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見てくれ『だけ』を魔女に惚れられて  作者: すしひといちなし
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登場! もう一人の魔女

ガタンッ!!


 突然、馬車が止まる。


「何だ!?」

 俺は息を殺してあたりの様子に聞き耳を立てる――


「お、おい! お前何者だ!?」

 首領格らしい男の怒声が響く――


「……今のうちに袋を切っておくか……」


 俺は、魔法で作り出した剣で、袋を切り裂く――


 盗賊共は、馬車を止めた人物に注意が向いているようだ。


「あの~~、売ってほしい子がいるんだけど、いいかしら?」


 鈴を転がすような美しい女性の声が、外から聞こえてきた。

「誰だ? 知らない声だ……」

 記憶の中にある女生と、今聞こえた声を比較してみるが、どこにも覚えのない声だった――


「――小さな女の子がいるでしょう。その子を売って欲しいだけど?」

「おいおい、姉ちゃんよぉ! いきなり出てきて何ふざけたこと言ってるんだ?」

「おい、無視して行くぞ!」

「いや待て、あれだけの上玉ならあの娘も高く売れるんじゃないか?」

「そうだなぁ、一緒にさらっちまいましょうぜ!」

「こらこら、さらうのは魔法学院に入っていない12歳以下のガキに限定するって決まってるだろ!」

「そうだ、さっさと行くぞ!!」


 ビシィ!!


 女の声と、複数の男の声、そして、何かを叩く音。

「どうした! なぜ、馬が動かん!?」

「それは、この子達がとても賢いからよ……ねぇ」

 何が起きているかわからないが、どうやら誰かが馬たちを止めているらしい。


「てめえ、魔法使いか!? 何をしやがった!?」


 馬車が揺る。走っているわけでは無い。馬車に乗っていた盗賊共が馬車から飛び降りたのだ。


「今が、チャンスのようだな!」


 ビリビリ!


 俺は魔法の剣で麻袋を切り裂く――!!


「あ、てめえ! 何してやがる!!」


「しまった、見張りがまだいたか!」


 馬車に残っていた盗賊が、俺を見て叫ぶ!!


「仕方ない、『氷つけ! アイスエッジ』!!」


 コォォォォォ!! キインキイン!!


「なっ!? 魔法だと!?」


 盗賊が驚愕する――こんな小さな女の子がこんな魔法を使うなんて、思ってもいなかったのだろう――!! だが俺は、魔法騎士!! 体を奪われこんな姿にされてしまったが、その魔法技術や魂までは変えられていない!!


 ガキン!!


「うぎゃあ!!」


 盗賊の一人が凍りつく――!!


「――!? おい、何があった!?」

 馬車を降りて、前にいる女性に注意を向けていた盗賊共がこちらを向く――


「あ、その子その子! その子が欲しいんだけどね」

 先に口を開いたのは、盗賊共ではなく、対峙していた女性だった――


 やっぱり、見たことも無い女性だ。燃えるような赤い髪を緑色のリボンを使ってサイドでまとめている――いわゆるサイドテールと呼ばれている髪型に整った年齢不詳の可愛らしい顔――あれだけ可愛らしい顔していれば、俺は必ず覚えている。知り合いなら、絶対に記憶に残っている。そんな顔だ。


 シュイン……


「「「!?」」」


 と、その女は一瞬にしてかき消えた。盗賊共や、俺も女を見失い、あたりを見渡す。


「あなた、ニナちゃんでしょ? 知ってるよ」


 声は、俺の背後から聞こえた――


「な!?」


 ヒョイ、クルッ、ムチュ♪


「!?」


 俺は、後から持ち上げられ一回転させられるといきなり唇を奪われた――


 ピチャピチャ……


 俺の口に、女の舌が侵入してくる!


「!?、!?」


 口の中に侵入してきた女の舌が俺の舌を絡めて抑えてくるため声を出すことができない。目の前にある女の顔に焦点を当てると、女はにっこりと笑った――


 コロン……


 小さな丸い球体が、女の口から俺の口の中に入ってくる。


 おいしい……


 飴玉か何かだろうか? ほのかな甘みを持ったその球体は、女の舌によって俺の口深くに運ばれていく。


「……!」


 コクン……


 俺の喉が動き、その球体は俺の喉を通って体の中に落ちていった……


「ふう~~」


 女は、それを確かめたのか、やっと俺の唇から自分の口を離した。


「くっ!!」


 俺はすぐさま女から目をそらす。顔がどんどん熱くなる。

「げほっ、げほっ!」

 無理やり何かを飲み込まされたことにより咳が止まらない……俺の口からだらだらとよだれがこぼれている。


「あらら……行儀悪いわよ、女の子は、身だしなみはきちんとしなきゃいけないわよ」


 どこからともなくハンカチを取り出した女が俺の口の涎をふく。


「うん、綺麗になった。これからも身だしなみはきちんとしなさいね、ニナちゃん」

「俺は、エルトだ……」

 俺は、とりあえずそれだけを言う。

「お……おまえ、なんだ?」


 俺は、女を見上げる――


「私? 私はヴェルだよ。よろしく、ニナちゃん」


 ヴェル? 知らない名前だ。一体、何者なんだ?




「おいおい、姉ちゃんよぉ……」

 馬車の周りに、盗賊共が集まってくる――その注意は、俺でなくヴェルと名乗った女に向けられているのは明らかだ――


「女同士のキスなんて言う刺激的なものを見せてくれた礼は言わせてもらうが、その娘は大事な商品なんだ――手を出さないでくれないか?」


 盗賊共の首領格らしき男が、出刃包丁みたいな強大な蛮刀をかまえながら声をかけてくる――その声は押さえてはいるものの、苛立ちを隠せていない――


「このニナちゃんは、私が買いたいの――だから売って」


「「「はぁ!?」」」


 盗賊共と……俺は、ヴェルを見る――


「もちろん、タダとは言わないよ!」


 右手を前に突き出し、手のひらを下に向けるヴェル――


 チャリンッ!


「な―――!?」


 チャリンッ! チャリンッ! チャリンチャリン! チャリチャリチャリン! チャリチャリチャリチャリチャリチャリチャチャチャチャチャ……チャリン!


 ヴェルの手のひらから、何百枚もの金貨が出現し、瞬く間にヴェルの足元には金貨の山ができた――


「これで足りる?」


 ヴェルが聞く。

 盗賊共は恐ろしいものを見るような目で、金貨の山とヴェルを見比べる――


「ふ……ふざけるな!! そんな気味の悪いもの、願い下げだ!!」

 首領格の男は、そう叫ぶ!!


「気をつけろ!! 間違いない……こいつは、魔女だ!!」


 魔女……ハピレアと同じ、魔女……………………

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