令嬢ニナ-1
「見つけたわ~~!!」
魔女の歓喜の声が響き渡る――何を、見つけたって言うんだ……?
「この娘の魂、この魂と同じ色、同じ色じゃない! やった~~!!」
「よかったですねハピレア様!!」
「ハピレア様、おめでとうございます!」
「ヴィ~~ヴァ!! ハピレア様!!」
「ハピレア様、バンザ~~イ!!」
「グレイトっす! ハピレア様!!」
「とりあえず、祝福だけはしてやるぜハピレア様」
「よかったね、ハピレア様」
「ここで私の喜びの踊りをあなたに捧げましょう」
「おめでとう、そしておめでとう!」
「うぉめぇでぇいぅとぉ!!」
「私、涙が出てきました。感動しています……ハピレア様」
「よかったな!」
「俺は今、猛烈に感動している!!」
「ハピレア様の願いが叶ったことを皆でお祝いしてバンザイ三唱」
「「バンザーイ!! バンザーイ!! バンザーイ!!」」
周りの大勢の人間が、騒がしく祝福の言葉を挙げている……誰に? 魔女に?
俺には何がどうなってるのかわからない――俺は今、魔女の手のひらの上で、身動きできないでいる――場所は――街の中央の領主館の庭、だろうか? 思考が働かなくなっているため周りの状況がどういう風になってるのか――感じたり、知ることができても、それはどういうことなのか考えて理解することができないのだ――
大勢の人間がいる。皆一様に、魔女ハピレアを祝福している。
中には、倒れている人間もいる――それも、かなり大勢――
「こうして、同じ色の魂が見つかった以上、これはもういらないわね~~エイッ!」
フワリ……
俺はどうやら魔女の手のひらから投げ出されたようだ――だが、自由になったところでどうすればいいのかわからない――考えることなどできはしないのだから――
投げ出されたことで、わかったこともある――今の俺と同じようにフワフワと、いくつもの――人間の魂――がそこら辺に浮いている――それらは一つ一つ全く違った色を持っていて、同じものはほぼないと言っていい――
やがて、その魂の一つが、地面に倒れている人間に当たった――
そして、弾かれた――
倒れている体のほうにも独特の色があり、違う色の魂を拒絶しているように見えた――
同じ色の魂と、同じ色の体が合わさった時――魂は肉体に溶け込むように消えていき――やがてその人間は目を覚ました――
ああ、そうか――俺もああやって同じ色を持つ体に入れば、肉体を取り戻すできるのだ――思考が働かないなか、どうにかそれだけを理解する――
そこら辺に肉体は、俺とは全く違う色をしている――その色は、俺を――俺の魂を拒絶する――
これはダメだ――俺の魂と同じ色の肉体は――
―――――――あった―――――――
それも二つ―――魔女がその腕に抱いている男の肉体と、魔女のすぐ側に倒れている髪の長い少女の肉体――
俺はどうにかそこに行こうとする――どちらが、俺の肉体だ?
……魔女が、男の肉体に魂を注ぎ込んでいる……
肉体と同じ色の魂は、少し引っかかるように止まりながらも、少しずつ少しずつ、肉体に溶け込んでいく――
「あれ……? あたし……?」
魔女の腕に抱かれていた男が目を覚ます――え? あれって――俺、じゃなかったっけ!? いや、理解できない、でも何か、とんでもなく大変なことが起こっているような――――いや、肉体を取り戻せば、思考能力が回復するはず――そうすれば理解できるようになるだろう――
「ああ~~ん、だめょ~~ぅ、あたしなんて言葉遣いしちゃ」
魔女が、男に対して何かを言っている――
「あなたの一人称は『俺』! あなたはかっこいい『私の恋人』なんだからぁ~~」
ビカッ!
男の目を覗き込むでいた魔女の目が光る――!!
「あたし……おれ? こいびと……」
男は呆然とそう、つぶやいていた……が、だんだんとその瞳に力が戻ってきて……
「そうだったな! 俺はお前の恋人、ニナだ!」
「あら~~そんな名前だったかしら?」
「いいえ、彼の名前はエルトよ」
首をかしげる魔女にそばにいた武道家のムヴエがいう。
「そうね、あなたは『私の恋人エルト』よ~~」
ビカッ!
「そう、俺は魔女ハピレアの恋人、エルトだ」
男はそう叫び魔女を抱きしめる――
なんだ……? 俺は、いったい何を見ているんだ? これはなんだ?
魔女と男は熱い抱擁を交わしている――
「エルト、私を恋人だと言うならば、その証を私にちょ~~だい!」
「ああ、わかったよ俺の恋人ハピレア」
魔女と男が口付けをかわす―― それも激しく情熱的なものだ――
チュパチュパ!!
合わさった二人の唇から激しい音が聞こえている――
「きゃ~~! 素敵ぃ~~!!」
「オメデトウ! ハピレア様!!」
「エルト様とハピレア様、本当にお似合いのカップルね!」
「結婚式をしましょう! 会場は押さえてあります!!」
「ヴィ~~ヴァ!! ハピレア様!!」
「すばらしい、そして素晴らしい!」
周りの人間たちもそれを祝福してるようだ――しかしそれはなぜそうなるのか、俺には理解できない――エルト――それは、俺の名前じゃないのか!?
「ああ、エルト~~! もっと私を愛して~~!!」
魔女がもっと激しい愛をエルト、と呼ばれた男にねだる……でもそれは俺じゃない、俺じゃないぞ……それじゃ、俺は何なんだ?
理解できない、考えられない、どうなっているんだ?
「ううっ……うう……」
突然、エルトが……俺じゃないエルトが苦しみ出す――
「エルト!? ど~~したの!?」
魔女が慌てる――
「これは……肉体の命が消えかかっているんだ――本来の魂が消えかかってるせいで」
ヒーラーのトウカが、エルトの様子を見て言う――
「魂が!? 全く、肉体にいたときから私の暗示に逆らう悪いこちゃんだったのに、魂になってまで逆らうの~~?」
魔女がキョロキョロとあたりを見渡す――そして、俺に目を向ける――
「魂が死んじゃったら、元の肉体も死んじゃう。肉体が死んじゃったら、魂の方も死んじゃう――つまり、私の恋人を生かすためには、元々の魂と、今入ってる魂のあった肉体の両方を生かしとかなきゃいけないのよね~~」
面倒臭そうに魔女が言う――
「仕方ないわね~~あんたが死んじゃったら、私の恋人が死んじゃうじゃない」
魔女が俺を掴む。
「私に逆らうあんたは許すことができないけど~~私の恋人の命に関わることだからねぇ~~そこに入ってなさい!!」
ズボッ!!
俺は魔女の手によって倒れていた少女の肉体に押し込められた――――