盗賊殲滅
「『火炎よ燃えろ! ファイヤーボール』!!」
ドウン!!
「『水よ! 爆ぜろ! ウォーター・ボム』!!」
バシャン!!
「『大地よ……力を貸ちて! グランド・アーチェリー』!!」
グオン! ドシュドシュ!!
魔法を放っているのは、俺でもなければ、横で薄っぺらい箱を適当にトントンと叩いているヴェルでもない――
――子供たちだ――
「なんだ! なんだこのガキ共!!」
盗賊どもは慌てふためいている――
無理もない、俺も本当に驚いている。
確かに、この世界で魔法を使える人間というものは数多い――人間なら誰しも魔力を持って生まれてくると言われている。逆に、魔力を持たない人間を探す方が難しいと言われているほどだ。
だがそれは、魔法を使えるというだけで、誰しもが何かしらの影響力を持つ魔法を使えるということでは無い――
一般家庭の生活使うくらいの魔法ならともかく、今の子供たちがやっているように攻撃魔法を使うという事は魔法学院に入学し最低二年は勉強に打ち込まなければならない――
まあ俺は、彼らよりも若い年齢で初期型の攻撃魔法『マジック・ボール』を使えた――自慢することじゃないけどな――でも、今みたいに多種の攻撃魔法を使えるようになったのは魔法学校で四年くらい学んだ後だ――師匠がよかったのかもしれない――だからわかる、これは異常事態だと――
「人魔逆転体なら、できて当然よ」
ヴェルは何を言っているのか分からない。こいつは無視したほうがよさそうだ。
「くそう! あの街は、魔女や魔人の巣窟だったのか――!!」
ほとんどの仲間が倒されたのを見た最後の盗賊が逃げ出す――
「逃がさないよ!」
俺の胸を揉んでいた女の子、アーニャが追いかけようとする――
「お、おい! やめとけ!!」
俺は慌ててアーニャを止める――
「ちょっと、ニナお嬢ちゃん! お胸を背中に押しつけないで! そんなにお胸のふくらみを自慢したいの!?」
「そうじゃないし!」
この、アーニャって娘、よほど俺の……じゃなくて、ニナの胸にコンプレックスがあるようだ……
「とにかく、あれを逃したら仲間を呼んでまたハピレア様の手下だって嘘ついて街に入ってるかもしれないよ――」
アーニャの友人の、俺のスカートをめくったエロ小僧、ウイスが言う――
「それはそうだが、逃げた先に仲間がいないとも限らないだろ!」
魔法が使えるといっても、こちらは子供たちと、役に立ちそうにないふざけた女一人だけだ――
「百合って、暖かく見守りたくなるよね」
その女、ヴェルは平べったい箱を叩きながらさっぱり訳のわからない事を言っている――
その時だった――
「ニ~ナ~お~じょ~ちゃ~ん~~!!」
野太い叫び声が街の方角から聞こえてくる。
「――この声は……!?」
聞き覚えが、ある――
ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッ!!
「な、何だあれは!?」
逃げようとしていた盗賊が、その異様な光景に立ち止まってしまう――
「あれは……」
「あ、メイドさんだ!」
「伯爵様の家のメイドさんだ!」
「メイドの、ムヴエさんだ!」
子供たちはそれに対し笑顔でそう言う――
「……う~~ん、あれは……そう、アレだ! 『マスクド・メイドガイ』」
なんだそれは? あれは、マスクなどしてないだろ!
まあ、メイドの姿をした筋肉ムキムキの男である事は間違いない――
ムヴエ――武道家からメイドにジョブチェンジした男が全速力で走って来たのだ――
「バ、バケモノ――!!」
ああ、それだけは盗賊に共感できる――
「あなた!! ニナお嬢ちゃんに何をしているのよ!!」
グギャン!!
ムヴエのものすごいスピードと剛力が、盗賊に叩き込まれた――!!
「……」
悲鳴すら上げることなく、盗賊は崩れ落ちた――
「大丈夫? ニナお嬢ちゃん?」
「……今はすごく気分が悪い」
屋敷の中だけではなく、外でもこの格好をさせられているムヴエ――魔女ハピレアを倒し、元の人格に戻った時、こいつがどうなるか――想像するだけでも恐ろしい――
「これでいいわね」
焼け焦げたり、氷漬けにされたり、電撃を食らったりして、倒れてしまった盗賊共をロープで縛りつける。その時、身ぐるみを剥ぐことも忘れない。この盗賊共はこの後、『合法的』に奴隷商人に売りつけられる。罪人奴隷というのは、鉱山などの労働力としてよく使われている――そして、それをやるのは、レグリーム伯爵、つまり今の俺の体、ニナの父親だ――
子供たちは麻袋に詰め、荷物として積んでいた馬車に、今度は盗賊共が荷物として乗せられる――
それはムヴエにとって、軽々とこなせる仕事だった。
「やれやれ、皆、大丈夫だったようだな」
男言葉をしゃべるメイド女性――トウカがその間子供たちの面倒を見ている。
「きれい……」
「わ~~! 可愛い!」
「お胸……」
「どうして、トウカにばかり子供たちが寄っていくのかしら? 私、泣いちゃう」
「……気持ち悪いからやめてくれ」
「まったく、同じメイド姿なのに」
……体が男だからだろムヴエ――俺は、その言葉を飲み込むのに必死だ……
「お姉さんの、下着チェック!」
バサッ!
「「――!」」
命知らずの男の子、ウイスがトウカのスカートをめくった――
「……ふんどし?」
「悪いな、奥様の命令上、仕方なくメイドをやっているが、俺はいい男なんだよ」
スカートをめくられても動じることなく、トウカはそういった。
「う~~ん、まさにタカラヅカ♪」
ヴェルが楽しそうに、訳のわからない事を言っていた――
「ところで、ニナお嬢ちゃん。可愛らしい格好してるわね」
「――な!!」
やっと動き出した馬に馬車を引かせながら、ムヴエが俺に言う。
そうだった、今俺はヴェルの魔法で着せられた、可愛らしい衣装を身にまとっているのだ――
「お、おい! ヴェルっ! 俺を元に戻せ!!」
「え~~可愛いのに~~! せっかく手に入れた人魔統一体の女の子なのにそれはつれないわ~」
「……お前の言ってる事、全然理解できないだが……いいから早くもとに戻してくれ」
「戻し方、忘れちゃった♪」
「おおい!!」
俺は怒ってヴェルに詰め寄る!!
「怒っちゃいやぁ♪」
「お前な!!」
怒りで、俺の温度がマックスになる――
「お前は、いったい何なんだ!?」
「やだ、怒った顔も可愛い――」
再び、例の平べったい箱を叩くヴェル――
「質問に答えろ! お前は何なんだ!?」
「……それは、ヒ・ミ・ツ! まあ、あなたの今の体の可愛らしさに魅せられた、魔女だとでも、思っていてくれたらいいわ」
「はぁ!?」
つまりそれは、なんだ? また俺は、魔女に見てくれ『だけ』を惚れられた、のか……?
次回――「お風呂の時間」――




