王都の学院にて-アゼル視点
「シャルロット! お前との婚約は破棄する!!」
「はあ?」
「余は、ピエルチと、結婚する!」
王都にある魔法学院の大ホール。進級、そして卒業のパーティーが開かれているときに、それは起こった。
騒ぎの主役は第4王子のドレッグ殿下――シャルロット様は彼の婚約者で、ピエルチ嬢は、同じクラスの学友といった所。
……実はこの第4王子、あんまり評判がよくない――
この国には、4人の王子がいる――
王の嫡男であり、第1王子のリューフェス殿下。
次男で軍の統率者である第2王子のクイエト殿下。
三男で高位魔法使いでもある第3王子のシュレア殿下。
そして、第4王子のドレッグ殿下。
国王を継ぐのは嫡男の第1王子であるリューフェス殿下と明文化されているし、武一辺倒といわれる第2王子のクイエト殿下は兄を支持している。
曰く、自分は軍を率いるのが性に合っている――王や政治などの小難しいことは兄にまかせる、との事だ。
もし、後継者争いが起こるとしたら、第1王子と魔法に長けた第3王子シュレン殿下であろうと目されている。が、先ほど言ったとおり、軍の重鎮である第2王子クイエト殿下が第1王子を支持している以上、魔法界からしか高評価の無い第3王子の下剋上は難しいと言われている――
それに、シュレン殿下は様々な魔法を使われる強力な魔法使いといっても、その性格は穏やかで下剋上を狙うような方では無い。ただ、周りがそう言っているだけだ。
と、まあ現在の展開に関係の無い王家の話など今はどこかに置いておいて、今はホールで2人の女性と修羅場を展開している第4王子の事だ――
第4王子は、はっきり言って我儘――優秀な第1王子、自分の分をわきまえ、兄を支えようとする第2王子、魔法界で多大な功績を上げる第3王子に比べ、第4王子にはこれと言って突出した特徴がない。
ただ、我儘に、ただ、自分がやりたいことを、ただ、適当にやっているだけ。
政略結婚であてがわれた貴族の令嬢を突っぱね、庶民出身の娘を自らの伴侶としようという、愚行――そのつけは、すぐにまわってきた。
バシンッ!!
第4王子の頬をはたいたのは、ピエルチ嬢だった。
「私がお姉さまに虐められているって、どっから出てきたのよそんな話!!」
ピエルチ嬢の怒声がホールに響く。
「ピエルチ……およしなさい、王家の人間に手を上げることは反逆罪にとられますよ」
「ですが、お姉さま!」
シャルロット嬢とピエルチ嬢の関係は、前々から噂されていた。
――知らぬは第4王子のみ――
シャルロット嬢とピエルチ嬢は、女同士で深く愛し合ってる――
前々から、この噂は学院の生徒たちの間では密かにれていた。
「ああ、お姉さまがこの男の妻になるなんて耐えられませんわ」
「仕方ありません、これも貴族の家に生まれた娘の宿命です」
「ああ、なんという悲劇なのでしょうか……せめて、この一時だけでも私をお姉さまの恋人にしてくださいまで……」
「……あ、ピエルチ? シャルロット……?」
呆然と、2人を眺めるドレッグ殿下――
彼が考えた、2人の女性の行動は、本当に的外れなものだったのだろう――
女2人が密かに会っている――片方は自分の婚約者、もう片方は自分が気に入ってる娘。
そして、王子と言う身分の自分――
ドレック殿下は、シャルロット嬢がピエルチ嬢をいじめているとでも考えていたのだろう。
が、現実はこうである。
大勢の観客は、王子の醜態を最後まで見ていようという気になっていたが、自分は最後まで見る価値無しと判断し、とある場所へと移動する。
もうすぐここは大混乱におちいるだろうから、その前に、だ。
「メタリオムさん!」
自分は、王子と2人の令嬢の結末を無視し、テーブルに並んだパーティーの料理を片端から消費している女性に声をかけた――
「うん?」
「賭けの清算に来たアゼルです」
「うにゃ? アゼル、くんね……」
口の中に物入れたまま、メタリオム嬢は何かの石板を取り出す――
トン――
何かの魔法だろう、薄い石板はメタリオム嬢が石板の下部にある丸いくぼみに触ると、石板が四角の形を作り光りだし、その中にいくつかの紋章が浮かび出る――
トン、トン、
光の中に浮かんだ紋章をメタリオム嬢が指で触ると、何人も名前を綴った文字が浮かび上がる――
「……相変わらず、すごい魔法道具ですね。本当、どこの誰が作られた魔法道具なのですか?」
「アキバのスズキさんから貰ったの」
メタリオム嬢の答えは簡潔だった。
まあ、浅学の自分には、そのアキバというところがどこなのか分かりもしないし、魔法道具を作ったスズキと言う人物がどのような方なのか分かりもしないのだが――
「あったあった、アゼル君が賭けていたのは王子が両方の女性にふられるという結末ね。ていうか、大体の人間はそれに賭けていたから、儲けなんてほぼないよ。それ以外に賭けていた人間は、ほとんど冷やかしだから」
石板の光の中に並ぶ文字の中に、自分の名前を見つける。
そう言って、メタリオム嬢は銅貨を数枚取り出す。
「はい、君の取り分だよ」
自分はありがたくそれを受け取る。
メタリオム嬢は、年若いながらもかのエルライア師の選ばれし弟子の1人だ。
エルライア師の弟子といえば、有名な魔法騎士のエルトさんなどもそうだが、他にも数えるほどしか弟子がいない。
エルライア師のもつといわれる強力な魔法技術を身につけたいと願うものは多い。かく言う自分もそうだ。
だが、エルライア師は自分が選んだ人間にしか弟子にしない。
そして、このメタリオム嬢もまた、エルライア師より様々な強力魔法を教えてもらってのだろう。
だからこうして賭け事の胴元なんて危ないマネを平気でやっていのだ。
「オレさ、掛け金いらないから、その……エルライア師に取次ぎを願えないかな?」
自分の横にいた生徒の1人が、そう言っている。
「無理なんじゃない? ああ、賭けに勝ってるんならちゃんと掛け金は渡すよ?」
そう言って石板の光の中の文字から、その生徒の名前を探そうとするメタリオム嬢――その時だった――
「キャアアアアアアアア!!」
「何あれ!?」
「いやぁぁぁぁぁ!!」
複数の叫び声が一斉に聞こえる――
「あれは――!?」
皆の視線の先には、倒れ伏すドレッグ殿下他数名――
そして、その中心には――
「なんだ、あれ?」
自問する――
『マリョクヲ――マリョクヲ――モット、マリョクヲ――』
それは、しっかりとした形を持ちながら、明らかに実体を持つものではなかった。
死した人間の魔力が、その残留思念で動くゴーストという、現象がある――
しかしそれは、陽炎のように不安定な形で存在する――
ラムグリーンの人の形をした発光体――
そういう風に見るしかなかった――
『マリョクヲ、チョウダイ――』
それが、近くにいた生徒に触る――
「うわぁぁぁぁぁ!!」
悲鳴を上げて、その生徒は倒れてしまった。
「嘘……」
そんな声が、自分のそばから聞こえる――
「なんで、ルーンレイスが……」
メタリオム嬢が、そんなことを言っていた――




