うまい話にゃ裏がある-ミレーニア視点
バシッ!!
ザザ!
「なかなかいい攻撃やったで!!」
うちはリビングメイルを操って後ろへ下がる――
それを対し追撃をしてくる女の子――確か名前はニナ、やったかな?
「ハア!!」
ニナはうちの言葉に応えずに追撃をおこなってくる!!
体の動かし方や気迫、それに攻撃の組み立て方もうまい……この子、外見に似合わへん戦闘能力を持っとるな……一体何者や?
でもなぁ、うちはこの勝負負けるとは思っとらへん。なんつったって、このリビングメイルの性能がすごすぎるからや!!
まるで、自分の体のように動かせる……それにダメージもほとんどあらへん――
精霊として戦闘能力としては並程度のうちですら、ここまで動けるんや!!
もしこれが、強力な戦闘能力を持つ剣などの武器の精霊やったら、どれほど戦闘能力を発揮してくれるか――
いや、何でうちが選ばれたんかわかった――
うちの能力でこのリビングメイルにこの二ナっつ~~女の子の意識を入れたいんや!
このニナは戦いの素人やあらへん――なんでかはわからなへんけど、その幼い体に凄まじい戦闘能力を秘めとる――
その戦闘能力を、このリビングメイルに使わせたい――
それが、魔王様たちの計画なのだろう。
「まったく、欲深い方々やな……」
うちは感心するともに目の前の少女に興味を持った――
「面白いやないか! もっと楽しませてもらうで!!」
うちはリビングメイルの体を操り、さらなる攻撃を繰り出そうとする――!!
その時やった……
いきなり、すべての物音が消えうせたんや……
目の前で、竹刀をかまえとった女の子の動きがピタリと止まってしまう。
「――? どないしたんや?」
目の前のニナは全く動かへん……よくよくあたりを見渡すと、ニナの友達らしい二人の女の子も動かなくなっとる……
いや、世界全体が止まっとるみたいや――うちが宿って動かしとるはずのリビングメイルもピクリとも動かんようになってしもうた……これは――
「何? いいところなんだから邪魔しないでよ、ロンメルド!」
すべてが止まった静寂の空間にうちの主君、ヴェルバーン様の声が響く――
「何って……お前たちがイリュー様に捧げる新たな魔王候補を見つけと聞いたからな――」
ドウン!!
世界そのものが震えるような振動とともに、主君ヴェルバーン様と同じ魔の神イリュー様にお仕えする魔王の一人、悪魔王ロンメルド様が現れる――
「どうもなっとるんやろうか、これ……?」
うちはリビングメイルから出てロンメルド様の方を見る――
「虹の精霊ミレーニアか。俺も変わらずふざけた者を配下にしているなヴェルバーン――」
ものすごい威圧感で、そういわはるロンメルド様。
「もしかして、今この現状はロンメルド様の仕業なんですか?」
うちは恐る恐る聞いてみた――
「世界を止めたんだろう。そう驚くことじゃない」
獅子王エルライア様がそういわはる――
「で、何の用だ? ロンメルド。お前のことだからただ見学しに来ただけということでは無いのだろう?」
う~ん、どうやらうち、ものすごく場違いな場所にいるみたいやな――
どうやら今、この世界そのものが停止しとるようや。それをやったんはおそらく悪魔王ロンメルド様やろう。うちが動けるところを見ると、この世界に属するものだけを止めたように思える――現に、この世界の物やないヴェルバーン様やエルライア様はごく普通に動けとるし……
「これが、お前達が見つけた魔王候補か? なるほど、ヴェルバーン、お前が好みそうな娘だ――」
ロンメルド様はニナの背後に移動しぺたぺたと女の子の体を触る――
「フム、かなりの歪みを持っているな……」
「ちょっとロンメルド! エロい手でニナちゃんに触らないで!!」
ヴェルバーン様がようわからん注意をロンメルド様にする。本当にうちの主君ながら、ようわからんところがあるお方や……
ニナとロンメルド様やったら種族が違いすぎてエロい事なんかにならへんはずや。
「よくもまぁここまで歪んだ人間を見つけられたものだ。このものならイリュー様を満足させて差し上げられる人材やもしれぬ……まあこの私が目をつけた人間に勝つことができたならばの話ではあるのだがな……」
そこでロンメルド様は静に笑う……どことなく恐ろしい雰囲気が周りに漂う。
うん、うちもかなり怖い……ヴェルバーン様やエルライア様はよく平気でいられるもんやなぁ………
「へえ、お前が見つけだした新たなる魔王候補か。一度で合わせをしてみたいな。今度連れで来てくれよ」
「いいぞ。お前なら人間を壊すような事はないからな」
戦闘狂の獅子王様の言葉に、笑いで答える悪魔王様……本気で、シャレにならへん構図や……
「で、本当は何のようなの? まさか本当にニナちゃんを見物に来ただけ、とか言う訳じゃ無いわよね」
「あたりまえだ」
ロンメルド様はゆったりと身構える。
「近々、今世界で大きな歪みを起こそうと思っている――だから忠告しに来た」
「何を?」
大きな歪み――それに気をつけろとでもロンメルド様は言いたいのやろうか?
いや、違うなこれは……
「お前たちが邪魔をしてその歪みがあっさりと片付き、シラケるの止めに来た」
「……」
「そんなこと言いに、わざわざ来たわけ? 暇なのね悪魔王も」
「ククク……」
ロンメルド様はお二人の様子を見て笑う。
「そうだな、ここへ来たついでだ――お前たちの魔王候補に一つ、面白いプレゼントでもくれてやろう」
グウン……
ロンメルド様が空間歪曲で何かを取り出さはる。
「剣か」
エルライア様は剣とこともなげに言ってはるが、うちの目から見たらそれは剣に見えへん。まがまがしい形状の悪魔の産物としか言いようあらへん邪悪な武器や……
「これを、お前達の魔王候補に渡してやるといい――」
そう言ってロンメルド様が剣を少しだけなでると、剣の形状は一瞬で変わりどこでも手に入りそうなごく普通の剣に変化してしまう――
「……なんか可愛くないわね」
「デコるなよ」
そう言ってロンメルド様は形状の変化した剣をエルライア様に投げ渡す――
「では忠告したぞ。私が魔王候補を完成させるための歪みを邪魔するなよ。半天半魔、 獅子王――」
ズドン!!
そういう言葉を残し来た時と同じように派手に世界を揺らしてロンメルド様は去っていってくれはった――
ああ、生きた心地がせえへんかった。




