「未来の結婚相手が、」 その2 「2人もいる!」
「待って、×××くん! その女はニセモノよ!」
振り向くと、そこには、ショートヘアの美少女が、立っていた。
本当に美少女だ。
あまりにも可愛すぎて、例えばアイドルを目指したとしたら、大人数のグループだと浮いちゃうからって入れてもらえなくて、ソロ活動させられそうな感じ、というか。
「ちょっと! アンタ、誰よ!?」
キイッ、と目くじらを立てる陽子さん。今にも中指を立てそうな勢いだ。
「私は、×××くんのお嫁さんよ! あなた、サギ師なんでしょ!?」
ショートヘアの子も、吠えつくように言い返す。
怖い。どっちも、怖い。
「はぁ!? なに言ってるの? っていうか、×××さんの奥さんは、あたしよ!」
「嘘つき! ×××くんはね!」
「ちょっと! ちょっと待った! ストーーーーーーップ!!!」
2人を引き離して、とりあえず陽子さんを宥めて「ちょっと黙ってて」とお願いしてから、美帆と名乗った女の子に、素性を尋ねることにした。
美帆さんの自己紹介を聞き終え、はー、と溜息をついた。
彼女も、未来からやってきた、ボクの「本当の」将来の結婚相手、だそうだ。
「美帆さんは、ボクと、何年後に、何歳差で結婚するの?」
「えっと・・・30年後に、30歳差?」
「あっ、じゃあ、ちょうど今のボクと、美帆ちゃん、同い年?」
「そうだよー、楽しみにして来たんだよー、×××くんが同級生だったらどんなかなー、って」
そっか、美帆ちゃん、同い年か。
いやいや、ホントは30コも年下なんだけど。
「ど、どう思った?」
「思ってたより、可愛い感じー。背は変わらないのにねー」
うっ・・・そうか、ボクはもう、身長は伸びないのか・・・。
「どうしたの?」
「何でもない・・・それより、陽子さんも、ボクの奥さんになる、って言ってるんだけど、どういうことなの?」
「それはねっ!」
「陽子さんは、まだ喋っちゃダメ。後で聞くからね。はい、美帆ちゃん、どうぞ」
ぶー、と膨れて、腕を組んでくる陽子さん。
美帆ちゃんは、そういう動きを睨みつつ、言った。
「だから、詐欺師! いま流行りの『未来の結婚相手です詐欺』だよ! そのせいで、私たちの結婚が無くなっちゃうかも、って警察の人に言われて! だから慌てて来たんだよ」
えーっ!?
未来って、そんな詐欺が流行るの!?
説明を受けると、話は簡単。
過去へのタイムワープが可能になったことで、「宝くじの当選番号を調べて、過去に戻って、それを買う」みたいな犯罪が横行し、それらに対策が施された。
しかし、犯罪と取締りは、イタチごっこ。
次々と新しい犯罪が生まれてしまうのは、今も未来も同じらしい。
そんな中で、いま最も流行っている犯罪で、かつ、抑止するのが難しいのが、この『未来の結婚相手です詐欺』だという。
将来、成功者になる人間の、若いころに接触し、誘惑して、結婚に持ち込む。
なぜ抑止が難しいのかといえば、自由恋愛を止めることは出来ないからだ。
いくら「これは詐欺なんですよ」と教えても「もう好きになっちゃった」「もう子供ができちゃった」などと言われ、もう結婚を認めるしかないというケースが多いのである。
「どうせ、この女に、結婚してとか、子供作ろうとか、言われたんでしょ!」
うん、言われた!
と頷く前に、陽子さんがボクの腕を、がばっと抱え込んで、反撃する。
「しょうがないじゃない! 子供が欲しいのは本当だもの! でも、×××さん、信じて! あたしは詐欺師なんかじゃないの、本当、×××さんの奥さんなの!」
そして、ものすごい勢いで美帆ちゃんを、ギギギィッ、と睨む。
「分かったわ! あの美帆っていう子が、きっと詐欺師なのよ! あたしと×××さんの仲を割きに来たんだわ! 本当の奥さんである、あたしを蹴落として、自分が奥さんになろうとしているのよっ!」
胸いっぱいのおっぱいが、むにゅにゅん、と当たっている。
いいなあ・・・将来、ボクは、この人と・・・っていうか、今すぐにでも、この人と子供を作ることになるのか・・・本物だったら、だけど。
「いい加減にしなさい! 私がそんなコトする筈ないじゃない! だって、×××くんのお嫁さんは、最初っから、この私なんだから! ね、×××くん、私のこと信じて! そんな女に騙されないで!」
美帆ちゃんも、がば、っと首に抱きついてくる。
見た目は細くて華奢なのに、柔らかくって、いい匂いがする。
陽子さんは、バラのような、甘い匂い。
美帆さんは、オレンジのような、甘酸っぱい匂い。
正直、どっちも最高。すごく魅力的。
でも、悲しい。
だって、絶対にどっちかは嘘をついている、っていうことなんだから。
「・・・ねえ、2人に聞きたいんだけど」
「なぁに!?」「なになにっ!?」
「将来、ボク、なにか成功するの? お金持ちになったりするの?」
一瞬、2人の女性が互いに顔を見合わせる。
そして、ボクの質問に答えてくれたのは、
「おらが教えてやるだよ、×××っち」
今日、3人目の来訪者の声だった。