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見てくれ『だけ』を魔女に惚れられて  作者: すしひといちなし
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魔女の享楽-聖女様視点

「聖女様は、こちらの隠し階段より、地下へ逃げられました――」

「じゃあさ~~、その地下の案内もお願いできる~~?」

「はい、わかりました。私はあなたの道案内ですから――」


 鏡に映る魔女と私の親友の会話――彼女の案内で魔女は聖壇の奥に巧妙に隠してある隠し階段を発見する――


「なんで、こんなことに――」


 この地下道は、神殿が賊に襲われた際、私のような聖人や王侯貴族の方々を逃がすために作られたものだ――


 神殿が建てられて数十年、通算で三回程度しか使われていないらしく、知る者はほとんどいない――


 でも、親友にそのことを教えていたのは間違いだった――


 神殿が悪名高き魔女ハピレアに襲われたとき、私や父様、神殿に訪れていた子爵様たち、たくさんの寄付を神殿にしてくれた豪商がまず地下道に逃がされた――が、神殿の近くにあった村人たちは逃げ遅れた――


「確かこの神殿のトップは聖女様だったよね~~?」

 騎士の鎧を着た美青年を従えた魔女が逃げ遅れた村人たちに聞く――

「誰か、聖女様たちがどこに逃げたか、『道案内』できる人、いる~~?」


 ビカッ!


 魔女ハピレアの暗示は人の精神を塗り替える――

 魔女の道案内にされた私の親友は、神殿の隠し階段をあっさり教えてしまった――


「聖女様~~! どこですかぁ~~? 皆さ~~ん、聖女様の所へ案内してくださ~~い!」


 ビカッ!


 魔女の目が輝き、人々を洗脳していく――

 やがて、私も隠れきる事ができず、魔女に見つかってしまう――




「魔女により、洗脳された汚らわしい手で私に触らないでいただきたい……!!」

 私は魔女の真正面に見据えそう言い放つ――しかしそれは、虚勢でしかない。


「あらあら~~? その方たちは元々あなたの神殿に集う、信者の皆さんじゃなかったかしら?」


 にっこりと笑う魔女ハピレア――その奥にある邪悪な心を隠そうともしていない――


「何の目的でこの神殿に来たのですか? 魔女ハピレア――」


「それは~~神殿の聖壇の間に来てくれたらわかるわ~~」




 神殿の聖壇の間は厳かな場所だ。いつもここで、聖女である私が神々に神聖な儀式を捧げている――


 人々の『祈り』を集め、それを神々に捧げる――そのために神聖な儀式を行うために特別に作られた場所だ――


「ここってさ~~、まるで劇団のステージみたいじゃない? だからここで、劇を見てみたいと思ったの~~ダーリンと一緒にね~~」


「ダーリン……?」


 魔女は、隣にいる騎士と口づけを交わす――


 男女の恋愛は神聖なものだと思う――だがこれは、歪んだ愛情だ――この騎士の男も、魔女の暗示にかけられているのだろう……


「……あなた方の恋愛に、神々の祝福があるとは思えません――!」


「え~~? 私たちは愛し合ってるわ~~ねぇダーリン!」

「そうだな、マイハニーハピレア」


 再び口付けをかわす、魔女と騎士……私は、心の底から――魂の内側より魔力が噴き出るのを、感じた――


 聖女、と呼ばれてはいるが、私も魔力を持っていて、魔法を使うことできる――

 でもそれは、魔女の使う邪な物では無い――人々を助け、神々に認められる魔法だ!!


「『邪な魔力よ! 消え失せよ! ディスペル・サークル』!!」


 ギィィィィィン!!


 私は魔力を解放し、浄化の魔法を使う。魔女の使う、邪悪な魔法の効果を打ち消し、正常な状態に戻す魔法だ――


「魔女の暗示に惑わされし者たちよ、自分の心を取り戻しなさい――!!」


 …

 ……

 ………

 …………

 ……………

 ………………

 …………………

 ……………………


「なんで!?」


 私の魔法は、確かに効果を発揮したはずだ!! なのに、誰も正気に戻らない!!


「ねぇねぇ~~聖女様さぁ~~、見せて欲しいものがあるんだけど……」

「何を!?」

 魔女が私に歩み寄ってくる……


「このステージで、聖女様の『裸踊り』を見せてもらいたいの~~」


 ビカッ!


 何を!? 魔女は今、何と言った!? 私の、裸踊り!?

 ふざけている、本当にふざけている――!!


 聖女が相手を打ち倒す魔法を使えないとでも思っていますか!?


 私は、再び魂のより魔力をあふれさせる――今度は、魔女を打ち倒す魔法を…………………




「わたし、はだかおどり、する……」


 何!? 私の口から出たのは、魔法の言葉ではなく、そんな心にもない言葉だった――


 いや、違う――


『魔女を打ち倒す魔法を――


 言葉が出ない、体も動かない――!?


「裸踊りですね、わかりました――」


 私の体は、勝手にそんなこと言い出し、勝手に動き出す――


『な、何で!?』


 私の心は大声で自分の体を制止しようとする――


『邪魔よしないでよ――彼女のおかげで、せっかく自由になれたんだから――』


 ――!?


