お風呂の時間
お尻を叩かれた――
レグリーム伯爵夫人、サラ・メル・レグリームは、娘がいけないことをした時に、お仕置きとして尻を叩く――
「勝手に一人で出歩いた、お仕置きよ」
プンプン!
そんな擬音が見えるくらい、レグリーム伯爵夫人は俺の怒り、そして、無事に帰ってきたことを喜んだ――
まるで、俺が本当の娘のように――
だが俺は、ニナと言う体に閉じ込められたエルトの魂だ――
肉体的には確かに親子だが、魂的には他人――
それをいくら主張しても、夫人も、そしてレグリーム伯爵も取り合わない……
魔女ハピレアの暗示が、この二人にも影響を与えている――
「とりあえず、ニナ……その服を脱いできなさい。一緒にお風呂に入りましょう」
「え……?」
今、伯爵夫人はなんて言ったんだ?
「お風呂! いいよね! ねぇ、私も一緒に入っていい?」
「どっから現れた!? ヴェル!!」
「どこだっていいじゃない! それにその服、私がいなきゃぬげないよ!」
俺は今、ヴェルの魔法で無理矢理変えられた衣服のままだ――
「だったら,服だけ脱がせろよ! 一緒に風呂に入る必要はないだろ!?」
「いいですわ、共に入りましょう」
伯爵夫人はこともなげにそういう。
「いや、いいから! 俺は一人で入れる!」
「一人で入ったら、あなたカラスの行水で終わるでしょう? ダメですよ、女の子はきちんと体を洗わなければいけません」
「~~っ……」
「じゃあ私と一緒に入ろうかニナちゃん!」
ブワァ!!
ヴェルに突然持ち上げられる俺……
「ちょっと! 客人であるあなたが私の娘ニナと一緒にお風呂に入るとどういう事ですか? 確かに、この屋敷のお風呂は十人くらいはゆうに一緒に入れるくらいの大きさがあります。それに、きちんと男湯と女湯が分かれておりますが……」
なぜか、自慢げに言っている伯爵夫人――
「私もニナちゃんを大切にしたいんだよ――ほら、ハピレア様もそう言ってるんでしょう?」
「……そうですわね、共に入りましょうか――」
そう言って、立ち上がる伯爵夫人……なんかもう、ハピレアの暗示にかかった人間は、本当に魔女ハピレアの名前を聞くだけで全てを受け入れてしまう――
今の俺の体……ニナの体を大切にするようにと、魔女ハピレアから命令されてはいるが、もしもそれが、俺を死なないように監禁しておけとかだったら、どうなっていたか……俺はこの小さな体を牢屋にでも放り込まれ、死なない程度の食事くらいしか与えられず、そのまま……
「……………」
怖い想像をしている俺を、ヴェルがそのまま風呂場まで抱いていこうとする――
伯爵夫人もそれに続く……って、いいのか? おい!?
「あら、皆さんお揃いで、どうしたのかしら?」
野太い声で、ムヴエが聞いてきた。
「ああ、ニナちゃんとの親睦を深めるために、一緒にお風呂に入ろうと思ってね」
ヴェルが笑いながら言う。
「あら、いいわね。私も、ご一緒しようかしら?」
ムヴエがヴェルに微笑み返してそう……
「『風よ! 邪を吹き飛ばせ! ビッグトルネード』!!」
ゴオオオオオオオオオオ!!!!
オレの放った風の魔法がムヴエを吹き飛ばす!!
ドゴオン!!
ど派手な音を立てて、ムヴエは壁にめり込んだ。
「カシム~~!!」
「呼んだ? ニナお嬢ちゃん?」
ひょっこり!
俺の声に、庭師をやっているカシムがやってくる。落ち着いた青年だったのに今はまるで子供のように笑う――これも、魔女ハピレアのせいだ!
「そこに倒れている筋肉メイドと一緒に男風呂に入ってこい!」
「わかりました!」
少年のような屈託のない笑顔でカシムは返事をし、ムヴエを連れて行こうとする。
「仕方ない奴だな。使用人の分際で、ニナお嬢ちゃん達と一緒に風呂に入ろうなどと……ホラ、俺達と一緒に男湯に行くぞ!」
「―――――――!」
トウカが、男二人を連行する形で男湯に向かう――
「って、ちょっと待て! お前も女湯だろ!」
トウカは魔女に人格を男に変えられているが、体は完全に女だ! 男湯に入るのはまずい!!
「あなたはこちらです、トウカさん」
さすがに、良識があるのか伯爵夫人がトウカをこちらにひっぱってきた――
「…………」
想像以上の広さを持つ、伯爵邸の女湯……
そこにいるのは、俺と、素っ裸の伯爵夫人と、同じく素っ裸のヴェル、そして腰だけにタオルを巻いたトウカ……
「あらら、ダメですよ湯船にタオルをつけちゃ……」
「あ、だめだ! これを外したら、見えてしまう!」
堂々と、女の特徴を露出させたまま、何を言っているんだ?
