リビングメイルのテスト
「このミレーニアは虹の精霊だ」
「虹……聞いたことない精霊ですね……」
師匠に言われてまじまじとミレーニアを見る――
「……おやおや~~お嬢ちゃんたち、精霊が珍しいんか?」
おかしな言葉でそうしゃべる精霊ミレーニア――その顔が不意に変わる――
「え? あれ? 何?」
ミレーニアは驚いたようにこちらを見、動こうとして――
「きゃあ!」
フワリ……
何もないところで浮き上がり、ふわふわと漂う。
「な、何をやっているんだろう?」
アゼルが、不思議そうにいう。
「ま、人間が精霊の体になったらうまく動かすなんてできっこあなへんやろな」
「へ?」
アーニャがいきなりおかしな言葉遣いでそういう。
「ちょ、ちょっと! これ、どうなってるの!? なんで私がそこにいるの!?」
ふわふわ漂いながらミレーニアはそう叫んだ――
「ええ!?」
アゼルがアーニャを見て叫ぶ――
「もしかして、魂を入れ替えたのか!?」
俺は、自分がこうなっている原因を思い浮かべてそういった。
「その通りや! うち、ミレーニアはほんの一時的にやけど人間の体を乗っ取ることができるや」
あっさりと、恐ろしいこと言うアーニャの姿のミレーニア。
「魂と体の色が違うはずなのに、そんなことができるの?」
驚いたように言うアゼル。
そう、それがあるから俺と魂の色が同じであるニナの体に閉じ込められる結果になったんだ――
「うち、ミレーニアは虹の精霊やで。虹は、太陽の光の加減によってさまざまな色へ変わる大空の神秘! そやからうちは自由に自分の色を変えられるんや」
フ……
そう言った後、アーニャの表情が変わる。
ペタンと座り込み呆然自失となるアーニャ――
「何だったの、今のは……?」
「元に戻ったのか!?」
俺は先ほどまでアーニャだった精霊の体の方をみる。
「うわっ、うわっ! うわわ!!」
精霊はまだ空中をクルクル回っていた。
「だからこそ、この世界の人間やないこういった体も支配することが可能、言うわけやな」
「――今度は、アゼルか!?」
俺はおそらく精霊が宿ってしまったであろうアゼルの体の方を見――
「!?」
そこは、なぜか地面だった――
上下左右の感覚がなぜかない――いきなり、水の中に放り込まれたとしたらこう感じるだろう――しかし、水に放り込まれた覚えなどないし、何よりも呼吸が可能だ――
「!?」
「さすがはエルトだな。他の二人に比べ、落ち着いてはいる――」
師匠の声がすぐ側で聞こえる―――これは……
どうにか、体制を立て直し、あたりを見渡す。
「……――!!」
逆さまになった視線の先には、不思議なヒラヒラの服装をした三人の女の子がいるのが見えた――
「どや? うちの体は――? 精霊体験できて良かったやろ?」
ニナが、そういった瞬間に、また視界が変わる――キョロキョロとあたりを見渡すと、アゼルとアーニャがいる――ニナの体に、再び魂が戻ったということか……!
「……ミレーニア、いたずらも程々にしておけ」
「獅子王様、わかりました!」
うやうやしくエルライア師匠にひざまずくミレーニア。
「ねぇねぇ、私と体を交換することはできないの?」
ヴェルが笑いながら言う。
「って! ヴェルバーン様! 冗談言わんといてください!! 半天半魔の体なんかに入ったらうち、消滅してしまいますは!!」
明らかに動揺した雰囲気でそう叫ぶミレーニア。
「さて次だ」
師匠は再び地面を蹴り魔方陣を展開させる――
「魔方陣ってさ、かなりの高等魔法で複雑な呪文とかが必要なはずなのに、あんなにあっさりと発動させるなんて、本当に凄い人なんだよねエルライア師って……」
アゼルは感嘆の声を出す。
「何人か魔法使いの戦士さんなら見たことあるけど、あんなことできる人なんて全然いなかった」
「エルライア師匠はアレが基準なんだよなぁ……」
かつての学院で……いや、現在もか、エルライア師匠から指導を受けたいという院生が多いのも頷ける話だ。
「でもそれが、異世界の魔王の物だったなんて、誰が想像しただろうか?」
なんか、騙されたような気がする――この世界に生まれた人間ではどうあっても師匠に追いつけないと言われたようなものだ。
魔方陣の前に光が集まり今度は銀色の全身甲冑が現れる――
おそらくは騎士団でもここまで完全にフル装備を着込んだ人間はいないだろうという感じの全身甲冑だ。並大抵の攻撃ではそれをきた人間にダメージなど通りそうにない。
しかしこんな全身甲冑を見につけていたら動きが制限されて逆に戦いにくいのではないだろうか?
「これは、ゴーレムと同じ要領で作ったリビングメイル――ミレーニア、こいつに宿れ」
「リビングメイル……動く鎧!?」
ゴーレムと同じ要領で作られた魔法道具にそんな名前のものがある。
ゴーレムと同じように精霊を宿らせて使うものだ。
「了解や!」
ミレーニアがリビングメイルに重なるように動き、そしてゆっくりと消えていった……
「ほら!」
師匠は俺に渡さなかったほうの竹刀を全身甲冑に向けて投げる。
パシ!
全身甲冑が動き竹刀を受け取る――
「なかなかいい入れ物やな……」
「しゃべった……」
アゼルが驚いた声を出す。
ゴーレムの中には言葉をしゃべるものもいる。そういう機能をつけた場合だ。
まあ、ゴーレムは精霊の意思が宿っている存在だからしゃべるのは当たり前と言えば当たり前だが、実際は一昔前にそれを作り上げた魔法学者は一生遊んで暮らせるだけの財産を手に入れたとまで言われている高等技術である。
その機能のないゴーレムは、わざわざ宿っている精霊がゴーレムから離れて話しかけてくるのだ。
「ふうん、かなり動けそうやな!」
全身甲冑とは思えない軽やかな動きで動くリビングメイル――その声は先ほどまで見えていた精霊のミレーニアで間違いない。
何かを確かめるように、ピョンピョン跳ねるリビングメイル――
「さあ、エルト――どんなことをしても自分の体を取り戻したいというなら、こいつと戦って服従させてみろ。それが今回のテストだ」
「服従……?」
俺は、確かめるように体を動かしているリビングメイルを見ながら言う――
「このリビングメイルは最高級品だ。そして、虹の精霊ミレーニアの特殊能力は先ほど見た通り――この二つが揃えば非力なお前でも戦うことができるだろう」
「――!!」
「そうやな。うちと肉体交換すれば、このリビングメイルを人間の魂が使用できるということになるわけや。だけどな……」
そう言ってリビングメイルは……いや、ミレーニアは動きを止めゆっくりと竹刀をかまえる――
「それをやりたかったら、うちよりもうまくこのリビングメイルの体を扱えるということを証明してもらわなあかんで……」
その動きに応えるように俺も竹刀をかまえた――