 心の中に……いいえ――私の心は、私の物。それは変わっていない。

 体の中に、今までになかったものがいきなりそそぎこまれたわけじゃない――


 形が、変わったのだ――


 私の魂の中にあって、いつも私と共にあった、私の『魔力』の形が――


『私は裸踊りの踊り子よ』


 私の魔力が、私の心を抑えて勝手に体を動かしていく。


 神聖な衣装を、私の知識を使いながら脱いでいく、私の魔力――


『やめなさい! 聖女たるもの人前で肌をさらすのではありません!!』

『何言ってるの? あの人は……私に自由を与えてくれたハピレア様は私の裸踊りを望んでいるのよ! ハピレア様への恩返しに、あの人の望む事をするのは当たり前じゃない――!!』


 私の魔力は、私の知識を持っている――でも、これは私では無い――

 魔女に与えられた、裸踊りというものを実行しようとする――

 それはまるで、魔女に命じられた私が、魔女の暗示にかかり自分の意思で実行するかの様に――


『だけど、真実はそうじゃない――』


 魔女ハピレアは、人間の精神を書き換えることができる――

 それならば、私の魔法で浄化し、元に戻すことも可能だっただろう――


 しかし、本来の魔女ハピレアの魔法は――人の持つ魔力の形を変えるというもの――


 人の心と、魔力というものは別物だと考えられている。

 同じ魂に付属するものではあるが、人によってその重要度が違う。


 心は、自分が自分たる象徴だ――


 どんな人間だって、自分というものがある。

 心は、その中でも最も重要なもの――


 しかし、魔力は違う――


 この世界に生きている人間は、ほとんどが魔力を持っている――


 だが、魔法職に就いてでもいない限り、魔力を日常生活で使うことなど滅多にない。

 せいぜい、一般家庭用の魔法を使うときに使用するくらいだ――

 まだ、魔法学院にも通っていない子供ならば、使い道すらわからないだろう――


 魔力は……人間には不要な物だと言う者もいる――


 でも、人間は魔力を持っている――

 それは、変えようのない事実であり、そして当たり前のことだ。


 その魔力は、魂の中に――人を人として存在させる、心の、最も近くにある――


 その魔力の形を変化させる――心と同じように、意思を持ち、物を考え、そして望みを持つように――


 魔女によって、それらを与えられた魔力は、体を動かしていた心を抑え込み、自らが肉体の支配者になってしまう――


 そして、魔女によって最初に与えられたキーワードを自らの形とする――


 犬と言われれば犬に……猫と言われれば猫に……男と言われれば男に……女と言われれば女に……子供と言われれば子供に……


 たとえ、肉体の形が全く違っていたとしても、魔女になって与えられた物が魔力が最初に選ぶ形――――


 そして、魔力は、形を与えてくれた魔女に感謝しているのだろう。魔女が何かを言えば、その後もそれを実行しようとする――


 人間の心を、完全に無視して――


 ――人間の心と魔力の逆転――


 それこそ、人魔逆転――――




「あ♪ それ♪ 見えそで見えない裸踊り♪ 私もあの子も裸でダンス♪」


 私の体は聖壇の間で裸踊りを続けている――


 魔女ハピレアは、隣の騎士とともに倒しそうにそれを見学していた――


『やめて。やめて……』


 私が――私の心が泣きながら制止しても、私の魔力によって支配された私の体は踊り続けていた――


「『聖なる光よ、降り注ぎなさい! ホーリーシャワー』!」


 シュパーン! キラキラキラ♪


 私が必死で覚えた光の魔法を舞台装置のように使う私の体――魔力が支配する体は魔法が使い放題になる――


 それは、本来人間は心が邪魔をして魔力をきちんと使えないということなのだろうか――


 人魔逆転体は魔法がより身近になる――人としての心は、そこにない――




「面白いことやってるじゃないか。ハピレア」

「あ~~ら、お兄様、あなたも聖女様の裸踊りの見学に」

「ああ。こんなもの、滅多に見られるわけじゃないからな」

「いえいえ、これから、ず~~っと、見ることができますわ。このステージがある限り」


 神聖な聖壇の間を、ステージ呼ばわりする魔女ハピレア――


「そうよ! ここは、私の裸踊りのオン・ステージよ♪」


 私の体は、私の心を無視して高らかに宣言していた――




「……絶好調のようだが、忘れるなよハピレア。お前の魔法が効かない人間が存在するということ……」

「わかっていますわ、お兄様」


「魔女ハピレア! 覚悟!!」


 バッ!!


 魔女ハピレアによって人の心と魔力を逆転させられていた人達の中から、一人、まだ正気だった人間が飛び出してくる――!


 シュ――ザン!


 しかしその人間は、間髪を入れずに動いた騎士の剣より一撃で切り倒された――


「ヒュ~~、いい護衛じゃないか。いい人間をそばにつけているな、ハピレア」

「私の、恋人で~~すわ!」




「……この人間の様に魔力を一切持っていない人間は人魔逆転が起こらない――それと、人の心と魔力が完全に一致している人魔統一体の人間も、お前の力が及ばない――その事を決して忘れるなよハピレア……俺の夢のために――――」

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