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見てくれ『だけ』を魔女に惚れられて  作者: すしひといちなし
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スリーピング・ビューティー・レイナ

「とりあえず、優先順位を決めようか――」

 エルライア師匠がキセルから香木の葉を燃やした煙をくゆらせながら言う。

「もちろん、ヴェルバーン、お前には発言権はないからな」

「あ~~ん、エルライアの意地悪ぅ~~」

「お前が発言すると、話がどんどんややこしくなるからな」

 ヴェルを睨みつけてエルライア師匠は言う。


「とりあえず、そこのかしまし三人娘、何が目的だ?」

 キセルで俺達をさしながらそう言う。

「かしまし三人娘って……俺一応男なんだけど……」

「じ、自分も男です!」

 俺と、隣に座るアゼルという名前らしい体にぴったりとした紺色の体を半分ほどしか覆っていない謎の衣服を身につけた女性が発言する――

「メタリオム嬢によってこの体にされていますけど、自分はアゼルという男です! エルライア師の話によると、ヴェルバーン嬢の力を借りれば元に戻れという話なんですけど!!」

「あんたの体を持っているメタリオムを見つけられたらそれはできるわ。まず、メタリオムを見つけることね」

 ヴェルがアゼルに対していう。

「じゃあ物事を解決するために、メタリオムを見つけるんだな。よし、アゼルの話はそれで終わり。次はそっちの二人、エルトと自称するそこのお嬢ちゃんと、そのおともだちらしいお嬢ちゃんは?」

 エルライア師匠が俺とアーニャをさす。

「俺は、魔女ハピレアを倒し、あいつに奪われた俺自身の身体とニナの魂を取り戻すことだ――」

「私は、本当のニナを取り戻したいの!」

「なるほど、それは同じ願いと考えていいわけだな」


「「――!」」


 俺とアーニャが顔を見合わせる――


「魔女ハピレアか、噂は聞いていたが、 魔力形成位の力しか持たない下級魔女と思って俺は対処しなかった」

 エルライア師匠は考え込むような表情する――

「かといって、俺が動いてその魔女を倒すなんて事は出来やしない」

「なんで!?」

 俺は思わず叫んでいた――


「女は子を産み、子は勇者となるかもしれない――もしかしたら俺やイリュー様、その他の魔王たちが望む人材が生まれる可能性があるならば人間を殺すわけにはいかない――現にエルト、お前もヴェルバーンが望む人材となったではないか」

「そうだよねー、ニナちゃんはまさに私が望む人材だよ。新たな魔王候補として申し分ない人間だよね」


「俺はどんな小さな可能性であろうとも育て上げようと思っている――だから人間は殺さない――まあ殺さないまでも見つけたら決着をつけたいと思ってる奴もいるけどな」

 そう言って笑うエルライア師匠――


「……じゃあ、ハピレアの洗脳にかかった人間や、ルーンレイスに対しても何もしてくれないって事なのか?」


 俺はそういう。


「洗脳された人間を元に戻す、か。そういえばそこにいるアーニャはそのハピレアちゃんに洗脳された後、ルーンレイスに襲われて元に戻ったのよね」


 ヴェルが楽しそうに言う――


「ま、ルーンレイスに関してはあっさり解決しようと思うならあっさり解決できるよ――」


「「「へ?」」」


 ヴェルの言葉に対し、そこにいたエルライア師匠を除く全員が呆然と聞き返した。




「本当に、あの恐ろしい化け物をなんとかする方法があるんですか? ヴェルバーン嬢……」

 アゼルは魔法学院をルーンレイスが襲った時、その場にいたらしい――あの、クイエト王子の弟、ドレッグ王子やその女友達たちが犠牲になってしまったと言うあの事件の時だ。

「ま、百聞は一見にしかずっていうから一応見せてあげるわ。あ、エルライアちょっと!」

「ん? なんだ? 今更お前の汚い部屋を男の俺に見られたくないとでも言うつもりか?」

 そう、今向かっているのはヴェルが王都で使用していた家らしい。なんとこの魔女は王都に住んでいるらしい――


「王都の住人って、王族やその家来、中央政治に関わる貴族をのぞいたら、魔法学院の院生、その他の職人たち――そして……」

 アーニャが指折り数えて行く。いや、王都は結構人口多いぞ。中にはヴェルのような怪しい人間がいたとしてもおかしくは無い――


「はい、これイカロス! キセルのかわりにこれをくわえといてよ」

「ハァ? これって確かヒートブレードシガレットか? 80度のヒートブレードでタバコの葉を熱することで香りを出す、火を使わない、煙の出ないタバコだろ? なんでこんなものをキセルの代わりにしなきゃいけないんだ?」

