん! エルトォ~~もっと激しく私を愛してぇ~~!!」

「わかってるさ。俺の恋人、ハピレア!」

 そんな俺のそばで、俺を無視して絡み合う魔女と俺の体――

 俺の体は魔女を悦ばせようと、魔女の体をその手で触りまくっている――


「あ、あ~ん!」


 俺の手が、魔女の胸を揉む――柔らかそうな魔女の胸は、俺の手の動きによって激しく形を変える――


 おかしいだろ? 俺の手が魔女の胸を揉んでいるんだ――それなのに、今、俺の手は俺の股間に何もないことを確認している――おかしいだろ? 本来なら俺は魔女の胸のやわらかさを感じているはずであり、自分の股間の感触なんて感じているはずがない……………


「う、ううう、うう!!」


 俺は、必至の思いで手を動かす――だけど、魔女と絡み合う俺の体は動いていない。

 魔女を悦ばせようとしている俺は、今の俺じゃない。


「や」


 俺は言葉を発する――その言葉は俺の口からは出ていない――


「やめろ……」


 魔女を悦ばせるために、俺の口は動き愛の言葉を紡ぐ――俺の意思はそんなことを口にしていないし、魔女に絡んでもいない――

 あそこで魔女といるのは、俺の体にあって、俺じゃない――!!



「やめろっぉ!! 俺の体を返せっぇ!!!!!!!!」



 俺の声とは思えない、甲高い女声で俺は叫ぶ――!!


 そして、魔女と――それに絡む俺の体に殴りかかる!!


 俺の魂を閉じ込められた、少女の体で――――――

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