「未来の結婚相手が、」 その3 「この人だったらどうしよう!」
「おらが教えてやるだよ、×××っち」
3人目の来訪者。
亜矢香さん。
この、えらく訛った言葉遣いの女の人が、教えてくれたのは、ボクが将来、投資で大儲けするということ。
世界的な不況を逆手にとって、誰も目をつけていなかったジャンルの企業に投資し、次々と成功したのだという。
「ぶっちゃけ、あんた、天文学的な大金持ちになっただよ、×××っち。東京の一等地に、すんごおい豪邸をおっ建ててな。海外のセレブのパーチーに引っ張りだこでな。見るか、これ」
亜矢香さんが、ケータイっぽい機械を操作すると、空中にモニターが現れて、
とんでもない大豪邸の映像を見せられる。
「あんたの家だ」
へー・・・すごい。
あ、庭に白い犬がいる。おもしろーい。
・・・いや、だって、ぜんぜん実感が無いんだもん。ビックリもしないっていうか。
「ま、そうだろ。あんたも、おらも、ぜんぜん慣れねえだよ、この家。だから、おらたち、こっちで暮らしてるだ」
と、亜矢香さんが指さしたのは、大豪邸の敷地の隅っこのほうにある、物置みたいな小さい建物。
いや、そんなに小さくないか。
隣の大豪邸が大きすぎるわけで・・・サザエさんが住んでる家くらいありそう。いいなぁ、広いし、落ち着きそう。将来は、こういう家に住みたいなぁ。
・・・って、ちょっと待って!
"あんたも、おらも"・・・?
"おらたち、こっちで暮らしてるだ"・・・?
ど、どういう意味?
この人、ボクの親戚なの?
「まーだ分かんねえだか? おら、妻だよ。今からちょうど10年後、×××っちと結婚するだ」
「ええ~っ!?」
叫んだ瞬間、しまった、と思った。
抑え切れない気持ち――・・・ぜんぜん嬉しくない!っていう本音・・・――が、声に乗って漏れ出してしまったから。
ところが、亜矢香さんは、平気な顔で「がはは」と笑った。
「いいって、気にすんな。むしろ、ごめんな? こおんなオカメが嫁でよ。おらだって、×××っちをガッカリさせたくなかったんだけど。けどまあ、来てみて良かっただよ」
それから、ボクの両脇にくっつく2人を見て、言う。
「こおんなメギツネ、それも2匹も! おめえら、おらの亭主から、さっさと離れ!」
ボクは、トイレに居た。
未来の妻と名乗る女性が、3人。
最初の2人は美人。
で、あとの1人は・・・うん、まあ、この際だから言っちゃうけど、ブスだ。
クラスで1番、を通り越して、学校で1番・・・いや、地元で1番、っていうレベル。
なのに。それなのに。
「どうしよう・・・亜矢香さんが・・・ブスの人の言うことが、なんか、一番、本当っぽい気がする・・・」
ついさっきまで、ボクは3人と話していた。
亜矢香さんが言うには、未来では、タイムワープの研究が進み、
「人間には『そのとき』と呼ばれる、運命の分かれ道に立つタイミングがある」
ということが分かってきた。
『そのとき』に選んだことは、人生に大きな意味を持つらしい。
そこで亜矢香さんが言った。
「×××っちは、ちょうど今が『そのとき』でな。そんで本来、ここでは嫁なんか選ばんかったのよ」
だよねー。
今のとこボクの身の回り、結婚のケの字もないもの。
「だもんで、ここで色気に迷ってヘンな女に引っ掛かると、なんもかんも、パアになるんだわあ」
「パア?」
「そらそうだ。嫁が違ったら、人生ぜんぜん変わっちまうぞ」
「そう・・・ですね」
陽子さん、美帆ちゃんと結婚するのと、亜矢香さんと結婚するのでは、確かに、ものすごく違うと思う。こう・・・幸せ度というか、羨ましいがられ度というか。
「×××っちが金持ちになるのは、おらと結婚した後だぞ。そっちのメギツネと結ばれちまったら、おらとは結婚しないことになっちまう。そしたら、×××っちが金持ちになる未来まで、なくなっちまうだろ。それじゃ、×××っちが可哀想だ」
「そんなことないわ!」「そんなことないもん!」
陽子さんと、美帆ちゃんが、一斉に首を振る。
「×××さんは才能豊かな人だもの。いつ、誰と結婚したって、必ず成功するわ!」
「×××くんは天才なんだから! 絶対に成功するもん、ね?」
う、嬉しい!
今まで、こんな風に一生懸命なくらい、ボクを信じてくれる人なんて、いなかったもんなあ・・・。
と、鼻を伸ばしかけたが、すぐに気付いて、トイレに駆け込んだのだった。
分かった?
ボクが、何に気付いたのか。
そう・・・陽子さんと、美帆ちゃんが、怪しいってこと・・・。
あの2人のセリフって、「もともと成功する人だから、自分と結婚しても成功する」っていう意味だよね?
それって・・・「もともと、自分とは結婚してないけど」っていう前提だよね・・・。
ホントなら、喜ぶべきだよね・・・サギ師がシッポ見せたぞ、って。
でも、見たくなかった!
今からでも、見なかったことにしたい!
分かるよ、ボク・・・ツルの恩返しで、ツルを見ちゃった人の気持ちが、今すごくよく分かるよ・・・。
いったい、どれくらいの時間だろう。
これまでの人生で、一番悩んだ時間が過ぎて・・・ボクは、トイレを出た。




