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見てくれ『だけ』を魔女に惚れられて  作者: すしひといちなし
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魔王たちの会議

 ゴトゴトゴト、と、馬車は街道を進んでいく――


 レグリーム伯爵領から王都までは馬車で約一週間程度――

 クイエト王子の騎乗騎士たちもいるのでもう少しかかるだろう。フル装備の騎士を乗せた馬は軽く走る人間よりも遅い時がある。


 俺は魔法騎士時代に馬に乗っていたことがある――軽装備ならともかく、重装備で速く走れる馬はほとんどいない――


 ……愛馬カトマン号は元気だろうか? 魔女ハピレアの住処が深い森の中だったこともあり、近場の村まで馬車で移動しそこから徒歩で向かった。

 故にカトマン号は出立前に実家に預けたままだ。

 元気でやっているだろうか? できるなら、この体でも乗ってみたい――


 主人が幼い少女になってしまえばカトマン号もきっと大喜びだろう。

 あいつは結構現金な奴だからなぁ。


「あら、ニナちゃん。何をニヤついているの?」

 一緒に付いてきたニナの母親レグリーム伯爵夫人は俺の膝の上に乗せながらそう言う。

 領地運営のために残ったレグリーム伯爵の代理として、娘の世話焼きのためについて来た――そうでもなきゃ、納得してくれなかった。


「……俺はあんたの娘ニナじゃない。エルトだ」

「はいはい、そうだったわねエルトちゃん」


「……」


 今、この馬車の中にはこのレグリーム伯爵夫人の他に、メイド姿のムヴエとトウカ、なぜかついてきたヴェル、そして十二才という事で魔法学院入院許可が下りたのアーニャとウイスが乗っている。


