合流する魔王たち-アゼル視点
「自分の体は今、どうしているのだろう?」
自分はアゼル……アゼルだと思っている。
だけど今の自分はメタリオム嬢と言う女の子の姿になっている。
そして、スクール水着なる体に密着する布地の少ない衣装を着せられ、酒場で働いている……
「どうして、こんなことなかったんだ?」
一段落し、自分の体を見下ろす――本来の自分にはありえない膨れた胸が目に入ってさらに落ち込むことになる……
「よう姉ちゃん! しけたツラして、男にでも逃げられたのか!?」
酔っ払いが自分に絡んでくる。
「そうだよ、今ある男探しるんだ!」
自分はやけくそでそういった。
「まるで恋人でも探しているようだな」
まるで人ごとのようにエルライア師がそう言った。
「それ、はっきり言って全然笑えません!!」
「くそう、メタリオム嬢のやつ、自分の体を奪ってどこに消えたんだ……」
そして自分は今日何度目かになるかわからないため息をつく――
その時だった――
「メタリオム!!」
どこからともなく女性の叫び声が響いてくる!! それに少し遅れて―――
ドドドドドドドドドドオ!!
「いっ!?」
凄い形相の女の子がものすごい勢いで酒場に入ってくる――!!
「見つけたぁ!!」
そして自分を見つけると、
「メタリオム!! あんた一体何をやっていたの!?」
そう言って自分の頭をつかむ!!
「反省しているの!? メタリオム!!」
グオン!!
そして女の子は自分の――メタリオム嬢の頭をつかんだまま回転し、片手でその体を釣り上げ複雑な形に極めて酒場の床にたたきつけた!!
ドガン!!
ど派手な音を共に、自分の意識は飛びかける――が、メタリオム嬢の体は丈夫にできているらしく、気絶するということはなかった――
「トルネード・フィッシャーマンズ・スープレックス……なかなか見事だな」
「エルライア!?」
エルライア師が呆れたような声を出す。
「いつ帰ったんだ? ヴェルバーン――」
「その話は後、今はメタリオムにお仕置きしなきゃいけないからね」
ヴェルバーン――エルライア師にそう呼ばれた女の子は自分を――メタリオム嬢の体を見下ろしながら手をポキポキと鳴らす――
「覚悟はいい? メタリオム――」
「どうでもいいが、そいつはメタリオムじゃないぞ」
「へ?」
エルライア師は、キセルから煙を一筋吐く――
「胸元をよく見てみろ――」
自分の着ているスクール水着と言う衣服には、胸元に白い四角形の布が縫いつけられており、そこには三つの簡単な紋章が描かれている――
「……あ、ぜ、る………?」
「そう、そいつはアゼルだ。メタリオムじゃない」
ヴェルバーン嬢は、自分を頭の先から足の先まで睨み付ける――
「……体はメタリオムの物みたいね……でも、中身が違うみたい……これの中身は?」
「アゼルという学院の院生だ。俺の生徒では無いのだがな」
「……あいつ、もしかしてこの世界の人間の体を奪ったわけ?」
「ああ、お前に似て、部下も自分勝手な奴が多いようだな――」
エルライア師とヴェルバーン嬢が訳のわからない事を話し始める――
「いや待てよ、これは好都合かもしれない――」
「何が好都合なんだ?」
「いやね、この世界の人間ってさ、肉体と魂の絆が結構強いんだよ。だから体を入れ替えていても、肉体の方を殺せば魂の方も死んじゃうし、魂の入った体を殺せばもともとの肉体のほうも死んじゃう――前にロンメルドが強靭な肉体に強大な魔力を持った魂を入れたけど、残った肉体と魂を処分してしまったらせっかく一致させた強靭な肉体と強大な魔力を持ったほうも死んじゃったって言ってたでしょ?」
「そうだな、だから俺は才能のある人間を見つけだそうと学院にもぐりこんだわけだ」
エルライア師も、ヴェルバーン嬢も一体何を言ってるのか?
床に叩きつけられたために痛む頭ではうまく考えることができない。
「だけどねうまくいけばその絆を断ち切る儀式魔法が作れないかなと思って――ちょっと、一致させたい肉体と魂があるんだよね――」
「……それはメタリオムのように肉体と魂を交換できるものがいて、誰かの強い力を持った肉体を奪った、ということか?」
「むちゃくちゃ可愛い女の子に、強力な力を持った人間の魂がはいったの! イリュー様に捧げる魔王候補の一人として私が推薦するわ――」
何を言っているんだろうか? いりゅう……? イリュー? ……おとぎ話に出てくる魔界創世の大魔神か……?
「それでお前はルーンレイスの監視をほったらかしにしてそいつ所へ行っていた訳か……ルーンレイスも魔王候補を作り出すためにお前が始めたプロジェクトじゃなかったのか?」
「まあそうだったんだけどね……」
いたずらっぽく笑うヴェルバーン嬢。というか、あの凶悪なルーンレイス作り出した?
「でも今度の子はね、ものすごく可愛い女の子に人魔統一体の魂が入ってるから、かなりすごいよ。元の体との絆を断ち切れば、いい魔王少女になってくれと思うわ」
「ほう、どんな人間だ?」
エルライア師が興味を示したように言う――床で這いつくばっている自分を完全に無視して――
「ヴェル! 一体全体こんなところで何をしてるんだ?」
その時、酒場にもう一人の少女が駆け込んできた――
全力で走ってきたのだろうか? かなり息を切らしている。
「見て、これが私の見つけた魔王候補、ニナちゃんよ!」
「へ……?」
――ニナ――そう呼ばれた少女は、あたりをきょろきょろと見渡す。
絶世のとまではいかないが、かなり可愛い子だ。
長い髪を後ろで無造作に結んでいる。かなり仕立ての良い高級そうな、それでいて動きやすそうな洋服を着ている。
まだ年若いだろうが、そのボディーラインは子供から大人の女性へと変わっていく中期段階らしい……出るところはしっかりと形作られ、将来が大変楽しみな少女である――
「――あ、エルライア師匠!!」
ニナ嬢は、床でボロボロになっている自分には目もくれずエルライア師に声をかける。
「うん、なんだ? 俺の知ってる奴か?」
エルライア師はそういう、と、
「エルライア師匠!!」
ニナ嬢はダッシュしてエルライア師に抱きついた――
「エルライア師匠!! 俺です! エルトです!!」
ニナ嬢は目から涙をこぼしながらそう叫んだ――
「エルト?」
エルト・ユティ・アルムト――エルライア師の生徒の一人であり、魔法学院の首席卒業者――そして国王直々に騎士叙勲が行われたほどの高名な魔法騎士――
ニナ嬢は自分がエルト騎士で、魔女と戦って敗れたためこのような体に変えられてしまった、自分の体を取り戻すために協力して欲しいと、涙ながらに訴えていた――




