ルーンレイス-1-アゼル視点
唐突に始まる新たな入れ替わり…………
「いやぁぁぁぁぁ!!」
ルーンレイスの側で倒れていた人物が悲鳴を上げる――
「なんで、何で!? なんでお姉さまがあんなバカ王子と結婚しなければいけないの!?」
ピエルチ嬢だ――彼女は、必死にシャルロット嬢の名前を呼びながら泣き叫んでいる――
「ピーマン!! ピーマン!! なんで兄上は余の食事にピーマンを入れるのですか!?」
はっきり言って意味不明な事を叫んでいるのはドレッグ殿下――ピーマンなど、この時には関係ないだろう――
『マリョクヲ―マリョクヲ――!!』
ラムグリーン色の人型――ルーンレイスが、他の生徒にもその手を伸ばす!
「あくぁわ!!」
その生徒も、倒れた後、しばらくして訳のわからない事を叫びだした――!!
「『星屑よ――私に力を――スターライト・ジャベリン』!!」
ヴィン!!
シャルロット嬢が魔法の槍を作り出し、ルールレイスに攻撃を加える――が、その魔法の槍は、ルーンレイスの体に当たった瞬間、吸収されてしまう!!
「いやぁ! 来ないで!!」
その叫びもむなしく、ルーンレイスはシャルロット嬢を襲い――
「魔力を、奪っている!!」
周りの生徒たちも、それに気づいたらしい。
我先へとルーンレイスから離れようとする――!!
「って、のんきに解説してる場合じゃないな! 自分も、逃げないと!!」
そう言って自分もホールから……ルーンレイスから逃げようとする。が、
「ねえちょっと……待ってくれない?」
メタリオム嬢が、自分の腕を抑えている――
「ねぇ、アゼル君……これってさあ、エルライア様や、ヴェルバーン様に怒られることになるのかな?」
メタリオム嬢が、自分の目を見ながらそういう。
「君は何を言いたいのか、自分にはわからないけど?」
少なくとも、メタリオム嬢は、ルーンレイスには恐怖を抱いていないようだ。
「エ……エルライア師の事は知ってるけど、ヴェルバーンさんって?」
「どうだっていいでしょ! そんなこと……ねぇ、あなた私の代わりに怒られてくれない?」
「はえ?」
メタリオム嬢が、突然、自分にキスをする――!
「……!?」
気づけば自分は薄い緑色の空間の中にいた――
「どこだここは?」
途方もなく広い空間のような気がするが、なぜか閉じられた空間のようでもある――
そして、足の下には空間と同じ色の水が大量にあるような――そんな場所――
ぴちょ――ん
途方もない上の方から、一滴の水が降ってきた――その水は、水面に当たると――
バグギビガゲゴビ!!
「~~~~~!!」
「――!?」
自分の目の前で、メタリオム嬢が耳をおさえてうずくまっている。
なんだったんだ? 今の不思議な空間は――?
「ああ、そうだったわね……この世界の人間には魂と肉体の色ってやつがあったのね……」
魂と肉体の色?
「しかたないわ、こうなったら……」
「おい、なにを騒いでいる!?」
香木の葉を先が上向いた筒に入れ、そこに火をつけることで香木の香りを楽しむという嗜好品、たしか、キセルとか言ったか? それを口にくわえこのホールに入ってきた人がいる――
「あれは!」
「エルライア先生!!」
「お願いします、その化け物を退治してください!!」
エルライア師――若年ながら、この魔法学院でも指折りの実力を持つ教師――
ぷかあ……
エルライア師のくわえるキセルから、煙の塊が浮かぶ――
学院のパーティーでありながら、学園一の人気者と言われるこの教師が参加していなかったのは、ひとえにエルライア師が愛煙家だからだ。
あのキセルから出る煙を嫌がる人もいるため、あまり人のいない屋外で過ごしたのだろう――だが、騒ぎがおこったので、来てくれたという感じか――
「ルーンレイス……なんでこいつは自由になってやがるんだ?」
エルライア師は、ルーンレイスを一睨みした後、くるっと首を回す――
「?」
あれ、こっちを見た?
「ひぃぃぃぃぃぃい!!」
自分の隣で、悲鳴が聞こえる――メタリオム嬢だ。
「怒ってる、やっぱり怒ってるよねエルライア様――!!」
そういえば、メタリオム嬢はエルライア師の生徒の一人だよな――
「ごめんね、アゼル君! やっぱり代わりに怒られて!!」
「へ?」
ポンッ!
自分の頭に、メタリオム嬢の手が置かれる――
「――――!?」
気づいたら、またあの空間にいた――
ポウ……
「?」
薄緑の空間に、濃い紫色の明かりが灯る?
「なんだ?」
明かりがどんどん強くなり、空間はその色に染められていく――
「よし!」
――チュ!
メタリオム嬢が、また自分にキスをする――
今のは現実? でもこの空間で――
ぴちょ――ん……
再び、上から水滴が落ちてくる――
ぴちょん、ぴちょん……
今度は一滴だけじゃない――もっとたくさんの水滴? 周りと同じ、濃い紫色の――
「――!?」
水滴は、大量に降ってきて足元の水がどんどん増えてくる――
「う、うわぁ!!」
自分が増えた水におし流されてしまう――
「――!?」
なんだったんだ、今のは――
キョロキョロとあたりを見渡す。別に変わったところはない――たっていたはずなのに、いつの間にか座っていたことくらい……って、なんで?
「あ、ごめん、aiPATだけは持っていくね。これないと、ゲームが出来なくて退屈だから!」
誰かが、自分の手の中にいつの間にかあったやけに軽い石板を奪っていく――
「じゃ、ごめん……エルライア様とヴェルバーン様のお説教をうけといて!」
そう言って走っていくのは……え? 自分? アゼル?
「え? なんで?」
自分は、座ったまま他の生徒たちと一緒に走っていく自分を眺めていた――
なんか、お腹が張っていて動きにくい――体の重心やバランスもいつもと違う?
「『闇の壁よ――ダークウォール』」
グオン……
『マリョクヲ――ダガ、コレハ――キケン』
『キケン、キケン、キケン!!』
ルーンレイスは、エルライア師の魔法に恐れをなし……
『ワタシハシネナイ――シネナイ――』
キュオオオオン!!
ありえないような軌跡を描き、ルーンレイスは逃げ出す――!!
「ちっ! 逃したか……」
キセルを口から離し、エルライア師がごく普通に言う。
そして、キセルをくわえ直すと――自分の所へやってくる……
「なんで?」
「説明してもらおうか? メタリオム。どうしてルーンレイスが解放されているんだ? ヴェルバーンのやつは今何をしている?」
なんか、ものすごく怒ってるような感じがする……だが……なんで自分……なんで、このアゼル・フォレ・シャークナーに……?




