子供たちの解放
「な、な、ななな……」
俺は思わず、『な』だけを繰り返すしまう――
「ななな……」
それは、盗賊共も同じだった――ただ一人、ヴェルだけは、
「眼福眼福! やっぱり魔法を使う魔女っ娘にはこういう可愛い服が似合うよね! よし、永久保存!」
パシャパシャッ!
なんだろうか? カード大のへんてこりんな飾りの付いた小さく薄っぺらい箱を取り出して、その箱の面を指でトントン叩いている……指で叩くたびに。箱についたまんまな模様の横についた穴が光り、奇妙な音がしている……何をしているんだこいつは?
「お、おい、さっきの魔法といい、そしてその姿のいい、そのメスガキも……」
「ああ、たぶん間違いないだろう!!」
「ちっ! さっさと殺しときゃよかったぜ!」
残った盗賊共はひそひそと囁き合っている――そして、声を合わせて、
「「「メスガキ!! てめぇも魔女だな!!」」」
と、言い放った――――――はぁ!?
は? は? はぁ?
「お前ら、今なんて言った……?」
プルプルプル……
体が、震え出す。
「あ……っ……ぅ……」
その振動で、しっかりと抑えられていた胸のふくらみまでが小刻みに揺れてしまい、心地よい感触が体を駆けめぐる――――が、そんなことを考えている場合じゃない――!!
「言うに事を欠いて、俺が『魔女』だと……?」
「そうじゃねーのかよ!? そんな訳の分からねー格好をしやがって!?」
盗賊の一人が俺にそう返す――!
「さっきそこの女と口付けした時の顔! あの顔こそ、噂に聞く魔女の淫遁の顔に違いねぇ!!」
意味がわかっているのか分からないが、別の盗賊がそう叫ぶ――!
「それに、見張りにつけてたやつを氷漬けにしたのも、兄貴を討った雷も、さっき仲間を焦がした炎もお前の魔法じゃねーか!!」
それはそうだが、言っていいことと悪いことがある――!
「いっとくが!! 俺は魔女じゃない!! そもそも、女でもなければ子供でもない!! 俺はエルト!! エルト・ユティ・アルムト!! 今はこんな女の子の体にされているが、本来俺は男で、魔法騎士だ!!」
俺は、少女の甲高い声でそう叫ぶ!!
「あ、これいいかも! よし、動画撮影!」
ヴェルがあの薄っぺらい箱で何かをしている。
「クスクス、後でサンプリングしたボイスを合成編集して、『ニナちゃんの主張』って動画をつ~くろっと!」
本当にこいつは何をやっているんだ? だが、こいつにもきちんと言っておかなきゃならないことがある!!
「俺は、ニナなんて小さな女の子じゃないんだ!! だから、ニナちゃんとかニナお嬢ちゃんとか、そんなふうによぶんじゃない!!」
「「「ニナお嬢ちゃん!」」」
「だからそう呼ぶな!!」
俺は、俺をニナお嬢ちゃんと呼んだ複数の声に向かって叫ぶ――!
……あれ、今の複数の声はどこから……?
「『炎よ! ファイヤー』!」
ボシュ!
「『風よ切り裂け! ウィンド』!」
バシュ!
「『氷の刃! アイスエッジ』!」
ザシュ!!
馬車の荷台に積まれていた、麻袋が動き出し、それぞれが魔法で破られていく――
「あら? これは……」
「そういえば、この麻袋って、レグリーム伯爵領からこの盗賊共がさらってきた子供達――」
数個の麻袋が破られて、中から子供達が出てくる――
「あ、本当だニナお嬢ちゃんだ!」
男の子の一人が俺を指差して言う。
「こんなところで何やってるのニナお嬢ちゃん!」
女の子が俺の前に来てそういう。
「あたちたちは、ニナお嬢ちゃんを大切にするようにハピレア様から言われていまちゅ」
――!! 舌ったらずな言葉をしゃべる女の子の言葉でピンとくる!!
「君たちも魔女ハピレアの暗示にかかっているのか!?」
そういえば……盗賊共も、魔女ハピレアの名前を出せば子供たちが大人しくなったと言っていた――
「魔女ハピレアめ……こんな小さなに子供まで暗示をかけるなんて……」
俺が……俺達があの時、きちんと魔女ハピレアを倒しさえしていれば、俺もこんな小さな女の子にされることはなかったし、この子供たちも魔女の暗示にかかることもなかったはずだ――
「く……今更ながら自分の力のなさが恨めしい……」
と……
モニュモニュ♪
一人の女の子が、俺の胸を揉んでいた――
「って!! 何かするんだ!?」
俺は慌ててその女の子の手を俺の胸から引き離す――まだ一段階、顔を熱が上がったような気がする……!
「……、……ハァ~~……」
女の子は、俺の胸と自分の胸を交互に見比べ、深いため息をつく――
「ニナお嬢ちゃんのお胸、やっぱり天然モノなんだ……」
「ハァ!? 胸!?」
今度は右手で自分の胸を、左手で俺の胸を揉む女の子……
「ニナお嬢ちゃんと、このターニャは同じ歳のはずなのに、なぜこんなにも差がついてるのかなぁ?」
女の子、ターニャと言う名前らしい、は悲しそうな顔で自分の胸と俺の胸を揉み比べる――
バサッ!
「それはやっぱり、パンツの差だぜ! 見ろよニナお嬢ちゃんのこのセクシーなパンツを!!」
突然、俺のはいているスカートが後からめくられ、尻から下が丸見えにされてしまう――
「やっぱりそうかな? ウイス……」
ターニャが興味深そうに俺の尻を……俺の体についているパン……ツをみる。
「ニナお嬢ちゃんのパンツ、かわいい!」
「形、すっごくいいよね!」
「なでていいでちか、ニナお嬢ちゃん」
他の子供たちまで俺の周りに集まり俺の尻を眺める――
「い、いい加減にしてくれ! 何で俺がこんな恥ずかしい目に合わなければいけないんだ!?」
俺は、スカートをめくっていたウイスという男の子の手を払いのけ、慌ててスカートを下ろす!
「アッハッハ! モテモテだね、ニナちゃん!」
ヴェルが薄っぺらい箱を片手にのんきに笑っている――
「おい! てめえら!!」
「俺達を無視するんじゃねぇ!!」
「お前ら全員、俺達の商品だって事を忘れんな!!」
子供たちの解放で、一瞬忘れかけられていた盗賊共が騒ぎ出した――