「ニナお嬢ちゃんは大切にしなきゃね」

「いじめられたとしても、俺達がついてるぜ!」


「十二って数はいいね。私も十二才って言っちゃおうかな?」

 ヴェルがそう言っている……無理があるだろ。


 ま、いっか……俺はとりあえず、レグリーム伯爵夫人の柔らかさと、馬車の振動で、眠気に誘われていった……




「――――円卓が賭けてしまったな――――」


「まったく……レオンアダンもドジな事だ。人間の勇者ごときに敗れ滅びるとは……」


「そうだな。あいつはこの十二大魔王の中で最弱――というわけでもなかったのにな」


「あ~~! それってど~~いう意味ですか!?」


 そう言ったのはヴェルだ。しかし、俺の知っている普段のかっこうではない――なぜか背中に黒い龍の翼と白い猛禽類の翼、そして額に鋭い角が備わっている。


「ヴェルバーンにはまだ伸びしろがあるって事じゃない?」

「そうですよね、リュディクお姉さま!」

 上座の右隣に座る女神の様な女性ににっこりと笑ってかえすヴェル。


「ヴェルバーンお姉ちゃんって、百合?」

 子供っぽい口調で言ってくるのは虎と人間のハイブリッドのような人物……

「何をいまさら……」

「部下にメタリオムをはじめ女の子しかいない時点で明らかじゃん」

 全身鎧――色合いからしてオリハルコンだろうか? の騎士と六本の腕と三つの顔を持つ異形の女性――


「そうだよ。だからあなたも好きなんだシャシちゃん!」

「肯定しやがったよ……こいつ……」

「それも、偉大なる阿修羅姫をちゃん付けか。たかだかハーフエンジェル&ハーフデビルが……」

 異形の女性と、その横に座るいかにも悪魔と言う感じの何かが、そう言う。

「ロンメルド……ここに種族を持ち出すのはナンセンスだと思いますわ」

 女神の女性が悪魔に恐ろしいほどの表情を向ける。

 うん、美女がこういう表情すると本当に怖い……

「ここに集められているのは、偉大なる魔の神、イリュー様に認められた十二大魔王なのですから」


「しかし、問題なのはその十二大魔王に欠員が出ていることだろう?」


 エルライア師匠? にそっくりな男が口をはさむ――

 まあ師匠にはとがった耳とか鋭い爪とかはなかったと思うから別人だろう。

 キセルから煙をくゆらせているのは昔のままだが。


「レオンアダンの後釜を誰にするか、だな」

 悪魔――確かロンメルドと呼ばれていたものがそういう。

「我が悪魔界には今すぐにでも大魔王に昇格させていい人材はいくらでもいる」

「あ、それなら修羅界にも何人かいるよ」

「神界から何人かかっさらってこようか? 元神なら下級でもそこそこ素質あるはずよ」

「ならば、某が配下の龍を昇格させようか」


 女神然とした女性――リュディク。

 悪魔の様なもの――ロンメルド。

 六本の腕と三面の顔を持つ阿修羅姫――シャシ。


 ヴェルにそっくりな黒と白の翼を持つ魔女――ヴェルバーン。


 尖った耳と鋭い爪のエルライア師匠そっくりな男――


 ブラックメタルの鱗を持つ巨大な龍――

 オリハルコンの全身鎧を着た騎士――

 虎と人間のハイブリッドの様な少年――


 魔導士然としたローブを羽織る老人――

 ニコニコと、笑顔を崩さない絶世の美女――

 ギラギラなゴージャス衣装の剣士――


 以上の十一人……いや、十二体、か? が円卓に付いている――


 そして、空いている席は二つ……上座と、もう一つ……


「提案がある――」


「「「――!!」」」


 どこからともなく聞こえた声に十一人の異形は水を打ったように静かになる――




「欠けた席の件だが、俺の希望を言っていいか?」


 いつの間にか、上座に一人の男性が座っている。

 他の参加者たちの姿形にくらべて異形というほどでは無い。が、持つ雰囲気はたと比べ物にならない……


「イリュー様」


 女神――リュディクが代表して声を上げる――


「俺の希望だが、大魔王の席に人間を加えてみようと思っているんだ」


「人間を、ですか?」

 リュディクが意外そうに言う。

「ああ、人間だ」


「……」


「人間というと……こなたの世界にたくさん生息しておりますけど、どのような人間をお望みなのですか?」

 今まで黙っていた老人がいう。

「……確かに、レオンアダンを滅ぼした勇者も人間だ」

 オリハルコンの騎士が言う。

「何かめちゃくちゃにとんでもない力を持った奴って時々いるよね。そういうのを大魔王にするのもいいかもね」

 これは、虎と人間のハイブリッド少年。

「それなら、思い切り可愛い女の子を大魔王に向かえようよ! そうしよ、イリュー様!」

 ヴェルそっくりな、ヴェルバーンがそう言う。

「え~~? 私はかっこいい男の人がいいんだけど?」

 にこやかな美女がそう言った。

「よし、今から人間界に行き、数人さらってくるか。うまくいけばそれで済む」

「あ、私も行く! 可愛い女の子さらってこよ!」

 エルライア師匠に似た人物とヴェルバーンが立ち上がる――

「ヴェルバーン……あなたは人間界に行かない方がいいわ」

 シャシが、そう警告してくる。

「え~~なんで~~?」

「あなた、前に日本って言う人間の世界の国にはまりまくって、数年間帰ってこなかったじゃない。あろうことか部下まで連れて行って……あの時、あなたは魔王城を攻め落とされたのを覚えていないの?」

「え~~? でもあの国はいろんないい人いたよ! スズキさんとか!」

「じゃあそのスズキを連れて来い。大魔王スズキ、強そうなネーミングじゃないか!」

「いや~~、スズキさん、男の人だからね~~。やっぱり大魔王にするならヤマダちゃんとかタナカちゃんがいいな」

「大魔王ヤマダ……大魔王タナカ……ぴんとこんのぉ……」


 なんか、すきかってに言い合ってるような気がするが……


 ドオン!!


 凄まじい音で、会話が中断される。

「今回のこと、イリュー様の勅命――ならば最高級のものをお出しするのが筋であろう」

 悪魔――ロンメルドと言っていた奴だ。

 すぐ側にいるイリュー本人は、口元に微笑みを浮かべ静観している。

「なら、言い出しっぺのロンメルド殿がいかれるのですね大魔王たる人間を探しに――」

「……イリュー様の勅命とあれば……」

 ロンメルドが立ち上がる。

「その姿で人間界に行くのは無理があるんじゃないか? ロンメルド。少なくとも人に化ける事ができねば難しそうだぞ」

 後ろで立ち上がったのがエルライア師匠にそっくりな男――


 ――!?


 かすかな光とともにその男の姿が変わる……俺の知ってるエルライア師匠の姿に――


「あ、じゃあ私も!」


 そう言ったのはヴェルバーンだ。やはりその姿も変化し、俺の知ってるヴェルの姿に……




「と、言うわけでこの世界に私たちが来てから早数年、やっと見つけられた魔王候補があなたなのよ、ニナちゃん」

「てっ! なんなんだ今の夢は? そんな無茶苦茶で荒唐無稽な設定があってたまるか!?」

 俺は慌てて飛び起き、ヴェルを怒鳴りつける!!

 寝入っていた俺の耳元でヴェルが何か囁いていたらしい。


 ヤバい……なんか洗脳魔法は効かないはずなのに洗脳されそうになっていた。


 周りを見ると、レグリーム伯爵夫人もムヴエもトウカもアーニャもウイスも眠っているようだ。

 だが、外では何か騒がしい音が聞こえる――


「あ、いま襲撃を受けているみたいだよ」


 ヴェルがのんきにそういった。


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