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見てくれ『だけ』を魔女に惚れられて  作者: すしひといちなし
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スクール水着-アゼル視点

「ねえちゃ~~ん! こっちに大ジョッキ二つ!」

「こっちに中ジョッキ! 早く持ってきてくれ!」


「ハ、ハイ、ただいま!!」


 シクシクシク……なんで自分、こんな所でこんな事やってるんだろ?


 王都の酒場にて、自分は……自分は……

 自分、アゼル・フォレ・シャークナーは……アゼル・フォレ・シャークナーは……

 自分、アゼル・フォレ・シャークナー……なんだよ、な……


 自意識では自分はアゼル・フォレ・シャークナーだと……そう思っている……


 自分は男で、魔法学院の生徒で、シャークナー侯爵の息子だと、そう思っている。


 でも体は……


 プルンと、大きく膨らんだ胸、キュッとくびれた腰、ピチッと引き締まったお尻……すらりと伸びた長い脚や腕も適度な脂肪がついて柔らかい女の物……そう、あの時ホールでそばにいたメタリオム嬢の物になっていた。


「どうしてこうなった? どうしてこうなった?」


 激しく、自問自答する。

 だが、自分の物ではないメタリオム嬢の頭は答えを出してくれなかった。


「うう、それに、何なんだこの服? 一体何でできているんだ?」


 自分は今、体にピチッと張り付く黒に近い色奇妙なデザインの服を着せられている。

 胸の下あたりにほんの少し隙間の開いたその奇妙な服は、両肩の細い部分と胸とお腹、股にかけての部分しか布地がなく、後はお尻までしかカバーされていない。

 そして、胸元には白い長方形の布が貼り付けられており、そこに、簡単な紋章が三つ手書きで書かれていた――


 書いたのは、エルライア師――




『お前、メタリオムじゃないのか? ……お前は誰だ?』


 魔法学院ホールでのルーンレイス騒動の後、自分はこのエルライア師に連れられ、学院にある彼の個人部屋まで連れていかれた――


 そこで、なぜか女性の――メタリオム嬢の体になっていた自分を……エルライア師はお仕置きと称して恒例の尻たたきから始まるとんでもないイジメをこの体におこなってきた――


 それは、自分が高名なる魔法の師、エルライア師のイメージをまったく別のものへ変えてしまう物だった。

 そして、変わっていたのが自分自身もそうだという事を思い知らされた――


 お仕置きのショックも、エルライア師によって見せられた鏡で多少は吹き飛んだ――


『つまり、メタリオムの奴はお前の体を奪って、逃げ出したんだな……』


 あきれた風にエルライア師はそう言っていた。


『……たく……ヴェルバーンのやつもどこに行ったかわからんし……』


 エルライア師曰く、ヴェルバーンというのは師の友人……とかいうやつらしい……

 ちなみに、そのヴェルバーンという人物が、ルーンレイスについて何か知っているらしいが詳しくは、教えてくれなかった……


『今のお前に何を聞いても無駄だな。メタリオム本人じゃないんだから――』


 エルライア師はキセルから煙をくゆらせながら、そういう……


『……しかし、メタリオムにはきちっと仕置きをしなきゃいけないし、ヴェルバーンが帰ってきたら、あいつもメタリオムに仕置きをするだろう……』


 その時、エルライア師によって行われた仕置きを思い出し、自分の目から涙がこぼれるのを感じた――


『よし、こうしよう――お前、このスクール水着を着ろ!』




 ―――そう言って、エルライア師が自分に出してきたのが今着ている謎の衣服―――すくうるみずぎとかいうやつだった。


 こうして自分は、すくうるみずぎとか言う、この薄い衣服を着せられ、エルライア師の知り合いの酒場だと言う場所で働いている――


「なかなか様になっているじゃないか」


 エルライア師はキセルから煙をくゆらせて、そういう。自分に働かせておいて、エルライア師自身はのんびりと席に座って酒を煽っている。

「うう……」

 自分が恨みがましい目を向けると、エルライア師は肩をすくめて、

「酒場というところは、いろいろな人が集まる――ファンタジー世界で情報を集めようと思えば一番いいのは酒場だ。ここなら、お前の体を奪ったメタリオムの情報も入ってくるかもしれない。それとルーンレイスの情報もな」

 と言う。

「だったらなんで、こんな格好をする必要があるんですか?」

「仕方ないだろ、それはメタリオムへの仕置きも兼ねているんだ」

 エルライア師はにこやかに自分に言葉を返してくる――

「恥ずかしい思いをしているのは自分の魂と今の体なんですけど……」

 裸に近い格好で、酒場で働かされている自分――

「そのスクール水着には胸元に『あぜる』と書いてあるんだ――本当なら、体操服とブルマと言う組み合わせでもよかったんだが、今はスパッツが主流だからな」

「何の話ですか?」

「きちんと胸元に名前を書いておかなければ、お前だとわからないだろう? もしヴェルバーンなどが今回の件を知って今のお前にあったら問答無用で殴りかかってくるぞ」

「どういう人間なんですか? そのヴェルバーンって、人は!?」

「……そうだな……あいつの立ち位置を簡単に説明すると……魔女、ってことになるかな?」

 ――なんか、ものすごく嫌な響きの言葉だ。

「魔女って、国家にあだなす女の魔法使いの総称でしょ? それに対して男なら魔人って呼ばれている……何で魔法学院の教師であるエルライア師が魔女なんかと付き合ってるんですか?」


 自分は、エルライア師にそう詰め寄った……


「何言ってるんだ? 今のお前も下手したら、魔女って呼ばれるようになるかもしれないんだぞ?」

「な――!?」

「そのメタリオムの体は超一級の力を秘めているんだ」

「……魔力は、魂に存在するものと言われています――今の自分の魔力は、自分の体……アゼルの体であった時と変わりありません――!」


 ククククク……


 そこでエルライア師は薄く笑った……どうしてだろう? 今まで、思い描いてきた若き天才魔法教師のイメージがここでいちばん大きく崩れる……


「メタリオムが……いや、俺達全員がただの人間だと、そう思っているのか? おめでたい……」


 コク……


 つばを飲み込む自分……なぜかその体さえも未知の恐怖を秘めているような気がした……


「姉ちゃん! いい尻じゃねーか!」


 サワッ!


「ひっ!」


 酔っ払いが自分の尻を触ってくる――!!


「や、やめてください!!」


 自分は泣きながら逃げるしかなかった――情けない……


「まあ、メタリオムのやつなら2、3発やったって文句は言わないだろうから。やりたいならやればいいんじゃないか? 俺は、遠慮しておくけど」


「何を!?」


 こんな体で、こんな服装で、自分はこれからどうなるだろうか――?

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