 エルライア師匠はいぶかしげな目でヴェルを見る。

「そうだよ、タバコの香りがするけど煙は出ず口から吐くのも水蒸気だけだと言う画期的なタバコ! しかもヒートブレードを熱っする電力は太陽電池で充電するから充電器に挿す必要もない――アキハバラのスズキさん推薦の最新タバコ」


「それはいいが、何でこんなものをくわえなければいけないんだ?」

「キセルやタバコの煙で私の部屋に変な匂いをつけられたくないの。だから、このイカロスに変えてくれないならば部屋に入らないで――」

「……そういうものか?」

 エルライア師匠はキセルに入っていた燃えた香木の葉を鉄製の筒の中に入れると、ヴェルから手渡された黒い棒を口にくわえた――




「ここが、私の部屋――――って、ああ!!」


 ドアを開けるとそこはごちゃごちゃなものが大量にある空間だった――


「ゴミ部屋……」

「何か言った、アーニャちゃん!」

 アーニャの言葉にヴェルが恐ろしい声を上げる――

「何を言うも何も、お前の部屋はいつもこんな感じじゃないか」

 黒い棒をくわえ、時節臭いのない白い霧を口から吐き出しエルライア師匠が言う。


「いくらなんでもここまでぐちゃぐちゃじゃないわよ!! 誰かが侵入したわね!!」

 そう言って、ごちゃごちゃな部屋に入ったヴェルは床に落ちていた様々なものをかきわけて何かを探し始める――やがてヴェルは……


「あったあった……さすがにこんなに重いものは侵入者も持っていけなかったみたいね」


 と言って取り出したのは――


「か、棺桶!?」


 アゼルが、出てきたものをびっくりして見る――


 そう、それは棺桶だった――中に、誰かが眠ってるだろうか――


「ま、まさか……ヴァンパイアでも眠っているんじゃ――」

「いや、この中にいるのはレイナちゃん――言っとくけど、まだ生きてるよ」


 ポチ――!


 ヴェルが棺桶にあった出っ張りを押し込むと、どういう仕組みか棺桶が透明化し、中に横たわる全裸の女性の姿が見えた――


「うわっ!」

「げ……」


 思わず目を伏せる俺とアゼル――


「ヴェ、ヴェルさん! その人って……?」

「あら、わかる? アーニャちゃん」

 ヴェルは相変わらず呑気な声でいう。


「ルーンレイスに、そっくり……」


 呆然とした声で言うアーニャ……

「え……?」

 俺も慌てて棺桶の中の女性を見る――確かに、その顔立ちや体つきは……あの時見たルーンレイスに特徴が一致する――


「あたりまえだ。ルーンレイスはヴェルバーンがそのレイナという娘の魂を加工して作ったものだ――」


「「「ええ!?」」」


 エルライア師匠の言葉に、俺達は今日何回目になるかわからない叫び声を上げる――


「そうそ、魂を別の形に加工し、大量の魔力を与えて成長させてから体に戻せばいい魔王候補ができると思ってたんだけどね……」


「なんでそんなことを!?」

 俺が叫ぶ――


「え? 一応、力を望んでいたのはレイナちゃん本人だけど?」

 自分のせいじゃないよ、とでもいいたそうな顔で、ヴェルはいう。


「ま、その魔力を与えている最中にエルトという人材を見つけてしまったためにそっちに行ってしまいルーンレイスとレイナはほったらかしなってしまったんだ」

「そんなこと言わないでよ、一応メタリオムにちゃんと見張りを頼んどいただから……」

「そのメタリオム嬢も自分の体を奪ってどっか行ってしまいましたが……」

 悲しそうに言うアゼル……


 というか、俺のせいなのか?

「いや、間違いなくルーンレイスについてはヴェルに責任がある――」

「や~~ん、ニナちゃん、そんなこと言わないで!」

 いやいやするように体をくねらせるヴェル――


「とにかく、これでルーンレイスの事件は簡単に解決するでしょ?」

「どこが?」

 ルーンレイスが、レイナという女性の魂をヴェルが改造して作ったと言う事と、ルーンレイスが魔力を集めるのはそういう風に作られたからだと言うのがわかっただけで解決したと思えない。

 第一、ルーンレイスに襲われた人間が恐怖に支配されてしまうのとアーニャが正気に戻った理由もわかっていない―――


「そこら辺はおいおい解決していけばいいじゃない――手っ取り早くルーンレイス事件を解決するにはここにあるレイナちゃんの肉体を殺しちぇばいいんだから―――」


「はぁ!?」


 ヴェルの表情は、まったく変わった感情が出ているように見えなかった――


「肉体と魂の絆っていうのはこの世界ではかなり強い。魂を殺せば肉体の死ぬ、肉体を殺せば魂も死ぬ。それはこの世界の常識でしょ」

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