第一お前に男のシンボルはないだろ……そう言う、俺にもないが……
うう、体の温度が、特に顔と頭が熱い……
「トウカさん、ここには女しかいないですから、何も隠す必要ないでしょう――」
「う~~ん、気持ちいいねぇ! スパには劣るけど、なかなかのものだわ」
ヴェルは体を大の字に広げ湯船につかっている。
「まあ、ジャグジーとかそんなものは、この世界にないから仕方ないかもしれないけど!」
はっきり言って丸見え、隠す気など、全くないだろ。
ダメだ、こんなところにいたら、俺自身自分が女だと、自覚させられてしまう――
だって……体や頭、顔などはどんどん熱くなっているのに、肝心の男としての部分が何も感じないって、それがないがそうなるんだろ?
あったら、こんな状況下では――とんでもないことになっているはずだ――
「さあいらっしゃい、ニナ。体を、洗ってあげるわ」
「え……あ、い……」
俺は、訳も分からず伯爵夫人に引っ張られ、その膝の上に座らされる……
「あ、あう……」
伯爵夫人は前かがみになり、石鹸とタオルをとる。
フニン……
「はうう!?」
今、背中に当たったのは伯爵夫人の、胸?
「何真っ赤になってるの? 母親に体を洗ってもらうのがそんなに恥ずかしい?」
「俺は……あんたの娘じゃない……」
俺は、どうにかそれだけ言えた。
「何言ってるの? よく、鏡の中の自分と私を見比べてみなさい! よく似ているでしょう?」
「う……」
確かに、伯爵夫人とニナは似ている部分がある。しかし俺は、そんなことよりも鏡に映るニナの肉体をまじまじと見せつけられることになってしまった――
「ああ……ん」
伯爵夫人はタオルに石鹸をつけ、俺の体を優しく洗い出す。しかしそのせいで背中に当たっている伯爵夫人の胸が俺の背中を行ったり来たりする。
「ニナちゃん、お風呂に入るときはちゃんと髪を縛らなきゃいけないよ。湯船に髪の毛をつけちゃうと、いたんじゃうからね」
伯爵夫人によって髪の毛を丁寧に洗われた後、ヴェルが俺の髪の毛をいじりだす。
「それは、いいんだけど、真正面に立って、やるな!」
「こうした方が、やりやすいんだからいいじゃない。ハイ!」
「うぷ!?」
か、顔に直接胸を押し付けるな!!
「だめ、熱いよ……頭が熱いよ……」
目が回ってくる……頭に、タオルが巻かれていくのは感じたけど、目の前の双丘に意識を持っていかれてしまって、自分がどうなっているのかわからない――
ガラガラガラガラ!!
突然、女湯の扉が開かれる――
「ニナお嬢ちゃん! お風呂入りに来てあげたよ!」
って、誰!?
「おや、アーニャちゃんじゃないか。いらっしゃい」
「あ、メイドのお姉さん、今日は!」
アーニャって、あの誘拐事件の時に一緒にいた子? 何、この屋敷は娘の友達もお風呂に入りにくるの!?
「いやさあ、家で父さんたちに誘拐のこと話したら、ニナお嬢ちゃんをえらく心配していてさ、様子を見てこいって、言われたんだ。で、屋敷に来たらお風呂に入ってるって伯爵様に言われてね」
そうなの…? 余計なお世話って言わないか? そーゆーのは!
「それにしてもみんな、立派なお胸だねぇ……」
アーニャ、君は恨めしそうに言うけど、俺には同情できないことだ。
これ以上、裸の女が増えたら、どうにかなってしまいそうだ……
「まだまだ、十二だろ? これから成長していくさ」
「ありがと、お姉さん」
仲良くしゃべるアーニャとトウカ……
「でもさ、それってニナお嬢ちゃんのお胸も、まだまだ成長途中って事だよね?」
おい、こっちに話題を振るなぁ……
「ニナお嬢ちゃんってさぁ、今の段階でも結構スタイルいいもんね……うらやましいよ!」
そう言って、こちらににじり寄ってくるアーニャ。その手はなぜか怪しく動いている――
「そりゃあ、私の娘だからね。将来性は十分にあるわ」
伯爵夫人も煽るような事を言わないでほしい。
「ずっこいな……お仕置きしちゃえ!」
「何をする気だ!? アーニャ!!」
逃げ出そうとした俺を、伯爵夫人とヴェルが抑える――
「お仕置きだぁ!!」
モミモミモミ!!
やめてぇ! 直に胸を揉むのはやめて!!
「ひ~~ん! やめてぇ!」
俺は、情けない声で泣いてしまった―――
くそ、俺がこんな風な事になってしまうのも、みんな魔女ハピレアのせいだ!
必ず魔女ハピレアを倒し元の体に戻る―――
女湯で、大中小、そして巨に囲まれながら、胸にお仕置きを受けている俺は涙ながらにそう誓ったのであった――
そう、絶対に……
「あ……スマホ持って入るの忘れてたぁ!!」




