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05.小さなぬくもりが、どうか消えないようにと。

 

「よし。それじゃあ透の世話係は紫月ちゃんってことで」


「は?」




 ここは法律はあれども裁く者がいないこの世界の治安を維持し、尚且つ向上させるべく悪人を裁き、罪には罰を与える。

そんな役割をこなす人々が集まった組織。

それゆえ人々には正義の味方として好かれている半面、

悪人を容赦なく斬り殺すこともあることから忌み嫌う者もいるという賛否両論の評価を受け、

名は違えども世界各地に存在しているのが治安維持組織。

西日本を拠点として活動し、現在所属団員は約三千人のここ、隻眼テディベアもその一つだ。

治安維持組織に所属する者を世はこう呼ぶ、






守護する者(シュッツァー)と。






 んでもって、俺もシュッツァーの一人なんだけど、

ボスの特別秘書である(見た目だけ)清楚系美人のアルーさんに笑顔でそう言われ、俺は素で聞き返した。




「だって拾ってきたのは紫月ちゃんでしょ?」


「それはボスがそう命令したからで」


「透は十一歳。紫月ちゃんは?」


「十五だけど」


「ほら、一番年齢近いじゃない」


「それは関係ないだろ……」


「でも実際に連れてきたのは紫月ちゃんでしょ。男なんだから責任取りなさい」


「……はあ」


「それに、さっきのボスからの話聞いてなんとも思わないの?」




 急に声を低くして言われて、俺は言葉に詰まった。

そう。さっきまで俺が所属する治安維持組織隻眼テディベアで緊急会議が開かれていたのだ。

議題は俺がボスの命令で拾ってきた少女、透について。

ボスは俺が透と喋っている間に上の階を捜索しある研究についての書類を見つけたらしい。

その実験がどういうものなのかはボスは語らなかったが、透は本当は鮫島透という名前で、現在十一歳らしい。

年齢を聞いた時は俺の読みは当たったな、とも思った。

で、透はあの白い建物に連れてこられてから何度も人体実験を繰り返されたらしい。

そして彼女はレガーロらしいともボスは言っていたけど、俺はそんな単語聞いたこともなかった。

とにかく、あんな小さいのにって言っても俺と四つしか違わないけど、

あんなか弱くて細くてちっこいやつの身体を実験に使うなんて最悪だ。

 アルーさんもその話を持ち出して俺を同情心で陥れるつもりなんだろう。




でも、まあ透ならいいかあ。




「了解です。透は俺が面倒みます」


「さっすがあ! ボスにはそう報告しておくわ。あ、透はボスの部屋にいるから」




 それじゃあね、とひらひらと手を振ってアルーさんは去って行った。

さてと。透を迎えに行くか。

隻眼テディベアの長い廊下を歩いて一番近くのエレベーターに乗り込んで

ボスや上層部の人間たちの自室がある最上階へ向かった。

 ボスの部屋の大きな木製のドアを軽くノックすると、低い声で返事が返ってきた。

失礼しますと言って部屋に入った瞬間我が目を疑った。団員に対して常に厳しくあるボスが、

あの冷酷非道無口で絶対子どもになんて好かれなさそうな、

って言うか子どもに顔見るなり泣かれそうなあのボスが膝の上に透を乗せていて、

しかも心なしか透も笑っているように見える。

その光景は、なんだか懐かしく思えるものだった。




「紫月どうした?」




 俺があまりの光景に言葉を失っていると、ボスのほうから話を振られた。




「ああ、えっと透の世話係を俺が担当します」


「ほう。お前がか」




 アルーさんまだ報告してなかったんだ。




「はい」


「わかった、任せる。ほら、透あいつに着いていけ」




 透が俺を見た。

ったく、なんであいつの目はあんなに澄んでるんだ。

透きとおって見える。

ってさすが名前が透なだけあるな、あいつの父さんと母さんマジナイス

と馬鹿なことを考えつつ白い建物でもしたように手を差し伸べた。

透は戸惑うようにボスの顔を見上げたが、無言で頷かれると黙ってその膝を降りて俺の前まで来た。




「シヅキ」


「ああ。よろしくな透」






 俺の名前を呼びながら相変わらず細い手を重ねてきた。

ああ、俺の名前覚えててくれたんだ。

なんだか無性に胸のあたりが暖かくなって思わず抱きしめてしまいそうになった。

 これはマジで真面目に世話係を務めよう。そう心に誓った。
























I pray the warmth will never disappear.

小さなぬくもりが、どうか消えないようにと。


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