魔女ハピレア-2
「ど~してあなたは『私の恋人』になってくれないのよ~~!!」
ビカッ! ビカッ! ビカビカ!!
魔女の目が何度も光を放つ!
「あなたは私の『恋人』!! 『恋人』なのよ~~!!」
恋人恋人と何度も叫び、俺に暗示をかけようとする魔女――でも俺にはなぜか効かない――!!
俺は、魔女の恋人じゃない――!!
「くおら!!」
グオン!!
渾身の力を込めた一撃!!
この魔女さえ倒せば――全て元に戻るはずだ!!
「―――――――!!」
何っ!?
俺は――決死の思いで自分を抑える! 剣を、止める!!
「どけっ!! トウカ!!」
俺は、魔女を守るように立ち塞がった仲間――トウカに向かって叫ぶ!!
「ダメだ!! 男が女を傷つけるなんて許さないし、彼女は俺の恋人だ」
何!?
「トウカ!? お前今、なんて言った!?」
「そうよ! 私の恋人に手を出すなんて許さないわよ!!」
ガシッ!!
野太い女言葉が聞こえたと思ったら、俺の腕がものすごい力で抑えられる――ムヴエ―――!! お前もか!!
「ボクの、恋人はボクが守るっ!」
今にも泣きそうな顔でカシムが這いつくばって俺の足をつかむ――!!
「そうよ~! みんな私の恋人! そしてあなたも『私の恋人』よ~~!!」
ビカッ!
「ふざけるな!! 俺はお前を倒し、皆を元に戻す!! 『爆裂せよ! ブラスト』!!」
ドウン!!
俺の力ある言葉で、空間が揺れる!!
爆裂の魔法、ブラスト――魔法騎士たる俺の切り札の一つ!!
「――っ!!」
魔法の爆発を受けたのは魔女ではなかった――
「ムヴエ――」
俺の腕を離したムヴエが武闘家のスピードで魔女達の間に入りこみ、身を呈して魔女を――守った!!
「あらあら~大丈夫かしら~~?」
自分を守ったムヴエに対し、ほぼ形だけのねぎらいの言葉をかける魔女。
「あなたは私の恋人よ……当たり前じゃない!」
それに対し、心底嬉しそうに笑みを向けるムヴエ――魔女によって作られた偽りの感情はあの実直な武闘家をこうまで変えてしまうのか……!?
「殺す……お前は絶対に殺す!!」
「女性を殺すだなんて……お前は男の風上にも置けないな!!」
「ダメだよ、彼女はボクの恋人だよ」
ムヴエだけじゃない、トウカやカシムもだ――!!
「魔女ハピレアぁ!! お前を殺す!!」
俺はもうトウカやカシム、ムヴエを傷つけることもかまわず魔女に突進する!!
「あなたは私の『恋人』~~!!」
ドス!!
俺の剣が魔女の肩口に食い込む!!
「い、痛いわ!! やめて~~!!」
このまま魔女の体を切り裂――――
ガキガキガキン!!
「なっ!?」
魔女の体に付けた傷から飛び出た血液がまるで意思を持ってるかのように膨張し、俺の体にまとわりつきそして、凝固し、拘束する!!
「―――――!!!!!」
「なんで、私の暗示が効かないの? 何が問題なの?」
肩口に食い込む剣を無造作に抜き、放り投げる魔女――
「俺の恋人!! 大丈夫か!?」
トウカが、慌てて魔女に回復魔法をかける!
「なにやってんだよ!」
バシ!
カシムが俺の顔を殴りつける!
「ボクの恋人を傷つけるなて、許さない、許さないよ!!」
バシッバシッバシッ!
動けない俺の顔を叩きまくるカシム――
痛みはあったが、それ以上に悲しかった――
「やめてよぉ~私の好みの顔を傷つけないで~~」
魔女がカシムを止める――
「悲しいわ~~こんなにも私の好みなのに、『私の恋人』になってくれないなんてぇ~~」
ビカッ!
「殺す!」
俺は魔女を睨み付ける――
「いや~~ん、怒った顔も素敵~~!! でも私に対して愛を囁いてほしいわぁ~~」
魔女は軽口を叩きながらも何かを考え込んでいる――いやな予感がする――!!
「『破滅の炎よ――我が体に宿り……
「――!!」
俺の口から出た言葉に魔女が驚愕する!!
バッ!!
「あなた!! それは自滅魔法!! なんでそんなものを使おうとするの!?」
俺の口を押さえ魔法の言葉を使わせないようにする魔女――
「そんなことをしたら私の好みの体がバラバラになっちゃうじゃないの!!」
魔女は俺の瞳を覗き込む――
「そうだわ!!」
突然、何か思いついたようにはしゃぎだす魔女!!
「私を拒絶しているのはその魂よね~~!? だったら、別の魂に取り替えてしまえばいいんじゃないかしら~~!?」
―――!?
何を言い出す!? 俺の魂を別のものと取り替える!?
「それがいいわ~~『離魂しましょう・ソウルアウト』!」
ブワァ!!
――!!
魔女の魔法が発動し、俺の体の感覚が全くなくなる――何が、起きた!?
「私に逆らう~~ダメな魂を抜いちゃった! あら~~ん、魂が抜けて脱力しちゃった体も、ス・テ・キ!」
俺は、なぜか魔女の手のひらのうえにのっている――え? まて、なんで? いや、周りの状況はわかるが、考えることができなくなっている!!
「俺の恋人――俺の魂を使っていいぜ」
トウカの声がする――が、何を通すつもりだ?
「私の魂を使ってくれてもいいわ」
この声は、ムヴエ、か?
「ボクでもいいよ」
カシムも、何かを言っている――
ダメだ、なぜか分からないが何も考えられない――
「いい考えね! じゃあ、あなたの魂を使わせてもらおうかしら~~」
魔女が、何かを言っている……
「『離魂しましょう・ソウルアウト』!」
何かの魔法が使われたようだ――
「あら? あらら~~!? 魂の色が、違うじゃない~~これじゃあ、つかえないわ~~」
魂の色……? どっかで聞いた覚えがあるんだが……どこでだったか……確か、人間や他の生物に宿る魂というものは、それぞれ独特の色があってその肉体は同じ色の魂でなければ動かすことができないとか……魔法の師に、そう、教えられた覚えが……あった……しかし、同じ色の魂を持つ人間など数万人に一人、いるかいないからしい……ああ、高度な魔法なら自分の魂の色を変える事も出来る……とか何とか言う話もあったか……?
「これもこれも、魂の色が違~~う!! どうして!? なんで魂の色は別々なのぉ!?」
イライラしている魔女の声――
「仕方ないわ~~、これから街にいきましょう~~? 街に行って、この魂と同じ色の魂を持つ人間を探しましょ~~! 見つけたら、この体に入ってもらって、今度こそ私の恋人になってもらうの!」
「こいつの本来の魂は?」
「余った体に突っ込めばいいんじゃない~」
何かとんでもない話をしているようだが……うまく理解できない――
「それはやめたほうがいいな」
誰だ……この声の主は……? 聞き覚えがない……
「あら、お兄様」
魔女の声、なんて言ったんだ?
「肉体と魂っていうのはかなり親密な関係にある――別の肉体に魂を封じ込めたとしても、封じ込めた肉体が死ねば元の肉体も死んでしまうぞ――そうしたくないならば、その男の魂を封じ込める肉体はきちんと選んだ方がいい――」