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見てくれ『だけ』を魔女に惚れられて  作者: すしひといちなし
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王子の依頼

「ギャハハハハハハハ!! 何、お前、魔女に負けて体を取られた挙句、その体にされたって、訳か?」


 大笑いするクイエト王子。

 わかっている、この人に悪気はない……


「で、王子はなんでここに来たんですか?」


 この国ではいくら王子といえども、そう高い身分では無い――国王という職業も、ぶっちゃけ国の代表と言う意味合いでしかないし、軍隊を持って民を盗賊や魔物、魔獣、果ては外国から守ることを誓わされている。


 ――ノーブレス・オブリージュ――


 立場ある人間は、その力を、力持たぬ人々のため使わなければいけない――

 とかなんとか……


 もちろん、民のわがままを聞いてばかりでは国が成り立たないので、ある程度の権限は強制執行できるが……


「実はなあ、お前を迎えに来たんだがな、エルト」


 クイエト王子はまだ笑みを消さず、にこやかに言った。


「お前が魔女討伐のためにこのレグリーム伯爵領に来ていたのは知っていた。戦士派遣協会は王宮の援助で成り立っているから、情報開示を頼めば教えてくれる」

「個人情報保護法はどこへ行ったのかしら? あ、元々この世界にはないか」

 ヴェルがまた、訳のわからないことを言っている――

「……すいませんね。魔女に敗れた上にこんな体になってしまって、王子に合わせる顔はありません――」

「いや、可愛いからまだいいと思うぞ。もしお前の魂を閉じ込めた体が寝たきりの老人だとか太ったおばさんだとか言うのであれば、もう泣くしかないからな」


 クイエト王子のその笑顔の裏に、俺を憂いているような光があった。

「この体でも、泣いていますよ。俺は……本当に今、役立たずなんですから……」


 魔法以外の俺の持っていた技術は全て元の体においてきたままだ。こんな体じゃ重い剣なんて振り回せない――だから、魔法剣と言う魔法騎士のスキルも使えないということになる――


 クイエト王子のお付きの騎士たちも複雑な目で幼い少女の体の俺を見ている――


「……しかし、お前はそのような目に遭っているという事は、他の仲間たちは? トウカや、ムヴエ、カシムは……?」


 カチャッ!


「皆さん、お茶をお運びいたしましたよ――」


 野太い声とともにメイド姿の筋肉ムキムキ男、武道家からメイドにジョブチェンジしたムヴエが人数分のお茶を巨大なトレイに乗せて運んでくる――


「どうぞごゆっくり――」


 ぺこり、頭を下げて部屋をでるムヴエ……


 シーーーーーーン……………………


「…………………………………………」


 俺、王子、そして騎士たちの気まずい沈黙が、えらく長い時間流れた――


「……………なに? 今の……………」


「………ムヴエ………」


 俺は、王子の質問に一言だけ答えられた――


「いや~~、結構ああいうキャラいるよ。私が昔行ったことのあるとある国では、顔がパンでできた空飛ぶヒーローや、青くて丸い猫型の機械人形や、バッタと人間のキメラがまだ初歩的なものとして扱われていたもの。それ以上となると、想像を絶するとんでもないものが存在してたわよ」


 唯一、あのムヴエを受け入れているヴェルがにこやかにそういった。




「ムヴエ……………かつて、東方の大陸国よりやってきた拳法の使い手――その鍛えあげられた肉体から繰り出される攻撃は、素手で岩をたやすく砕く――」


「仲間思いの男で、いつも先陣を切って難敵に戦いを挑む好漢――それでいて、実は慎重な面もあり、知らない敵との戦いの時は、全力で勝負を挑みながら、敵を知ることも全力を尽くす――」


「それはどうしてああなった!?」


「魔女ハピレアは、人間の心を変化させる魔法の使い手だ――そのせいで、ムヴエだけでなく、トウカやカシムも――」


「トウカさんも!?」


 騎士の一人が、大声を上げる――


「まさか、トウカさんまでメイドに!? それはそれで、見てみたい気もするが――!!」

 この騎士はトウカのファンか……だとしたら、今のトウカを見てどう思うか?


 カチャ!


「ほれ! 茶だけ出しといて、菓子を出さないっていうのはありえないだろ。持ってきてやったぞ」


 乱暴に投げ出される菓子の入った器――持ってきたのは、ムヴエと同じメイド服姿のトウカだった。


「―――――――!!」

「なんだ? 俺の顔に何かついているか?」

「…………………」


 変わり果てたトウカの姿にその騎士はショックを受けたようだった――


「なんか、いい……」

 いや、そうでもないか。


「タカラジェンヌって、女の人に人気あるから気をつけた方がいいわよ」

「……それも、あんたが昔行ったことがあるという国の言葉か?」

「ええ、そうよ! タカラジェンヌ、何度見ても飽きなかったわ」

 ヴェルはいったいどういう風な国に行ったことがある魔女なのだろうか?




「そうか……よくわかったよエルト……」

「クイエト王子……」


「お前には今、魔女ハピレアを倒し、自分の身体と仲間たちを取り戻すという重要な使命があるんだな……」


「すいません、そのためには王都に行き、エルライア師匠に協力しもらいたいと思っています―――」


 あの人なら、ハピレアの魔法に対抗できる。そう思う……


「本当なら、魔女討伐が終わったお前に依頼したいことがあったんだけどな。こういう状況なら、仕方がない――」


「依頼?」


 クイエト王子は軍の責任者だ。それが、一介の魔法騎士に依頼するなんてことがあるのだろうか。


「実は、そのエルライア殿がお前なら適任だと言っておられたから、ここに来たのだ――かの、ルーンレイス討伐の為にはな――」


「ルーンレイス?」


 聞きなれない言葉だ。なんだそれは?


「ルーンレイス!? ちょっと待ってよ! なんであなたがその言葉を知っているの!?」


 心当たりがあるらしいヴェルが叫ぶ。


「ヴェル、ルーンレイスって言うのを知ってるのか?」


「まさか、メタリオムのやつ、仕事サボっていたの? 見張りをきちんと頼んでおいたのに……」


 俺の質問に答えず、ブツブツと何かを言い出すヴェル――


「王子、そのルーンレイスとは?」


「……魔法学院を襲った魔物らしい……被害者の中に弟が含まれてるため、早急にどうにかしなきゃいけない問題となった――だが――」




 そして、クイエト王子は真剣な顔で語り出した……王都の魔法学院で何があったのか……

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